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第2話【イグニッション・コネクト】

(ここは…。)


 視界が戻ったとき、俺は真っ白で何もない空間に居た。

 息が出来る。今までに吸った事の無いような、澄んだ空気だ。

 地面に脚が着いていない。しかし安定している。宇宙に浮いている感覚と空を飛んでいる感覚を足して二で割った感じ?どっちも経験したことないけど。


《イグニッション・コネクトの世界へようこそ!》


 いきなり、何度も聞いたことのある女性声優の声を聞いて現実感を取り戻した。

 現実だけど、VR。これがフルダイブの世界…。


《これから、初期設定を始めます。まずはお名前を聞かせて下さい!》


 アナウンスが終わると、名前の入力ウィンドウが宙に浮かぶように出現した。

 そこには、既に「KenkN」と入力されており、「次へ」ボタンが押してくれと言わんばかりに光っている。

 これは俺がいつも使っているハンドルネームで、本名の中野視(なかのけん)…ケン・ナカノをもじったものである。実は、このハンドルネームは事前登録で取得しておいていた。生体認証でのログインで、その情報も読み取っていたのだろう。

 緊張を含んだ右手で、「次へ」ボタンを押してみる。この世界での、初めての操作。


《次に、あなたの分身となるアバターをメイキングして下さい!》


 名前のウィンドウが消え、代わりに二つのウィンドウが出現した。アバターを弄る事の出来る窓と、自分の姿が確認できる鏡。そのデザイン自体はシンプルな、何度も見てきたようなものだが、今までのゲームとは解像度が違う。まさに人間が認識できるMAXの解像度を実現している。

 さて、本作のアバターについては事前に予習してきた。

 体格については、現実の姿から激しく逸脱したような見た目には出来ないようになっている。これは、脳の認識している身体の大きさとの整合性を取り、円滑に身体を動かせるようにするためらしい。

 試しに、シークバーを弄って腹周りの大きさを最大にしてみたが、ほんのり太ったくらいの違いしか出なくて思わず笑ってしまった。

 顔に関してもそうだ。細かい表情などをフルダイブに落とし込むには、本来の顔そのままが都合が良いようだ。それでも俺はせめてもの抵抗として少しでも格好よく見えるように、時間をかけてシークバーを微調整した。

 キャラメイクの最後は服だ。いくつかのプリセットから選べて、多少アレンジできるようである。俺は、ビビっと感性に訴えかけてきた、袴をベースに籠手や臑当といった防具がアクセントとして目を惹く和風ファンタジー衣装セットを選んだ。


「なかなか良い感じじゃん。俺。」


 傍らに浮いている鏡で自分の姿を確認し、思わず自画自賛してしまう。最終調整として、本来より髪を少し長くして、某人気漫画の憧れの侍キャラクターにちょっと近づけてみた。

 後から調整できるらしいし、一旦これで良しとしよう。


《次に、あなたに武器と固有スキルを付与いたします。こちらのウィンドウにご注目下さい!》


 ついに来た。『武器』そして『固有スキル』を決定する時が。

 武器は、剣や杖から手裏剣、拳まで、ゲームにあるようなものは一通り装備されている。これと相性の良いスキルがあるので、武器が決まると自ずとロールも決定されるようなものだ。

 そして、固有スキル…これはユーザーごとに被り無し、全てが文字通り固有の能力である。一度付与されたら、もう変更できない…。このゲーム内での人生を決めるような能力だ。

 この仕様にはかなりの賛否両論が集まったが、凛天堂は作りたいゲーム、世界を押し通した。その真意は定かではないが、「後のアプデで仕様変更する予定だろう」「固有スキルをバランス良く配布し、ロールが偏らないようにしたいのだろう」というゲーマーらしい考察や、「生まれ持った才能が全てを決める残酷な世界を実現しようとしている」「ユーザーのパーソナリティを収集して影の支配者に立とうとしている」といった陰謀論で盛り上がったのを覚えている。

 目の前に現れた小さなウィンドウが、この世界での運命を決める。

 それを改めて認識すると、緊張で心臓がドクドクと音を立てた。


―ユーザー分析シーケンス開始…0%

 ―アバターの体格を解析中…21%

 ―行動の傾向を解析中…46%

 ―思考の傾向を解析中…60%


 ただの演出か、本当に凛天ギアが脳内を見ているのかは分からない。

 しかしフルダイブという初めての状況では、ただのテキストにも不思議な納得感があった。


―ユーザー分析シーケンス完了…100%


―能力決定シーケンス開始…0%

 ―サーバーと接続…33%

 ―マスターデータから最適な能力を抽出…67%

―能力決定シーケンス完了…100%


―あなたの武器と固有スキルが決定されました。


 ごくり、と唾を呑む。


「さあ、俺の武器は…スキルは何だ…!?」


―武器:双剣

―攻防に優れた武器。二つの剣による連続攻撃で相手を切り刻め!


 俺の武器を告げる表示の後、腰に鞘が現れ、そして眼の前に二つの剣が出現した。剣は和風のアバターの雰囲気に合わせてか、日本刀のようなスタイリッシュなデザインであった。俺は剣を手に取り、軽く振ってみる。それは思ったより重さを感じず、想像した通りに動かすことができた。これもバーチャルの恩恵か。


「双剣!カッコいいじゃん!超当たりかも。…さあ、スキルは…!?」


―固有スキル:ステルス

―発動すると、一定時間『隠密状態』となり誰からも見えなくなります。


 え?


「ス、ステルス?隠密!?めっちゃしょぼくね!?」


《これで、イグニテラへ出発する全ての準備が整いました!》


 俺の抗議も虚しく、ゲームの準備が淡々と進行していく。

 真っ白い空間が変異し、透明感のある球体に変化。その中に自分が居ることを認識した。

 そして、目の前にひと際大きな球体が見え、それに向かって俺の居る球体から管が繋がっていた。あれが、イグニテラか。

 周りを見渡すと、沢山の球体が見え、それぞれに他のプレイヤーが入っている。彼らも、初期設定を終わらせて、固有スキルを得たのだろうか。


「こいつら、絶対俺より強い能力貰っているんだろうな…。」


 それぞれの球体から、管を伝ってイグニテラに向かっていく様子が見えた。

 …なんか、スピードえぐくない?


《良いフルダイブ生活を送れることを願って。ボン・ヴォヤージュ!》


「ちょ、ちょっと待って、心の準備が…。うおっ!」


 急速に体が前へと動き出した。そして勢いよく管に侵入。

 体が今までに感じたこともない風を、重力を感じる。

 俺は、大きな球体に向かって一直線に進んで行った。


「わああああぁ!早い、早いってぇええぇ!!」


 その叫び声は、電脳の彼方へと消え去るのであった。


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