君想涙-kunsourui-
「あいつにフラれるの超怖い…。七海~っっ‼」
『~っっ‼分かったから、哉汰。落ち着いて?』
「七海~…。」
私の好きな人には、好きな人がいる。
私の好きな人の名は、哉汰。
哉汰は、その好きな人である美春に、今日告白するらしい。
そして…告る直前になって、哉汰は不安を私にぶつけていた。
『あーもうっ‼哉汰は、男らしくするってことを考えないわけっっ⁉』
まぁ、これが私の態度。
思いっきり好きじゃないアピールをしてきた。
友達として、好き。
そうやって、哉汰との関係を築いてきた。
今更、素直になれなくて…。
今日、哉汰が好きな人に告白する日に至ってしまった。
そう…自業自得、と言われたら何も言えない。
「だって、あの美春だぜ⁉付き合ってくれるとは、思わないし…。あーあ…。俺…七海のこと好きだったら楽だったのになぁ?」
『っ‼』
美春、という少女は学年でもかなりモテる美少女で、高嶺の花、という言葉がしっくりくるようなそんな人で…
私なんかより、素敵な人。
だから、その哉太の言葉は冗談でも嬉しくて、でも余計に哀しくて…。
涙が、目に溜まるのが分かる。
(なら、私を好きになればいいじゃない…。)
そんな言葉が私の心の中を支配する。
期待させないでよ…哉汰。
期待させといて、それでも美春さんのところへ行くと分かっているから…余計に胸が苦しくなる。
そう考えると、涙が今にも溢れそうで…
でも…まだこぼせない。
だって、こんな顔…哉汰には、見せられない。
理由なんて…言えるわけがないのだから。
「俺…。行く。伝えてくる、美春に‼」
『うん!頑張れ‼哉汰なら、きっと大丈夫だよ‼』
目に溜まる涙が零れ落ちないように…だけど、私は笑顔で哉汰に言った。
私が、笑顔でいられるのはあと少し…。
だから、哉汰…。
『早く行って!美春さんが、待ってるから!』
「おう!」
ーたたっ
目の前から哉汰がいなくなり哉汰の背中が遠くなるのを見て、一定の距離離れていったことを確認すると、抑えていた涙が溢れてきた。
『本当にね…好きだったんだよ、哉汰。』
ーブブッ
突然、携帯が震えてクエスチョンマークが浮かんだ。
『?』
ポケットから携帯を出し、今来たメールを確認した。
ー俺さ、七海にかなり感謝だわ。ありがとな。俺な?七海のこと、好きだ。だから、お前にも好きな人ができたら俺に教えてな?ー
『っ…。』
その好きは、友情と同じ類だと知っているから…。
決して、美春さんと同じ好きではないことも知ってる。
ねぇ…哉汰…。
どうして、最後の最後まで、君は私を喜ばせるの…?
携帯を握りしめる手が小刻みに震えた。
(大丈夫。大丈夫)
そう心の中で唱えながらメールを打った言葉は
ー私の好きな人の名前は、哉汰。あんただよ、馬鹿。ー
これが、送れたら私と君の関係は何か変わるのだろうか?
…ううん、崩れ去ってしまう。
送信しますか?の文字にいいえのボタンをおし、下書きボックスに保存した。
さっき来たメールを保護しようと動かした手を、止めた。
そして、逆に、そのメールを震える手で削除した。
新規作成メールを開いて、哉太宛にメールを作る。
ーあんたから、感謝の気持ちが聞けるなんて、明日は大吹雪だわ。早く家に帰って寝ないとね。
私も、哉汰のこと好きだよ。
だから、頑張れ‼
成功するの期待して待ってるから。ー
今度は、送信しますか?の文字に"はい"を押した。
さっきの好きと今の好きは、似てるようで全く違う。
今は、嘘の"好き"で勘弁してね。
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Dear Kanata
私に好きを教えてくれてありがとう。
大好き…大好きだから…
だから…今は、泣かせてください。
大好きな君の喜びを、心の底から喜べるように。
From Nanami
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この涙が乾いたら…
新しい恋、を見つけるから。
君以上の人間を好きになる、なんて比べるようなことはしないで
ゆっくりゆっくり、自分のペースで
君を忘れるのではなく
君の代わりを見つけるのではなく
その人自身を好きになるから。
だから、それまで。
せめて、この涙が乾くまでは
君を想って涙を流すことを許してください
ここまで読んでくださってありがとうございました!!
この作品は、引き際が綺麗な女の子を書きたい!という何とも変な零夜の思考回路が生み出したものですw
長い間、誰かを想うとどうしても引き際が綺麗じゃなくて、グズグズしてしまうところがあると思うんです。
だからこそ、こんな風に綺麗に引けたらいいなあ…という自分の理想を込めた作品です。