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第3話【イグニテラへようこそ】

「う、恨むぜ。凛天堂…。」


 イグニテラに降り立って、初めて出た言葉がそれだった。

 あの高速移動は、やりすぎだろう…。

 

(…まあ、なんにせよ。)


 ついに、ついにフルダイブVRゲームの世界に降り立った。

 正確には先ほどの初期設定の時点で始まっていたのだが、やはり地に足を付け、自由に身体を動かせることでより実感が湧いてくる。

 周りを見渡すと、ファンタジー風の石造りの街並みが建っており、ここはその中央広場のようだった。

 腹いっぱいに空気を吸い、大きく伸びをしてみる。

 うん。現実よりも、気持ちいい。


「さて、どうしようかな。」


 フルダイブの感覚に慣れてきたところで、冷静に次の目的を立てようと思う。

 まずは、現状把握。スマホを開いて…おっと。

 そんなものは無いのであった。困ったときにスマホに頼ろうとするのは現代人の悲しい性だ。

 実は、ゲーム内で落ち合おうと約束していた知り合いが居るのだが…どうやって連絡を取ろうかな。

 

―イグニテラへようこそ!まずはメニューを開いてみましょう!


 もたもたしていると、チュートリアルらしきメッセージウィンドウが視界に現れた。周りのプレイヤーたちも、困惑しながら指示に従って操作している様子である。

 よし、古今東西さまざまなゲームをやってきた俺の適応力を発揮する時だ。チュートリアルくらいさっさと終わらせるぞ。


―開き方は、超簡単!「メニューよ、開け!」と念じれば良いんです。


 ね、念じる?今までに経験した事の無い操作方法だが…やってみるか。


(メニューよ、開け!)


 律儀に、一言一句同じ言葉を念じてみた。


―メニュー

 ―ステータス

 ―マップ

 ―フレンド

 ―設定

 …


「おお、本当に開いたぞ。すげー。」


 新しい体験の一つ一つに、いちいち感動してしまう。

 まずは、ステータスでも見てみようか。


―ここでは、あなたのステータスを確認することができます!


 形式的なメッセージを無視し、自分の情報を確認する。


―Lv…1

―HP…106/106

―物理攻撃力…17

―物理防御力…8

―魔法攻撃力…12

―魔法防御力…7


 攻撃偏重の能力なのは分かるが…。うーん、高いのか低いのか分からない。他のプレイヤーと比較する等して分析しなければ。

 他にも、移動速度や回復力、貫通力といったサブパラメータも記載してあった。これは、追々理解していけば良いだろう。

 そして、意識的に見ないようにしていた部分を改めて確認する。


―固有スキル:ステルス

―発動すると、一定時間『隠密状態』となり誰からも見えなくなります。


 俺の、自分だけの、固有スキル…。このゲームを続けていく限り、こいつと付き合っていかなければならない。

 すり抜けて無敵、の方じゃないんだよね。透明の方だもんね。


「パッとしないなぁ…。もっとこう、双剣を振り回して敵をガンガンなぎ倒せるスキルの方が良かったんだけど。」


 鞘に納めた双剣に手を当ててつぶやいた。他のプレイヤーは、一発逆転のド派手な攻撃能力を持っていたりするのだろうか。

 周りのパッとしないアバターを見渡してみる。チュートリアルに没頭したり、メニューの機能を試したり、思い思いの時間を過ごしているようだ。広場の中央では、現在行われている対戦の動画が流れている。丁度、忍者アバターの女性がKOされて倒れている場面だった。


(…待てよ…?)


 もしかすると、『ステルス』は俺にとっては最高の能力なのではないか…!?

 俺はその最高のシチュエーションを頭に思い浮かべてみた。思わず興奮で色々な所が昂る。あ、こっちの機能もちゃんとしているんだ…。


「あのー…もしかしてケン君?」


 その一言で、妄想から現実に…いや、フルダイブの世界に戻された。ややこしい。


「ええ、そうですけど…。」


 声の方を振り向きつつ応えた。

 すると、大柄で筋肉質なアバターが、厳つい頬をポリポリと掻きつつ立っていた。頭上には、『ツナ太 Lv1

HP220/220』と書かれたプレートが空間上に表示されている。


「って、ツナ太さん!?」

「そう!いやー、リアルで会うのは初めてだね。…あ、これ、リアルじゃないか。あはは!」


 ツナ太。好きな格ゲーが共通している事がきっかけで、SNSで意気投合した友達。今日、ゲーム内で会おうと約束していた一人だ。格ゲーのオンライン対戦会では何度もボイスチャットで話したことがあり、もともと快活な印象は受けていたのだが…。


「ガタイ、めちゃくちゃ良いんですね。解釈一致かもです。」

「あっはは!いや、キャラメイクで少し盛ったよ。いつかリアルで会った時にガッカリしないでね。」


 彼は爽やかな顔つきを崩さず、豪快に笑った。自分はインドア系男子高校生相応の細身であるので、ツナ太の肉体が素直に羨ましく思った。身体に纏った胴着風の衣装と、手に付けたゴツいナックルの武器は、彼の格ゲーでの使用キャラを想起させて少し微笑ましかった。


「このゲーム、格ゲーと違ってプリメイドいないと対戦潜り辛いからさ。知り合いが見つかって良かったよ。」

「俺も困ってたんで、助かりました。」


 プリメイドとは、一緒にゲームをする人の事。対戦に潜るとは、対戦に参加するメンバーを探してマッチングする事。

 遠慮なく対戦ゲーム用語を使って会話できるこの空気感が、フルダイブ技術によって一層心地よく感じる。


「どうする?とりま一戦、行っとく?」


 ガンガン話を進めてくれる行動力が、こんな状況では非常にありがたい。


「行きましょう!俺たちの…最初の対戦だ!」


 ひたすらに、ひたすらに楽しみだ。

 あらゆるゲームから手に入れた俺の経験が、どこまで通用するか。

 そして…このゲームからは、どんな栄養素を得ることができるだろうか。


 真っすぐにメニュー画面と向き合い、対戦の準備をするツナ太とは90度ほどズレた方向を…俺は視ていた。


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