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TKY  作者: 練馬太郎
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TKY旅立ち

信二はまぎれもなく同性愛者だった。地方から大都会東京に出、渋谷にある大学に通い、都会の片隅で何とか生きようとしていた。

初めての体験は中学二年の秋、放課後の教室で隣あった勇作に誘われ誰もいない教室で唇を重ねた時であった。元々端正な顔立ちと華奢な身体は女の子たちの憧れではあったが信二にとっては遠い異次元の生き物しか思えなかった。初めての体験は同世代女の子が男に対し感じる甘い衝動であった。勇作との交わりは続いた。お互い誰にも告げられずに隠れた場所で逢瀬を重ねた。思春期に入った勇作の激しくそして力強い胸に抱かれ、信二は恍惚を感じ何度もほとばしるのだった。しかし思春期同性愛はそう長くは続かなかった。勇作は親の転勤それも海外赴任のため日本を後にした。お互い辛い思いであったが勇作はそのうち会えると言い添え別れた。その後、聞いた話ではアメリカに行った勇作は大学の同性愛倶楽部のリーダーとして新聞に書かれ、その後行方不明との事だった。信二には今でも当時の甘い記憶だけが焼き付いていた。信二には少し離れた兄がいたが既に都会の大学へ通っていた。

時折、実家に帰省する兄がたくましくなっていく姿に男を感じるのだった。夕食時「自分も将来は都会に出る」と唐突であったが信二は家族に語った。兄は信二に「もやしは都会じゃ無理や、このまま田舎にいたほうがええ」とつれなく言われた。父は無言でテレビを見ながら母の晩酌を旨そうに飲み干していた。茶をすすっていた母は同情したのか別に兄さんの真似せんでもええ、信二は信二らしく生きればええで」と言葉を挟んだ。高校に入ると信二は苦手としている体育会系の部活に入った。何とかして自分を逞しく鍛え上げたかった。しかし元来優しい性格と甘いマスクは女子学生の的となった。幾度も交際を打ち明けられ、またよく待ち伏せする数人の女子学生に出くわしたが信二にとっては全く胸の高まりを感じる事がなく見過ごすだけであった。ただ体育会系の部活で汗を流す同じ男子の広い肩幅と胸厚にときめきを抱くのだった。高校三年の秋も深まる中、進路を模索していた信二は部活動の帰りに立ち寄った小さな書店で手に取った進学雑誌をパラパラめくり、キャンパスの眩しい若者たちが目に止まった。逞しく躍動感に満溢れたその写真に心がざわついた。どうしても

都会へ出ようとキンモクセイの香る中、信二は自転車を全力でこぎながら何度も雑誌の数枚の写真を思い返し家路を疾走したのだった。


翌年信二は無事東京の私立大学に合格した。家計に余裕が有るわけでもなく受験した東京の私立大学であったが高校の先輩の紹介で都内で新聞配達をしながら大学の学費から生活費まで面倒を見てくれるという制度を活用したのだった。3月の梅の花が香る中、信二は希望を胸に母親の差し出してくれた握り飯をカバンに入れ東京へと旅立って行った。


新幹線で東京駅に降り立ち、その人混みの多さにあらためて圧倒された。銘々の人たちが信二の前を田舎者を避けるかのように次々と足早に通過して行った。

人混みに紛れ、信二は中央線に乗りこみ、先輩が待つ吉祥寺駅へと向かった。車窓からはところ狭しと立ち並ぶ雑居ビルや多くの車そして賑やかな人通りが都会を感じさせた。

吉祥寺の街にたどり着いた信二は南口のデパートの前で思わずしゃがみこんだ。そしてかばんを脇に置きフーッとため息を着き、夢を描き続けた遥かな遠い世界の幕開けに安堵したのだった。



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