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第24話【天上戯曲の対策】

―YOU WIN!


「どうやら、勝ったらしいな…。」

「全然、実感湧かないね…。」

「ぶ、ぶい…。」


 テンシの究極奥義が決まった後、俺達はいつの間にかロビーに戻されていた。皆、疲労困憊といった表情だ。…一人を除いて。


「お疲れ様でした、皆さん。…あれ。どうしたのですか?何かお顔が怖い…。」

「テーンーシーちゃーんー…!」

「は、はい…。」

「真面目にやれーっ!!!」

「ひぃーっ!すみませんでしたー!」


 トウカの当然の怒りが炸裂した。このこのー、と腕を振り回してテンシを叩いている。だが当の本人はちょっと嬉しそうにしていた。


「…こほんっ。えー、ゲーム中、私に多少の粗相があったことは認めます。しかし結果として試合に勝利し…。あなた達は情報を手にしたのではないですか?私の特別、ヘヴンなスキルの。」


 気を取り直して、テンシが言った。案外、冷静に状況を分析していたことに俺は驚いた。

 そう、彼女の言う通り俺たちは、貴重な情報…テンシのイグニッションスキルの発現条件を割り出すことに成功したのだ。


「ああ。『天上戯曲』の発現条件は、恐らく…二つ。一つ目は、一定回数以上のダメージを受けること。二つ目は…。一定回数以上のバフを受けることだ。」


 これなら、全ての辻褄が合う。さっきの試合で、テンシはこれでもかという位に攻撃を食らっていたが、全く発現する様子は無かった。そして、トウカのバフを何度も受けた末に、発現した。テンシが普段、周りにバフ役を置いているのも説明が付く…。

 俺の推測を聞いたテンシは、優雅に拍手をした。


「ふっ…。おめでとうございます、と言っておきましょうか。下郎。…しかし、イグニッションスキルは任意発動。あのまま、私がわざと発動しなかったらどうするつもりだったのですか?」


 それは、予測していた質問だった。


「いいや…。お前は、根は良い奴だ。仲間を見捨てたりはしないよ。だから…ちょっと卑怯だけど、仕込ませてもらった。」

「仕込み…。」

「そうさ。不思議に思わなかったか?ハリが、あまりにも無防備に相手に近づきすぎじゃないかって。…まぁ、放心状態のお前がどこまで周りを見ていたのかは分からないけど。」

「はっ、まさか…。あなた達、わざとやられている振りをしていたのですか!?」

「…ごめんね、テンシせんぱい。こうでもしないと、本気出してくれないんじゃないかって…。」

「キーッ!なんというヘヴンな戦略…。」


 テンシは縦ロールの髪を揺らして、地団駄を踏んで悔しがっている。やっぱり、口を開いたら残念なやつ…。


「ですが、気に入りましたわ。下郎。キング。そしてハリチャン。」


 あ、ハリだけ普通の呼び方なんだ。


「あなた達には、特別に天上親衛隊への入隊を認めてあげます。手続きはすぐに済みますので…。」

「いや、嬉しいけど…。ちょっと遠慮したいな、って。」

「キング!遠慮なんて、勿体ないですよ。だって、我が校へ編入出来るのですもの。あなた達にとって、プラスになるはずです。」


 ん?今、こいつとんでもない事を言わなかったか?


「へ、編入?」

「そうです!あなた達三人は、我らが藤の水高校に来てもらうのです!そして、毎日ヘヴンな学校生活を私と共に送るんですよ!」

「ええええええっ!?」


 驚く俺達を見て喜んでいるのと勘違いしているのだろうか、テンシは誇らしげにドヤ顔で胸を張っている。なんという暴虐無人さだろうか。仲良く遊んでいて忘れていたが、それがテンシなのだ。


「ハリチャンは中学校からですね。中高一貫だから問題ないです!」

「…ハリ、小学生…。」

「そのヘヴンな胸で!?」


 テンシにもお決まりの流れをやってもらったところで、しっかりツッコむとしよう。


「あのな、テンシ…俺達にも都合というものがあるんだ。そっちの高校に行くために引っ越しをしなきゃならないかもしれないし、勉強の進捗が合っているかも不安だ。そして、こっちの高校には友達が…トウカには、沢山いるからな。置いていくわけには行かないだろ。」

「…涙を拭きなさい。下郎。」

「と、とにかくだ!お前と友達になれたのは嬉しいが、転校は無理だって。」

「そうだよ、テンシちゃん。どんな権力があって言っているのか分からないけど、むやみに振りかざすものじゃないよ。」


 トウカの微妙にトゲのある言い方にも、テンシは動じなかった。


「ふっ…。なら、こうしましょう。私との対決で、あなた達が負けた場合…。我が校へ編入していただきます。」

「そ、そんな無茶な!」

「いいえ、これは決定事項です。拒んだ場合、BAN…ゴー・トゥー・ヘル、です。」


 テンシはサムズダウンをしながら言った。この天使、ノリノリである。


「めちゃくちゃだよ…どうする?ケンちゃん。」

「うん…。なあ、テンシ。幾ら何でも、めちゃくちゃだと思わないか?お前は、俺達にしかリスクが無い試合をさせようとしているんだ。しかも、おそらくお前が有利。賭けをするなら、オッズは何十、何百倍にもなるくらい傾くだろう。」

「…何が言いたいんです?」

「お前にもリスクを背負ってもらうぞ。例えば…俺達が勝ったら、お前を好きにさせてもらう。」

「好きに…へヴん!」


 こいつは何を想像したのだろうか。


「勿論、最低限のモラルは守るよ。だが、俺達は転校するかを賭けているんだ。それなりの仕打ちは、覚悟してもらうぞ。」

「…ふっ。分かりました。認めますよ、下郎。あなた方が試合に勝利した暁には…私の事を好きにしてしまって構いません。」


 良し、言質を取ったぞ。俺は心の中でガッツポーズした。


「勝手に決めてしまったが、二人は大丈夫か?」

「大丈夫!テンシちゃんを好きにするの、今から楽しみだな~。」

「…勝てば良い話だからね。問題ないよ。」


 頼もしい返事が返ってきた。トウカは、テンシに何をさせるのだろうか。なんとなく、えげつない気がする。


「それでは、ここで対決の日付を決めてしまいましょう。プレイヤーマッチの実装日…明後日、ですね。その日、決着を付けましょう。」

「明後日!?もう少し準備させてもらわないと…。」

「いいえ、下郎…。大サービスでイグニッションスキルも見せてあげたのです。さっさと準備してもらいますよ。」

「ぐぬぬ。」


 テンシが有無を言わさず話を進めてしまった。明後日までに、テンシの攻略法を見つけなければならない。


「…仕方がない。どうせ、延期は認めてくれないんだろ?」

「自身の置かれている立場を良く理解しているようですね。下郎。」

「分かった。明後日、プレイヤーマッチで決着を付けようじゃないか。」

「よろしい。ヘヴン楽しみにしていますよ、下郎。…それでは、これ以上の長居は無用ですね。ごきげんよう、皆さん。」


 そう言葉を交わして、テンシは残光を残しつつログアウトした。残された俺達三人に、祭りの後のような空気が流れる。


「…ちょっとしか遊んでないけど、つかれた。しょぼん。」

「ハリ、ごめんな。長話に付き合わせてしまって。」

「…良いよ。おはなし、楽しかったし。…どちらかというと、対戦中に、ぼっこぼっこにされたのが…ね。」


 そういえば、さっきの試合では彼女に辛い役目を負わせたのだった。貴重なハリのやられ姿、上手く映っているだろうか。後でリプレイをチェックしよう。


「ケンちゃん、なーにニヤついてるの?」

「べ、別に…。なあ、今日はもう試合をするのはこの辺にして、情報の整理と、今後の作戦会議をしないか。勝たなきゃいけない事情も出来た事だし。」


 賛成、と二人からへとへとの声が返ってくる。提案して正解だった。


「まずは、テンシのチーム情報。前衛はテンシ一人に任せて、他三人はバフ役に徹している。」

「得意としている戦術は、序盤からテンシが一人のバフ役を連れて、タッグで敵陣を荒らしていくスタイルだね。」

「そうだな。その荒らしに対応して戦っても、プレイヤースキルの差でやられてしまうし、かといって彼女らを避けてスキルを集めても、息苦しい展開になってしまう。序盤戦略の対応は初めに話しておきたいところだな。」


 そう自分で言っておいてなんだが、果たしてどう対応するのが正解なんだろう。序盤は、あのインチキイグニッションスキルの発現が不可能な時間帯なので、チャンスではあるのだが…。


「ねえ、ケンちゃん。前に試した、開幕から四人で前に出る戦術で対抗するのはどうかな?流石のテンシちゃんも、四人がかりに対して最初から無双できるほど強くはないはずだよ。」


 トウカが言っているのは、エピックモンスターを倒す狙いで色々な戦法を試していた時に行った一戦の事だろう。確かに、俺の『ステルス』は相手をかく乱するのに向いているし、ハリの『八咫烏』は序盤から火力が出せる。上手く行けば、相手の戦略を挫くことができるかもしれない。


「…よし。トウカの言った攻撃的な戦略で行こうか。次に、テンシのイグニッションスキルについて。ここからが本題だと言っても良い。『天上戯曲』は、未だに不明な点が多いスキルではあるが、とにかく発動中のテンシはめちゃくちゃな強さになる。それは薙刀の一振りで、ツナ太の防御系イグニッションスキルを貫通してしまうほどだ。加えて、さっきの試合では全てを消し去る破壊力を持つとんでも奥義を持っている事が判明した。真正面から太刀打ちするのは、無謀だと言える。」

「含みのある言い方。せんぱい、何か秘策がありそうだね。」

「まあな。しかし、そもそも発現させないのが一番の対策ではある。」

「発現条件は、一定回数の被弾と、一定回数バフを受ける、だよね。」

「ああ、推測ではあるけどね。テンシが嘘をついているとは思えないし、確定だろう。」

「…一番簡単な対策は、テンシせんぱいの周りを瞬殺する事、かな?」

「うん。シンプルだけど、一番効果的な作戦だな。俺のステルスや、ハリの遠距離攻撃に、トウカのバフをかけて相手の後衛を狙う。テンシも必死で守るだろうけど、二方向からは対象が難しいだろう。」


 この戦法の有効性は、テンシの対戦リプレイからも推測できた。彼女が天上戯曲を発現するまでの四体四は、テンシチームの極端な構成も相まって、一時的にテンシ側が押される形になる事が多い。そこを突くことが出来れば、敵の態勢を大きく崩す事が出来るだろう。


「良い感じに作戦が決まってきたな…。お、ツナ太さんがオンラインだ。」


 彼は俺たちと離れた位置にログインしてきた。俺たちがおーい、と呼びかけると、彼はその二倍の声量で返して、ドタドタと近寄ってきた。


「やあ、みんな!今日は残業が入っちゃって、遅くなっちゃった…。三人で何してたんだい?」

「ツナ太さん、こんばんは。実は、さっきまでテンシが居てですね…。」


 俺は事の顛末をツナ太に話した。彼は、最初は驚きを含めた大きなリアクションで反応していたが、段々と真剣な顔つきで、俺の言葉を聞いていた。


「…そんな事情が出来たのか。それは、テンシと…戦わなきゃな…。」


 ツナ太は、バツが悪そうに頬を掻きながら言った。テンシ対策の練習をやめたのは、ツナ太の一声があったからである。

 気まずい時間が流れるが…。やはり、この空気を変えてくれるのはトウカだった。


「ねえ、ツナ太さん。やっぱり、私達のタンクはツナ太さんしか居ないですよ。もし、一度テンシに挑むことを諦めたことに後ろめたさを感じているのなら、それは私達だって同罪。ツナ太さんが気にする事じゃないから!」

「そうさ。人間、真っすぐ前に進める訳じゃないです。気分やその場のノリで意見が変わることだってある。重要なのは、最後に笑える選択肢を取る事なんじゃないかな…なんて。」

「せんぱい…かっこいい。ぽ。」

「あ、あはは…。」


 トウカに乗せられて、俺らしく無いことを言ってしまった。でも、それがまごう事なき本心であった。


「…こんなに年下に頼まれて断るような奴は、ゲーマー失格だって。こんなにコロコロと気分を変えちまう俺で良ければ…もう一度、テンシを倒す手助けをさせてくれないかな。」


 返事は、言うまでも無かった。皆の顔が、自然と笑顔になる。


「よっしゃー!じゃあ、早速練習といこうか!」

「おう!…と、言いたいところだけど…。テンシのせいでタフな試合をしたから疲れちゃって。みんな、大丈夫か?」

「私は平気だよー!ハリちゃんは?」

「…おなかすいた。ぐぅ。」


 そういえば、夜飯も忘れてプレイしていたのだった。意識をすると、かなり腹が空いた気がする。空腹感は、バーチャル空間で栄養失調することが無いように、少し強めに感じるようになっているのであった。


「…ご飯食べてから、また遊ぼ。休憩タイム。」

「そうしよ!ケンちゃん、今日もどこかに食べに行こうよ。」

「オッケー。…という訳で、ツナ太さん。また後程。」

「…ケン君。さっき、ノリで意見変えて良いって言ってたよね?」

「は、はい…。」

「おじさんは疎外感で引退しそうだよ!」


 俺達は、暴れるツナ太をなだめつつ、それぞれが食事のためログアウトするのであった。


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