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第27話【序盤戦術、そして意外な成果】

「さあ、進化した俺達の戦略、テンシに見せてやろうぜ!」

「おう!…さぁ、ハリちゃん。見晴らしの良いポイントへ行こう。」

「うぃー。」


 俺が号令をすると、ツナ太とハリはペアとなって、小山地帯へと駆けて言った。 


「ケンちゃん、私達も動こう!」


 そして、トウカは俺と一緒に行動し、ハリ達とそう離れないようにしながら敵陣へ向かって行く。こうすることで、ハリ達が接敵した場合はすぐに助けることができる。逆の場合もそうだ。

 四人で一緒に行動するより、二つのペアに分けることで効率よくスキル集めが出来て、かつ広い範囲を警戒できる。これが、俺達の編み出した新しい序盤の動きだった。


「ハリ、敵を見つけたらすぐに連絡をくれよ。」

《ほーい。》


 俺が注意すると、ハリからぼんやりした返事が返ってきた。まあ、ツナ太も付いているし大丈夫だろう。


「ケンちゃん、スキルの集まり具合はどう?」

「イマイチだ。あと二個くらい、斬撃系スキルが欲しい。」

「オッケー。さっき拾った奴があるから分配するね。」

「助かる!俺も適当に渡すよ。」


 それぞれの武器で使えないスキルを拾ってしまったら、スキル分配機能で他の人に渡せる。重要なのは、一定距離以内の味方にしか渡せない事だ。四人がバラバラだとこの機能を有効に使えない事が多いので、なるべく早く集まってスキルを集めつつ分配するのが強い戦法だと気づいた。

 そんな調子で、数分ほどモンスターを狩り、スキルを集める時間が続いたが、平和な時間はそう長く続かなかった。


《…テンシせんぱいと、マフーせんぱいが、こっちに来る!救援、求む!》


  緊迫感の伝わる、ハリからの通信だった。ついに、テンシが動いた。


「トウカ、急ぐぞ。…大丈夫、スキルの集まり具合はいい感じ。レベルも上がってる。テンシだって、この時間から無双出来る訳じゃ無い。そんなに不安な顔するなって。」

「うん…。頼りにしてるよ、ケンちゃん。」

「…俺も。」


 俺がそう応えると、トウカは満足そうに頷いた。何気ない会話だったが、俺達にとってはそれ以上の意味を持っている気がして、ちょっと恥ずかしくなった。俺は表情を見られたくなくて、ハリから送られてきた座標に向かって、トウカの前を駆けて行った。


「見えたぞ。…テンシだ。」


 森のエリアを抜けた先に、神々しさを放つアバターと、それに付き従う白い制服が見えた。間違いなく、彼女たちである。


「ケンちゃん…!」

「うん。ここは、強く行くべきポイントだろう。ここは見通しの良い平原エリア。そして遠くの高所に、ハリが狙撃ポイントを確保している。…さあ、始めるぞ。」


 テンシ達が遠くに行かないうちに、接敵しなければ。トウカに移動速度を上げるバフをかけてもらい、脚のギアを一段階上げる。あのテンシの姿がどんどんと大きくなる。彼女の醸し出すオーラの圧力に負けないよう、心を強く引き締める。その勢いのまま、俺は双剣を抜き、テンシに先制攻撃を仕掛けた。


「うおおおおぉぉ!」

「…ふっ。下郎、いきなり攻撃とは…。ご挨拶ですね。」


 ガキン、と金属同士がぶつかった音が鳴り響く。俺の攻撃は、テンシの薙刀に完璧に防がれた。

 …だが、これは予想通り。


(今だ…!撃て、ハリ!)

《…『ピアシング・スナイプ』。》


 ボイスチャットの向こうから、静かに弾丸が放たれた。


「ぐわああああっ!」

「ま、マフーさん!?」


 針のように繊細な一撃が、テンシの付き人の胸を刺した。それは彼女を倒すまでには至らなかったが、九割以上のHPを削ることに成功した。非常に痛々しい場面ではあるが…ここで手を緩めるわけにはいかない。


「トウカ、追撃するぞ!」

「了解!『アタックプラス』!」

「…『電光斬』!はああっ!」


 俺は、トウカに強化してもらった双剣を構え、テンシに向かって突撃した。雷を纏った閃撃が、テンシに襲い掛かる。


「くっ…!『天の盾』!」

「防御スキルも使えるのか…!」


 それは計算外の行動であったが、俺達の強力な攻撃を防ぎきることは出来なかったようだ。テンシのHPが少し減っている。虫の息の味方を抱えたまま戦うのは、テンシといえど、きつそうである。


「ケンちゃん、この調子なら勝てるよ…!」 


 トウカの言葉と全く同じ気持ちを俺は抱いていた。やれる。勝てるという、手ごたえがある。俺達の練習は…向いている方向は、間違っていなかったんだ。


「二の矢だ…『双龍斬』!」

「くっ…!」


 俺の追撃は、テンシの鋭いバックステップに躱され、空を切った。そして、テンシはその勢いのまま、マフーを抱えて横に素早く移動した。


「『クイックシフト』…!」


 短距離を回避するスキル。

 同時に、さっきまでマフーが居た場所に射撃が打ち込まれた。


《外した…!》


 なんと、テンシは俺の攻撃を回避しつつ、味方のカバーまでこなしてみせたのだ。


「なんてプレイスキルだよ…!」


 勝てると思っていた、さっきまでの俺を殴りたい。改めて、今対峙している相手の強大さを感じた。


「マフーさん…一旦逃げますよ。回復スキル無しで接敵したのは、迂闊と言いますか、運が無かったと言いますか…。とにかく、今は戦うべきではありません。」

「は、はい。申し訳ございません、テンシ様…。」

「…逃がすかぁっ!」


 日和っている場合ではない。ここで有利を築き上げることが、この先重要なのだ。俺は脚に勇気を籠めて、逃げるテンシとマフーを追いかけた。マフーは衝撃から立ち直れていないようで、随分と移動速度が遅い。俺は彼女にあっさりと追いついた。


「もう一度…『電光斬』!」

「くぅっ!!」


 その攻撃は、またもやテンシに割って入られてしまう。


「くそ、何度も何度も…!」

「ケンちゃん、私に任せて。『ファイアボール』!」


 俺とテンシが鍔迫り合いしている中、横を熱気が通過していくのを感じた。視界の端から、炎の弾が飛んでいく。狙いは…。


「マフーさん!避けて!」

「くっ…。『ブリンク』…!」


 間一髪のところで、マフーが回避に成功する。敵二人が、ほっと胸をなでおろしたその時…。


《とどめ。…『ピアシング・スナイプ』!》

「いやあああああああっ!」


 視界外からの一撃を食らい、マフーの絶叫が響いた。なけなしのHPしか残っていなかった彼女は、たまらずダウンする。


「くっ…。やられてしまいましたか。マフーさん、あなたの屍は後で拾いますから…。それまで、さらばっ!」


 戦闘不能状態になったマフーを見捨てて、テンシはすたこらさっさと去って行った。彼女の姿はあっという間に小さくなり、追おうという気は起きなかった。

 俺がテンシに気を取られている間に、トウカはマフーの首に手をかけていた。


「ケンちゃん。私がヤるけど、良いよね?」

「お、おう…。」


 トウカはマフーの首を勢いよく捻り、極めて作業的に処置した。俺はハリが同じように処置されたことを思い出し、背筋が震えた。

 マフーがくぐもった声の断末魔を漏らし、その哀れな骸がフィールドに横たわった。


「まず、一人。…勝利に近づいたね、ケンちゃん。」

「そうだな…。」


 マフー…良く見たら、整った顔をしている。僧侶風の衣装と、無様にやられた姿が対照的で、背徳感をそそられる。


「ケンちゃーん?その死体がどうしたの?」

「わ、悪い悪い。なんでもない。」


 いかん。唐突に供給された栄養素に、思わずトリップしていた。今は対戦に集中しなければ。


「…よし。序盤から、相手のメンバーを一人削ることができた。これは単なる数的優位だけではなく、大きな意味を持つ。」

「そうだね。テンシのイグニッションスキルの発現条件の一つは、一定回数のバフを受ける事。相手のバフ要員が減れば、その分発現も遅くなるはずだよ。」


 幸先の良いスタートに、心が再び浮き立つ。


「ハリ、良くやってくれた。お手柄だぞ。」

《ぶい。》

《この調子で行こうぜ、みんな!》


 ボイスチャットの向こうのハリとツナ太も盛り上がっているようだ。


「…さあ、想定通り、テンシを引かせる事に成功した。また、二手に分かれて行動し始めるぞ。」


 気が付けば、エピックモンスターが出演する試合時間十分は目前となっていた。昨日の特訓の成果を発揮するときだ。


「ハリ、ツナ太。アスレチック地帯のイグニガーディアンは任せた!」

《おっけー。》

《おうよ!ハリちゃんは俺が護るぜ!》


 元気な二人の返事に、思わず笑顔になる。


「トウカ。俺達はイグニフェアリーを狩りに行くぞ。」

「うん!」


 俺達は頷き合い、森の奥へと駆け出した。


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