第4話【幼馴染は戦姫】
《チームメンバーを探しています。しばらくお待ちください。》
二人でパーティを組み、マッチメイキングに入る。忘れないうちに、ツナ太とフレンド登録を済ませておいた。これで、ゲーム内でも出会いやすくなるだろう。
「ええと、ケン君。このゲームは4対4の、2チームで戦うゲームだったよね?」
「そう。だから、二人は野良(※1)になりますね。」
強くて話しやすい人たちだと良いね、とまだ見ぬチームメイトへの希望を好き勝手に話す。
ノリで始めてしまったが、ふと、ほぼリアルと同じ見た目のアバターの初めましての人と一緒にゲームするんだよな…と思ったら緊張してきた。
「対戦中にスキルを集めて、それで戦う対戦ゲームなんだよね。出現するスキルは毎回変わるから、試合の展開も毎回変わる。ローグライト的なリプレイ性もありそうだよね。」
「それが楽しみですよね。上手くゲームシステムがハマれば、一生遊べそう。」
ツナ太は、俺の様子を察してか、ゲームの話題を繋げてくれた。
彼と話していると、自然と緊張も解けていくようだった。
「てか、なかなかマッチングしないねえ。これインキュー(※2)してる?」
《対戦に参加するメンバーが決まりました!バトル・フィールドに移動します。》
「タイミング!」
俺たちが対戦ゲームあるあるを笑っていると、身体が光に包まれていった。
「うおっ、移動が始まったのか?」
そして、徐々に身体の重量を感じなくなり、視界が白に染まっていく。
恐怖を感じさせる間もなく、身体が消えていった。
消える途中で頭だけ残ったツナ太の笑顔が妙に面白くて印象に残った。
《タクティクス・フェイズを開始します。勝利のため、作戦を立てましょう。》
「よっ…と。ここが戦場か。雰囲気があって良いね!」
身体と視界が消えて数秒後、俺達は自然の豊かな空間に転移していた。ラグがあるのか、あと二人のチームメンバーの姿は見えない。ひとまず、フィールドを分析してみることにする。
俺達の立っている拓けた場所の周りには、移動を制限するバリアが貼られているようだ。相談時間…タクティクス・フェイズが終了したら、このバリアが解かれ、戦闘へと段階に移行するのだろう。
そして、その外側は木々に囲まれ、草花が生い茂っていた。木々の狭間にある獣道の向こうを見ると、大きな湖と、いくつか浮かんでいる小島、それらを結ぶ橋が見える。森…というより、大きな公園のような印象だ。
俺がフィールドを観察していると、後ろからツナ太ではない声が聞こえてきた。
「へ~、ここで戦いが始まるってワケ?わくわくする!」
…何故だろう。聞き覚えがある。
俺が振り向こうとする途中で、その声の主が長い髪を揺らしながら颯爽と眼の前を横切り、前に出た。
そして、俺の目線は少女の後ろ姿に釘付けになった。
鮮やかな赤寄りのピンク色の髪。風を受け、ポニーテールに入っている白のメッシュが流星の尾のように閃いている。
色とりどりの草花が咲き乱れるフィールドの雰囲気も相まって、その姿は神秘的にすら感じた。そんな彼女がゆっくりと振り向き、口を開く。
「えーと、自己紹介するね!私は…。ハンドルネーム言うの恥ずかしいな。トウカって呼んで!よろしくね。」
トウカ…そう名乗った彼女は、活発さの中にキュートさを併せ持つ、眩しい笑顔を俺達に向けた。
上品な白いブラウスに赤いネクタイ、ふんわり広がるミニスカートが可愛らしい制服風の衣装。それに肩当てやガントレット、プロテクターといった防具、宝石が埋め込まれていて、手に持った煌びやかな杖が合わさり、戦場に立つお姫様のような可憐さを演出している。
俺は彼女の大きな瞳を直視できず、彼女の頭に浮かぶ無機質なプレートに視線を逃がした。
―卍キングオブトウカ卍 Lv1 HP78/78
俺は思わず吹き出し、さっきまでの恥ずかしさと気まずさが入り混じる複雑な感情は消え失せた。
「桃香!お前、なんだよその名前!あはははは!」
「って、視ちゃん!?まじでケンちゃんなの!?う、うそー。」
「ちゃん付けはやめろって!あはは!」
「笑いすぎー!!」
雰囲気が台無しになったトウカが、両手を振り回しポカポカと僕の頭を叩いた。トウカが非力だからか、チームメンバーだからかは分からないが、全く痛みは感じない。
そんなやりとりに、俺は心の深い部分から懐かしさが広がる感じがした。
「えーと、お取込み中申し訳ないけど…。」「トウカちゃん、知り合い?」
取り残されたツナ太と、もう一人のチームメンバーはぽかんと俺達のやり取りを見ていたようだが、たまらずツッコミを挟んできた。
トウカは俺を叩く手を止めて、彼らに向き直った。
「うん!ケンちゃんとは昔、小さい頃は良く遊んでいたんだけど、学年を重ねるにつれてどんどん疎遠になっていった、日本の何処にでも良くある関係の幼馴染だよ。」
「真っ当な神経なら言葉にし辛いことをずけずけと…。あとケンちゃんはやめろ。ガキじゃないんだから。」
卍キングオブトウカ卍(笑)こと薬師井桃香とは、今まさに彼女の口から話されたような関係性だ。近所に住んでいて、毎日のように遊んでいる時期があった。特に、俺の家に山ほど積んであるゲームを珍しがって一緒にプレイすることが多かったように思う。
…そして、俺の歪みは、そこから始まったんだ。
「てか、私達と同じ学校だよ。一組の中野君。」
「あ~、中野君か!私、二組の白楽だよ。白楽幸。私もあまり目立つ方じゃないから、知らないかな。」
も、は余計だ。…事実だから仕方がないけど。
サッチーって呼んでね、と話す彼女のプレートを見ると、「Sacch= HP90/90」と表示されていた。
「なになに。俺以外みんな高校生で、しかも同じ学校って、こんなことある?オッサン、ちょっと疎外感…。あ、俺はツナ太。よろしく!」
そう言ってツナ太は大げさに肩を竦めた。なんかごめん。いや、本当に。
ただ、その爽やかな笑みで、本心から拗ねてる訳ではないことはちゃんと伝わり、流石は大人だと思った。
「オッサンだなんて!全然、お兄さんって感じですよー。ツナ太さん、ですね。ケンちゃんとはお友達なんですか?」
「ああ!彼とは格ゲーを通して知り合ってね…」
トウカが話を繋いでくれて、ツナ太は俺との関係…格ゲーが出るごとに腕を競ったり、時には夜通し通話だけで寝落ちするまで盛り上がったり…といったエピソードを簡単に説明した。
興味を持って表情豊かに聞いてくれるトウカに、すっかりツナ太は気分を良くしたようだ。
二人は俺やサッチーにも話を振って、全員が楽しく会話に参加できるよう配慮してくれた。
「私とトウカと、あと一人来る予定だったんだけどね。凛天ギアの配達が遅れたらしくて…。」
「ま、そのお陰で懐かしい顔とエンカウントできたんだけどね~。その恰好、なかなかサマになってるよ。」
「キングオブトウカさんも、ふふっ、センスあるよ、色々と。」
「その名前で呼ぶなー!」
「「ワハハハハ!」」
心地よい雑談の時間が続く。
…それにしても、トウカは何でそんな名前を付けたのだろう?
「いよぅし!みんなの事は大体分かったね。今日は楽しくゲーム出来そうじゃない。そんじゃ、そろそろ作戦を…」
一通り話が落ち着き、ツナ太がこの時間の本来の目的を取り戻そうと舵取りを試みた瞬間、無機質なアナウンスがこの場を支配した。
《タクティクス・フェイズは間もなく終了!カウントダウンを開始します。》
―10、9、8…
「そんな…作戦タイム、自己紹介だけで終わっちゃったじゃん…。」
「ケンちゃん、何とかしてよ~!」
サッチーが絶望し、トウカが何故か楽しそうに騒いでいる間にも、無常にカウントダウンは刻まれていく。
―5、4、3…
「こうなったら、仕方がない。」
「ケン君…!」
ベテランゲーマーのツナ太も、初めての状況に焦りを抑えきれないようだ。
―2、1…
「なるようになるさ!」
三人のズッコケと共に、記念すべき初めての対戦が幕を開けた。
※1 野良…知り合いでないプレイヤーのこと。
※2 インキュー…in queue。対戦待ち状態のこと。




