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氷解

 石田から電話をもらい、晴海が無事と聞いて、心に巣くっていた不安と焦燥が一瞬で消えた。小野寺は石田の電話を切ってからも、それを幸子に伝えられる喜びで、浮き立つ思いは押えようがなかった。震える指でダイヤルを押した。

 幸子と話すのは何年ぶりになるだろうか。愛想を尽かされても仕方がないことをやった。幸子は金に執着を持たない女だが、さすがにあきれ果てていた。互いに憎みあうことはなかったが、結局あのことが契機となって、二人を結びつけていた糸がぷつんと切れた。

 晴海に冷たいという非難は、説明不能なのだから、無視せざるを得なかった。二人の溝が深まったのは、晴海がぐれだし外泊を繰り返すようになった頃だ。あの時、もっと親身になって相談にのっていれば、あそこまで亀裂が広がることはなかった。とはいえ、晴海の携帯を盗聴したり、ノボルを張ったり、裏ではそれなりに努力していたのだ。

 その溝は、今となっては埋めようもないが、それでも二人がかつて共有したぬくもりに触れてみたいという思いが、小野寺の心を浮き立たせた。まして幸子が待ち望んだニュースだ。呼び出し音が響く。心ときめかせる。しかし、受話器から聞こえたのは男の声だ。

「はい、もしもし、小野寺です。もしもし、もしもし。」

その声に聞き覚えがあった。まさかという思い。過去の記憶へと神経経路が辿る。愕然として受話器を落としそうになる。一瞬にして奈落の底に突き落とされた。受話器を握る手が震えているのが分かる。小野寺の怒りが爆発した。

「きさまー、許さんぞー。幸子をどうしたんだ。春代に指一本触れてみろ、殺してやる、絶対に殺してやるぞ。」

 その後、何を叫んだか覚えていない。一瞬にして正気を失っていた。男は小野寺の罵詈雑言を静かに聞いていた。そして、怒りの言葉が尽きる頃、小野寺は自分の弱い立場に思いあたった。怒りを収め、今度は泣きながら哀願していた。

「たのむ、助けてくれ。二人の命だけは助けてくれ。俺はどうなってもかまわない。もう、死ぬ気でいたんだ。晴美の命とひきかえに死んでもいいと思った。頼む二人を助けてくれ。」

ようやく男が口を開いた。

「小野寺さんよ、そっちがその気なら、こっちも考えてもいい。あんたもようやく素直になったようだ。晴美さんだって例のブツさえ手に入れば、返すつもりだった。それをあんたが余計な手を使うからこうするしかなかった。分かるか。」

「分かった。二人は無事なんですね。」

急に丁寧語になっている自分に気付かない。誇りも何もあったものではない。晴美同様、二人を自分の命に代えても守らなければならない。

「当たり前だ。傷つけるつもりはこれっぽっちもない。いいか、良く聞け、お前が例のものを渡せば、その場で二人を放す。お前の命をとろうとも思ってもいない。ブツが本物だと分かれば、二人と一緒に帰ればいい。」

「分かりました。あなたの言葉に従います。最後の言葉は眉唾だが、それはもうどうでもいい。」

「おいおい、それはないだろう。俺は本部に対してだって超然としてきた。あんたの命は保証する。信用しろ。それより、あんたは、何故、あの石田と接触をもったんだ。」

「あの石田」という言葉に、「あの少女の兄」というニュアンスを感じた。電話の相手が飯島であることは間違いない。

「飯島さん、おひさしぶりです。こうして再会するとは、やはり縁でしょうね。何故、あの少女のお兄さんである石田さんと私が結び付いたのか。実に不思議なことです。」

飯島は正体がばれたのはまずいと思った。やはり殺すしかないだろう。

「飯島さんは、信じないと思いますが聞いて下さい。実は不思議なことが起こったんです。石田さんが突然私に電話してきたんです。誰も知らないはずの私の携帯に石田さんが電話を掛けてきたんです。何故だと思います?」

「そんなこと分かるか。」

「あの少女が、あの柏崎で死んだ少女が、私の携帯を使って石田さんの携帯に電話したんです。お兄さん助けてと叫んだそうです。」

「…………」

「私の携帯は非通知設定でした。石田さんはある伝手を通じてNTTの通話記録を入手しました。その日付を見て、私も目を見張りました。まさにあの日だった。私達があの少女の命を奪った、あの日だったんです。飯島さん、そんな話信じられますか。」

「信じるわけないだろう。」

その声に怯えはない。苛立ちを押さえているが、耳だけはそばだてている。

「私も、その通話記録を見るまで信じなかった。しかし、その記録には昭和57年7月18日の日付が確かに書いてあったんです。飯島さん、死は終わりじゃないのですよ。それが信じられるようになって、少しは気が楽になった。」

飯島が怒りを爆発させた。

「うだうだ下らんことを言ってんじゃねえ。明日の午後四時電話する。その誰も知らないその携帯番号を教えろ。」

携帯の番号を教えると、飯島が言った。

「いいか連絡を待て。二人に危害は加えない。とにかくブツを用意しろ。」


 見覚えのあるキャンピングカーが見える。既に深夜0時を過ぎていた。合図のノックをすると榊原が顔を出した。居眠りしていた石田が背筋を伸ばしているのが見える。中に入ると皆既に車座になっていて、小野寺の席も用意されていた。

 上下のベッドが二つ壁側に折りたたまれ、三畳ほどのスペースがある。晴美の姿はない。中に入ると、榊原が上を指差した。運転席の上がベッドになっている。見ると、晴美は顔をこちらに向けて寝入っている。疲れているのだろう軽いいびきが聞こえる。小野寺はその顔をしばらく見詰めた。

 こうして寝顔を見詰めるのは何年ぶりだろう。夜遅く部屋を覗くと、ぐれてはいても寝顔だけは昔のままの愛らしさを湛えていた。頬寄せたい衝動を押さえたものだ。今もその衝動をそっと心の奥に仕舞い込んだ。

 これで晴美とのお別れとしよう。そして、彼等に、話すべきことを話してしまわなければならない。死を前にして初めて民族の壁を越えられそうな気がした。小野寺は振り返り、腰を落とした。

 和代の話しは出きるだけ正直に話したが、和代が死ぬ前日、小野寺を誘ったことは話さなかった。互いに淡い恋心を抱いていたと語ったのだ。そして最後に、何も出来なかった自分の卑怯さをさらけ出し、石田に詫びた。石田がそれに答えた。

「いや、私だって拳銃を突きつけられたら何も出来なかったでしょう。それより、和代は夢見る少女だった。いつか現れるであろう恋人を夢見ていた。きっと最後に会えたんだ。和代は貴方の心の中にまだ生きていた。だからあなたの電話を使ったんだ。」

 そういってまた涙ぐんだ。そして大きく息を吐き、きっぱりと言った。

「もう、分かりました。長年の心の靄がようやく晴れました。さあ、次に移りましょう。小野寺さん、例のブツの話しをして下さい。我々はここまで関わったのだから、知る権利があります。」

 榊原と親父の目がぎらりと光った。

「分かりました、お話ししましょう。」

と言っって大きく息を吸った。皆、固唾を飲んで小野寺の言葉を待った。小野寺が口を開いた。

「皆さんはGPSをご存知でしょうか。」

石田が答えた。

「ええ、最新鋭の精密度誘導装置に使われているのがGPSでしょう。湾岸戦争の時のピンポイント爆撃で有名になった。」

「そうです。全地球測位システム、GPS衛星の信号で位置を計測し、10メートル以内の誤差でミサイルを標的に誘導する、それがGPSです。そして、あれは日本の最新鋭技術が用いられていることを知る人は少ない。」

「ほー」

榊原親子が同時に感心して驚きの声を上げた。

「北朝鮮にはミサイル技術はあるが、それを正確に標的に着弾させる技術はない。この情報は喉から手が出るほど欲しかった。」

三人が頷く。

「そして、彼等はある民間の研究所からそれを盗み出した。しかし、ようやく手に入れたその情報が彼等の手から零れ落ちて、人手に渡ってしまった。」

石田が聞いた。

「つまり、小野寺さんの手に渡ったということですか。」

「そうです。そして、彼等はそれを再び手に入れることになるのですが、その前にたまたま洋介君の手に渡った。つまり洋介君が盗んだCDにはGPSの情報が詰まっていたのです。」

「なんだって?」

すっとんきょな声をあげたのは榊原だった。


 翌日、目覚ましの音で目覚めると、親父さんの姿はベッドにない。榊原があくびを噛み殺しながら言った。

「もう、朝か。4時間も寝ていない。今日は忙しくなりそうだ。そうそう、今日、逮捕されなきゃならないかもしれないな。」

晴美も目を覚ましていたらしく、榊原の言葉を聞きとがめた。

「おじちゃん、なんで逮捕されなきゃならないの。」

「うーん、どうも説明しずらいな。でも、大丈夫だろう。疑いも晴れ、無罪放免になる。きっとな。」

「もう少し、詳しく教えて。」

石田が口を挟んだ。

「晴美、今日、全てが終わったら、教える、何もかも。二人は今日やるべきことがあるんだ。」

「もしかして、お母さん達も誘拐されたんじゃないの。」

石田と榊原が顔を見合わせた。石田が重い口を開いた。

「ああ、そのまさかだ。だが、お母さん達は大丈夫だ。二人に危害が加えられる恐れはない。或る人物が奴等の所に行けば、お母さんと春代ちゃんは開放されることになっている。それは間違いない。」

「ある人物って誰なの?昨日聞いた、伯母さんが仁に電話した、その携帯の持ち主?」

石田はつくづく勘の鋭い子だと思った。しばらく口をつぐんでいたが、もう隠す必要はないと感じた。頷きながら答えた。

「そうだ、実はそれが君のパパだ。昨日の深夜、ここに来て、君の寝顔をずっと見詰めていた。お別れがしたかったんだ。」

見る見るうちに、晴美の大きな目から涙が吹き零れ、頬を濡らす。思いも掛けない真実に触れ、心の隅にしまい込んでいた理不尽な思いから、一瞬にして開放されたのだ。

「パパは叔母さんを愛していたの。」

「そうだ。だから君のパパは、君を見るのが辛かった。君が僕の妹にそっくりだったからだ。君を嫌っていたわけじゃないんだ。」

晴美が声をあげて泣き始めた。

「さあ、時間がない。いいか、ここで待つんだ。榊原の親父さんはここの支配人と友達なんだ。事情を話して、君を預かってもらうことになっている。夜までには、かたをつける。つまり、君のパパを救い出す。君のパパは何もするなと言い残した。俺達が動けばお母さんと幸代ちゃんに危険が迫ると思っている。だけど、俺達は君のママと幸代ちゃんの二人が開放されてから動くつもりだ。それなら、君のパパも許してくれるだろ。」

 晴美は泣きべそをかいたまま階段を降りてくる。健康ランドのお仕着せに身を包んで、肩を震わせている。何度もしゃくりあげる様子は子供のそれだ。石田と榊原が準備を整えると、三人は車の外に出た。晴美が二人に抱き付いてきた。声を震わせ言った。

「二人とも絶対に戻って来て。パパを、お願い、助けて。」


 石田は車を走らせながら榊原に聞いた電話番号に掛けた。

「ちょっと情報を提供しようと思って電話したんだ。情報と言うのは警視庁の刑事が二人殺された事件のことだ。知っているかね。」

「は、はい、知っています。」

相手はかなり緊張している様子だ。

「それでは、その事件担当に回して下さい。」

担当部署にはすぐに繋がった。

「こちらは、警視庁捜査1課です。最初にお名前を伺いましょうか。」

「その前に、貴方のお名前を伺いましょう。」

「榎本警部補です。」

「私は石田といいます。こうした電話は結構多いのですか。」

「ええ、その通りです。」

「昨晩、要町で銃撃事件がありましたでしょう。あの場に、私と榊原警部補がいたんです。」

「ほう。」

まだ信用していないようだ。

「パトカーが一台行方不明になった。そのパトカーは品川埠頭のコンテナ置き場で事故を起こし、乗員が病院に運ばれた。」

「そうです。」

これは今朝の新聞には載っていない。榎本警部補は一瞬緊張し受話器を握り直した。

「家族が病院に駆けつけると、乗員はまったく別人だった。そうでしょう。」

「おいおい、ちょっと、そっちの電話とって聞いてくれ、とんでもない情報だ。」

受話器を押さえたつもりなのだろうが、すべて聞こえていた。そうとう焦っている。石田は笑いを押し殺し、次の反応を待った。

「もしもし、もしもし、もう一度聞きます。パトカーの乗員が偽者だったと言うわけだね。あんたは、いや、石田さんはそのことを何で知っているの?」

「その前に、テープレコーダーは回っていますか。これから何度も電話するつもりです。ですから、別の番号を私専用に押さえておいて下さい。それとテープも忘れずに回して下さい。いいですね。」

「はいはい、分かりました。もう一度聞きますが、、、」

石田が途中で遮った。

「ええ、パトカー乗務員は偽者だった。本当の乗務員は別のところにいます。臼井巡査と、内田巡査部長です。」

「二人は何処にいるのです、生きているのですね。」

「ええ、生きています。その前に話しを整理しましょう。これから言うことは必ず裏をとってください。まず、金沢で牛田洋介君の捜索願が5月末に出ています。そして7月初めに三軒茶屋に住む小野寺晴美さんの捜索願が出ているはずです。二人は恋人同士でした。まず。このことの裏を取ってください。どのくらい時間かかりますか。」

「15分で十分です。」

「では掛け直します。私専用の電話番号とファックス番号を教えて下さい。」

電話をきると、車をマクドナルドのドライブスルーに滑り込ませた。既に午後一時半になろうとしている。小野寺に連絡が入るまで二時間半しかない。

 次にコンビニの駐車場に移動した。今朝、石田は中野の自宅マンションに戻り、キャドで正確な図面を作っておいた。偽警官の話から推して例の開閉する床面は周りと見分けがつかないように出来ている。確か50センチ角のプレートを敷き詰めたような模様だった。

 石田は記憶を頼りにその開閉口の正確な位置と大きさを描いた。敵は偽警官が臼田巡査達のミイラになる運命を石田に漏らしたとは思っていない。つまりこのことが、敵の完璧な情報網と組織に楔を打ち込める有効な手段なるのだ。

 つまり石田達も警察の情報網と組織を動員して敵に立ち向かうことが出来る。勿論、コンタクトする人間は、信用のおける人間に限るのだが、今は運を天に任せるしかない。15分後、石田が携帯を取り上げ、番号を押した。電話の相手はすぐに出た。

「はい、捜査1課、榎本です。確認がとれました。確かに二人には失踪届が出されております。」

「その前に、聞いておきたいことがある、榎本さんの班の係長は何と言う人です。」

「磯田警部です。」

磯田警部は榊原のメモによるとまあまあと書いてある。何人も名前をあげてメモを書いていたが、榊原が誉めた人物など一人もいない。榊原の暗い人間関係を思い知らされた。

「それから、この件はしばらくの間、榎本さんの班と捜査一課長止りにしてもらえませんか。それと、石川警部には情報を流さないで下さい。了解してもらえますか。」

しばらく、間があいた。恐らく石田の電話に耳を傾ける捜査一課長に目線で了解を得ているのだ。

「了解しました。石川警部と言うのは本庁捜査一課三係の石川のことですね。」

「ええ、その通りです。では、昨晩の事件の概要をお話しします。まず、あのビルには地下室があり、そこに失踪していた小野寺晴美が軟禁されていました。その小野寺晴美を榊原と私で昨夜救出したのです。牛田洋介君は残念ながら、既に死んでいました。死体はコンクリート詰にされて地下に放置されています。」

「ほ、ほ、本当ですか。」

「ええ、本当です。小野寺晴美は今安全な場所に保護しています。今話したことは、彼女が証言するはずです。そして、臼田巡査達もその地下室に閉じ込められています。そうそう忘れてましたが、敵が一人牢屋にいます。脚のアキレス筋を切られた状態ですが、命に別状はないでしょう。」

「その敵は誰にアキレス筋を切られたのです。」

「私が切りました。晴美を救出するためにしかたなく。」

別の声が響いた。

「石田さん、捜査一課長の韮沢です。今、晴美と呼び捨てになさった。貴方は晴美さんのご親族なんではありませんか。」

「これは韮沢さん。榊原に言わせれば叩き上げの信頼出来る人物だとか。」

韮沢が笑った。実を言えば叩き上げだが、優柔不断だと評していたのだが、榊原の今後のことを考えておべっかを言ったまでだ。

「それはそれは有難うございます。それはそうと、どうなんです。」

「榊原が評した通り鋭い。おっしゃる通り父親です。ですが、今は離婚していますので戸籍上は関係ありません。」

「石田さん、どうも分かりません、どうして警察の力をかりずに、独力で危ない真似をするんです。二人の偽警官の銃が消えています。石田さんが持っているんじゃありません。」

石田は顔をしかめた。

「私共を信用して下さい。信用出来ないというのは、さっき言っていた石川警部に関係があるのですか。つまり、警視庁も信用できないと。榊原がそう言っているのですか。」

「実は、この事件は公安事件です。」

これは榊原から言えと指示された台詞だった。公安と刑事はもともと仲が悪い。公安に事件を持って行かれることを極端に恐れているから、極秘扱いになると言うのだ。石田は拳銃の件をうやむやにしようとその台詞を言ったのだが、効果はあった。

 韮崎が息を呑む音がかすかに聞こえた。

「公安だって、とんでもない。これはれっきとした刑事事件だ。警官が二人殺された。その事件とも関係しているってことでしょう。」

「その通りです。二人を殺したのは石川警部です。」

今度はごくりと生唾を飲む音がはっきりと聞こえた。

「いいですか、これからFAXを送ります。発砲事件のあったビル1階の図面を送ります。それと、私は土木技術者なんですが、何処をどうやれば床が開くかヒントもかいてあります。早めに二人の警官を救出して、洋介君の遺体を回収して下さい。開閉スイッチの位置も図面に描いてありますが、例の偽警官はそれを破壊したと言っていました。それが修復可能かも調査して下さい。」

「分かりました。すぐに取りかかります。ところで、小野寺晴美さんを保護したいのですが、場所をお教え願いませんか。」

「さっきも言いましたが、これは公安事件です。情報が漏れれば、晴美が狙われます。明日まで待ってください。それでは…」

「待って下さい。石田さん、何かやろうとしておるんじゃありません?素人が危険を犯す必要はありません。我々がいるのです。そのために警察があるんです。」

「お言葉ありがとうございます。ところがこっちには三人も玄人がいます。ではFAXを送ります。」

電話が切れ、韮沢は受話器を持ったまま、不思議そうな顔をして呟いた。

「三人だって。榊原を助ける奴が三人も警視庁内にいるって。そんな馬鹿な、そんなことあり得ない。」


 コンビニでFAXを送り、着信したかどうか確認をいれ、話したがる韮沢を冷たくあしらい、車を環七の流れに乗せた。しばらく走らせ、方南町交差天を左折し、新宿に向かった。既に時計の針は二時を回っている。あと二時間だ。

 親父さんは眠らずに、朝早くその男の自宅を張った。男は警視庁にまっすぐ入って行き、出てくる様子はないという。警視庁内部では榊原の唯一の友人が、その男の今日の予定を探っているはずだ。分かればすぐに榊原に知らせることになっている。


 石田は榊原と親父さんに二丁の拳銃を取り上げられたことに、苦い思いを抱いた。もし、榊原の推理が正しければ、もし、和代に手を掛けた少年が成長してその男に成りすましているのなら、この手で撃ち殺してやりたいと思ったからだ。

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