第6話【ベータテスター】
「…なんだ?相手、もしかしてシロートか?一方的な試合になりそうだなぁ、おい。」
タイチが世間一般の対戦ゲーマーのイメージ通りの口の悪さで、退屈そうにつぶやいた。この界隈には彼より言動が酷い奴がゴロゴロしているんだから恐ろしい。
ただ、タイチの言う事も分かる。試合が始まったというのに、相手は一向に出てこない。ルールが分かっていないのだろうか。
「おいおい。イグニッション・コネクトは超話題作なんだから、対戦に慣れていない人も混じってるだろ。それよりミツバさん、そっちの様子はどうです?何かあればすぐに駆け付けますよ…っと。」
色男のニシノはタイチをたしなめつつ、甘いボイスでミツバへのアピールを忘れずに添えた。ボイスチャットを通じてモンスターを狩る音がテンポ良く聞こえており、彼の効率重視さを感じさせる。
「キャハ!こっちにも敵さんは見えないね~。チキン過ぎて自陣でシコシコスキルを集めてるのかな~?シジョウくぅん、作戦はベータテストの時のままで良いよね~?」
俺達の紅一点、ミツバはいつもの軽いノリで応答した。グループに女が一人混じると姫と揶揄されがちだが、こう見えてミツバはガチゲーマーだ。頭に血が上りやすい性格が玉に瑕ではあるが、頼りにしている。
「…ふっ。問題ない。俺たちの力で…冷たく、ねじ伏せてやろう。」
そして、シジョウはチームメンバーに号令を放つ。
どんなゲームが戦場になろうとも、誰が相手であろうとも。いつものように、勝利するだけだ。
「やっと敵チームを見つけたぜ!二人だ。どうする?」
―
「どうする!?ケン君!」
焦燥を隠し切れない様子で、ツナ太が言った。スキルを集め始めたのも束の間、運悪く、一人の敵と出会ってしまったのだ。
「ただでさえ、二重の意味でスタートダッシュに差がある状況。人数差があるとはいえ、逃げの一手でいきましょう。いきなり無双できるなんて甘い考えは持ってませんから。…しかし、逃げ方を工夫しましょう。なるべくスキルを集められるルート取りをするんです。」
俺はそのルートを視線で示した。光り輝くスキルが沢山落ちている、相手のプレイヤーに手が付けられて無さそうな場所である。
「オッケー、了解。しんがりは任せな!」
ツナ太は俺と敵の間に立つような位置取りで、逃走のサポートをする体勢に入った。初めてのゲームだというのに、俺達の息は合っている。
しかし、敵も黙って逃がしてくれるほど甘くはなかった。
「逃がすかぁっ!『フリーズランス』!」
遭遇した敵…騎士のような鎧を着た男が、手にした剣の先をこちらに向けてスキルを放ってくる。その迷いの無さに、このゲームに既に適応していることを感じさせた。
男の手から、俺の方に鋭い氷が一直線に放たれる。それは放たれた瞬間から、現在の身体能力では回避不可能な一撃に見えた。
「ケン君!」
ツナ太の声が聞こえるより先に、俺は冷静にスキルの詠唱を始めていた。接敵の直前に手に入れた、下級のスキルだが…ここを切り抜けるだけなら十分だ。
「…『クイックシフト』!」
いきなり視界が変わったことで、スキルの詠唱、そして氷の槍の回避が成功したことを確信した。
直後、俺が元居た場所の地面に氷の破片が砕け散った。
「ちっ、回避スキルか…。だが、次は避けられるかな!?『ファイアボール』!」
鎧を纏った敵の掌に炎が宿り、火の弾が放たれる。先ほど、トウカも手に入れていたスキルだ。
クイックシフトのクールダウン…再使用可能が可能な時間は20秒。まだ使う事は出来ない。…避けられないか。
そう覚悟した時、大きな影が眼の前を遮った。
「うおおおおっ!『アヴソーブ』!」
ツナ太がそう叫び、火球を全身で受けた…いや、良く見ると彼はバリアのようなものに包まれており、それで攻撃を受け止めた。すると、炎はバリアに吸収され、消滅した。
視界の奥で、敵の苦虫を嚙み潰したような表情が見えた。
「ツナ太さん!助かりました。」
「おうよ。俺を頼ってくれよ、相棒!」
やはり、先ほど感じた手ごたえは本物だった。俺達のチームワークは、どんな舞台でも最高だ。
「ちっ…。こいつら、実はベータテスターなのか?俺、もしかして相手の術中にハマってる?」
敵は何かブツブツ言っており、思わぬ状況に困惑しているようだ。…今がチャンスか。
「さあ…。反撃の時だ!行くぞ、ツナ太さん!」
俺は、今まで鞘に納めていた双剣を仰々しく抜刀し、相棒に眼で示し合わせてみせた。
「…ああ!食らえ、俺達の最強スキル!」
ツナ太も、俺の意図を理解し、敵に向かって大げさに攻撃の構えをとった。彼の大柄な体格も相まって、それは必殺の攻撃の予兆に見えた。
「ちっ!一旦退くしかねえ!…『スイフト』!」
それを見て顔色が変わった騎士アバターの敵は、スキルで移動速度を上げると一目散に逃げて行った。逃げる途中にも、無駄が無くスキルを取っていく所に思わず関心してしまった。戦闘中確認できなかったネームプレートを見てみると、ta1―タイチと呼ぶのだろうか―と表示されていた。
「…ハハハ!やったぜ。防御系のスキルだけで相手を退けちまった!あいつ、俺のハッタリを律儀に信じちまってよ~。」
ツナ太が痛快に笑って言った。手を挙げた彼のハイタッチに応じてやる。それはパァン!と心地よい音を立ててバーチャルの空に響き渡った。
「傍から見たら、二対一の状況ですからね。ゲームを知っている敵であれば、普通は戦わない状況だ。ハッタリも通りやすくなります。」
「そうだね。まさにゲームを分かっている者同士の読み合いってところかな?」
リアルに近い状況で顔を合わせてゲームをしている分、メンタル面での攻防も重要になってくるだろう。普段から格ゲーでハッタリをかまし合っている俺達は有利…なのかもしれない。
「さあ、もたもたしちゃいられない。敵は援軍を呼んだかもしれないですからね。もっと強いスキルを探しに、俺達も動き回りましょう。」




