第三話 STAND UP!
「……」
――意識の深いところで外気を感じた。けれど体内がまだ夢心地で、このまま再び眠りに落ちようかと考えていたが、微かに明るい目蓋の向こうに「……もう朝か」と脳裏で認識して目が冴えてしまった。
「うう、ん……」と気怠さで喉を鳴らし、少し肌寒くて体を丸め、寝ぼけ眼で横を向いた時に気が付いた。
ジョージにピート、クレアもいない。
カーシュはしばらくぼんやりとしていたが、大きく目を見開くとガバッ! と慌てて起き上がり、寝癖の付いた髪も、しわの寄った服もそのままにキョロキョロと部屋の中を見回して外に飛び出した。
心臓を高鳴らせて辺りを目で捜すが、やはり彼らはどこにもいない。
嘘だろ!? 俺……置いて行かれた!?
何がなんだかわからない。寝起きの頭だから余計に思考も働かず、ただ、悔しさと悲しみに襲われ、「くそ!!」とあてもなく走り出して小屋の周囲や森の中を探った。
なんで!! どこに……!!
焦りを含んだ表情で見回しながら、低木を避け、雑草を踏み倒し走っていたが、それもすぐに終止符を打つことに。
足を止め、息を切らしてじっと見つめる、その向こうにクレアの姿が……。昨夜と同じ格好のまま、ホリーのワンピースを引きずって小鳥を集めている。
エサを持っているわけでもないのに次から次へと集まってくる小鳥達は、クレアの周りに降り立ち、たまに彼女の肩や頭に乗ってツツく。――不思議な光景にしばらくの間見とれていたが、同じように遠くでその姿を窺っているジョージとピートを見つけると、小鳥たちを脅かさないよう、足音を忍ばせて近寄った。
「……おはよう」
小声で挨拶をすると、ピートが「よぉ」と笑顔で手を挙げ、それを挨拶代わりに終えてクレアに目を戻す。
大木の影でじっと遠目から見守る、カーシュはそんな二人に並び、しばらく間を置いて問いかけた。
「……あれはなんですか?」
出会ってから今までのことを考えても“普通”ではないような気がした。通常では考えられないようなことを平気でやってしまう彼女だから、“これ”も何かの意味があってのことだと感じたのだが……。
「何って言われてもなぁ。……交流、か?」
ピート自身もわからないのだろう。太い腕を胸の前で組んで考え、答えてから苦笑する、そんな彼から、カーシュはジョージへと目を向けた。
「……いつからここに?」
「……ほんの少し前だ。……抜け出したから後を付いてきた」
普段と変わらない冷静なジョージに「そうですか……」と小さく返事をして、カーシュは再びクレアへと目を移した。――小鳥達に囲まれ、楽しそうに笑っている。
……普通、あの手の小動物は人間を怖がるのにな。……おかしな子だな。
声をかけることなくボンヤリと見つめていたが、そんな彼らにやっと気が付いたクレアは笑みをこぼし、近寄ろうと足を踏み出した。その一歩で小鳥達が空に飛び立つと、クレアは空を見上げて手を振り、改めて三人の元へと走る。――が、その瞬間に三人は顔を青ざめさせ、ザッと身を退いた。遠目からでは気付かなかったが、クレアの格好と言えば、それは酷い……鳥の糞にまみれている。
「ク、クレア様っ!」
「おっはよー!」
笑顔でしがみつこうと腕を広げるクレアを「待った!」とピートが寸前で止めた。
「ち、ちょっと待ってくださいっ。……鳥の糞を取らないとっ!」
「……フン?」
クレアは足を止め、小首を傾げて頭の上を触った。ニュル、と手の平に奇妙な感触があり、確認してみると、白やら緑やら、ドロっとした液体が付いている。それを見たカーシュは嫌そうに顔を歪めて、一歩、二歩と退いた。
「ほ、ほらっ、早く綺麗にしないとまたお風呂直行になりますよっ?」
焦ったピートが急かすが、クレアの目はすでに何かを企んでいる――。
「ヒッヒッヒッ……」と不気味に笑いながら胸の高さまで両手を挙げてニギニギと指を動かす彼女を見て、ピートは頬を引きつらせ、後退りした。
「……や、やめましょ、クレア様?」
「ふふふ……。ボク、そんなに酷い?」
「ひ、酷いからやめましょ!?」
声を大にして訴えるが、その時には「えーい!!」と、容赦なくクレアに飛びかかられていた――。
「こんなご時世だもの。楽しく遊んでいる人達を見ると嬉しいし、とっても和むわ」
清々しい朝日が窓から差し込んできて、空腹感を沸き上がらせるようなスープのいい匂いが充満する部屋。どこかからか小鳥のさえずりも聞こえてきて「なんて良い一日のスタートだ」と感じたいところだが。
ホリーは笑顔で仁王立ちして腕を組んでいたが、スッと表情を消して目を据わらせた。
「けど、限度があるってコトを理解なさいな」
声を低くして最大限の不快さを露わにする。
目の前には、腰にタオルを巻いたジョージとピートとカーシュがそれぞれ空いている壁際に座っている。洋服は洗濯行き。さすがに男物の洋服はないらしい。
クレアは新しい服を用意してもらえたものの、再び強制的にお風呂へ直行。湯船に近付かなかった分、昨日より状態はいいが、朝だというのにすでに元気がない。へたばってジョージの素足の太ももに落ち着こうとしたが、「いけません!!」とホリーに引っ張られて椅子に座らされた。
「はしたない!! あの人は何も着てないのよ!? わかっているの!?」
頭ごなしに怒られたクレアは目を据わらせて頬を膨らませることで反発した。そんな彼女を真剣に相手にするのが馬鹿馬鹿しくなってきたのか、ホリーは呆れるように額を抑えて項垂れた。
「あなた達ってホントに……お婆さんが言っていた人達なの?」
危機感も何も感じられない。のんびりとした雰囲気にため息を吐くと、「そう、その話しだよ」と、クレアは思い出したように素に戻り、高い椅子から足をブラブラさせて軽く身を乗り出した。
「聞かせてよ。意地悪ババァとなんの話ししたの?」
「なんの話しって言っても……、大したことじゃないわよ」
ホリーは、テーブルの上の空になっているコップをまとめながら答えた。
「ここにベルナーガスの王子がいつかやってくるだろうから、その時に会えば面倒を見るようにって」
「……ここに来るという理由は?」
ジョージが訊くと、彼女はため息混じりに身近なイスに腰かけ、腕を組んで肩をすくめた。
「ちゃんとした理由は聞いてないわ。ただの旅の途中だとしか思わなかったから。……そうでしょ? こんなところ、誰も好き好んで来ないわよ」
「ボクの面倒ってさ、どんな?」
「お風呂に入れること」
片眉を上げて嫌みっぽく返事をされたクレアは目を据わらせ、ホリーは構うことなく話しを続けた。
「面倒を見るっていうのは一晩泊めてあげればいいのかって聞いた。そしたら、そうじゃないって言われたの。人を捜しているだろうから、気が向いたら手伝ってくれって」
「呪い士を捜してるんだよ」
椅子からトン、と降り立つと、ホリーの傍に寄って、彼女がまとめたコップの中、飲み物が残っていないか確認する。そんなクレアに、ホリーは腰を上げると炊事場に置いてある小さな水樽の中の蜂蜜入りの果汁水をコップに注いで持ってきた。
「あなた達の言う呪い士って、そのお婆さんのことなの? 私が聞いた感じじゃ、あなた達が捜している人ってお婆さん本人じゃなさそうだったわよ?」
ほら、とコップを差し出すと、クレアは「ありがとうっ」と嬉しそうに受け取って一気に飲み干し、コップをテーブルに置くと椅子に腰を下ろしたホリーに首を傾げた。
「意地悪ババァじゃないって、なんで?」
「お婆さんが言ってたわ。……このままじゃこの国は最悪だ。全てを元に戻すには、やっぱり根本に戻るしかないだろうけど、そのための力を誰も持っていない。唯一の望みは王子になるだろう。国王の魂を浄化するために、王子はいずれ、力を探すって」
曖昧な言葉に四人は顔を見合わせた。
「つまり、俺達がやるべきコトの、その先を……」
ピートの言葉にジョージは頷いた。
「……老婆は見抜いている、ということか」
「やっぱりあの意地悪ババァが呪い士なんだよ!」
クレアは嬉しそうに目を見開き、ホリーと向き合うと、彼女の膝に手をついてピョンピョンと飛び跳ねた。
カーシュは口出しすることなくじっと窺っていたが、「はいはい。おとなしくしなさい」と、冷静にクレアを宥めるホリーへと目を向けて小さく問いかけた。
「力、って……、国王を浄化する力って、なんですか?」
「あなた達、知ってるんじゃないの?」
キョトンとして訊くが、ブンブンとクレアに首を振られ、ホリーは胸の前で腕を組んでため息を吐いた。
「困った人達ね、ホントに。……お婆さんが言ってたのは、救世主だって」
「……救世主? ボクのこと?」
クレアが首を傾げながら自分の鼻先を指差すと、「違うわよ」とホリーは深く息を吐いた。
「あなたがそうだったら必要ないの。……いずれ、ベルナーガスの王子が救世主と出会うはずだって言われたわ。その救世主の力があってこそ、国を救えるはずだって」
「ボクが……救世主と出会う?」
「そう。あなたがベルナーガスの王子ならね」
自分の鼻先を指差したまま、クレアは訳がわからずに顔をしかめる。その様子を見て、ふと思い出したピートは、視線を落として考え込むジョージへと少し身を寄せて囁いた。
「昨日、クレア様が言っていたことは……?」
腕を下ろしたクレアは「ん?」と瞬きを一つしてピートを振り返り、首を傾げた。
「ボクが言ってたことって? なに?」
いつもは人の話しを聞かないのに、自分のことになると耳が良くなるらしい。
ピートは「……あ、はい」と、少し戸惑いを露わにした。
「眠ってしまう前に言っていたでしょ?」
「なにを?」
「何、って……」
言葉を濁すと、クレアは視線を上に向けて考え込んだ。
「んー……、ボク、何か言ったっけな? ……そういえば、いつ眠った? あんまり覚えてないよ」
「言ったことも覚えていないんですか?」
「全っ然。何か変なことでも言った?」
「ンまぁ……」
「何も覚えてないなぁ……。なんて言ってたの?」
更に首を傾げつつ問いかけるが、ジョージが「……いいんですよ」と微笑み遮った。
「……大したことではなかったですから、気になさらないで。……寝言のようなものです」
「寝言? ボク、寝言言うの?」
「……たまに言いますよ。笑ったり、怒ったり」
「ボクも聞きたい!!」
ワクワク顔で目を見開くが、様子を見ていたホリーは呆れ顔で腕を組み直し、何度目かわからないため息を吐いた。
「ちょっと、話しがズレてるわよあなた達。救世主を捜さなくちゃいけないんでしょ?」
促進させようと話題に歯止めをかけると、「……あ、そうか」と、クレアはすぐに気を取り直し、ホリーを振り返った。
「ボクが救世主と会えばいいんだね? で、どこにいるの?」
「……。捜しなさいよ」
「そっか。じゃ、どこから捜せばいいの?」
「……私が知ってるわけないじゃない」
問いかけばかりを繰り返すクレアに、ホリーは呆れ気味に目を細めた。
「あなた、頼りのない子ね。大丈夫なの? それで国を救おうなんて……」
「できるよ。救世主さんを見つけるから」
なんの根拠があるのかわからないが、ニッコリと笑う、いつもの調子のクレアに「……これじゃあ期待できないな」と感じたカーシュは、訝しげな顔でホリーへと目を移した。
「その救世主って……どうしてもクレアじゃなきゃ見つけられないんですか?」
「さあ? 私は、王子が救世主と出会うって聞いただけだから」
そう肩をすくめられ、カーシュは視線を斜め下に向けてじっと考え込んだ。
『誰かのこと忘れてるかも……。……思い出せないんだ……。……ごめんね……。ボク……キミがわからないよ……』
昨夜クレアが言っていたことを思い出すと、ふと、何かが脳裏を過ぎった。漠然とした、違和感の残る“何か”に頭を支配され、慌てて顔を上げてジョージを見るが、彼は、すがるようなその視線に気付いても間を置いて小さく首を振るだけ――。答えが掴めず、カーシュは何も言えなかった。
クレアは、「よーしっ!」と、気合いを入れて笑顔で拳を握った。
「ボクの目的は救世主と出会うことだね! じゃあ……捜そう!」
「誰だかわからず、何も手がかりがないのにですか?」
ピートがだらけた表情で背中を丸め、肩を落とした。
「せめて、何か情報の一つや二つは欲しいもンですが……」
「……あ」
ホリーは何か思い出したように顔を上げた。
「お婆さんが言ってたこと、まだあるわ」
「なになにっ?」
クレアがすがるようにホリーの膝に手をついて身を乗り出し顔を近づけると、ホリーは、目線を上に向けて思い出そうと考え込んだ。
「多くの人を集めろ、……集まる、だったかしら」
「集まる? なんで?」
「多くの人が集まって……、そこから始まる、って言ってたような……」
「よくわかんないよ」
「……私もわからないわ」
顔をしかめるクレアに同調して、ホリーも顔をしかめて首を振った。
「意地悪ババァはいつ来るの?」
「さあ。気が向いたら来るんじゃない?」
「役立たずの意地悪ババァめ」
ホリーの膝から手を離すと不愉快そうに腕を組み、口を尖らす、そんなクレアに構うことなく、ホリーは気を取り直すように深く息を吐いた。
「とにかく、私が聞いたのはそういう話しを交えた……おとぎ話のようなものよ。……昔々、善良な者がいたけど、あることを切っかけに心を闇に食われた。それから、国は破滅に向かった。国を救えるのはベルナーガスの王子。いずれ王子は救世主と共に国を救う、ってね」
ホリーの話しを大人しく聞いていたクレアは目を輝かせた。
「すごい!! 童話みたい!!」
「……、現実よ、王子サマ」
「よーし! ボク、絶対救世主を捜し出すぞー!!」
グッと拳を作って意気込む、そんなクレアを見て、カーシュはなんとなく不安な気持ちに襲われていた――。
「なんだかすごく……頭の中がスッキリしないんです」
太陽が真上に昇る頃――。
暖かい日差しを浴びながら、クレアはホリーの命令で小屋の掃除を手伝わされている。半乾きのズボンを穿いて、ピートは小屋の手直しを。そこから少し離れた青草の上、カーシュは柔らかい風を浴びながら遠くを見つめ、ホリーが持っていた様々な書物に目を通すジョージの傍で独り言のような呟きを続けた。
「俺には理解できないことがこの世にはたくさんあるってわかるから、どこまで突っ込んでいいのか……。正直、あなたたちが本当にベルナーガスの人なのかもよくわからないし。なのに、あなた達と一緒に来た……。そもそもそこが間違いだったのかもしれないんですが……。けど、なんだかすごく……、すごく不安なんです」
ジョージは耳を傾けてはいるのだろうが、ページを捲るだけで彼の方に目を向けることはない。
カーシュは神妙な表情で森の奥を見つめた。
「ウェルターでは、俺はみんなほど辛い思いはしませんでした。親がお金を持っていたし、それに甘えていたから。……けど、それでもあそこの生活は嫌で。不自由はなくても、窮屈で、苦しくて。……逃げ出せば、今よりきっと楽しいはずだって思ってました。……自由は手に入ったけど、なんでこんなに不安なんだろ。……あなた達の傍にいることは、すごく安心なんです。こんなこと言っちゃいけないけど……頼りになるし。でも、ノドの奥に何かが引っかかってて……息苦しいんです。……おかしいでしょうか、俺。……なんでだろ……」
段々と表情を曇らせ、不安を押し隠そうともしないカーシュに、ジョージは捲ったページを指で止めて目を向けた。
「……客観的に見て不安要素を挙げてみると、まず、お前は内外ともに弱い」
「……。その通りです」
「……普通の生活を営むはずだったのに、余計なことに巻き込まれた」
「余計なこと……ですか」
「……国を救うというクレア様の使命が理解出来ず、思考が付いていけない」
「……、有り得ます」
「……クレア様の本当の姿を知らない」
元気をなくして俯きかけていたカーシュは、ピクッと眉を動かし、真顔でジョージに頷いた。
「それです。……クレアはなんなんですか? 本当にブラッド王子なんですか? 男じゃ……無いですよね?」
「……クレア様は見ての通り、幼女だ」
「俺達庶民に男の子だって言っていたのは何故ですか? 彼女は本当に……ブラッド王子、なんですか?」
声を潜め、躊躇いを露わにすると、ジョージは不愉快そうに雑草を引き抜き掃除をしているクレアに目を向けた。
「……俺が教えてやれることには限界がある。……それはピートもそうだろうし、スコットもそうだろう」
「……、はい」
「……俺達がどう詮索しても、どう考えても何も解決しないんだ。……ただ、俺達はあの子を護る。あの子の力になることが俺達の使命で、あの子が何者だろうと、クレア様はクレア様だ。俺達にとって大切な子であることには変わりない」
「……、本当に、ブラッド王子なんですか?」
「……国王の手によって王子が湖に落とされ、俺がすぐに飛び込んで助け上げた。……その時の子は間違いなくクレア様だ」
曖昧な返事に、カーシュはそれ以上詳しく突っ込めずに戸惑った。
「……クレアが言ってた、忘れている人がいるって、……ひょっとして、救世主、って……」
「……」
「……もし、……もし救世主が……現れたら?」
「……どうもしなくていい。今のままでいいだろう。……俺達も今のままでいる」
「……。出来ますか? そんなこと」
「……出来る。……あの子を一人の人間として愛しているから」
「……、……」
「……女性としてではなく、我が子のようにだ」
「は、はい」
「……今はなるようにしかならないだろう。……わからないことが多い時は、闇雲になるよりも流れに身を任せた方がいい。自ずと何かが見えて来るものだ」
いつにも増して冷静なジョージに、カーシュは俯き、そっと上目を向けた。
「……、俺、……どうしたらいいんでしょうか?」
「……どうとは?」
「このままあなた達に付いていってもいいと思いますか?」
「……お前はどうしたい? それが大事なんじゃないのか?」
「……。俺は……」
「……お前が間違ったことをしない限り、誰もお前を咎めないし、お前を制止することはない。……自分で選ぶことだな」
カーシュは、それ以上何も言うことなく再び本に目を戻したジョージを見つめ、しばらく間を置いて笑みをこぼした。
「……俺、あなた達を見ていきます。……それが、俺の役目かもしれない……」
ジョージは何も言わない。
カーシュはゆっくりと振り返った。その視線の先には、「やり直し!」とホリーに怒られてピートに泣きつくクレアがいる。
意味のある傍観、か。……そうだな、俺はこの人達を見ていこう。どんなことになっても――
「救世主って、どんな人だと思う? ボクはねぇ……すごく強くて、すごく大きい人だと思うな」
日暮れ時――。小屋の掃除が終わり外見は綺麗になったが、ホリーに容赦なく顎でこき使われたクレアとピートはヘトヘト。早々に休むため早めの夜食を取ることになった。
食卓に並べられたホリーの手作り料理に、それぞれのペースで食を進める。
「ホリーさんの食事って、おいしいですね」
カーシュが笑顔で褒めると、ホリーは「ありがとう」と素直に微笑んだ。
「スープはナナのほうがおいしい。スコットのも、薄味だけどおいしいよ」
飲み干した後で感想を告げるクレアを、ホリーはじっとりと睨む。
ピートは、野ウサギの丸焼きを食べ尽くし、満足げにお腹を撫でながら、静かに食事を進めるジョージを窺った。
「おもしろい書物はあったか?」
「……これと言って特別何もなかったな。どれも一度は目にしたことのある文献ばかりだった」
「そうか。やっぱり足で調べるしかないか」
ふう、と一息吐いて、脱力気味に天井を仰ぐ。
「しかし、どこに行くか、だなぁ」
「……ここから近いのはウェルターだが……、あそこは、もう行っても仕方がないだろう」
話しを聞いていたカーシュは、食事の手を緩めて少し視線を落とした。
考えないようにしていたが、けれど、“あの後”のことがどうしても気になる。ナナの両親のことはジョージからの話しでわかったが、他の街人達はどうなったのか――。ノーマン狩りに失敗した、そのことが富豪達の怒りを招いていなければいいのだが……。
ぼんやりと考えていた時、「どうして?」と言う声が聞こえ、カーシュは顔を上げた。クレアがキョトンと、不可解げに首を傾げている。
ジョージは食事の手を止め、軽くナプキンで口元を拭ってクレアに目を向けた。
「……どうして、とは?」
「どうしてウェルターに行っても仕方ないの?」
「……あそこは荒んでいます。……情報を探っても、誰も手を貸してはくれないでしょう……」
「そんなことないよ。だって、あそこにはカーシュもナナもいたんだよ?」
笑顔で否定するクレアに、カーシュは俯きかけた顔を上げた。
「あの短い間だけでいいヤツを二人も見つけた。ノーマン狩りがなかったらもっとたくさん見つかっていたかもしれない。金持ちのバカ達がいい気になってるけど、ナナを大事に匿ってた親もいたし、ナナを心配して助けた恋人も」
「友達だって言ってるだろ」
目を据わらせてカーシュが言葉を遮るが、クレアは気にすることなく続けた。
「あの街の環境は最悪だけど、まだ腐ってないよ。片隅にはまだいいヤツがいて潜んでる。じゃなきゃ、あの街でカーシュは生まれない。ナナも生きてない。ボクはそう信じる」
笑み浮かべながらも真っ直ぐな目と強い言葉に、聞き耳を立てていたピートは苦笑する。
ジョージもため息混じりに苦笑したが、すぐに気を取り直して真顔に戻った。
「……しかし、あれだけの騒動を起こした後ですから……兵士の一人や二人と向かい合うことは必至ですよ?」
「やっつけちゃえばいいんだろ? 大丈夫だよ、ボクが片付けるから」
拳を上げて簡単に言い除けるクレアに、ホリーは呆れてピートを横目で窺った。
「この子には怖いモノはないの?」
ピートの前に「水」とクレアは代わりに答え、ジョージへと目を戻した。
「ここと近い街だから、よく話しを聞くことが出来れば意地悪ババァのこともわかるかもしれないし、それがわかったら救世主の情報もあるかもしれない。……知識のありそうな人を見つけよう」
クレアの提案に、ジョージはじっとみんなを窺っているだけのカーシュへ目を移した。
「……物知りな者を知らないか?」
問われたカーシュはハッとし、慌てて考え込んで、すぐに顔を上げた。
「物知りというか……、内密で学問を習っていた先生なら色々知っているはずです。雑学も得意でしたから」
「……その方を紹介してもらうことは出来ないか?」
「出来ないことはないですが、そうなると、俺の……父さんに伝わってしまいます。……父さんに知れたら、必ず兵士達がやってくるはずです」
「ナナの親を殺したくらいだからね」
気まずい表情で声を潜めるカーシュの後にクレアが肩をすくめ続くと、ピートは目を細めて注意するような視線を送った。そんな彼を見て、クレアは少し口を尖らせた。
「だって、ホントのことだろ?」
「……気遣うということを覚えてください」
「それって、現実から目を逸らすってコト?」
キョトンとした表情で首を傾げるクレアに、ピートは目を据わらせる。
不穏な空気を感じたカーシュは、「いいんですよ」と、悲しく笑い、軽く首を振ってピートを止めた。
「クレアの言う通りですから。……だから余計に心配なんです。あなた達に何かあったらって思うと……」
「ボク達、強いから平気だよ」
クレアはニッコリ笑って、グッと強く握った拳を上下に振って見せた。
「なんなら、カーシュのお父さんをたくさん叩いてあげようか?」
「やめなさい」と、ピートは更に目を据わらせる。
カーシュは、ムスッと頬を膨らませるクレアに苦笑した。
「それはまた今度な」
「よし、わかった。また今度ね」
素直に頷くクレアに、ピートは「ったく……」と肩の力を抜き、カーシュはジョージに目を戻して頷いた。
「先生のことは俺に任せてください。話しのわかる人だから、会って事情を伝えることさえ出来れば絶対に手を貸してくれます」
「カーシュに任せるのは心配。失敗しそうだ」
ズバッと斬り捨てるような言葉にズキッと胸を痛めながらも、それを隠してカーシュはムッとクレアを睨んだ。
「俺だってこのくらいのことは出来るんだからな」
「出来てもらわなくちゃ困るんだぞ?」
「わかってる。……お前、男言葉使ってるとスコットさんとナナに怒られるぞ」
「ここにはいないからいいンだもーん」
得意げにツーンと顎を上げて威張って見せたが、「私がいるわよ」と、ホリーにゴツンッとゲンコツを落とされてしまい、新手の“教育係”にクレアは頭のてっぺんを押さえてムスッと頬を膨らませることで反発した。
――それからしばらく腹休めをして、ホリーに引っ張られてクレアが入浴を済ませぐったりと就寝する頃、彼らも「明日の朝は早いから――」と、遅れて入浴を済ませて早々に眠りに就いた。
ただ、カーシュはなかなか寝付けなかった。表向きは平気なフリをしていたが、ウェルターに戻ったらどうなるか……。考えないようにしようと思っても、つい考えてしまう。そして、「早く寝なくちゃ」と焦っているうちに夜が明けてしまった。
――翌日。太陽が真上に昇る前に出かける事になり、朝食を済ませ、準備が出来て外に集まった四人にホリーは森の奥を指差した。
「こっちに向かって真っ直ぐ歩きなさい。森が変わっても、ちゃんとした方向さえわかっていれば平気だからね」
「……カーシュ、いけるか?」
ジョージの問いかけに、カーシュは「はい、大丈夫です」と空を見上げ、自分の影を見下ろして方向を確認し、「……よし」と大きく頷いた。
クレアは森をじっと窺っていたが、ピートに木の実の入った革袋を手渡すホリーに近寄って、彼女のスカートを軽く引っ張り見上げた。
「ねえねえ、ここに戻ってくる時はどうしたらいいの?」
「また来るつもり?」
訝しげに聞くと、スカートを離してショボンと俯く。素直な反応に、ホリーは吹き出して笑った。
「ここに戻ろうものなら、それは運試しね」
「……わかった! じゃあ……困った時、運試しついでに来る! それで答えが出るんだね!」
顔を上げるなり笑顔でグッと握り拳を作ると、ホリーは呆れ顔で目を細め、ピートを振り返った。
「この子のプラス思考って、放っておいていいの?」
ピートは笑いながら「うんうん」と頷くだけ。
ジョージは荷物を抱えて、ため息を吐くホリーに軽く会釈した。
「……それでは、お世話になりました」
「いいえ」
「……老婆が現れた時、是非お会いしたいと伝えてください」
「わかりました。言うことを聞いてくれるとは思えないけど」
苦笑するホリーを、クレアは笑顔で見上げた。
「じゃあね、ホリー。また来るから元気でね」
「あなたもね、王子サマ。ちゃんとお風呂に入りなさいよ?」
「ホリーも、今度ボクが来るまでに料理の腕を磨いててよ?」
互いに笑顔で睨み合うと、「ほらほら……」と、ピートはクレアの服を掴み引っ張った。
「それじゃ。行ってきます」
「お世話になりました」
それぞれ挨拶をして歩いていく。
クレアは手を振るホリーを振り返ると、笑顔で大きく手を振った。
「ホリーと一緒のお掃除、楽しかったよー!!」
ホリーはキョトンとしていたが、吹き出し笑って大きく手を振り返した。
――四人は言われた通り、森の中を一定方向に向かって延々と歩き続けた。先日より、足取りはまだ軽い。
先頭を歩くカーシュの後ろ、クレアは歩き保ってジョージを振り返り見上げた。
「街に着いたら、ボク、またノーマンになろうか?」
「……わたし達も一緒ですから無意味ですよ。……それよりも、いいですね? 無謀な行動はなさらないでください」
「はーい」
愛想よく返事をするが、「……聞き流してるでしょ」と、ピートが小さく非難する。クレアは「べっ」と舌を出してカーシュに並び、彼を見上げた。
「ねぇねぇカーシュ」
「あまり話しかけないでくれるか? 一定方向に歩くのって大変なんだぞ」
「真っ直ぐ歩いて行けばいいだけだろ?」
「頼りないヤツだなー」と言わんばかりの口調にカーシュは不愉快そうに目を据わらせたが、クレアはお構いなしに続けた。
「先生って、どこにいる? すぐ見つかる?」
「出かけていなければ家の方にいるはずだけど。でも、そこに行くまでに街の中を結構長く歩かなくちゃいけないから……」
不安げに言葉を切らすが、「平気平気」と軽く受け流されてため息を吐いた。
「その余裕が心配なんだよ」
クレアはキョトンとした顔で、目を細めるカーシュを覗き込んだ。
「ボクのこと、心配してくれるの?」
「……、お前だけじゃなくてジョージさんとピートさんもだけど」
「自分の心配をした方がいいと思うなー」
まるで馬鹿にしたような台詞に、カーシュはサラっとした表情のクレアを睨み付けた。
「いつか絶対、お前を越えてやるぞ」
「無理無理。ボクの方が強いモン」
「所詮は女だろ」
「あ!! 性差別だ!! いけないんだぞ!!」
ゲシッ! と、容赦なくスネを蹴られたカーシュは、「うっ!」と、呻き声と共に顔を歪めて足を押さえうずくまった。そして、すぐに「こいつ!」とクレアを睨み上げたが、……ハッ! と我に返るなり腰を上げた。
「ど、どの方向だった!?」
「こっちだこっち」
ため息混じりにピートに指を差され、焦っていたカーシュはホッと胸を撫で下ろす。
「道案内も出来ゃしない」
やれやれ、と言わんばかりにボソっとクレアに呟かれ、カーシュはフルフルと怒りで拳を握りしめた。
――クレアに邪魔されながらもなんとか無事に森を出ると、ジョージとピートはいつでも抜けるようにと剣の柄を腰の前に向けた。その気配に、カーシュは先頭を歩きながらも息を飲む。
ジョージは、カーシュの後ろを軽快に歩くクレアを背後から見下ろした。
「……わたしの傍を離れないでください」
「はーい」
愛想良く返事をしながら、クレアはポケットから長い巻き布を取りだし、それを手に巻いてきつく縛った。
「出来るだけ街の人には危害を加えないようにしようね。話しで終わるならそうしたい」
「……そのつもりですが、相手の出方は読めませんからね」
「大人しくしててくれるといいんだけどなー」
話しをしているうちに街が見えてきて、カーシュは歩くスピードを緩めることなく、前を見据えて進んだ。
――本当は戻ることが怖い。みんなからどんな視線を向けられるかは想像が付く。街から逃げだし、その代償でナナの両親を亡くした。しかも、自分の家系は富豪部類に入る。金持ち息子のわがままだと思われても仕方がない。……いや、きっとみんながそう思っているはずだ。
……けど――
ゆっくり深呼吸して、塀に囲まれた街の入り口を見た。――誰かが立っている。門番だろう。カーシュ達四人の姿に気付くと一人が街の中に駆け込んだ。その姿を目で捉えていたジョージは小さく息を吐いた。
「……やはり、そう簡単に通してはくれないか……」
歩幅を変えることなく歩き、距離が縮まると、数人の男達が門前に立ってこちらを睨み、無言の圧力をかけてきた。その様子に、クレアは足を止めることなくジョージにしかめっ面を向けた。
「あれって、意地悪しそうだね」
「……クレア様はお静かに。いいですね?」
「はーい」と、クレアは小さく手を挙げる。
四人はそのまま街に近付き、そして、「止まれ」と言われるまま足を止めた。
門番の一人、カーシュも顔見知りの男、ウェルター青年治安部隊員のオリバーが、不愉快げな雰囲気を露わにする男達を止め、少し戸惑って目を泳がすカーシュの前へと冷静な表情で寄ってきた。
「なんの用だ。ギルフォイルさんでも呼んで欲しいのか?」
絶対に拒絶されると思っていたから、この出だしには正直驚いた。
カーシュは、心臓を高鳴らせながらもなんとか平静を装い、首を振った。
「……父さんに用はない。……ロバートに会いたいんだ」
「ロバート?」
顔をしかめて繰り返したオリバーに、カーシュは「ああ」と真顔で頷いた。
「どうしても聞きたいことがあって……。ロバートを呼んで欲しい」
「……カーシュ」
オリバーは、呆れるような、残念がるような息を吐き、腕を組んだ。
「お前がここから逃げ出した理由はわかってる。ナナのことは親しい“下っ端”なら知ってた話しだったんだから」
声を潜め、他の誰にも聞こえないようにと努める、そんな彼に、カーシュは少し戸惑いを露わに目を逸らす。
オリバーは、声色を変えることなく更に続けた。
「確かに……この街にいれば最悪な結果が待っていたかもしれない。お前も知っての通り、すでに何人もの女達が殺されている。……その家族も。……ナナも時間の問題だったかもしれない。……でもな、今もみんながいろんなものを護っているんだ。必死になって。……それくらい、お前にもわかるはずだ」
「……」
「お前達のことは、小さい時から知っているんだ。……無事に生き延びていてくれるなら、それに超したことはない。……逃げ出す決心を付けたお前達の気持ちは酌んでやるし、どうこうするつもりはない。……ただ、もうこれ以上誰かを巻き込むな。……何もせず、どこかで静かに暮らすんだ」
責めるわけでもなく、諭すような目を向けて静かに話すオリバーに、カーシュは視線を地面に落とした。
途方に暮れるような、拗ねるような目でクレアはピートを見上げた。相手がまだ攻撃的なら、こちらもそれ相応の態度を取れるが、これじゃあ強く出ることも出来ない。ピートはピートで、鼻から深く息を吐いただけ。しかし、このまま「はい、わかりました。それじゃあ」と、ここを去るわけにはいかない。それは、カーシュにとってもそうだった。
カーシュはグッと拳を作ると、険しい表情でオリバーを真っ直ぐ見つめた。
「……誰かを巻き込むつもりはない。……迷惑をかけるつもりもない。ただ、どうしてもロバートに聞きたいことがあるだけなんだ。それさえ適えば、すぐにいなくなる。街に入れてくれなくてもいい。……ロバートに会わせて欲しい」
「……、わからないのか、カーシュ」
オリバーは少し目を細めた。
「お前はすでにお尋ね者だ。……街の警備屋にはベルナーガスから兵士もやってきている。……お前の親父さんが呼んだんだ」
「……」
「お前と話しをしているところを見られたら、俺たちも命を落とす。それでも、敢えて、こうして忠告しているんだぞ。……その意味がわからないのか?」
今までとは違って、言葉の節々に不愉快さが滲み出てきた。だが、カーシュは揺らぐことなく、目を逸らすことなく告げた。
「俺は、自分が信じた道を選んだだけだ。……尋ね者になる謂れはない」
「なんだ? 次はロバートを巻き込むつもりか?」
別の男が近寄ってきてオリバーの傍に立ち、不愉快げに眉をつり上げた。
「いい加減にしろ。お前のせいで何人が犠牲になったと思ってるんだよ」
言い終わると同時にドンっと肩を突き押されたカーシュは、後ろにいたジョージに軽くぶつかってしまった。オリバーは「おい……」と呆れるような息を吐いて男を止めようとしたが、男はそれを払い、「……すみません」とジョージに謝り、支えられるカーシュを見て鼻であしらい笑った。
「よく戻って来れたもンだよ、お前も。その度胸は見上げたもンだがな、俺達はお前の尻拭いはゴメンなんだよ」
「みんなに迷惑をかけようってわけじゃないんだ」
カーシュは戸惑いつつも、首を振って一歩近寄った。
「ロバートに会いたいだけで」
「お前がよくてもロバートが迷惑なんだよ」
男は睨みながら顎でしゃくって腕を組んだ。
「お前みたいなヤツに関わったら命がない。お前一人の問題ならいい。だが、街の人間みんなにとばっちりが来る。お前に呼ばれたらロバートだってただでは済まされない。ああいう知識人はこれからの世に必要だってのに、お前はそういう人をも犠牲にするつもりなのか? ……なんて身勝手なヤツだ」
呆れて首を振る男に、オリバーも、もう止めることはしなかった。
カーシュは間を置き、強い表情で直視した。
「ああ、俺は後先考えない身勝手なヤツだよ」
開き直るような言葉に男は眉を吊り上げるが、カーシュは更に言葉を続ける。
「けど、何もしないお前らよりマシだ」
「なんだと? ……お前、本気で言ってるのか?」
「本気だよ。……俺はもう逃げないし諦めない。……何を犠牲にしても」
ボグッ! と予告無しに頬を思い切り殴られ、カーシュはそのまま地面に尻餅を突いた。クレアは「ッ!」と驚いて咄嗟にジョージの服を掴み、彼の背後に隠れてこっそり窺う。
オリバーが「おいっ……」と慌てて肩を掴み押さえるが、男は拳を握りしめて顔を紅潮させ、グッ……と腕を立てて起き上がるカーシュを睨み付けた。
「何を犠牲にしてもだと!? あの晩、お前を逃がした奴らが全員殺されたんだぞ!!」
気持ちを抑えきれず、振り絞るような声に、カーシュは頬を押さえ、目を細めて地面を見つめた。
「なんの罪もない奴らが一斉に殺されたんだぞ!! ……お前は知らないだろ!! どれだけのヤツが耐えたと思ってるんだ!! 家族や友人を亡くして、どれだけ耐えたかわかっているのか!! なのに……何を犠牲にしても構わないだと!? ……国王が悪魔ならお前も同じだ!!」
クレアはムカッ! と眉を吊り上げ、文句の一つでもぶち撒けようかと意気込み足を踏み出したが、それをジョージに止められてしまった。
オリバーも、他の男達も、少し悲しげに俯いただけで何もしない。カーシュはゆっくり立ち上がり、赤く腫れた頬をそのままに、目に涙を浮かべる男を真っ直ぐ見据えた。
「じゃあ、どうして立ち上がらないんだ?」
「……なにっ?」
「悔しいなら、どうして立ち上がらないんだ?」
カーシュの真っ直ぐな目に、男は唇を震わせて拳を握りしめた。だが、カーシュの目は逸れない。
「耐えるのが辛いなら叫べばいいんだ。……嫌なら嫌だと言えばいいんだ。……そうしないで全てを何かのせいにしているお前達にも責任がある」
「なんだと!?」
「大人しく言うことを聞くから命令する奴がいるんだ。なんでも言いなりになるから好き放題やるヤツがいるんだ。全て相対する。……お前らの弱さが父さん達を強くしているんだよ。オレは、それに気付いただけだ」
「……!!」
男は怒りで耳まで赤くすると再び拳を上げた。カーシュは逃げずにそれを真っ向から受けようとし、クレアはギュッと目を瞑った。そして、パシッ! と言う音と同時にソロ……と目を開けてみると、カーシュの前に手を挙げたジョージが男の拳を握り掴んで止めていた――。
「……よそ者は引っ込んでろっ!」
「……悪いがそういうわけにはいかない」
ジョージは睨み上げる男の拳を強く握り、見透かすように目を細めた。
「……カーシュに怒りをぶつける前に考えたらどうだ? ……真の敵は誰だ? ……お前達の敵はカーシュか? ……違うだろう?」
ジョージの刺すような視線から逃れることが出来ず、男は硬直して息を飲んだ。ジョージは威嚇することもなく、オリバーたちに目を向け、戸惑う彼らを見回した。
「……悔しさと悲しさと怒りと、……様々な感情を自ら抑えつけなければ生きてはいけない。……それもわかる。……爆発しそうな感情を誰かにぶつけたいというのもわかる。……だが、目先の敵を間違えれば、自爆の道を辿るだけだ」
オリバーは表情を消して顔を上げた。じっと見つめる目に気付いたカーシュは、同じく彼を見つめ、グッと歯を食いしばり目の色で何かを訴えた。
ジョージは、今までとは違って怒りも戸惑いも消し、ただ耳を傾けるだけの男の拳を更に強く握って彼を見つめた。
「……敵が怖いのなら怖いでいい。……どうにかしたいと真剣に思うなら、その敵を俺達の前に差し出せ。……お前達が何も出来ないのなら、俺達がやる」
「そうだ!! ボクがやってやる!!」
眉をつり上げたクレアの大きな声に、男も、オリバー達もビクッと肩を震わせ驚き彼女を見下ろした。
「出てこい!! ボクが相手になってやるぞ!!」
拳をブンブン振り回すクレアを、「黙ってなさいっ」と、ピートが慌てて押さえつけようと手を伸ばすが、彼女はその手をすり抜け、街に向かって拳を突き上げた。
「ボクは逃げないぞ!! 出てこい!! ベルナーガスの犬共!! ボクはここだ!! ベルナーガスの王子はここにいるぞ!!」
ピートは「っちゃー。言っちゃったよ……」と額に手を当てて、力無くガックリと頭を落とす。
ジョージに拳を掴まれたままの男は少し顔をしかめ、カーシュへと目を向けた。訳がわからない、という表情の彼からカーシュはオリバーに目を移し、戸惑いつつ腕を広げた。
「ロバートを呼んでくれっ、頼む!」
オリバーは訝しげに眉を寄せて、熱り立つクレアを見た。
「……ベルナーガスの……王子?」
呟くように言い、そして言葉を続けようとしたその時、背後の街の方から悲鳴が聞こえてみんなが振り返った。忍んでいたのだろう兵士達が一斉にやってきて、邪魔になった街人達を無碍に押し倒している。それを見て、クレアは更に眉を吊り上げた。
ジョージは男の拳を離して、息を震わせるオリバーに目を移した。
「巻き込まれないよう、街人達を避難させろ」
急かすような声にオリバーは目を見開き、訝しげに眉を寄せた。
「……お前ら……いったい」
「……急げ。……ただでは終わらないぞ」
「……」
オリバー達は急いで街人達の方に走り、「こっちに来い!!」と誘導する。その背中を目で追うカーシュに、ジョージは肩をポンと押した。
「兵士達の相手は俺達でする。お前はロバートという人を探せるか?」
「……。必ず探して連れてきます」
カーシュは真剣な表情で大きく頷き、「……よし、行け」というジョージの言葉に、騒動に紛れて街に入り込んだ。クレアは「あ! ずるい!!」とその後を追いかけるが、街の奥に入り込もうとした彼女を捕まえようと兵士達に迫られた。だが、クレアの方が身動きがいい。スイスイと兵士達の手をすり抜け、たまに殴り、「コラ待てカーシュー!!」と叫びながら街人達を避けながら街の奥へと消えた。尚もその後を追おうとする兵士達には、今度はジョージとピートがその前に立ち塞がる。
ジョージは剣を構え、ジリジリとにじり寄る兵士を見据えながらピートに囁いた。
「……クレア様の後を追え。ここは俺一人で充分だ」
「だろうと思ったよ」
ピートは笑うと、躊躇うことなくその場をジョージに任せて街へと駆け込んだ。
――兵士達が出てきたことで街は混乱が生じていた。大勢の人達が、被害に遭わないよう我先にと家に駆け込んでいく。
「カーシュ!! 待てこら!!」
街人達が逃げ惑う中、背後からの大声にカーシュは足を止めて振り返った。
「クレア! お前はジョージさんの傍にいろ!」
「カーシュは弱いからボクが護ってあげなくちゃ!」
「余計なお世話だっ!!」
こんな時にまでバカにして! と不愉快さで怒るが、彼女の背後、追いつく勢いで走ってくる兵士に気付くと「クレア!!」と大きく叫んで目を見開いた。すぐに駆け寄ろうとしたが、気配に気付いていたのだろう、クレアは手を伸ばす兵士に捕まる寸前にしゃがみ込み、足下へと回し蹴りを食らわした。兵士は「うぐっ!!」と悲痛な声を漏らし、躓くように地面に倒れ込んで痛みに眉を寄せる。クレアは「てい!!」と思いっきり背中を蹴って俯せに倒すと、乗っかって数回踏み潰し、兵士がピクリとも動かなくなったことを確認してから地面に降りてカーシュに駆け寄った。
「先生どこ!?」
「この路地裏の一番奥だ!!」
カーシュが指差す方を見た時、背後で「きゃあ!!」という女性の悲鳴が聞こえ、二人はすぐに振り返った。誰かに押し倒されたのだろう老婆が、砂埃を上げる地面に手を付いて、痛みに顔を歪めうずくまっている。
まだまだ大勢の街人達が逃げ惑う中、クレアは彼らを避けてすぐに駆け寄り、腰を下ろして肩を抱いた。
「おばあちゃん大丈夫!?」
「……あ、足が……」
と、震える手で足首を押さえている。
クレアは「しっかりしてっ」と声をかけながら、老婆に肩を貸して立たせた。カーシュも手を貸し、二人で建物の影へと運ぶ。
「おばあちゃん、じっとしててねっ?」
クレアが優しく腕を撫でると、老婆は「……ありがとう」とか細く笑みを浮かべた。
カーシュは「急ぐぞ!」と、ロバートの家の方を振り返ったが、――兵士が五人、遠目からすでに彼らを取り囲んでいる。
クレアは咄嗟に、怯えて座り込み背中を丸める老婆の前に出て兵士達を睨み上げた。兵士達は街人達の混乱を背に、クレア達の出方を窺い、ジリジリと近寄って来る。カーシュは心で舌を打ち、更にクレアの前に立つと、兵士から目を逸らすことなく背後に気を向けた。
……本当は、胸が痛いくらいに心臓が鼓動していた。恐怖を感じて足が震えていた。けれど、「怖い」と考える頭よりも先に、体が動いていた。目が、口が動いていた。
「こいつらは俺が引き寄せる。……お前なら、一人でもロバートのトコまで行けるな?」
囁くような声で問われたクレアは、カーシュの背中を見つめ、じりじりと距離を詰める兵士たちを睨んだ。
「行ける。……けど、カーシュとおばあちゃんが危ないよ」
「……なんとかなるだろ」
「ならなかったら?」
「……それも運命だ」
「なるほど。運命か」
妙に納得する。いつもと変わらぬ空気を背後に感じながら、カーシュは兵士達を睨み付けて拳を握った。
「……裏路地に行ったらロバートの名前を呼べ。きっと出てきてくれるから。……俺が協力してくれるように頼んでたって言えば、きっと手伝ってくれる」
「……。カーシュもおいでよ」
「無理だろ、この状況は」
「……そうかな」
「……、行け。……ここはなんとかする」
クレアはカーシュの後頭部を見上げ、彼の背中の服を掴んだ。
「キミの勇気、ボクが受け継ぐ」
「……。……おいっ!」
またそんなこと!! と、愕然とした顔で振り返ろうとした時、グイッ! と服をめいっぱい引っ張られ、カーシュは息苦しさを感じながら地面に尻餅を突いた。その頭上をクレアは軽々飛び越えて前に立ちはだかる。
「ボクが相手だ!! 好き勝手させないぞ!!」
テーピングした拳を振り上げ、殴り込む姿に、カーシュは「このバカ!!」とすぐに立ち上がって加勢しようとしたが、その前にピートがやってきて兵士達を剣でなぎ払い、一網打尽にしてしまった。
反撃も出来ないまま砂埃を上げて倒れ、身動きしない兵士達の中、剣を振り下ろして鞘に収めるピートは、攻撃態勢のままでいるクレアを見て、
「勝手に突っ走らないように!!」
と、怒鳴りつけた。だが、クレアは反省する素振りもなく、へっちゃらな顔で老婆を振り返った。
「おばあちゃん、急いで逃げるんだよっ」
老婆が怯えた表情で頷いたのを見ると、目を細めているカーシュに顎をしゃくった。
「行くぞカーシュ!」
――何事もなかったような態度が気に食わなかった。
カーシュは近寄ると、ゴンッ! と、クレアにゲンコツを落とした。クレアは「いて!!」と、頭のてっぺんを押さえて彼を睨み上げる。
「なにすンだっ!」
「お前……今度こんなことしたら絶対許さないからな!!」
物凄い形相で怒鳴られたクレアは竦み上がり、何も言えずに言葉を詰まらせた。
カーシュは深く息を吐いて気を取り直すと、「……こっちだ!」と走り出し、その後を苦笑するピートと拗ねるクレアが追いかけた。
以前のノーマン狩りと同じように、建物の上から富豪達が兵士に「あっちに逃げた!!」と指差し教えるおかげで、三人の前には常に兵士が立ち塞がり邪魔をした。だが、全てピートによって弾き飛ばされて地べたを舐めるだけ。クレアは倒れる兵士に「あっかんべ!」と舌を出し、不愉快そうに見下ろす富豪達にも「ばーか!!」と一言言い捨てた。
路地に入り込み、袋小路の奥まで走ると、カーシュは端の一軒家の前で足を止めて「ドンドン!」とドアをノックした。
「ロバート!! 開けて!! 俺だよ!! カーシュ!!」
呼びかける間、クレアとピートで路地の向こうから誰かがやって来ないか注意する。
耳を澄ましても物音一つ聞こえず、人がいる気配も感じられず、カーシュは焦るように再び激しくノックした。
「ロバート!! 助けてくれ!!」
必死な声で訴えていると、カチ……と鍵が鳴ってドアが微かに開き、カーシュは「あ!」と嬉しそうに顔を上げ、すぐにドアの向こうを覗き込んだ。だが、そこから出てきたのは兵士――。カーシュは驚いて身動いだが、剣を振り上げた兵士にどうすることも出来ず、胸に何かが滑った感触を受け、足をもつれさせてドサッと横向きに倒れた。
「カーシュ!!」
それを視界の隅で捉えたクレアはすぐに地面に倒れたカーシュの傍に駆け寄って膝を付き、ピートはクレアを狙おうと出てきた兵士の腹部に剣を立て、引き抜くと同時に家のドアを強く蹴り破った。バンッ! とドアが砕け、部屋の中に欠片が飛ぶ。
「カーシュ!! ……カーシュ!!」
クレアは愕然とした表情で目を見開いてカーシュの体をなんとか抱き起こし、頭を腕で支えて痛みで歪める顔を撫でた。
「しっかり!! カーシュ!!」
「……っ、大丈夫だっ」
カーシュは息を切らしながらゆっくり目を開けると、半べそを掻くクレアから離れ、立ち上がろうと地面に腕を付いた。……体に力を入れると胸が酷く痛む。斬られたんだというのはわかっているが、そこを見ることは出来なかった。見るのが怖かった。
四つん這いの状態で動けずに硬直して「……ハァッ」と深く息を吐き出すと、クレアがその背中に腕を回した。
「駄目だ!! じっとして!!」
「……馬鹿者が」
冷静な声にクレアは戸惑いながらも顔を上げた。
家の中に入り込んだピートのその先には、戸惑う白髪の老人と綺麗な衣服をまとった中年の男がいる。一人はカーシュの父親のようだ。
ギルフォイルは、胸から血を垂らすカーシュを見て、蔑むような、哀れむような表情で目を細めた。
「お前というヤツは……。親不孝者が……」
カーシュは息を切らして顔を上げ、ギルフォイルの傍で困惑するロバートに目を移した。
「ロ、ロバート……。この人達に……協力をっ」
クレアは「喋っちゃ駄目だ!!」とカーシュを押さえて、焦るように家の中を振り返ってロバートを見上げた。
「カーシュの先生!? 早く傷の手当てしなくちゃ!! 手伝って!!」
すがるように声を張り上げるが、ロバートはオロオロと視線を泳がせ戸惑うだけ。
ギルフォイルは、「……ふん」と鼻であしらった。
「どちらにしても、もう命はないだろう。……放っておけ」
冷めた態度に、ピートは「……なんだと?」と目を据わらせた。
「あんたの息子だろうが、こいつはっ」
「ついこの間まではな。物わかりのいい息子だったが……。たかが小娘にそそのかされ、無様になって戻ってくるとは。……恥さらしめ」
「誰が無様だ!!」
クレアが身を乗り出し、眉をつり上げて顔を紅潮させた。
「今度そんなことを言ってみろ!! ボクが相手になるぞ!!」
そう怒鳴った後、視界の隅に無数の影が映り振り返った。――路地の入り口からやって来た兵士達がにじり寄ってくる。
クレアは立ち上がると、体を腕で支えきれなくなって横たわるカーシュの前に回り、兵士達を睨み付けた。
「……邪魔してみろ。……お前らみんな、立てなくしてやる」
低い声で告げるものの、所詮は小さな女の子。そんな脅しが通用するわけはない。
カーシュは「……くっ」と痛みで顔を歪めつつも、必死な思いで腕に力を入れてなんとか体を支えて立ち上がると、倒れないようにフラつく足に集中し、家の中へ目を向けた。
「……父さん、……ロバートを、解放して……」
掻き消されそうな程のか細い声に、ギルフォイルは目を細め睨んだ。
「いつからわたしに指図できるようになった? お前は自分の立場をわかっているのか? お前はお尋ね者になってしまったんだぞ。……もはや、わたしの手では救えん」
「……ロバート、……この人達は、国を救えるんだ……」
抱くように胸の傷を腕で押さえながらグッと脇下の服を握り締め、必死な目で訴える。そんなカーシュにロバートは少し眉を動かした。
「……この人達を、信じてくれ……。……この人達は、国を救える。……この人達は……出来るんだ……」
「国を救えるだと? 出来るわけがないだろう」
ギルフォイルが「ふん」と鼻であしらい口を挟む。
「全権力は国王が握っている。それに逆らうことは出来ん。何人もだ。……身を以てわかっていることだろう」
ヤレヤレ、と、呆れんばかりに首を振るギルフォイルに、ピートは怒りを込めて目を細め、カーシュは大きく息を吸い込むと、真顔で言い切った。
「出来る」
その声にギルフォイルは一瞬だけ表情を消したが、すぐに「……フッ」と鼻で笑って肩をすくめた。
「お前はどうしてしまったんだ? そんな夢語りをいつから」
「夢じゃないんだ!! この人達は国を救える!!」
怒鳴るように言い放った後、立ち眩みを起こし、視界がぼやけてひざまづくと、「カーシュ!!」と、ピートとクレアが名前を呼んだ。
カーシュは背中を丸めて再び四つん這いの状態に戻ると、「……くそ」と一言吐いて息を切らした。
地面を見るその先に、たくさん血の雫が落ちている。心臓が波打つ度に、胸に痛みが走って全身を震えさせる。
――恐怖と共に、意識が朦朧としてきた……。けど……
「……夢じゃない。……現実だ……」
息を切らし、か細く声を発しながらゆっくりと顔を上げた。
「……見ろよ。……立ち向かってるじゃないか。……逃げないだろ……これが証だ。……この人達は、救えるんだ。……そのためには……ロバートの力が、必要なんだよ……」
途切れ途切れの言葉を聞きながら、ロバートはピートに目を向けた。何かを確認するような視線に、ピートは剣を構えたままで強く頷く。
「……この人達に、力を……。……力を合わせれば、夢は叶う……。……叶うんだ……」
「……」
「……頼むよ……。……信じて、くれ……」
もう言葉にも力がない。
クレアは、にじり寄る兵士を睨み付け、大きく息を吸った。
「ボクはベルナーガスの王子、ブラッドだ!!」
その言葉にギルフォイルも、ロバートも目を見開いて顔を上げた。
「ボクは死んだことになっているけど生きている!! ……ボクは国王を元に戻すため、国を救うために立ち上がった!!」
大きな声が路地に響く――。
「ボクは逃げない!! 決して諦めない!! なぜなら、この街を救いたいからだ!! ……みんなを救いたいからだ!!」
ロバートは愕然と目を見開いたまま、唇を震わせて一歩、足を踏み出した。
「一つの力が集まれば大きな力になる!! だからっ……ボクに力を貸して!! ボクを信じて!! ……ボクがこの国を変える!! ……ボクが変えてみせる!!」
【俺を呼ぶんだ!!】
「うああぁぁ!!」
無数の大声がして振り返ると、兵士達の背後にはたくさんの街人達が集まってきていた。それぞれ、こん棒や錆びた剣を持っている。
クレアは唖然とその光景を見つめた。それは兵士達も同じ。刃向かうはずのない街人達が攻撃心剥き出しで近寄ってくるのだから――。
カーシュは息を切らしながらその光景を見つめ、微かに笑みを浮かべた。鼻の奥が熱くなり、目に涙が浮かぶが、フ……と意識が遠のき、そのまま地面に俯せに倒れてしまった。
ドサッ、という音にクレアは地面を見下ろし、「カーシュ……!!」と抱き起こす。
ピートは舌を打ってギルフォイルを鋭い目で睨んだ。
「これから国は変わるぞ。……俺達の力で、……カーシュの力で平和を取り戻す事が可能になるんだ」
「……」
「あんたはそれでもこの支配下に居座るか? 偽りの幸せに満足するのか?」
ギルフォイルは何も言えずにうろたえる。そんな彼を見てピートはグッ! と剣を握りしめた。
「覚悟を決めろ!! お前の息子は覚悟を決めてここに来たんだぞ!! こいつの親なら、こいつにいいトコを見せてやれよ!!」
怒鳴るような声にギルフォイルはビクッと肩を震わせた。――だが、ただそれだけ。
ロバートはゆっくりと足を踏み出した。ギルフォイルに「ロバートっ……」と名を呼ばれ、足を止めるが、振り返りはしない。
「……時代が動き出した。そうは思いませんかね?」
「……ロバートっ……」
「……わたしにはカーシュの叫びが聞こえましたよ。あの……お嬢さんの叫びも。……あなたには聞こえませんでしたか?」
「……っ。……」
「信じましょう。……わたしは、この人達を信じますよ」
そう言って歩いていく。
ギルフォイルはボー然としていたが、悔しげに歯を食いしばると裏口へと向かい出て行った。
「カーシュっ……、カーシュ!」
クレアが動かないカーシュの体を揺さ振り、半べそ気味に声をかけ続ける。ロバートは、傍に腰を下ろして傷の様子を見ると、街人達に囲まれてうろたえる兵士達を振り返った。
「……ベルナーガスに戻って国王に告げよ! 我々ウェルターの街人は、これより王子を筆頭として反乱組織となる!!」
――……楽しい声が聞こえる。いい匂いもする。……コーンスープの匂いだ。……ああ、そうか。今までのことは全部夢だったんだ。……そうか……。
「あ、大丈夫?」
ゆっくりと目を開けると視界が歪み、何度か瞬きを繰り返して動かした視線の先にようやく笑顔のナナが見えた。ここがどこだかはわからなかったが、感触から、ベッドの上だということだけはわかった。
カーシュは、苦笑気味に覗き込む彼女をボンヤリと見ていたが、深く息を吐くと、目を閉じて脱力した。
「……酷い……夢を見た……」
「そうなの?」
「……、俺達……、結婚したんだっけ……?」
目を開けて訝しげに小さく問うと、ナナはキョトンとし、間を置いて吹き出し笑った。愉快そうな笑顔が久し振りで、懐かしくて、カーシュは「……あ、あれ?」と、戸惑い、微妙な笑みを向けた。
「な、なに……。なんか……違った?」
「フフフッ。カーシュ、どんな夢を見たの?」
「……どんな、って……」
問われて思い出そうとしたが、ふっと脳裏に浮かんだのは消してしまいたい程の記憶の数々。それを口に出すことを恐れ、言葉に詰まって視線を泳がすと、様子で察したのか、ナナは追求することなく、深く息を吐いて気を取り直し苦笑した。
「もう、二日も寝ていたのよ?」
「……え?」
「覚えていないの? ……ロバートさんのところで兵士に斬られたって」
心配げに、それでもどこか優しい笑みを浮かべる彼女の言葉を聞いてしばらくボンヤリとしていたが、「ああ……」と思い出したように声を漏らすと、視線を動かし、目の前の天井を見つめた。
「……夢じゃ……なかったんだ……」
そう寂しげに呟いて目を細める彼に、ナナは間を置いて微笑みかけた。
「夢じゃないわよ。……ほら、聞こえない? みんなの声」
カーシュは少し顔をしかめ、促されるまま耳を澄ましてみた。
さっきからたくさんの笑い声が……――
起き上がろうとして体に力が入らず、ナナに背中を支えてもらいながらなんとか起き上がると、ベッドの柵に背中を付けてもたれ、開け放たれた窓の向こうに目を移した。一階のこの部屋、向こうが大通りに面しているのだろう。眩しい太陽の下で街人達が楽しげに行き来している。老若男女問わず、みんなが声をかけ合い、笑顔を振りまいて。
しばらくの間、唖然とその光景を見つめていた。
「……いったい……なにが……」
困惑しながら小さく問いかけるカーシュに、ナナは微笑んだ。
「ウェルターは国から独立したの」
「……え?」
「つまり……反逆団、ね」
カーシュは、ベッドの隅に腰かけるナナを目で追って顔をしかめた。
「反逆、って……」
「みんなで決めた事よ。……この国に平和を取り戻すために、みんなが一緒になってクレアちゃん達に力を貸すことに決めたの」
「……クレア……?」
訝しげに繰り返し呟いた後で、ハッと顔を上げ、目を見開き身を乗り出した。
「クレアは!?」
「元気よ」
「ジョージさんとピートさん! スコットさん!」
「も、元気。みんな、この街にいるわ」
「……あ……」
視線を泳がし、ホッと力を抜いてベッドの柵に深くもたれた。……なんとなく、安心した。
脱力するカーシュにナナは微笑んだ。
「こんな開放感、久し振りだって、みんなで大騒ぎしちゃって。もう、夜通しお祭り騒ぎだったんだから」
思い出したのだろう、クスクスとナナは笑うが、カーシュは薄い毛布の掛けられた足下に視線を落とし、膝の上で指を絡めた。
「……けど……これから……」
「これからのことはちゃんと話し合うことになってるわ」
彼の不安をかき消そうとするように、ナナは笑顔で更に言葉を続ける。
「みんな、カーシュが目覚めるのを待っていたのよ」
カーシュが「……え?」と、キョトンとした顔を向けると、ナナはおかしそうに笑って肩をすくめた。
「あなた抜きじゃ話しはしないって、クレアちゃんが言い張るから、ジョージさん達もそれに合わせちゃって」
「……」
「とりあえず……国から独立しても、ここで家畜も飼ってるし農作物もあるし。生活には全然不自由はないから。……自由を手に入れてみんな大喜びよ。あなたのおかげだって」
「……、俺のおかげ?」
不可解げに顔をしかめると、
「そうよ、あなたのね」
ナナはそう答えてイスを立った。
「お腹空いたでしょ? スープを入れてきてあげるから、待ってて」
歩き出し、「……あ」と振り返った。
「私達、結婚はしていないわよ」
そう笑われて、カーシュは少し分が悪そうに顔を赤くしてそっぽ向いた。
ナナが部屋を出ると、なんとかがんばって立ち上がって壁沿いに歩いて開いている窓枠にもたれ、そこから笑顔の街人達を見回した。太陽の光が降り注ぐ中、みんなが本当に楽しそうだ。
――涼しい風が頬を撫で、体を撫で、まるで何かを剥ぎ取っていくよう。
……夢見ていた光景。待ち望んでいた風景。……これが現実。……、いや、……束の間の、夢……。
ボンヤリと眺めていると街人達が彼に気付き、「カーシュだ!!」と、誰かの声でみんなが一斉に駆け寄ってきた。あまりのことに、カーシュは「……えっ?」と驚き、目を見開いて後退する。
「大丈夫か、カーシュ!?」
「まだ寝てた方がいいんじゃないのか!?」
「おい! 誰かクレアちゃんに教えてこい!!」
「傷は!? 痛くない!?」
「いつ目が覚めた!?」
窓から乗り込んでくるんじゃないかという勢いで一気に詰め寄られ、カーシュは「あ、あの……その……」と、戸惑った。
騒動に気付いて戻ってきたナナは、「ああ、大変」と苦笑して、窓越しから覗き込むみんなに近寄った。
「カーシュはまだ完治していないから。ちゃんと治るまで静かにしてあげて」
「そうか! そうだな!」
「安心してゆっくりしろよ!!」
「早く元気になるようにね!」
声をかけられながら、ナナは「はいはい」と容赦なく窓を閉め、そして唖然としているカーシュを振り返って首を傾げた。
「どうしたの?」
「……、俺、……なんで……人気者なんだ?」
不可解そうに眉間にしわを寄せると、ナナは吹き出し笑った。
「だって、この街の救世主じゃない」
カーシュはキョトンとした表情で瞬きをしていたが、焦りを露わにうろたえた。
「えっ? な、何っ?」
「だから、カーシュのおかげだって言ってるでしょ?」
「俺の、って……。俺は何もしてないんだぞ? 逆に……みんなから恨まれて当然のことをして……」
視線を泳がせ、動揺する。そんな彼を見てナナはため息混じりに苦笑した。
「恨まれるようなことは何もしていないわよ」
「……ナナのおじさん達だって……。街のみんなだって……。俺のせいで……」
「カーシュのせいじゃない」
ナナは真顔で首を振ると、俯いて悲しげに目を細めるカーシュの腕を撫でた。
「……私たちが逃げ出した時に、何人かの人が殺されたって、私も聞いた。……私もショックだった。……でもね、みんな、責めてない。……あの人達は、罪のないノーマン達を殺したのよ? ……その報いを受けたのかもしれない、って……」
「……」
「……ただ、何かのせいにしなくちゃ辛いから……。だから、まだ気持ちの整理ができない人もいて、家からは出てこないんだけど……。でも、それは時間を掛けなくちゃいけないことだろうから……」
「……」
「けどね、……みんな、カーシュに感謝してる。……もうこれで、街の人たちが殺されることはないんだから。女の子達も、みんな、ホントに泣いて喜んでた。……家族の人も。……手遅れだった人たちは悔しそうにしてるけど、でもそれは……私たち、みんなの責任だもの。……立ち上がるのが遅かった、私たちみんなに責任があることだからね……。せめて、慰霊碑を建てようって、話しが出てるわ。……とにかく、今は勇気を出して行動してくれたカーシュに感謝してるって」
優しく言い聞かせるナナに、カーシュは納得できず、心痛な面持ちで軽く首を振った。
「そんなこと……。……感謝なら、俺じゃなくてクレアの方だろ。クレアがあの時、みんなを集めてくれたんだから」
躊躇い、俯いたまま告げるとナナは首を傾げた。
「私が聞いた話しとは違うけど……」
「……え?」
訝しげに顔を上げると、ナナはニッコリと笑って見せた。
「みんなが言っていたわよ、カーシュの声が聞こえたって。すごく大きな声だったって。……夢じゃない、国を救えるんだ、って」
「……」
「その声でみんなは決心したんだって。だから……、今があるのはカーシュのおかげなのよ」
微笑み言われるが、カーシュは不可解げに眉を寄せて視線を落とし、ベッドまで後退して力なく座り込んだ。そのまま背中を丸め、口を閉じて足下を見つめる彼に、ナナは深く息を吐いた。
「……もう少しゆっくりした方がいいわ。落ち着かなくちゃ、ね」
諭すように優しく声をかけ、再び部屋を出て行く。その背中を見送ることなく、カーシュは膝に肘を突いて額を抑えた。
――俺の、声……? ……俺の?
じっと床を見つめていると、ドタドタッ! と走ってくる音が聞こえ、顔を上げた。
「カーシュ起きたーっ!?」
ドアがバンッ! と開き、勢いよくクレアとピートが入ってきた。
カーシュはキョトンとしていたが、元気な二人を見て小さく笑みをこぼした。
「……よッス」
「やっと目を覚ましたねー! お寝坊さんだー!」
指を差しておかしく笑う。いつもと変わらないクレアになんとなくホッとして、傍に立つピートを見上げた。
「……心配かけてすみませんでした……」
「いいって」
申し訳なさそうに謝られ、ピートは苦笑気味に軽く頭を振る。
カーシュは彼にまだ何かを言おうとしたが、ふと、目の前で腕を広げるクレアを見て心の中で首を傾げた。間を置いて、「……、ああ、“心配かけてごめんなさい”の挨拶か……」と気付いて彼女を抱きしめる。ピートにもした方がいいのかと悩むが、「俺にはよせ」と目で断られ、安心してベッドに腰を沈めた。
クレアはベッドの側の床に座るとマットに腕を乗せて顎を寄せ、カーシュを窺い見上げた。
「傷、痛い?」
「……まだ傷むけど……」
「もうくっついたかな? よくね、ピートが斬られた時、傷を引っ張って広げてたんだよ」
斬られた胸を撫でていたカーシュは顔を歪めると、嫌そうに腰を浮かせてクレアから少し離れた。
ピートは苦笑し、壁にもたれて腕を組んだ。
「傷は深くなかったけど、しばらくは安静だな。油断するなよ」
優しく忠告されて「あ……、はい」と頷き、胸を撫でる手を下ろしてそっと窺った。
「……ロバートから、何か話しはありましたか?」
「いいや、まだだ」
ピートは鼻から息を吐きつつ首を振って軽く肩をすくめた。
「ま、そう急ぐこともないだろ」
余裕っぽい笑みの彼に、カーシュは「……でも」と一旦俯き、そっと上目を向けた。
「あの……、俺に構わないで話しを進めていいですよ」
「なんで?」
クレアが瞬きをしながら首を傾げると、カーシュは「なんで、って……」と繰り返しながら戸惑い視線を落とした。
「いつ治るかわからないし。……俺を待ってたら、みんなにも悪いだろ」
「何も悪くないよ。その方がピート達は楽しいんだって。夜、いつもお酒が飲めるから」
バラされたピートは「ゴホンッ」とわざとらしく咳き込む。
カーシュは苦笑して小さく息を吐き、ボンヤリと視線を落として間を置いてから呟くように言葉を切り出した。
「……みんなの笑い声が聞こえて……。何が現実で、何が夢なのかわからなくなって。……これが現実で正しいんだよな……」
「夢じゃないのは確かだよ。ねぇ、ピート?」
振り返って問うと、ピートは男らしくグッと胸を張って笑った。
「夢だったら、俺をかっこよく登場させてくれよな」
「無理だよピート、ボクの夢に出てくるピートもいつも不細工だモン」
残念そうに首を振るクレアに、ピートは目をじっとりと細めた。
「クレア様、本音を言うのは控えてもらえませんか?」
「現実逃避?」
「違います」
キョトンとした顔で問い掛けるクレアにピートは目を据わらせる。いつもの二人にカーシュは少し笑い、気を取り直すように小さく息を吐いて、ベッドに顔を乗せるクレアを見下ろした。
「みんながこうして集ったのは……お前が呼んだんだよな?」
クレアは「ん?」と首を傾げた後に訝しげに眉を寄せた。
「ボク、呼んでないよ。カーシュが呼んだって聞いたよ」
「……ナナにも言われたけどさ、そんなことあるわけないだろ。……俺はみんなから嫌われてた。……知ってるだろ?」
悲観的な感情を露わに寂しげに眉を寄せて相槌を問うカーシュに、クレアは少し口を尖らした。
「でも、そうなんだから仕方ないじゃん。みんな、カーシュの声を聞いて集まったって」
「……俺の大声が響いて驚いたんだろ? 最終的に兵士に立ち向かう決心付けたのは、お前の声に反応したんだろうな……」
「なんでそんな変なこと言うの? カーシュって、変。女々しい」
顔をしかめられ、カーシュは不愉快そうに目を据わらせた。
「女々しいワケじゃないだろ」
「女々しいよ。大体、そんなことどうでもいいのに」
「……どうでもいいけど。けどなんか……無関係な俺にみんなが詰め寄ってくるのがすごく」
「無関係?」
と、ピートは言葉を遮って繰り返し、顔をしかめた。
「なんだそりゃ?」
怪訝な中にどこか不快さを滲ませる彼に、少し怯えつつ、カーシュは目を落として膝の上で組んだ手を絡ませた。
「つまり……俺はただピートさん達の後を付いてきてるだけだし、強いわけでもないのに」
語尾を細くしてそのまま言葉を切らすと、ピートは「ったく……」と鼻から深く息を吐いた。
「お前は謙虚なのか、それともホントにただ女々しいのか、どっちかだな」
ピートに呆れ気味に言われると反論できないが、「女々しいんだよ」と納得して頷いたクレアは睨み付ける。
ピートは「やれやれ……」と肩をすくめて苦笑した。
「お前は自分が思ってる以上に強いヤツだぞ。もう少し、自信を持てよ」
「……でも……」
「みんながお前に感謝してる。素直に受け止めてもいいんじゃないのか?」
「……けど、俺よりピートさん達の方がホントはすごいのに」
「ボク達はボク達で、たっくさんお礼してもらったから」
戸惑うカーシュに、クレアはニッコリと笑った。
「ボク、お祭りって初めてだったんだ。楽しいね。やっぱり、みんなで一緒っていいね」
「……」
「カーシュも一緒にお祭りしようよ。みんなで踊るんだよ。朝までずーっと」
楽しそうに見上げるクレアに、カーシュは間を置いてため息を吐くと「……ああ」と微笑み頷いた。
ピートは「よしよし」と笑顔で頷いていたが、不意に真面目な顔で切り出した。
「……お前の親父さんな」
言葉の出だしに、カーシュは少し眉を動かして顔を上げた。
「逃げちまったぜ、他の富豪達と一緒に。どこに行ったのか、全然わからないままだ」
「……そうですか……」
ゆっくりと視線を落とす、どことなく寂しそうな、悲しそうな雰囲気の彼を見て、ピートはそれでも落ち着いた声で続けた。
「こんなこと言うもンじゃねぇだろうが……親父さんのやったことは忘れちまえよ」
「……」
「嫌なトコは忘れて、いい思い出を大事にしろ。くそったれなヤツだが、それでもお前の親だからな」
「……はい、……俺は大丈夫です。……この街を出た時に、親子の縁を切ったようなものでしたから」
「無理だよ、それ」
クレアは特に表情を変えることなく首を振った。
「縁を切るのは無理だよ。親子は親子、そればっかりは誰にも変えられないんだから」
「……、そうだけど」
「いいじゃん、無理に嫌いにならなくても。今はこんなンでも、いつか何かが変わるよ」
ニッコリと微笑まれ、カーシュは「……そうだな」と視線を落としつつ、ひとつ深呼吸をすると、気を取り直して顔を上げた。
「……傷が治ったら、俺、ピートさんに剣術習おうかな」
「お、そうか? 教えてやるぜ?」
「ピートは剣術不得意だよ。お酒の飲み方と、女の子を口説くのは得意みたい」
「クレア様っ」
「昨日はセイラって子を」
「クレア様!!」
やはりいつもと変わらない――。
カーシュは睨み合う二人を見て、吹き出し、笑った。




