第17話【都合の良すぎた戦場】
―翌日
「もう。視ちゃん、なんでそんなに怒ってるのー?ハリちゃんは無事に仲間になったじゃんさー。」
「…別に、怒ってないよ。」
あの後、ハリは俺の事を優しい人だと勘違いしたまま気に入ってくれたみたいで、フレンド申請に応じてくれた。
《…あんなに熱い試合、初めてだった。作戦の作戦のぶつかり合い、って感じ。…せんぱい、優しかったし…。…お連れの、変な名前のせんぱいは、ちょっと怖かったけど…。また、やろうね。ケンせんぱい。》
昨日はもう疲れたみたいで、早速チームを組むことは出来なかったが、今日からは一緒にプレイできるだろう。桃香とはまた違ったミステリアスな魅力のあるハリと知り合いになれて、俺の心はウキウキだった。…だが、いつものように階段に横並びに座っている幼馴染に対しては、不信感が募っていた。
「怒ってはいないが…。説明が足りてないんじゃないかって思ってるだけだ。」
「何が足りて無かったのかなー?話してみ!」
桃香は挑戦するかのような眼差しを向けてきた。いいだろう。昨日のゲームの謎に対する俺の推理を、授業中に考えてきたので披露してやろうか。
「まずは、俺が感じた『謎』について。高島と平山。あいつらは何だったんだろうか。」
桃香の連れてきた、脳筋二人。そのワードが出た瞬間、トウカの眉がピクリと動いた。
「何って…。視ちゃんも見たでしょ?アグロ戦術でハリちゃんのファームを減らして、さらに囮役にもなってくれる優し~いお友達じゃない!」
桃香は飄々と答えた。
「最初は、俺もそう思った。実際、その意味合いも大きかったと思うけど、それだけじゃない。なぜなら、囮だけならツナ太さん達に頼んでも問題ないはずだからだ。」
高島と平山が出来た程度のアグロ戦術や囮であれば、ツナ太らならより高度に実行できるだろう。つまり、囮戦術そのものは主目的じゃないはずだ。
「そこで俺は考えた。あいつらが絶対に必要な理由。…それは、『内部レート』だ。」
「へぇ…。」
内部レート。それは、対戦相手をマッチングする時に内部参照している、表には出ないレーティング…強さを示す数値の事だ。例えば、内部レートの平均が1000のチームは、同じ1000程度のチームとマッチングしやすくなる。
「多分、高島と平山の内部レートはボロボロの状態だったんじゃないかな。ガチ勢のツナ太さん達とチーム組んでいる時より、相手が弱かったし。道理で、昨日は全勝できた訳だよ。」
「それでー?弱めの人とマッチングするなら、ハリちゃんとはマッチングしにくくなるんじゃないの?彼女、すっごく強いよー。」
「ハリ、一人とはマッチングしにくくなるだろう…。だけど、周りの人を含めたら、どうかな?」
「…!」
桃香が息を呑んだ。俺の予想は合っている。そう確信できた。
「正直、サービス開始したばかりのゲームで、すんなりスナイプ出来た事が不自然だったんだ。何か理由が無い限り、数戦でマッチングする訳ないよ。」
「ふふ。何か、嬉しいな。視ちゃんが私の事、お見通しなの。」
「…まあ、段々とお前のやりそうな事は分かってきたからな。やるからには、完璧を目指す奴だよ。お前。」
トウカは表情を緩ませ、静かに微笑みながら聞いている。
「…ハリは、チームメンバーをXで募集していた。面子が集まる事の方が珍しいような募集だ。その気になれば、ハリのチームメンバーをコントロールする事が出来る。要するに、桃香の知り合いで内部レートの低い初心者をハリのXに突撃させて、チームを組ませたって事さ。これで、内部レートの低いチームが二つ、完成する。マッチングする可能性は高くなるわけだ。」
「ちょ、人聞きが悪いなー。突撃じゃないよ。正当な手順を踏んで、組ませてもらったんだよ。」
「…認めるんだな?」
「ぐっ…。そうだよ。視ちゃん、名推理。あの試合の敵チームは、ハリちゃん以外皆知り合い。あ、味方のチームも知り合いか!あはは。」
「いや、笑えねぇって。なんだよその執念…。」
昨日、この可能性に思い当たった時、背筋が震えた。きっかけは、ハリのチームの戦績を見直した事だ。勝率自体は、ハリが無双していたから高かったのだが、味方は全員0キルが基本で、良くて1キルという地獄のチームが続いていた。…ハリが不憫でならない。
「もう一つの謎は、『都合が良すぎる』戦場の謎だ。」
―なんで、って…。…勘、かな…。…この戦場、都合が良すぎる、から…。
ハリはそう言っていた。
「あの試合の内容は、全て桃香の台本通りだったんだろ。馬鹿二人が突っ込んで、さっさと2キルする。潤沢にファームしてレベルを上げ、ハリの射撃に耐えられるようにする。初期アバター君が都合よく現れて、足止めをする。ハリは、チームメイトの決死の覚悟…これも台本だと思うと不憫だが…それに応えるために、狙撃ポイントをあまり動かさず、射撃を続ける。これによって、俺がハリに安心して突っ込める。ここまで、全て桃香の指示通り…。全員グルだったんだ。」
「…。」
言葉にして、内心はやるせない思いで一杯だった。俺が桃香の掌の上で転がされていたのは、まあいい。だけどハリの気持ちはどうなるんだ。変な奴らと組まされたと思ったら、味方は全く役に立たず、挙句の果てには台本通りの三文芝居に踊らされ、殺される。
「桃香。俺だって、済んだことをいつまでもネチネチ言うつもりはない。だが、次回からはやり方を考えよう。いいね?」
俺は素直な気持ちを桃香に伝えた。だが、それに対する返答は意外なものであった。
「あの~…。お話としては面白かったんだけど…。ちょっと誇大妄想過ぎないかな…。私、そんなにひどい人だと思われてたの?ちょっとショックだな、たはは…。」
「え?」
妄想、だって?そんなはずは…。
しかし、桃香の悲しそうな顔は、道化を演じているには真実味を帯び過ぎていた。
「視ちゃんの話を聞いて確かに、上手くないプレイヤーと組ませちゃったのは申し訳ない事をしたなって思ったよ。マッチングを合わせる目的もあったけど、ハリちゃんも一緒にプレイできる人が出来て、喜ぶかと思ったの。」
脳裏に、ハリの寂しいXアカウントが浮かんだ。珍しく人が集まった彼女は、どんな気持ちになっただろう。きっと、マイナスの感情ではないはずだ。
「でも、試合の内容については皆に指示してない。あ、高島くんと平山くんには、アグロ戦術で突っ込んでとは言ったけどね。それ以上の指示はしてないし、敵の子たちにも自由に遊んでって言っただけだよ。」
「そ、そうなのか…?」
「うん。高島くん達が暴れてくれれば、ハリちゃんが狙撃してくれて、その位置さえ分かればケンちゃんが突っ込んで、なんとかしてくれるって思ってたからね。実際そうなった、でしょ?」
「で、でも…そうだ、あの初期アバター君は何だったのさ?あの迫真の演技で、都合よく足止めしてくれる事、ある?」
「田中くんの事?あれは、びっくりしたよね…。後から聞いたんだけど、ハリちゃんの事、一目惚れしちゃったんだって。あはは。彼女、可愛いからねー。だからあれは演技じゃなくてマジだったって訳。」
改めて、昨日の試合を思い返してみる。それが台本ではない事に納得性を持たせる出来事は、色々あった。まず、数々のアクシデントに対する桃香の反応は、芝居ではないリアルさがあったし、対応の判断を俺に委ねていた。次に、スナイパーに対する平山と高島の反応だ。彼らがスナイパーに気付かないふりをすれば、もっと簡単に位置を特定できたはずなのだ。
「えーと、つまり桃香の作戦…名前なんだっけ?」
「ハリの全身の毛穴にハリを埋め込んでハリ地獄にしちゃおう大作戦!」
「…絶対違うけど、まあいいや。その内容って、ハリのチームメンバーを用意してマッチングしやすくして、囮に突っ込ませてスナイパーの位置を掴むっていう…それだけ?」
「そうだよ!上手く行ったでしょー。」
桃香はあっけらかんと言った。
「なあ、これは前にも言ったけど、俺達がハリのXに返信して、直接チームメンバーになれば良かったんじゃないの?」
「それじゃあ駄目だよ!なぜなら…。」
俺はゴクリ、と息を呑む。
「こっちからヘコヘコと頭下げてチームメンバーになって~なんて悔しいじゃん。私達の方が強い!ってことを見せつけた上で、向こうからお願いしてくる位じゃなきゃ、ね!」
俺の桃香観が、また一つアップデートされた。こいつは、真っすぐに見えてひねくれている所がある。




