第7話【トウカの戦い】
「黙って指示に従ってみたけど…。女二人に手分けして行動させて、男二人は群がってるっておかしくない?」
トウカは強いスキルを求めて、フィールドを走り回っていた。敵に遭遇しそうになる事は何回かあったが、速度を上げるスキルや視界を悪くするスキルを駆使して上手く回避していた。そう、トウカはかなりの数のスキルを集め、使いこなしているのである。彼女もまた、腕の立つゲーマーの一人なのだ。
「…あった。頂点に凄そうなスキルのあるアスレチックだ。」
それは虹色に輝くスキルだった。今まで手に入れた中で最高レアリティはオレンジ色の『エピック』であったので、それを上回るものだと期待が高まる。
トウカは逸る心を抑え、最短でアスレチックを登る方法を考えた。良く見たら、頂点までの道中、強そうなモンスターが待機している。これらとなるべく戦わずにあのスキルを入手するには…。直接行くのが一番だ。
「クールダウンは超長いけど、ここが使い時だね。ああ、緊張する。…『ウルトラジャンプ』!」
そう唱えると、身体が勢いよく宙に飛び上がった。
「うひゃああああああああぁぁ!!」
まるで遊園地の絶叫マシンのような景色の移り変わりに、とんでもない大声が出てしまった。トウカはアスレチックを軽く飛び越え、フィールドを一望できるくらいの高みに到達してしまう。そして、勢いよく落下し始めた。
「ちょ、飛びすぎなんですけどおおお!?」
このまま身体を打ち付けてしまったら、スキルを手に入れるどころか無事では済まないだろう。しかし、トウカは無策でジャンプした訳ではなかった。
「落ち着いて…方向転換しつつ、ゆっくり着地しよう。…今だ、『ホバー』!」
空中をしばらく浮遊するスキルを使い、無秩序に落下していた身体をコントロールする。丁度、アスレチックの頂上付近で浮遊することが出来た。ナイスタイミングだ。そのまま、一直線にスキルのある足場まで向かっていく。
「よし…ゲットだ!」
―レジェンダリースキル:エターナル・ハリケーン
―敵を切り刻む突風が、継続的に魔法攻撃力の250%のダメージを与える
―魔法タイプ
―クールダウン 60秒
少々トラブルはあったものの、強そうなスキルを入手することができた。魔法スキルなので、トウカの武器、杖との相性も良い。
トウカは、これを手に入れた瞬間に血の昂りを感じた。戦いたい気持ち、スキルを使いたい気持ちが湧きあがったからである。
ただ、無断で行動する事の恐れもあった。ボイスチャットで、ケンに戦闘許可を貰うことにする。
「もしもし、ケン。めっちゃ強いスキルをゲットしたよ。そろそろグループ(*)して戦おうよ。」
ケンは、おおっ…という感嘆の後、逡巡して口を開いた。
「…そうだな…。よし、俺達もまあまあスキルが整ってきたところだ。みんな集まって戦闘を起こしていこう。」
このゲームでも、他のチーム対戦ゲームと同じく、セオリーは集団戦…多対多の戦闘になる。トウカはスキルを試したい気持ちを抑えて、ケンの示す合流場所に向かう事にした。
方向を確認して走り出したところで、おずおずといった声で通信が入った。サッチーだ。
「私もグループした方が良いかな?…結構、みんなとは離れちゃったけど。」
彼女は、なるべく戦闘を避けてひたすらにスキルを集める役目を我らが軍師から承っていたはずだ。あれから時間も経っているし、どれだけ集まっているのだろうか。
「うん。みんなで集まろう。スキル、楽しみにしてるぜ。」
サッチーに向けられたケンのやさしい声色に、思わずドキリとする。そのドキリの正体には、気付かないふりをした。
思わず足を止めてしまったトウカに、後ろから甘い声がかけられた。
「キャハ!迷子の子猫ちゃん、そんなに急いでどうしたのぉ~?」
振り返ると、ファンタジー世界のギャルといった装いの女の子が居た。ジャングルジムの上から、片手を口に当ててこちらを見下ろしている。どう考えても、味方ではなさそうだ。
頭の中で、思考が巡る。戦うか、逃げるか。ケンの声。最強のスキル。
トウカの出した結論は…。
「…獲物を探していたところだよ。丁度、あんたみたいな弱そうなヤツをね。」
「よ、よわそう…ですって…。キィーッ!私は同じ女ゲーマーに馬鹿にされるのが、一番腹立つの!!ウガアアアアッ!!」
「知ったこっちゃ無いわ。かかってこい!」
3toB4―後で知ったのだがミツバと読むらしい―と頭上のプレートに表示されている子が、短剣を鞘から抜いて物凄い形相で一直線に私に向かってきた。私も、杖で応戦の姿勢を取る。
頭の中から、チームメイトからのボイスチャットが聞こえる。それは戦闘に入ったことを心配しているのか、あるいは非難しているのか。トウカにそれを聞きとる余裕は無かった。
「死ねぇッ!死ねぇッ!」
「ぐぅっ…!」
なんとミツバはスキルを使わず、直接攻撃を試みてきた。予想外の戦術に、一発目は避けたものの、二発目は食らってしまう。このゲームはスキルの火力が高めに設定されている分、そうでない攻撃の火力は雀の涙に設定されている。実際、トウカのHPは数%しか減らなかったのだが…。
「くっ…なに、これ…!」
時間経過ごとに少しずつ、体力が減っていく。その苦しさはかなりリアルで、生命の危機を感じさせた。
「キャハ!冥途の土産に教えてやるよ。私の固有スキルは、『ポイズンアイビー』。あらゆる攻撃に毒を付与するのさ!」
「そ、そうか…。スキルだけでなく、直接攻撃にまで…!」
「馬鹿の癖に理解が早くてよろしい!百点満点~!毒強化のパッシブスキルをいっぱい塗っておいたから、毒が回るのも早いでしょ~ぉ?」
ミツバは小悪魔的な顔を浮かべ、短剣を指で弄りながら話している。その笑みには勝利を確信したかのような余裕が感じられた。
…今だ。
「…『エターナル・ハリケーン』…!」
トウカは震える手で杖を掲げながら、その呪文を唱えた。すると、風が形を成して集まり、大いなる力を感じさせる突風を周囲に巻き起こした。
「こ、これ…。あそこでしか取れないスキルじゃん…。なんで…。」
ミツバはさっきまでの余裕の表情を崩し、慌てふためいている。彼女は風から逃げ出そうとするが、もう手遅れだ。烈風は力を増し、ミツバの周囲を隙間なく取り囲んだ。
「いっけぇーっ!」
風に呼びかけ、敵を襲うよう命令する。すると、魔力を含んだ風は轟音を鳴らし、ミツバをゆっくりと…だが苛烈に切り刻んでいった…!
「ぎゃあああああああぁぁっ!」
その叫び声も、風にかき消されて殆ど聞こえなかった。
やがて、魔法の効果が切れ、ミツバの無残な姿が目の前に倒れていた。
「や、やった…。」
トウカはへなへなとその場に座り込んだ。そして、魔法に集中していて忘れていた気分の悪さが襲ってきた。ミツバの毒だ。本体を倒したというのに、しぶとく残るそれはミツバの執念を感じさせた。
この毒を何とかしなければ。入手したスキルの中から、回復スキルを検索する。…あった。
「『キュア…』。」
トウカが状態異常を回復するスキルを発動しようとしたその時、破裂音と共に視界がぐらりと歪んだ。
「ま、まさか…。くっ…。し、失敗…しちゃっ…た…。」
そのまま、仰向けに倒れる。どうやら体力が無くなったらしい。不思議と、安らかな気持ちに包まれる中で、最後に見たのは憤怒に支配された男の鬼神のごとき形相だった。
「よくも…。よくもミツバさんを!!傷つけてくれたなぁ!!!」




