第5話【俺たちの戦略】
《バトル・フェイズを開始します。スキルを入手して、相手のチームを殲滅しましょう。》
俺達の行動を制限するドーム状のバリアが消え、フィールド内を自由に動けるようになった。さあ、いよいよ戦闘開始というわけだが…。このゲームの場合は、一風変わったルールがある。
「さて、気を取り直そう。対戦はもう始まっているが、最初は敵チームの事は気にせずフィールドを動き回り、沢山の”スキル”を入手することが重要だ。」
初期地点から移動しつつ、俺は事前に頭に叩き込んでいたゲーム内容の説明を行った。
「ほら、色々な所にモンスターが居るだろ?あれを倒したらスキルがドロップする。後はそこら辺に落ちているものもあるから、それを拾っていくんだ。」
草むらの中や、湖に浮かぶ小島の上。青く澄んだ空にまで様々なところに、モンスターが闊歩していた。強力そうなモンスターや、スキルを使わずとも倒せそうなモンスターが確認できる。当然、その強さがドロップ報酬の良さに直結するのだろう。
さらに、至る所に乱雑にゲームのアイテムらしさ全開のテクスチャで出来た物体…スキルが設置されていた。入手しやすそうなところに置かれているものはレアリティの低そうな緑色、逆に難しそうなものは虹色に光っており、射幸心を煽られる。
見渡しているうち、フィールドが一般的な対戦ゲームに比べてかなり広い事に気付いた。まずはスキルを入手することに専念した方が良いというゲーム性から、接敵もしにくくなっているのだろう。
「ほんとだ!可愛らしいモンスターも居るね。…でもまずは、あれを取ってみよう。よーしっ…はっ!ほっ!と。」
トウカは早速、すぐそこの木の上に設置されていた炎のアイコンが赤く輝くスキルに向けて、器用な身のこなしで木を登ってみせた。
―アタックスキル:ファイアボール
―火の弾を放ち、魔法攻撃力の100%のダメージを与える
―魔法タイプ
―クールダウン 15秒
彼女の頭上に、一定時間スキルの効果が表示され、消えた。これでゲットしたということなのだろう。
「これで良いのねー?」
得意気になったトウカは、木から飛び降り…見事に着地した。
「お、驚いたな。トウカさん、運動神経凄いね。」
「自分でもびっくり!木くらい登れるとは思ってたけど、こんな一瞬で登れるとは思わなかった。」
「…なるほど。バーチャルだから、幾らか身体能力が上がっているんだろうね。」
それでも初めてでこの身体の動きが出来るとは、トウカの持ち前の運動神経が良いからなのだろうと思った。
普通のゲームでは俺はトウカに負けた事など無かったのだが、このゲームでは話が違うかもしれない。
「トウカ。試しに使ってみなよ。ほら、あそこにおあつらえ向きのモンスターが居るよ。」
「グニーッ!」
「わわっ!変な犬!」
それはトウカが形容した通り、一言で言うと変な犬であった。二足歩行でふわふわの毛、犬のような顔立ちだが絶妙にモンスターらしい凶悪さが宿っており、倒すのに躊躇いは起きないような気味の悪さがある。その頭上を見ると『グニッピー』と書かれており、それが彼の名前なんだろう。
「ありぇ?どうやったらスキルを使えるんだろう?」
「メニューを開いたときのように、頭の中で念じたら出るんじゃない?」
「よーしっ…むむむ!出ろ!『ファイアボール』!」
トウカは先ほど登った木に向かって杖を向け、律儀にスキルの名前を唱えた。
すると、ボウッという音と共に、炎の玉が勢いよく杖の先から放出され、グニッピーを粉微塵にした。南無。
初めて目にするスキルに、チームメンバーは沸き立つ。
「トウカ、凄い!魔法使いじゃん。」
「へへーん、もっと褒めてくれていいんだよ。それ、もう一度!『ファイアボール』!…ってあれ?」
トウカがさっきよりも恰好付けて詠唱したが、炎が放たれることは無かった。間抜けな時間が流れる。
「…スキルは、一つだけを連発できないようにクールダウン時間が設定されている。ただし、スキルは何個でも取得できるし、それぞれにクールダウンがあるんだ。だから、沢山のスキルを拾って順番にスキルを回していく戦術が強いと思う。」
「なるほど!とにかく走り回って、ファイアボール以外にも拾っていった方が良さそうだね。」
トウカはうんうんと頷いた。だが、一つ忘れていることがある。
「ほら、トウカ。グニッピーを倒したから、スキルがドロップしたよ。」
「ほんとだ!私のだからね。横取りしないでよっ。」
誰も取らないよ、と俺が言い終わるより先に、トウカがスキルを拾い終わった。真っ当な事をしているはずなのに、動きがセコくてちょっと面白い。
そして、スキルの入手と同時にファンファーレが鳴った。きょとんとしているトウカの頭上にレベルアップの表示があり、トウカのステータスがアップしていた。
「ほえ?な、何事?」
「おめでとう、レベルアップだ。このゲームに於いて、スキルは即ち経験値。スキルを集めれば集めるほどレベルが上がっていくのさ。」
よく分からないけどやったー、と喜ぶトウカは無視して説明を続ける。
「とまあ、まずはトウカがやってくれた感じでスキルを集めてパワーアップをするのが目標だ。武器によっては使えないスキルがあるから、それはメニューから分配したら良いよ。そして、接敵したら戦う。相手チーム四人を全滅させたら勝ちだ。」
「なるほど。分散して効率良くスキル集めてから、集合して戦うのが基本戦術。しかし、裏をかいて、早期決着を付けに行くことも可能…。そこにチームの戦略が出るんだね?」
ツナ太が俺の説明を補足してくれた。これで概ねルールの説明は出来たと思う。
ようやく、スタートラインに立てたといったところか…と、安堵したのも束の間。
「みんな、見て!対戦相手がスキルを集めているよ。」
サッチーの指さした方を見ると、対戦相手のチーム四人が湖を挟んだ向こうの森から散開しているのが見えた。それぞれの特徴はここからでは見えないが、早くも効率よく手分けしているように見える。
俺達がのんきに自己紹介している間に、相手はしっかり作戦会議していたのか、あるいは…。
「ベータテスターか…?」
「ケン君…その説、大いにあると思うよ。発売直後にいきなり対戦するような血気盛んな連中だからね。」
ベータテスター。凛天ギアのベータテストはハードごと試用してもらうという都合上、非常に狭き門でごく限られた人数しか参加できなかったのだ。当然、俺とツナ太は落選した。数日間のテストとはいえ、経験しているのとしていないのではアドバンテージが非常に大きい。
俺達みたいにエンジョイしに来た例外も勿論、沢山いるとは思うが…。ついていない。俺とツナ太は、絶望感が思わず顔に出てしまった。
「ちょっとちょっと!男二人が辛気臭い顔すんなっ!」
トウカが腰に手を当てて、強気に言い放つ。その姿には、姫騎士のような凛とした威厳があった。頭上のネームプレートを見てしまったらそれが吹き飛ぶ気がしたので、一生懸命見ないようにした。
「ケンちゃん、昔からゲームでは全キャラの色々な技を調べて、変なバグ見つけるの得意だったでしょ?このゲームでも攻略法を見つけてよっ!」
「へぇ~、研究熱心のは小さなころからだったんだね…。今でも、最新ゲームのスタートダッシュ攻略は異様な速度だからなぁ。」
「中野君、そんなに凄い人だったんだ…!」
姫騎士の一声で、全員の期待が俺に集まってしまう。
確かに、俺は格ゲーで良い演出を探すために全ての技を確認してきたし、バグで良いカメラアングルになる事もあるので、あらゆる変な行動を試したりしていた。その経験が高じて、ゲームの攻略法を見つけることが得意になってしまっていたのだ。
ただ、生憎とゲームの最上位陣になるほどの才能も情熱も持ち合わせていなかったので、腕前で有名になるほどではなかったのだが…。
今、この場。付け焼き刃の攻略であれば。
「勝てなくは、無いと思うよ。ベータテスター相手であってもね。」
「ケンちゃん…!」
幼馴染の顔が、ぱっと明るくなる。
「実は、雑談の間に全員の固有スキルを確認させて貰った。奇跡的にバランスが良かったんだ。それを十分に生かすことが出来れば…勝算はある。」
気付けば、みんなの顔つきが、やる気に満ちていた。強者相手に、一泡吹かせてやろうという、やる気。
「流石はケン君。で、作戦は?」
「ゆっくり説明している時間は無い。フィールドを動き回りながら、ボイスチャットで話そう。」
「オッケー。…それじゃあ、行きましょ!」
四人は一斉に走り出した。
脳内で、ボイスチャットをONにするよう命令する。…よし、繋がった。この操作にも慣れて来たぞ。
「俺とツナ太さんは、近すぎず離れすぎずで、着実にモンスターを狩ったり、スキルを取っていこう。俺達の固有スキルは、耐久面で有利になるものだ。敵と戦闘になってもそうそうやられるないはず。」
「よしきた!俺の固有スキル、『鋼の肉体』の出番だぜ。」
俺の『ステルス』は、敵にとんでもないスキルを使う奴が居たとしても逃げることは簡単なはずだ。そして、ツナ太の『鋼の肉体』は最大HPが高くなり、受けるダメージを減らすというもの。具体的な効果値は分からないが、固有スキルなのだからそれなりにあると思いたい。
これらのスキルを上手く使って、前線でスキルを拾っていく。そして、あわよくば敵を倒すのが、まず一つの作戦。
「動きの機敏なトウカは、木の上やアスレチックの中など、取得が難しそうな所を狙ってみてくれ。」
「アスレチック…。あそこか!了解。」
湖に浮かぶ小島の中には、大きな公園に設置されているような遊具が設置されているものもあり、そのゴール地点と思われる場所にひと際輝くスキルが置いてあった。そういった場所への探索は、トウカに任せることにする。敵が潜んでいる可能性もあるが、複数人で狭い場所に居るとは考えにくい。一対一なら、彼女ならいなすことができるだろう。
「そして、君の固有スキルを活かせられるような回復スキルを手に入れたら、教えてくれ。」
分かった!と元気よく返答したトウカが、凄い速度で橋を渡り、得体の知れない入り組んだジャングルジムの中に入っていった。
その直後、悲鳴と共に衝撃音が聞こえてきた。
「ギャー!」
「だ、大丈夫か!?」
「…いてて~。ちょっと転んじゃった。」
不安だ。
彼女には、チームの心臓になってもらわなければならないのに…。
「ねえ。私はどうすればいいの?」
トウカのせいで指示を出すのが遅れてしまったサッチーがむっつりと発言した。
「サッチーは、ひたすら安全にモンスターを狩り、スキルを集め続けるんだ。敵チームが来たら、身を隠して。命だいじに。」
「ふーん、なんだかつまんない…。…あ、そっか。」
「理解したみたいだね。…頼んだよ。」
このような指示を出したのは、別に意地悪でも何でもない。彼女こそが、このゲームに勝利する重要なカギになるからこそであった。
「これで、布石は打った。…さあ、ツナ太さん。早速、敵が見えてきましたよ。」




