第23話【天上戯曲の正体】
もはや、そこに作戦など要らなかった。
「ム、ムチャクチャだ…。」
テンシの強さは圧倒的だ。アルティメットスキルを使うまでも無く、敵を蹴散らしている。それは彼女の固有スキル『デスペラード』…HPが低いほど強くなるスキルの強さもあるが、元々の実力の高さが凄まじいのであった。
「『天元斬』!『天元突』!…さぁ、迷える子羊達。次はどなたが相手なのかしら?」
「ひ、ひぃっ!こいつには敵わねぇ!一旦逃げるぞ!『ヘイスト』!」
大きな薙刀を自在に操り、次々に敵を薙ぎ倒していく。まさに天上の勇武。
「はぁっ、はぁっ…。ここまで逃げたら大丈夫だろ…。」
「…悪いな。これが俺の役目だから。」
「ぎゃああっ!」
俺は、テンシが取り逃がした敵を処理する簡単なお仕事。皮肉にも、『ステルス』を持つ俺にとっては天職であった。
《こっちも倒したよ!》
《ぶい。》
―YOU WIN!
トウカとハリはペアになって動き、安全にダメージを出せる環境を作る。まさに、隙の無いパーティ。
「お疲れさまでした、皆さん。…なかなかやりますね。」
「テンシちゃんも、お疲れー。とんでもない無双っぷりだったねー!」
トウカは、天真爛漫な笑顔でテンシを労った。その笑顔の裏に、何を隠しているのやら。
「さあ!次は、新しい作戦を試すよー。テンシちゃんと私で、敵のファームを荒らしに行くの!」
「…ほう。」
テンシの目つきが、変わった。
「ふふっ。良いでしょう、キング。…私に着いて来れるかしら?」
次の対戦相手が決まり、試合が始まった。
トウカとテンシは宣言通り、敵陣に猛スピードで攻めていく。戦姫と天使の共闘は、遠目で見ても迫力があった。
ぽつんと残された俺とハリは、顔を見合わせた。
「えーと…。俺達は、どうしよう?」
「…ファームしながら、遠くで見ていよ。楽しそうだし。」
そうしよう。トウカの狙いを邪魔するのもいけないと、ハリも感じ取ったようだ。
俺達は、彼女らに万が一の事があった時のために助けに入れるような距離感を維持しつつ、静観を決め込んだ。
―
速い。何という速さだ。ついて行くのが精いっぱい…。
トウカは、テンシと共にモンスターを倒しながら進軍していた。
「ほらほら!マフーさんならもっと早くモンスターを倒せますよ!」
「くっそー。絶対に食らいついてやるっ!」
二人のスキル集めは、段々と加速していく。気が付けば、あっという間にレベルも上がっていた。
「ふふん。敵は私達を避けてスキル集めをしているタイプのようですね。」
「そのようだね。…そろそろ、突っ込む?」
「良いでしょう!私達の力を見せつけてやるのです!…スンスン。あそこから敵の気配。突撃ー!」
テンシは薙刀を一払いし、木々の生い茂る森のエリアに駆けていった。トウカは彼女に付いて行きながら、これから戦闘が始まることを、ケンとハリにも伝えておいた。二人はいつでもサポートできる位置取りをしているようである。軽く感謝を告げて、目の前を走るテンシに声を掛ける。
「どうして、あっちに敵が居るって分かるの?」
「聞こえませんでしたか?微かに、スキルを使う音がしましたよ。…ほら、あそこです!」
テンシの言う通り、そこには4人でまとまって、ユニークモンスター…少し強めの敵を狩っている敵チームが居た。
トウカは、てっきり探知系のスキルで察知したのかと思っていたのだが、そうではない。プレイヤーとしてのテクニックで、相手プレイヤーの位置を特定したのだ。トウカは、テンシの底知れなさに身震いした。本当に、こんなプレイヤーを倒すことはできるのだろうか。
敵チームは、モンスターに対して最後の一撃を決めたところだった。良いスキルを手に入れたのだろうか。歓喜に湧いているのを、意地悪な顔をしたテンシが水を差した。
「お取込み中失礼いたします、迷える子羊達。そのような雑魚モンスターを倒して喜んでいるようでは…私達の敵ではございませんね。」
ギロッ、と言う音が聞こえそうなくらい、敵チームメンバーが同じタイミングでこちらを睨んできた。全員男のアバターで、モヒカンで世紀末な恰好をしている。そのリーダー格と思わしき、筋肉隆々の男が前に出た。
「なんだ?こいつら…。二人で俺達に挑んでくるなんて…。」
「兄貴、こいつ不死身の天使ですよ!巷で話題の、不敗伝説を築きあげている…!」
やはりテンシは有名人。彼女の無敗が崩れていないことに、トウカは安堵した。
「不死身、だあ?このガソリンタンク・ジョニー様を差し置いて…気に入らねえなぁ。」
「そ、そうっすよね!タンクなら兄貴が最強っすよ!」
「黙れ!!」
何が気に入らなかったのか、いきなり、ジョニーは太鼓持ちの子分を殴った。殴られた彼は、ゴムまりのように跳ねて、哀れに這いつくばる。
「俺はタンクで最強なんじゃない!この世界、イグニテラで最強なんだよ!次間違えたら、ぶっ殺すぞ!」
「へ…へい…。」
ジョニーは、自分の実力にそれほどの自信を持っているらしい。そんな彼らを、テンシは無表情に眺めていた。
「…茶番はおしまいかしら?」
「あぁん!?…へへ。良く見たらお嬢ちゃん方…。中々の上玉じゃねえか。その綺麗な顔、ぶっ潰してやるからよぉ!お前ら、俺に続けぇー!」
ジョニーは号令をかけて、4人全員でこちらに突っ込んできた。なんと相手チームは全員が前衛のようである。ジョニーはこん棒、他のメンバーも剣や槍を手にしている。彼らからの総攻撃を食らってしまったら、テンシといえど一たまりもないだろう。
「テンシちゃん!私が支援するから、逃げながらケンちゃん達が合流するのを…。」
「いいえ。この子羊達…。良い感じです。すごく…良い感じ。」
「は?」
てっきり「気に入りません」という言葉が続き、勇敢に戦うのかと思っていた。…良い感じ、と言ったのか。この子は。
「うへへ。」
「えーと、テンシちゃん…?」
彼女の顔を覗いてみると、女の子がして良い表情ではなかった。口元は不自然に歪み、眼はイってしまっている。たまに広告で流れてきてしまう、思わず目を背けてしまうような広告に出てくるキャラクターを同じ顔をしていた。
そのままテンシは、よろよろと敵に向かって歩いて行った。
「こんな敵と出会えるなんて。こんな理想的な、テンプレの三下と出会えるなんて。ああ…私、負けたらどうなっちゃうんでしょう。きっとぐちゃぐちゃヘヴンにされちゃうんだわ…!」
「ちょ…テンシちゃーん!帰ってきてー!?」
その時、トウカは直感的に理解した。テンシの望みは、「倒されること」。それは極限の戦いの中でのみ叶えられるものだと想像していたのだが、そうではなかった。彼女なりの価値観の中で、理想の敵であれば、それを成就できるのだ。
しかし、そんな事を許してはいけない。テンシを倒すのは、私達だ。
「『ガードプラス』!『スポットヒール』!…これで耐えられるかな。ケンちゃん!ハリちゃん!聞こえる!?」
《おう、どうした?》
『献身』を乗せたバフで、テンシを強化する。彼女自身の耐久力も合わさって、すぐに死ぬことはないはずだ。そして、トウカは次の一手を打った。
「テンシちゃん…やる気なくなっちゃったみたい?なの。正確にはちょっと違うんだけど…。とにかく、早く来て!」
―
「くそ!テンシの奴、何やってるんだ!」
「…捨てゲー(*)するようなせんぱいじゃない、と思ってたんだけど。」
誤算だった。俺やトウカのように、特殊な条件で栄養素を摂取している人は、周りに極力迷惑にならないようにするものだと思っていた。テンシは、違ったようだ。自分にぶっ刺さるシチュエーションの時は…周りが見えなくなってしまうのか。
俺達は彼女らの近くで待機していたので、すぐに合流することができた。
「トウカ!テンシ!無事か!?」
「二人とも!早かったね。…見ての通りの状況だよ。ああ!また死にそうになってる。『スポットヒール』!」
そこには、おそまじい光景があった。
「ああああへあへあへあヘヴンヴンヴン、んほほとぶ。」
「何だこいつ!殴っても殴っても死なねぇ…。しかも気持ち悪い顔しやがって…。」
男四人が、直立不動の女一人をボコボコに殴っている。しかし、HPは中々減らない。減ったとしても、トウカの強力な回復で満タンにまで回復している。絵面は最悪だが、これではどっちがいじめられているのか分からない。
「そうか…。トウカとテンシ、二人で順調にファームしていたからレベルも相手を上回っている。そして固有スキル『デスペラード』による耐久力、トウカのバフで、まさに不死身状態になっている、という訳か。」
「感心している場合じゃないよ!…ほら、敵がこっちに来る!」
モヒカン達は、ようやく俺達の存在に気付いたようだ。殴っても死なないテンシを無視して、まずはこちらを始末しに来た。まずい。テンシは放心状態。これでは三対四だ。
「…だが、俺達もモンスターを狩って、レベルは高い状態だ。勝ち目はある。…いくぜ。『雷刃剣舞』!」
俺は最初から強力なスキルを惜しみなく放ち、決着を付けに行った。雷を纏った双剣が狙うのは、先陣を切っているリーダー格の大男…ジョニーだ。
「そんなへなちょこ短小ブレード…。俺様には効かねぇよぉ!」
舞うような連撃で、ジョニーを切り刻んでいく…と思われたのだが、全く斬った感覚が無い。まるで錆びついた包丁で分厚いゴムを切ろうとしているようだ。
「どういう…ことだ…!?」
「兄貴の固有スキルは『世紀末ボディ』!一定以下のダメージを全部カット…ってぐほぉ!」
「全部説明する馬鹿がいるか!」
「す…すみません…。」
手下がご丁寧に説明してくれたお陰で、手品のタネは解った。一定以下のダメージ…つまり、弱いスキルや、強いスキルでも細かい攻撃を連続して与える今のような攻撃は効かないと言う事だ。俺の双剣は手数で攻撃するタイプ。相性が悪い。…だが、俺たちの切り札なら…!
「ハリ!あいつは大きな一撃に弱いぞ。かましてやれ!」
「…ぐっ…ん…こいつらが、邪魔…!」
「ケンちゃん、なんとかしてぇ…。あんっ!」
トウカの嬌声に振り向くと、ハリとトウカの周りにモヒカンどもが5,6人ほど、ワラワラ群がっていた。俺がジョニーに手間取っている間に、囲まれていたようだ。心のどこかでセンシティブな事になっていることを期待していたが、全くそんな事はなく、モヒカン達は正当で紳士的な方法による攻撃でハリとトウカをボコボコに叩いていた。
…ん?
「なあ、トウカ。このゲーム四体四だよな?なんでこんなに敵チームのプレイヤーが居るんだ?」
「こっちが…聞きたいよっ!…いやぁっ!」
「せんぱ…いっ…!たす…け………んっ!」
うん…。良い栄養素だ。まるで英傑夢想で女武将を使って、雑魚敵にわざとやられている時みたいな気持ちだ。トウカは見た目で言えば夢想シリーズのキャラに居ても違和感が無いし、ハリは遠距離キャラクターだからしっかり構えていないとスキルが打てない。みんな違って、みんな良い。
「っていやいやいや。今はそんなことを考えている場合じゃない…。二人とも、今助けるぞ!『電光連斬』!」
「ぐぎゃあああ!」
俺は仲間を傷つけないよう気を付けながら、双剣を振るった。剣の軌跡から電撃が発生し、モヒカン達に効率的にダメージを与えていく。すると、攻撃を加えた敵が、ポンと音を立てて消滅した。少しだけ残った敵も、トウカやハリが処理して、なんとか窮地を脱したかに見えた。
「奇妙なスキルだったが…これで一安心かな。」
「安心だと?何勘違いしているんだぁ!?」
「なっ…!?」
周りを囲む木々の隙間から、新手のモヒカンがワラワラと現れた。これではキリがない…!
「ぎぇへへ!説明しよう。さっき、ユニークモンスターを倒して手に入れたスキルは『影分身』!質量のある分身を出して、敵を襲わせることができるのさ…ってんぼっ!」
「だからお前はいちいち説明するなって!」
なるほど。分身のお決まりとして、本体が居るわけだ。しかし、ここは見通しの悪い森のエリア。逃げながら分身を出していると思われる、本体を見つけるのは至難の業。それに…。
「オラオラァ!俺様の事を無視して、モヒオの事を探そうと思っている訳じゃないだろうな!?」
「ぐあっ!」
敵の親玉、ジョニーが自由に俺達を動かせてくれない。かといって、ジョニーを相手しようとすると…。
「ケンちゃん!また囲まれちゃったよ…!」
「ヒャーハハ!良い声で鳴いてくれよ~?」
「ん…あっ…。」
あっと言う間に、可憐な女子たちが栄養素にされてしまう。
「畜生、どうすれば良いんだ…!」
俺が頭を抱えていると、ポコっ、と間抜けな音が聞こえてきた。音の方向を向くと、完全に腑抜けになったテンシが、ジョニーの腕を力なく殴っていた。もはやそれは握りこぶしを当てていた、という位のやる気のなさである。
「な、なんだ、おめぇ!?」
「こっちもぉ…攻撃してぇ…。」
「ひっ…!」
だめだこりゃ。あまりの惨状に、匙を投げたくなる。いっそのこと、降参してしまうか…。
待てよ。テンシ…。
「トウカ、俺達が来る前にテンシは結構な回数を殴られていたんだよな?」
「そうだよ…んっ!…それがどうかしたの!?」
それならば、何故、『天上戯曲』は発動しないのだろうか。やはり、ダメージを受けた回数以外にも隠された条件が…?
俺はリプレイで見た、テンシの無双っぷりを思い出す。人が変わったように冷酷な表情で薙刀を振るう、あのモードなら、この状況を脱する事もできるのかもしれない。しかし、肝心の発現条件が分からない。
「オラオラ!どうしたぁ!」
「くそ…!」
「ケンちゃん、なんとかしてぇ!」
考えている間にも、じわじわとHPが削られていく。考えろ、俺。この状況を打開するには、あそこで呆けているテンシが覚醒する以外には無い。
もう一度、リプレイで見たテンシを思い出し、俺達の現状の相違点を考えてみる。
―ふふん。計画通りに事が運ぶと気持ち良いわね。さあ、今こそ攻めるわよ。…オーダー:へヴンターイムッ!
テンシの戦略は、その強靭なフィジカルを盾に序盤から強欲にスキルを拾いに行き、その勢いのまま相手に速攻を仕掛けていくスタイル。この試合でも、トウカと一緒にそれをなぞっている…。
―ん?テンシ、いくらなんでもダメージ受けすぎじゃないか?他の奴らは後ろでバフしてるだけじゃないか。
―敵の前衛は薙刀の彼女一人で、他の人は後衛のようなのですが…なんというか不気味な感じです。
…そうだ。テンシの味方は、トウカのようなバフ要員で固められている。これは、もしかすると…。
俺の頭の中に、流星のごとく煌めく道筋が、勝利を掴むための発想を描いた。
「トウカ!バフだ。バフをかけるんだ!」
「バフ、かけてるよっ!でも、防御で精いっぱいで…。」
「違う!テンシにバフをかけるんだ!」
「え、ええええええっ!?」
トウカが驚くのも無理はない。使い物にならない置物と化した不死身の天使に、バフをかけろと言うのだ。バフをドブに捨てろと言っているようなものである。しかし、この方法に賭けるしかない。
「ハリ!俺と一緒に、トウカを守るぞ。良いな!」
「…せんぱいが、そう言うなら…っ!…『ラピッド・ショット』!」
俺とハリは、ワラワラと湧いてくる分身に対して適切にスキルを回し、処理していく。分身も無限に湧いてくるわけじゃないので、相手に隙が出来るタイミングがある。その時は、ジョニーと彼の太鼓持ちだけを相手すれば良いので、トウカもある程度自由に動くことが出来るのだ。
「トウカ、今だ!テンシにありったけのバフを!」
「ケンちゃんの事だから、考えがあるんだよね…。分かった、クールダウンが上がったスキルから順番に使っていくよ!『スイフト』…『ガードプラス』…『アタックプラス』…!」
トウカは、少しの隙を見つけては、凄い速度でテンシにバフをかけていく。流石のプレイヤー性能、と言うべきだろうか。そのスキル回しは、オンラインゲームで身につけたものだろう。
しかし、バフがテンシに集中するという事は、俺とハリはバフ無しで戦わなければならないという事だ。
「ギャハハ!こいつらバカですよ。あの突っ立ってるアホにバフかけて、どんどん追い詰められてます!」
「ククク…。おい。お前ら…。あのスナイパーの小娘を狙え。今、集中砲火すればひとたまりもないはずだ。」
「さっすが、兄貴!…覚悟しろよぉ!小娘ぇ!!」
「させるか…!『電光連斬』!」
ハリを狙う相手の集団に向かって、俺はスキルを放ったのだが…。無常にも、それはゴムのような弾力を持つ巨体に阻まれた。
「ハリィィィ!!」
「…いや…せんぱい……いやあああぁっ!」
ハリの悲痛な絶叫が、森の中に木霊する。
やられた。流石の彼女も、大軍に対しては力を出し切ることが出来ず…戦場に散ってしまった。
「ハ…リ…。」
その声が聞こえたのか、テンシが僅かに反応した気がした。その表情は、俯いていて伺う事が出来ない。
「次は小僧。お前だ。気が触れて意味不明な事をしている支援のガキと、木偶の坊の天使のガキは後回しで良いだろう。」
くそ…。次に死ぬのは俺の番って訳か。じりじりと滲み寄ってくる、モヒカン達。そして獲物をロックオンしたライオンかのように不敵に笑う親玉のジョニー。ここまでか…。
「助けてくれ…。トウカ…!テンシイィィイィ!!」
「げ…ろぅ…。」
俺の叫びが通じたのだろうか。その時、世界が黒に染まった。どこかで見た光景。だが…体験するのは初めてだ。
「な、なんだ!?」「どうなっているんだ!?」
三下共が慌てふためく様子を見て、俺は口角が上がってしまう。もう、こいつらは終わりだ。
「…下らない三文芝居を見せていただきましたが…。幕引きの時です。迷える子羊達…。」
白髪の堕天使が、神々しさを放って降臨した。『天上戯曲』が発現したのだ。
「ど、どうします!?兄貴…!」
「ちっ。どうせ見かけ倒しさ。俺達の得意戦術…。物量で押せば、勝てるはずだ。おい、モヒオ!隠れて無いで出てこい。本体と分身で、一気に攻めかかるぞ!」
ジョニーは怖じ気づくことなく、冷静に指示を出した。ただの脳筋集団だと思っていたが、考えを改めよう。彼らは、良くやった。しかし、圧倒的な力の前では、全ては無力。
「野郎ども!最後の戦いだ。全軍突撃ぃいいぃ!」
「うおおおお!!」
神に向かって突進する、愚かな軍団。テンシは、それを見下ろして、冷笑した。
「ふっ…。今宵の子羊達は、少々数が多いようです。纏めて片づけて差し上げましょう…。」
テンシが天に掲げた薙刀に、漆黒の光が燦々と集まってくる。彼女の絶大な魔力が、地鳴りと風圧を呼ぶ。それは世界の終わりを連想させる光景だった。
「我が威光に滅びなさい。…『業天滅世』!」
テンシは、力の集まった薙刀を一気に振り下ろした。黒の力が、薙刀の刃先から奔流となって大地を揺るがし、
空気を裂く。それは地表のあらゆるものが一瞬にして「無」に還るような質量を持っていた。
声も無く、テンシの近くに居たモヒカン達が消えていく。鉄壁の防御を誇っていたジョニーも、その力の前では石ころも同然であった。
そして、テンシの凶刃は、俺達にも容赦なく襲ってきた。
「あのー。我々も巻き添えなんですけど…。」
「ケンちゃん。今までありがとう…。ううっ。」
この試合で見た最後の光景は、トウカの複雑な感情の入り混じった笑い顔だった。




