のんびり生活
「さて、お主どうせ何も知らんじゃろ
儂がサボりがてら説明しちゃるから着いて来い」
めちゃくちゃ堂々とサボる、と宣言した女の後に続いて俺は歩き出す。
現状は──はっきり言って良く分からない。
トラックに轢かれたと思ったら推定異世界に飛ばされて、ドラゴンに殺されるかと思って、ドラゴンを殺した女にこうして案内されている。
「……あの、貴女の名前は?」
気を損ねたら容易く消し飛ばされるであろう相手に何かしらを尋ねるのは正直怖いが、流石に名前くらいは聞いても許されると思いたい。
女は面倒そうに此方を見れば
「織田 芹香、好きに呼べい」
とだけ言い、此方に一切気遣う事なく歩みを進めていく。
織田……いやまあ、かの偉人と同じ苗字とは言え子孫云々と直結させる訳には行かないが、あの破天荒さから何となく血の繋がりを感じてしまう。
歩き続ける織田を見て、取り敢えず俺は言葉を続ける。
「先ず……此処は何処ですか?そして貴女もひょっとして……?」
多少濁させて貰ったが、相手は察してくれたのか頭を掻きつつも質問に答えていく。
「異世界じゃよ、ラノベあるあるのな。
この世界に来る条件は不明、儂も転生者で似たような奴等も結構居る。因みにさっき使ったのは魔法じゃ。」
「成る程……」
相槌を打ちつつ、思考を巡らせる。
やはり此処は異世界で、文明は中世ほどだろうか?
そして剣と魔法のファンタジーな世界。先程の……《なんちゃって砲術》?だったか、あれは織田のオリジナル魔法なのであろう。
「……転生者特典とか、あるんですか?」
「その辺は後で変態知識欲にでも聞くんじゃな」
……さっきからあだ名が酷いな。
恐らく先程呟いていた魔物バカはテイマー、変態知識欲は……教授とかか?
イマイチ分からないが、まあ織田の表情から見るにそこまで険悪な仲では無さそうだ。
と考えていた辺りで、織田が止まったので此方も足を止めて前を見る。
「ま、見て分かる通りど田舎の村じゃが平等中毒者と現代主義が頑張った結果それなりに便利じゃぞ、トイレも現代式じゃし」
彼奴等が1番力を入れてたのう、トイレ。
だなんて言う呟きを聞きつつ、恐らく技術者であろう現代主義者と平等中毒者に心から感謝を込める。
……中世、しかも魔法中心となると魔法に頼り切りで現代的な技術は無く、トイレも汲み取りだったり部屋も……と若干覚悟していたのだが、杞憂に終わったことに改めて感謝である。
「取り敢えず此処で常識諸々教わっとけ、一週間くらいで帰ってくるから、それじゃの」
いやちょっ、と声を掛ける前に織田はその場より消え去ってしまう。
魔法なのか、それとも存在するであろう転生者の能力なのか。
それはそうとせめて村の人達に紹介くらいして欲しかったなあ、と村の入り口を見ていれば
「あの……転生者さん、ですよね?」
おずおずと村の入り口から同い年ほどの女性が出て来る。
まあ織田の声は大きいし、普通に気付かれるか……と相手を見る。
茶色い髪に水色の目、服装は中世の村娘。
改めて異世界転生したのだなあ、と実感させられる人物。
「あ、そうです……言葉通じるんですね」
ぺこりとお辞儀をしつつ、疑問に思ったことをまた口にする。
異世界でザ・外人っぽい人なのに日本語が通じると言うのは、吹き替えを見てるような違和感があるっちゃある。
「リアストルさんが教えてくれたんです。
あ、リアストルさんも転生者で……オダさんからは"平等中毒者"と呼ばれてました」
リアストル……転生者だとすれば外人か?まあ日本人以外にもそりゃ居るか、と内心頷きつつ
「じゃあ……その、怪しいもんですけどお邪魔しても大丈夫そうですか?」
「はい!村のみんなにも紹介しますね!」
自分の服装を見ても明らかに怪しいが、村娘は慣れた様子で笑顔を浮かべてみせる。
恐らくだが自分以外の転生者にも会ってるから慣れているのであろうか、此方としては魔女狩りさながらの事をされなくて安心である。
「あ、私マリアベルと言います!」
「俺は明日野不成です、宜しくお願いします」
慌てた様子で振り返り、名乗って来るマリアベルに此方も名乗ってなかったから、と言いつつぺこりと互いに頭を下げる。
初手こそドラゴンに襲われる最悪な事態であったが
暫くのんびり過ごせそうで、漸く異世界を楽しく過ごせるのかと期待を膨らませつつ俺は村へと脚を踏み入れた。




