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第13話【不死身の天使】

 俺にとって激動の展開があった学校から帰宅後、俺は、気付いてしまった。

 好きなだけ戦闘不能になったトウカを起こす権利を得たのは良いが、肝心の死体を眺める権利は貰っていないのである。

 改めて、ツナ太が死んだ時を思い返してみる。

 びくん、と跳ねた巨体。呻き声。足元に転がった死体。…良い。

 それを、トウカに置き換えてみる。制服を着た桃香ではなく、凛とした戦姫のトウカに。

 再起不能になった瞬間、生前の可憐な姿が台無しな仰け反りポーズ―俺の大好きな格闘ゲームのKO演出のような―で最期の力を振り絞るも、力尽きて仰向けになる。その時に出てしまった色気のある吐息交じりの声にならない声が断末魔だ。そして、その後は無様な姿が戦場に残り続ける…。…凄く栄養素だ。


「うむ。復活待機状態も良いけど、やはり死体を眺めなければならない。」


 だが、復活できるのに見殺しにしてしまってはだめだ。それはチームに迷惑がかかるし、鋭い桃香の事だから真実に気付いてしまうかもしれない。…いや、最初の試合みたいに上手い具合にトウカを一人にしたら良いか?しかし、トウカとの約束が…。でも…。頭の中で思考がぐるぐる回る。 


「なんだか、意味わからん展開になっちゃったなぁー。」


 原因は俺なんだけどね。


「…とにかく、ログインするか。イグニッション・コネクトに!」



《おかえりなさい!今日のログインボーナスは、学校のローファーです!受け取るには…》


 まずはみんなのログイン状況を確認してみよう。メニューを開いて、フレンド欄を確認する。一番上にツナ太が対戦中であると表示されていた。他の知り合いは、まだ居ないようだ。

 うーん、しばらく暇だ。ということで、ツナ太の対戦履歴でも見てみることにする。…今日ずっとやり込んでる。そういえば有給を取ったと言ってたな。


「ん…。なんだこれ。」


 一つだけ、圧倒的大差で瞬殺されている試合があった。他の試合は、流石ツナ太と言うべきか、ほぼ勝利か僅差での負けの範囲に収まっているだけに、その試合は異質に見えた。試合の詳細を確認せずにはいられず、吸い込まれるように指がウィンドウに動いた。


「む。この相手のプレイヤー、4キルもしてるな。こいつにやられたってことか。名前は…tenshi。テンシ、か。」


 何となく、強者の匂いを感じ取る。さらにウィンドウを操作し、テンシとやらの対戦履歴に飛んでみる。


「は、ハァ!?意味わかんねーよ!」


 思わず大声が出てしまった。テンシは、履歴で確認可能な直近20試合で一度も負けていない。それだけではなく、一度も死んでいないし、一人で相手全員を倒している。まさに圧倒的。まさに無双。

 俺も、最初の試合では4キルできたが、あれは色々と特殊な状況だったので起きた事だ。その後に行った試合ではトウカ達が居なかったのもあり、そう上手くいかなかった。むしろ足を引っ張ってしまった試合も多い。このゲームで死なずに4キルする事の難易度は身に染みている。それだけに、このテンシとかいうヤツの成績は異常である。

 テンシの戦績を眺めているうちに、ツナ太のステータスが「対戦中」から「オンライン」へと変わった。


「いよう!ケン君。やっとインしてきたか。…っと、やっぱそのプレイヤーを見つけちゃったか。」


 ツナ太は、後ろから話しかけてくるなり俺の見ている画面から概ね察したようだった。


「この人、そんなに強かったんですか?」

「ああ…。でも彼女、最初は強くなさそうに見えるんだ。攻撃したらダメージも通る。だけど、ある一定のHPを下回った時から全くダメージを受け無くなって、ほぼ無敵になるんだ。そんなプレイスタイルが、巷じゃ『不死身の天使』なんて言われて、早くもSNSで話題になってるよ。」


 不死身の天使。それが彼女の通り名か。


「…なんか、昔のゲーセン文化みたいでワクワクしますね。」

「あはは!や、その通り。ケン君は世代じゃないと思うけど、分かるか。この感覚が。」

「勿論…。そういや、彼女って言ってましたけど女の子なんですか?」

「そうそう!中々可愛い女の子だったよ。だから…って言ったら今時良くないんだけど、防御力は大したことなさそうな感じがしちゃうんだよ。そこも罠だったんだなって思う。」


 ふぅ~ん。と心の中で思う。

 どんな子なのかは分からないが…不死身の天使の死体を眺めてみたい。不死身なんて大層な通り名を持っているのに死体として転がっている様子は、非常に栄養素であるに違いない。そんな想像をすると沸々と闘志が湧き上がるのを感じた。


「よし。テンシさんの連勝記録、俺達で止めましょう。もっと詳しい情報はありますか?」

「そう来なくっちゃ!情報は…うん、実際に見てもらった方が早い。この試合のリプレイを見てくれ。」


 ツナ太はそう言うと、プレイ二日目にしては慣れた手つきで自分のメニューウィンドウを操作した。すると、大きめのウィンドウにツナ太のチームメンバーらが映し出された。ツナ太はソロで対戦に潜っていたらしく、他の三人は知らない顔ぶれであった。

 本作におけるリプレイは、AIプログラムによって適切な視点からの画面を映すようになっている。操作は巻き戻しや停止といった基本機能のみで、その一つの視点からしか試合を見ることは出来ない。自由視点のリプレイが実装されれば、非常に栄養素だったのだが…。それは流石に贅沢といったところか。


「おっ。映った。こいつがテンシ。」


 画面が変わりツナ太が指さしたのは、顔つきに自信が溢れている勇壮な美少女であった。金髪縦ロールの髪型に大きなリボンが華やかであり、気品の高いお嬢様といった雰囲気を感じる。そして驚くべきはその衣装だ。白百合の花びらが折り重なったような純白のドレスは、背中や胸元を大胆に見せてせているものの、その芸術作品のような美しさによってやましい感情よりも神聖で拝みたくなるような気持ちになってしまう。背中には大きな6枚の羽が身体から少し離れて浮くように付いており、まさに大天使のような風格を醸し出していた。


「凄いアバターですね…。めっちゃ課金してそう。」

「かもね。良い所のお嬢様って感じだし。ほら、周りの子もフル課金アバターだよ。なんかそういう集まりなのかも。」


 ツナ太の言う通り、テンシのチームメンバーもフル課金アバターで、それぞれが学生服シリーズのバリエーション違いを身に着けていた。全員が白を基調としており、まるで天使の使いのようである。


「やっぱり、ゲーミングとお嬢様は切っても切れない関係ですよね。」

「そうなの?…さあ、試合が始まったぞ。こいつらは最初から面白い戦術で仕掛けてくるから見てくれよ。」

「…ほう。」


 試合が始まるや否や、テンシともう一人のプレイヤー…マフーが、自陣近くのスキルやモンスターには目もくれず真っすぐに敵陣に突っ込んで行った。定石では、まずは近場でスキルをゆっくり集める事から始めるのだが…?


「読めましたよ。要はアグロ(※1)向きの能力を持っていて、それで開幕から戦いに行って初見殺ししてるってことですね?」

「うーん、近いけど惜しい。彼女らの戦略はもっと高度だよ。」


《さあ、行きましょう。マフーさん!》


 テンシは純白の薙刀を振り回し、戦場の中央からツナ太チームの陣地の近くのモンスターを狩り始めた。名前やビジュアルとは裏腹にゴリゴリの武闘派だ。なかなか強烈な絵面である。


「何故、わざわざリスクを冒して敵の居るエリアまで…。…まさか。」

「そう。これは俺達が安心して取得できるスキルを削る作戦なんだ。実際やられてみると、野良四人の突貫チームというのもあって、どう対処して良いか分からなかったよ。あぁ、今思い出しても悔しいなあ。」


 実際、画面に映るツナ太チームは戦うべきか無視してスキルを集めるべきか迷っているようだ。結局、定石通りスキル集めを優先したようだが…。


「ツナ太さんのチーム、窮屈そうですね。普段スキルを集めている場所がテンシ達に削られて、なけなしの安全地帯を二人以上で探索している効率の悪い状態になっている。だからといって今更戦いに行くのも、それで負けたら戦犯ものだから初めましてのチームではやりづらい。」

「こうなると、もう相手の術中にハマっているようなものだよね。あとはグロ画像だよ…。」


 ウィンドウ下部のタイムラインを見ると、もう試合の三分の二を見ていることになっている。残りの時間で四人全員を倒すということか…。


《チョック、みんみん。スキルの状況はどうですか?》

《テンシ様をお守りするスキルは揃いました。十分戦えるかと。》

《右に同じでございます。》


 二人が応答すると、テンシは上機嫌で鼻を鳴らした。


《ふふん。計画通りに事が運ぶと気持ち良いわね。さあ、今こそ攻めるわよ。…オーダー:へヴンターイムッ!》


 そして、テンシは片手で天を指し、大真面目な表情で高らかに宣言した。


《決まった…。》


 思わず真顔になる。

 いや、1カメ、2カメ、3カメとか良いから。無駄に色々な所から映さなくて良いから。


「えーと、これがグロ?」

「ある意味そうだけど、これからだよ…。」


 画面では、オーダーを受けたテンシのチームメンバーが続々と集まってきた。四人が集団になって次から次へとフィールドを駆け回り、ツナ太のチームメンバーを探しているようだ。

 そして、運悪く二人が見つかった。


《さあ、迷える子羊さん達。私の手で天国へ逝かせてあげましょう。…ゴー、トゥー、……ヘヴゥン…。ふ。》


「ちょっと待てい!いちいち何を恥ずかしい事を言っているんだよ、こいつ!」


 さっきまでテンシに対して拝みたくなるとかいう感想を抱いていたが、撤回だ。清廉な天使なのはガワだけで、中身は間違いなく残念な悪魔だ。


「いちいち突っ込んでたら進まないぞ。因みに昨日のケン君も大概だったよ。…ほら、戦闘が始まるから。ここは俺のチームメンバーの二人がよくやったんだ。」


 聞き捨てならない言葉が聞こえてきた気がするが、気を取り直して画面にもう一度集中する。

 ツナ太の言う通り、彼のチームメンバー二人はテンシの攻撃をよく避けて、味方の方へ向かって行っている。このまま行けば合流出来て、四対四の戦闘が出来るだろう。何なら、二人の攻撃のほうがテンシに当たっているくらいであった。威力の大きい一撃は避けているが、細かいスキルの被弾が多い。

 そこで、何となく違和感を覚える。


「ん?テンシ、いくらなんでもダメージ受けすぎじゃないか?他の奴らは後ろでバフしてるだけじゃないか。」

「これが彼女らの戦術なんだよ…。ほら、言っただろ。『不死身の天使』って。」

「そうか。テンシは体力が減ってから本番だって言ってましたね…!」


 テンシのHPが三分の一ほど削れたところで、ツナ太のチームメンバーが全員合流した。

 彼らが軽く作戦会議を始める。


《皆さん、合流出来て良かったです。敵の前衛は薙刀の彼女一人で、他の人は後衛のようなのですが…なんというか不気味な感じです。》

《舐めプされているのか分からないですけど、前衛の子が突っ込んでくるのですが、他の子は防御系のバフを回しているだけで…。ファーム(※2)やグループの仕方が上級者だったので、初心者ってことはないと思うんですが。》


 テンシと交戦していた二人が、端的に感想を述べる。言葉の端々からゲームへの慣れを感じ、頼りになりそうだ。いわゆる「当たり」のメンバーが集まっていそうではある。


《敵の情報ありがとうございます。何にせよ合流出来て良かったです!あの前衛の子、結構HP削れてるじゃないですか。まずはあの子を集中砲火して倒しちゃいましょうよ!》


 画面の中のツナ太が、丁寧にコミュニケーションを取っている。それを見て横のツナ太は「何言ってるんだ俺…。」と頭を抱えていた。

 とは言え、敵の情報が割れていない状況ではそこまでおかしな提案では無く、チームメンバーもすんなり受け入れている。さあ、四対四の戦闘開始だ。


《前衛を潰せー!『豪炎斬』!》

《『プラズマショット』!》

《皆さん、ここからは出し惜しみ無しです!私を守ってください!ディーフェン、ディーフェン。》


 ツナ太らの攻撃はテンシを直撃したが、今度はバフによってダメージが軽減されていた。ただ、しっかりとダメージ自体は通っており、無敵というにはほど遠い。


《テンシさん、援護します。『シャインブラスター』!》

《甘い!『スーパープロテクト』!…今だ、みんな!》


 テンシの仲間も攻撃を放つが、それはツナ太がしっかりとガードする。そして、隙を見て反撃を行う。しばらくは、そのようなツナ太チームが優勢に試合を運ぶような攻防が続いた。

 しかしテンシは不敵に微笑んでいる。まるですべてが我が掌上であるかと言わんばかりに。


《冥途の土産に教えて差し上げましょう。私の固有スキルは『デスペラード』。HPが減れば減るほど、全ての能力が上がる…。》

《な、何!?》


 テンシの言うように、ツナ太らの攻撃は、彼女のHPが減れば減るほど通らなくなってきた。いわゆる『火事場』系の固有スキル。ピンチになるほど強さを増す、それが不死身の正体なのだろうか。

 倒せそうで倒せないテンシに対して攻撃を加えるツナ太らと、テンシにひたすら回復やバフをかけるテンシの取り巻きのやりとりが続く。


 そして、その時は来た。

 テンシのHPが四分の一程度になったとき、瞳が静かに燃え、薙刀に漆黒の光が激しく輝き始めたのだ。


「こ、これは…。イグニッションスキル!?」


 俺は食い入るように画面に見入っていたが、ツナ太はもう眼を背けていた。

 それくらい、ここから圧倒的な蹂躙が始まったのだ。


《もはやこのフィールドは私の領域。私の天国。もはや神にすら、私を止めることはできません。ましてや矮小な子羊ちゃん達になんて…。うふふ。》


 眩しいオーラを放ちつつ、意味不明な事を呟くテンシに、敵味方全員が注目している。彼女の宣言通り、そこはもうテンシの独壇場になっていた。


《…幕引きの時です。イグニッションスキル…『天上戯曲』。》


 世界が、彼女を中心に暗転した。

 彼女の特徴的な金髪縦ロールが真っすぐの白髪ロングヘアになり、純白の羽根は黒く染まった。さらに白百合のドレスは黒いゴシックロリータに早変わりして…。


「だ、堕天した!?」


 そんなのありかよ。観戦している俺がそう思っているのだから、今戦場で相対している彼らはもっと驚いているに違いない。


《くっ…。ひ、怯むな。攻撃を続けろーっ!》


 ツナ太チームは、それでも果敢にテンシに挑んだ。しかし、その攻撃の悉くが通らない。正確には、通っているが、HPゲージには僅かにしか影響を及ぼしていなかった。


《まるで童の児戯のような攻撃ですね…。ああ、退屈。誰も私を傷付けることなど出来ないのね。…消え去りなさい。》


 そしてテンシは力強く駆け、ツナ太チームのそれぞれに斬りかかっていく。それはスキルによる攻撃ではなく、単純な武器攻撃であった。しかし、威力はツナ太達のスキルの何倍もあるように見えた。


《ぐ、ぐああああっ!!》


 見る見るうちに、ツナ太達のHPが削られていく。そして、一人、また一人と倒れていく。まさに無双状態。イージーモードのアクションゲームのように、テンシは戦場を支配していた。

 そして、その凶刃は最後に立っていたツナ太に向けられた。


《まだだ…こいつ一人にやられるなんて、あり得ないぜ!》


 ツナ太の拳が光り出す。彼にもアルティメットスキルが発現したのだ。


《『パーフェクト…プロテクト』!!》


 彼の渾身の防御技が発動した。虹色に輝く、甲羅状のシールドが彼と、彼のチームメンバーを守っている。

 しかし、テンシは冷たく彼に告げる。


《そんなフツーのアルティメットスキルなんて…私には通用しません。》


 テンシは、他のプレイヤーをそうしたように、薙刀を軽く払ってシールドに攻撃した。


《撫でるだけで十分。》


 パリン、とあっけない音と共に、ツナ太のアルティメットスキルは効力を失った。


《なん…だと…。》

《さよなら。》


 言葉には何の感情も乗せず、テンシは刃を振るった。

 そこでリプレイは終わっている。


※1 アグロ…ここでは、アグレッシブな戦法を指す。


※2 ファーム…主に、雑魚敵を倒してレベル上げやお金稼ぎを行うこと。本作に於いては、スキル拾いや、雑魚敵を倒してのスキル取得、レベルアップを指す。

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