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第25話【心を一つに】

 夜飯後、俺達は再び集まって実戦練習をした。重点的に行ったのは、序盤戦術の安定した遂行、そして四対四の集団戦になった時の役割分担だ。

 本作のリリースから日にちが経ったことで、このゲームの序盤はただスキルを集めるだけでなく、相手のスキル集めの妨害を担当する役割が何人か居たほうが結果的に試合を有利に進められるという情報が広まり、戦略についての研究も進んだ。

 ツナ太さんは会社で仕事もしないでその情報を集めていたようで、序盤に狙った方が良いファーム場所…スキルや雑魚モンスターが集まっている場所を教えてくれた。俺達は、開幕からそのような場所に四人がかりで攻めて盤面を掌握することを徹底して練習した。その効果はてき面で、スキルを集める速度、レベルアップ速度が非常に早くなった。がむしゃらにプレイするだけでは、上達できない…情報の大切さを思い知らされた。

 ファームをした後の四対四の戦闘では、俺やハリは敵の後衛を狙う事を意識してプレイした。俺は『ステルス』のクールダウンが解消されて使用可能になるたびに後衛に飛び込み、ハリは高所に位置取りながら遠距離スキルを当てる。これは全ての相手に対して有効な訳ではないので、練習と割り切って試行を重ねた。そして分かったのは…。


「ケン君の『ステルス』、かなり壊れじゃないか。」

「俺も薄々そうじゃないかと思ってきました。」


 不可視状態からの一撃は、どんな手練れでも対処が非常に困難だ。一応、ステルス状態を看破するような対策スキルも存在するのだが、ドロップするかは運次第なので、そう都合よく相手側も持ち合わせている訳ではない。しかもこちらの固有スキルもバレていない状態からのスタートになるため、『初見殺し』的な理不尽さを持っている。


「人はそれを初狩りと言います。」

「微妙に違うと思うぞ。」


 トウカの言う通り、初心者狩りのように簡単に後衛を倒すことが出来たのは事実であった。ただし、これがテンシ達に通用するかは怪しい。彼女らは当然、こちらの手の内を知っているのだから。


「もしかして、テンシと一緒に遊ばなければ俺の『ステルス』がバレずに、楽に敵の後衛を倒せたという説はある?」

「…ケンせんぱい、策士、策に溺れちゃったね。ごぼぼぼぼ。」


 そんな愉快なやりとりを挟みつつ試合に没頭し、夜はあっという間に更けていった。


「…ふぁーあ。ねむ。」


 ハリが眠くなった時が、辞め時の合図。効果的な練習が出来た事に満足しつつ、俺達はテンションが高いままログアウトした。



 翌日、俺はトウカといつもの階段に並んで座っていた。それはもはや恒例行事となりつつあったが、今日の俺は一味違う。


「トウカ。今日は俺から議題を挙げさせてもらうぞ。」

「おぉ…ケンちゃん、珍しくやる気だねぇ!」

「俺はいつでもやる気さ。」


 トウカの眼が、興味に輝く。そこまで期待されるとやり辛いが…。


「議題はずばり、テンシとの対決が明日に控えた、今日…何を練習するか、だ。」

「ほほう。」

「昨日、テンシの一声で対決日が唐突に決まってしまった。もう時間は殆ど残されていない。今日、どんな狙いで、何をするかによって勝敗が決まると言っても過言では無いだろう。そして、俺達は負けるわけにはいかない…だろ?」

「そうだね。負けたら、テンシちゃんの謎の権力により転校…。張り切って、練習しなきゃね。昨日は、基礎的な戦術の練習は出来たし…。今日はやっぱり、アレですかー?」

「やっぱ、トウカにはお見通しか…。そう、エピックモンスター三体狩り。これこそが、テンシを倒す最後のピースだと俺は思っている。」


 それは何度も頓挫した作戦だった。試合開始から十分後に出現するモンスターを三体始末することで手に入る、固有スキルの強化。俺達の固有スキルは、どのような強化が可能になるのか…。それを確かめることは、中盤の戦略を立てる上で必要な事に思えた。


「そもそも、四人で前に出る序盤戦術は、強く出る事で相手を引かせて、安心してエピックモンスターを狩るためのものだったよな。発案者は桃香だし、覚えているはずだ。」

「うん。ケンちゃんこそ、覚えててくれて嬉しいなー。」


 不意打ちの笑顔にドキっとしてしまう。


「でも、ケンちゃん。あえて反論させてもらうね。その序盤戦術で引かせる事ができるのは、ランダムマッチで当たる有象無象だけ。だからこそ、あの時は提案したけど…今回、私達の相手はあのテンシだよ。素直に引いてくれるかも分からないし、呑気にモンスターなんて狩っている場合じゃないかもよ?」

「ぐっ…。」


 ドキっとさせてからの正論パンチに、一瞬返答に詰まってしまった。その緩急が効くことを分かってやっているのだろうか。だとしたら恐ろしい。

 だが、大丈夫だ。テンシとの対戦で、エピックモンスターを狩れるシチュエーションは想定している。俺は準備してきた説明を桃香に話した。桃香は相槌をうちながら、興味深そうにそれを聞いていた。


「ふむふむ…。なるほど…。それは確かに…。テンシを相手にしつつ、エピックモンスター狩りが出来るかも知れないね…!」


 俺の説明に桃香は納得してくれたようで、俺はほっと胸を撫で下ろした。彼女さえ口説き落とせば、こちらのもの。今日の練習が俄然楽しみになってきた。



「と、いう訳だ。」


 放課後、イグコネのVR空間の中で、俺はハリとツナ太に同じ説明をした。相変わらず何を考えているのか分からないハリと、表情に出やすいツナ太が対照的で面白かった。


「…せんぱいの作戦、とてもリスキー。正気じゃない。普通に戦ったほうが勝てる、かも。」


 辛口の評価。


「だけど…普通じゃないほうが、私達に、合ってる気がする。…私も、協力するよ。むん。」

「ハリ…ありがとう…!」


 ハリが可愛らしく気合を入れるポーズを取り、やる気を見せてくれた。ハリは、いつも俺達に協力してくれている。いつか、彼女のために恩返しをしてあげないとな、と思った。


「俺は…正直、真っ当に戦いたいと思うよ。でも、乗りかかった船だ。ケン君、キミの作戦に賭けよう!」

「ツナ太さん!ありがとうございます。」


 ツナ太も、彼にとって色々と納得のいかない事が多い中、俺達に合わせてくれている…。


「本当に、皆には感謝しかないな。…絶対、テンシに勝とう。」


 チームの目指す方向が一つとなって…決意を新たに、俺達は最後の練習に臨んだ。


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