第28話【デスマッチ・フィールド】
「…それじゃ、ガーディアンのスポーン位置に行こう。ツナせんぱい。」
「はいっ!どこまでもお供致します!」
ハリは、ツナ太とアスレチック地帯の高所を陣取っていた。チーム分けでツナ太と一緒になった時は若干気まずく思ったが、彼は眩しいくらい明るく、二人きりの場でも盛り上げてくれるので助かった。…ちょっと鼻息が荒いのは、きもちわるいけど。
「…ここから、十一時の方角だね。…ケンせんぱいたちとは逆方向だから、用心しつつ進もうね。」
「そうだね。練習でも、ここを無事に切り抜けるのは一つのハードルだったからね。」
二チームに分かれて、エピックモンスターを一気に二つ取る。この作戦はケンの無謀ともいえる発案だったが、実際にやってみると意外と有効という事が分かった。そもそも、エピックモンスターは名前とは裏腹にあまり強い設定ではなく、二人でも十分に倒せる。勿論、モンスターに気を取られている間に敵が来て漁夫の利のようにやられてしまう可能性は孕んでいる諸刃の剣ではあるが、このゲームにおいてエピックモンスターを効率良く狩るには二手に分かれる以外は無いと思った。
「今回、『サーチエネミー』を拾ったから、敵が近くに居たら自動的に警告が鳴る。あんしん。」
「頼りにしてまーすっ!」
ツナ太のわざとらしい敬礼に、少し笑ってしまう。ケンせんぱいの仲間は、みんな愉快な人ばかりだ。
「じゃ、俺が先導するぜ!しっかり付いてきてくれよー!」
「…うん。」
ドスドスと大地を踏み鳴らす、大きな背中について行く。アスレチック地帯は小さな遊具が散りばめられており非常に歩きにくいのだが、彼は器用に身体を使って進む。
「ハリちゃん!このペースで大丈夫かー?」
「…うん。」
ハリはそんな光景に僅かな既視感を感じたのだが、その正体は分からなかった。
そして、必死に彼の後ろについて行っているうちに、あっという間にガーディアンの出現場所に到着した。
「ここだな…!」
そこは、近未来感のある半球の外観を持つドーム状の施設の中であった。緊張を含みつつ中に入ると、思ったより内部が広い事に驚く。余計な障害物が無く、プレーンな戦いに特化した場所のようだ。そして、その中央にずっしりと威圧感を放っているのが、エピックモンスター。
「イグニガーディアン…。」
重厚な石造りの鎧に全身を包んだ、巨大な古代の兵士…といったところか。いかにも頑丈そうである。
「ふぅ…緊張するな。ハリちゃん、始めるぞ!」
「…うん!初撃、行くね!…『チャージ・ショット』!」
「…グオオオオ!」
ハリの一撃に呼応して、ガーディアンが起動した。最初の攻撃は、敵の頑丈な鎧に阻まれて、大した一撃にはならなかった。そして、ガーディアンが反撃の体勢に入る。
「グガアアア!」
「ふん。鉄壁の防御なら、負けないぜ!《プロテクト》!」
前線を張るツナ太に対して、ガーディアンが石の剣を振るう。それは切るというより、石の重さで叩くイメージに近い、重い一撃だった。とてつもない衝撃音が、ドームの中にけたたましく響く。
「ぐっ…!相変わらずすげえ攻撃だけど、所詮はモンスター。全然耐えられるぜ。ハリちゃん!きつい一発をお見舞いしてやれ!」
「…了解。目標を、再度補足…。…《ピアシング・スナイプ》!」
「…グオオオオオアアア!」
ガーディアンは、攻撃の後に防御が緩むタイミングがある。そこを正確に撃ち抜くことで初めてまともにHPを削ることができるのだ。
「良いぞ、ハリちゃん!しばらくは、この繰り返しだな…!」
「そうだね。…慎重にいこう。」
ツナ太の言う通りで、ガーディアンは一定体力以下になるまでは似たような行動を繰り返すので、私達は的確に防御と反撃をすれば良かった。しかし、ある一定を下回ると…。
「来た!行動パターン変化だ。」
ガーディアンはいきなり暴れ出し、攻撃的になる。その攻撃はランダムに腕を振り回し、辺りを無差別に破壊するものである。
「どこを攻撃してくるかは読みやすいが、当たったら致命的だ。ハリちゃん、気をつけろ!」
「わかってるよ。」
ガーディアンの進行方向を避けるように位置どりし、安全マージンが取れたら攻撃を加える。その時、むき出しになったコアを狙えると良い。
「しばらく、アグロを引きつけるぞ。『タウンティング』!」
「ナイス、ツナせんぱい。」
彼に向かって突進するなら、行動が予測しやすく、撃ちやすい。ハリは的確な射撃を重ねていった。この調子なら、行けるか。そう思ったのも束の間だった。
「て、敵を発見ー!テンシさま、どうしましょう〜!」
しまった。敵に見つかってしまった。テンシ、という言葉に、胸がドクンとする。彼女も一緒なのだろうか。ハリが声の方向へ振り向くと、一人の魔法使い風の女の子がアワアワしていた。確か、名前はみんみんだった気がする。そして、彼女の他に敵は居ないように見えた。テンシといきなり戦う事にはならなさそうで、ほっとする。
「くっ…どうする、ハリちゃん!」
「…いちかばちか。ツナせんぱい、ちょっと耐えてて。」
ハリは、瞬時の判断で行動を決めた。
「『スモーク・ショット』!」
「なっ!なにこれ、何も見えない!」
まずは、煙幕を張るスキルで、敵の視界を遮る。みんみんの慌てふためいている様子が、その声から予想できた。
「魔法は苦手だけど…『ファイアボール』!『プチサンダー』!」
「わわわ!わわわ!魔法が飛んでくるー!」
ハリは、スキルのライブラリから無作為にスキルを選び、乱射した。その中には普段ハリが使わないスキルも沢山あり、初めて発動するものもあるが、構わず撃った。
「な、何をしているんだ、ハリちゃん…!…くっ!」
敵襲に対応している最中でも、ガーディアンの攻撃は続いている。早く対処しなければ。
「ちょっと待ってね…。『クイック・ショット』!」
煙幕の中を、研ぎ澄まされてた一撃が飛んで行った。それは当たった手ごたえは無かったが、十分な効果を得たようだった。
「ひっ…!テンシさま!ガーディアン辺りで、何人かがグループしているようです!一旦、引きますね!」
そう言って、みんみんは煙幕を揺らして気配を消した。
「やった…!」
「すごいな。ハリちゃん一人の力で敵を引かせちまった。…どうやったんだ?」
「煙幕で視界を塞いで、そこに色々なスキルを打ち込んでこっちの人数を多いと錯覚させた。それだけ。」
「それだけって…。すげえ戦略だな。」
「話はこの辺にしよう。…ガーディアンを倒すよ。」
「グオオオオオアアア!」
「おっと!…ハリちゃん、もう一度俺が引き付けるから、攻撃は任せたぜ!『タウンティング』!」
ツナ太は器用にガーディアンの攻撃を避けながら、アグロを取り続けている。私はその隙に絶え間なく攻撃を打ち込み、そして…。
「グ…オ…ォ…!」
「よし!ガーディアンを倒したぞ!」
「ぶい。」
思わぬ横槍が入ってしまったが、無事にエピックモンスターを撃破できた。ガーディアンの巨体が、バラバラと崩れ去っていく。残された残骸の中に、ひと際光るオブジェクトが残された。
「レジェンダリースキルだ。ここのスキルは…俺が貰っておく感じで合っているよな。」
「うん。…タンク向けスキルだからね。」
ツナ太は、よっしゃー、と言いながらスキルを手にした。
―サポートスキル:巨神兵の加護
―一定時間、鉄壁の防御を手に入れてあらゆるダメージをカット
―クールダウン 150秒
「これなら、テンシの攻撃も防げるのかねぇ。」
「うーん。どうだろ。防げてほしい。」
「曖昧だな~。」
戦いがひと段落して、安堵の空気に包まれた。ハリは、近いようで遠い所で戦っているチームメイトに思いを馳せる。
「…ケンせんぱい達も、頑張ってるのかな。」
―
「頑張れ、ケンちゃん!もう少し!」
「おう、トウカ!いくぜ、このスキルで決着を付ける!『雷刃剣舞』!』
双剣に力を籠め、雷の魔力を発生させる。トウカのバフも相まって、こっちが焼けそうなくらいに強力な電撃が発生した。手の力を調整しながら、眼の前の巨大な妖精に向かって駆け、連続斬りを決める。
「おらおらおらああぁっ!」
「ピイイッ!」
手ごたえあり、だ。HPが削り取られたイグニフェアリーは断末魔を上げて、光となって消えた。
「レジェンダリースキルもゲットだ。これは、トウカ用だな。」
―サポートスキル:大妖精の加護
―一定範囲内の味方のHPと状態異常を全て回復する。このスキルはゲーム中一度しか使用できない。
「強力な回復スキルだね…。一回しか使えないから、使いどころが重要そう。」
「俺はトウカの判断を信頼しているからな。どこで使うかは任せる。」
「うわー、責任重大だー!」
トウカは大げさに頭を抱えた。そんな姿も可愛らしい。ほんわかした空気になったところで、ボイスチャットに通信が入った。
《ケン君!俺達はガーディアンを狩り終わったぞ。そっちはどうだ?》
「ナイスです!こっちもフェアリーを狩りました。グループして、最後のエピックモンスターを狩りましょう。」
「ハリちゃん、元気ー?」
《うん。げんき。トウカせんぱい達と、早く会いたいよー。》
「いやん!可愛い~!」
「悶えてないで、さっさと集合するぞ。…みんな、集合場所は、マップに送信したから。気を付けてな。」
みんなが思い思いの返事を一気に寄こしたので、少し耳が痛くなった。だが、嫌な感じじゃない。むしろ嬉しい。
俺はトウカと共に集合場所に向かった。そこにはすでにハリとツナ太が居た。
「ハリちゃん!久しぶり〜!」
「…トウカせんぱい、大袈裟。」
「ずっと別行動だったから、数年ぶりに会った気分だよー!」
「その気持ち、ちょっと分かるな。」
バーチャルの魔力がそうさせているのだろうか。
「感情に浸ってはいられない。三体目のエピックモンスターを倒しに行こう。…今回は、どっちにしよう。ドラゴンか、ワイバーンか。」
練習では、ガーディアンとフェアリーを倒すところまでは確定だった。これらは比較的弱い設定で、また周りから隠された場所に潜んでいる事から、見つかりにくく安全に狩りやすい。だが…。
「ドラゴンは強めで、目立つところに居るよね。そしてワイバーンは気まぐれで、まともに戦える位置に居てくれるかどうか…。万が一、取り逃したら時間が勿体ないね。」
トウカが思案する。彼女の言う通りで、どちらもリスクのある選択肢だった。
「…敵の動向も気になるよ。私達のところに、みんみんせんぱいが来た。追い払ったけど、私達の狙いがばれちゃったかも。」
淡々とハリが言った。そんな事があったのか、と俺は驚いた。ああ見えて頭のキレるテンシの事だ、エピックモンスター三体狙いがバレている可能性は高い。
「ケン君。迷っていても仕方がない。ドラゴンか、ワイバーンか…。どっちを狙おう?」
「そうだな…。よし、ドラゴンに向かいつつ、ワイバーンを探してみよう。そして、ワイバーンが狙いやすい位置に留まっていたらそれを優先する。そうでなければ、ドラゴンを狙う。どうだ?」
「良いと思うよ、せんぱい。」
我ながら、どちらを狙う可能性も残した良い作戦を立てられたと思う。チームの同意も得られたので、行動に移すことにした。
ドラゴンが居るのはマップの中央付近にそびえ立つひと際大きな丘である。ここで戦闘が起きると非常に目立つので、敵チームと入り乱れての乱戦は避けられない。俺達は軽口を言い合う余裕も無く、緊張した面持ちでその丘に向かった。
そして、周囲の確認も怠らない。上空に潜むワイバーンの位置次第では、そちらを狩るプランもあるからだ。
「…見当たらないな。」
「まさか、テンシちゃんにもう狩られちゃったのかな?」
「あり得る…。こうなったら、ドラゴンに向かって急ぐぞ。」
俺達は速度を早めて、湖に浮かぶ小島を抜けて、ドラゴンの元へと向かった。上を見ると、丘からドラゴンが長い首をゆっくりと動かしてバーチャルの世界を見渡していた。奴の瞳には、テンシ達が映っているのだろうか。
丘へと登る道には、スキルも落ちておらずモンスターもあまり居ない。完全にドラゴンへ挑む専用のルートだった。そして今、俺達はドラゴンと対峙している。その巨大な翼は、広げることで一層大きさが際立ち、鱗は古の宝石のように輝く。深紅の瞳がこちらを睨み、戦闘の開始を予感させる。
「グルルルルラア!」
「すごい覇気だ…。こいつは他のエピックモンスターと違い、すぐに襲ってくるぞ。みんな、準備は良いな!?」
「勿論!さあ、私のバフを受け取って!『エンゲージ・オーラ』!」
トウカが杖を掲げると、暖かな光がチームを包んだ。別人を操っているかのように身体が軽くなり、戦闘力が高まっているのを感じる。他のメンバーの顔つきも良くなった。
「よっしゃー!先陣を切るのはこの俺、ツナ太様だ!行くゼェー!」
名乗りをあげたツナ太が、翼を広げて戦闘態勢万全のドラゴンへ突っ込む。
「グルル……グラアア!!」
ドラゴンは大きく息を吸ったかと思ったら、それを炎弾に換えて吐き出した。スキル、ファイアボールのそれとは段違いの威力。熱気が地を焦がし、空気を震わせる。ドラゴンは最初からこちらを殺す気でいる。しかし、それに怯む俺たちのタンクでは無かった。
「へっ!そんな火の玉、屁でもねえ!ほら、お仲間のスキルだぜ。『巨神兵の加護』ォォオ!」
前を行くツナ太の後姿に、ガーディアンが憑依した。その巨大な勇姿が、ドラゴンの火球を握りつぶし…完全に無力化した。
「す、凄い。ツナ太さん、レジェンダリースキルを使いこなしているね。」
「ツナせんぱい、いい感じ。」
「わっはっはー!もっと褒めてくれー!」
一見、この一連の流れは、ツナ太のお手柄に見えた。だが、俺はこの状況を冷静に俯瞰していた。
「まずいな…。」
「え、何?ケンちゃん。」
次の瞬間。鉄壁の防御の効果時間が終わったツナ太に、視界外からの攻撃が飛来した。
「ツナ太さん、伏せろ!」
「え?…ぐおおおおおっ!」
俺の警告は間に合わず、その攻撃…スキルは、ツナ太を直撃した。
「くっ…!」
「ふっ…。下郎。やはり、ドラゴンを狙いに来ましたか。この時を待っていましたよ。」
テンシは、強烈な一撃と共に俺達の前に姿を現した。
やはり、ハリ達がみんみんに見られていた時から、狙いが読まれていたのだ。そして、最強の防御スキルを使った今、堂々と攻撃を仕掛けてきたのである。この状況は、非常に良くない。ドラゴンと不死身の天使が、俺達を狩ろうと鋭い目線をこちらに向けている。
「まずい!ツナ太さん、一旦ドラゴンのアグロを切るぞ。この場から離脱するんだ!」
「そうはさせませんよ。チョック!みんみん!」
「はい、テンシ様!…『デスマッチ・フィールド』!」
「何!?」
テンシのチームメイト二人が、地面に手をつけてパワーを送った。
その腕に紋章が浮かび上がり、ただならぬスキルが発動することを予感させる。
「一体何が…うっ!」
気が付くと、俺達はドーム状のバリアの中に閉じ込められていた。みんなは動揺の色を隠せない。
「これじゃあ、ドラゴンからも、テンシちゃんからも逃げられない…!」
「ふっ…。驚きましたか?私達の戦術は、天上戯曲だけじゃないんですよ。今まで使うまでも無かっただけで、奥の手はいくらでもあるんですっ。」
テンシが胸を張ってドヤ顔で言った。悔しいが、返す言葉が無い。いや、言葉を返している暇が無いと言うべきか。このやりとりの間にも、ドラゴンはツナ太に対して攻撃を続けている。
「グラア!!」
「ちぃっ!」
ツナ太は持ち前のタンクスキルで耐えているが、これからテンシチームからの攻撃も受けるとなると、いつまで耐えられるか…。
「どうしよう…ケンちゃん…!」
「ケンせんぱい…!」
二人の不安そうな顔が、俺の胸の奥を締め付ける。この絶体絶命の状況…。どう切り抜けようか。




