表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生大失敗  作者: くるーん。
転生者会合編
2/2

出会い大失敗

さて、状況を整理しよう。

俺はトラックに轢かれて死んだ筈だが……何故か目の前に広がるのは草原。

周囲を見渡しても何も無いし、ポケットに入れてたスマホはバキバキに壊れていて起動さえ出来ない。

現時点で可能性は三つほど。

一つ、此処が死後の世界と言う事。

だとしたらこののどかな草原を見る限り俺は天国に送られたのであろう、にしては死者や天使っぽい姿も見えないが……天国の面積は不明だし、とんでもないくらい広いだけかもしれない。

二つ、これもまた妄想でしかない。死の直前に思考が限界まで加速した結果有りもしない妄想をする事で逃避し続けてるだけ。まあこれも有り得る、頬をつねると痛みはあるが別に夢でも痛いもんは痛い時もあるし。

三つ、これこそ今流行りの異世界転生と言う奴。

だとしたら神様的存在の説明も無い、能力が与えられたのかさえわからないと言うのは随分と優しく無い気がする。

……考えていてもわからない、取り敢えず色々行動をしてみる事にした。






地面にあった草をむしる。

特に何も分からない、ただの草だなあ程度の感想しか思い浮かばなかった。


草を食べてみる。

不味いし、飲み込んでもこれといった変化もない。

食べてから毒だったらどうしようとも思ったが、その時はその時だと割り切る事にした。


土を掘ってみる。

特に何も出てこないし、手が汚れただけである。土を食べるのは流石にやめておいた。


何かしら見えないか試してみる。


「ステータス……オープン!」


しかし何も起こらなかった。

それらしい単語や厨二心たっぷりの呪文、パンチやキックも放ってみたが何も起こりはしない。

所持品もバキバキスマホ以外は無いし……本当に何も無い。

一応肌を見たりしてみたが、人間以外の種族になりました!みたいな事さえ無かった。


「……歩くか」


最試せる事は無い、そうなれば歩くしかあるまい。

実はこれが地獄なのでは?と言う予感もして来た。

確か虫一匹殺しただけでも何かしら罪に問われた記憶があるし、このまま飢えと渇きを味合わされて一生歩く罰とか……考えるだけで嫌すぎる。

取り敢えず俺は足を進める事にした。










休みつつとは言え、かれこれ数時間は経過した。

進歩は一つ、遠くにだが小さな村……っぽいのがある気がする。

しかし遠い、徒歩だと後数時間は余裕で掛かるだろう。

だが景色に変化が訪れたと言うのは嬉しいし、ただ歩くよりも彼処に向かうと言う目標が出来た方がより足も軽くなると言うものだ。

推定異世界の村に若干心を躍らせつつ、俺は再び歩みを進め──それに出会った。

その巨体に、俺は死を確信した。

現代人なら見慣れたとまで言えるであろうに、現実で目の当たりにする事は無い怪物。

黒き鱗は黒曜石のように煌めき、その瞳は絶対の自信によって彩られている。

翼は自分以外に陽光に当たる事を許さぬように広がり、その手は容易く俺を叩き潰せるであろう。

竜、ドラゴン。

御伽話の怪物が俺の眼前へと舞い降りたのだ。

地獄にしては随分と洋風だし、きっと此処は異世界なのであろう。

問題は──俺に力らしい力なんて無い事だ。

武器、魔法、拳法、スキル、能力、加護、科学、超能力

何も無いただの一般人。

頭も普通だし運動も人並みにしか出来ないし口も普通程度にしか回らないザ・平凡、それが俺だ。

そんな俺とドラゴン。

戦う以前の問題だろう、鼻息で消し飛ばされてもおかしくない。

逃げる?飛んで炎吐ける奴相手に?無理に決まってる。

だが棒立ちが1番不味いだろう、と──思っているのに。

足が動かない。

そりゃそうだ、人生……前世?でもトラックに轢かれた時くらいしか死には遭遇してない。

怖いに決まっている。

ドラゴンが此方へと顔を向け、口を開く。

ああ、やっぱり炎を吐くんだな。なんて。

最期に相応しくない事を考えつつも、ぼんやりとそれを見つめて──


「なんじゃあお前、新入りか?」


空から、その女は降りて来た。

黒い和服を肩に掛け、中はジャージと言うめちゃくちゃすぎるファッション。

輝く金色の瞳が、呆れたように此方を見ている。

いやいやドラゴンが──と声を出す前に、既にドラゴンは口から炎を放っていた。

あ死んだ、と思わず目を閉じて襲いかかってくるであろう痛みと熱に身体をこわばらせ……数十秒経っても何も起こらないので、目を開く。


「此奴ぁ……なんじゃったかな、此処の生き物の名前長くて嫌いなんだよネ〜。

ブ……ブラックサンダー?みたいな……」


炎は全て、光の壁によって遮られていた。

魔法なのであろう、丸い円には複雑怪奇な線と文字と思われる記号がびっしりと描かれており、目の前の女がドラゴンに向けて腕を突き出し、手を開いている事から彼女が盾を生み出しているのだろうと分かる。


「魔物バカには……良いかやらんくて、そろそろ食費もバカにならんじゃろ」


耳を掻きながらドラゴンを見つめていた女が、面倒そうに欠伸をすれば盾を形成してるであろう手でデコピンを放つ。

盾はその動きで弾き飛ばされるようにドラゴンへと迫る。

ドラゴンは押し返された自らの炎に焼かれつつも、空へと舞い上がり──牙を剥き出しにして此方へと羽ばき迫る。


「ほれ新入り、折角だし目ん玉かっ開いてよぉく見ておけ?」


此方へと迫るドラゴンに見向きもせず、此方を振り返って女は笑う。

見るから早く対処してくれ!と内心で思いつつもこくりと頷けば


「わしの──《なんちゃって砲術》をなぁ!」


……なんて?

まさかとは思うがそれが技名だったりするのか……?と思いつつも、俺は眼前に広がる光景に言葉を失った。

女の足元に先程の盾とは比べ物にもならない、何重にもなる光の輪が広がれば、輪より無数の記号が浮かび上がる。

記号は女の手に纏わり──腕を巨大な光の砲身へと変えてしまう。

ドラゴンがその脅威に気付いてか、方向を変えて飛び去ろうとする。


「中々に賢いようじゃが……もう逃れられんぞ?」


女の数倍もある砲身を持ち上げ、飛び去るドラゴンへと狙いを定める。

女は雄々しく笑いつつも、その技を叫んだ。


「《超怒弩級無限大々砲》!!」


瞬間──俺の視界は真っ白に染まった。

再び目を開けた時広がっていたのは……空が抉られ、地が焼き焦げた光景。

それが、あの砲撃の威力を証明していた。


「で、お主……名前は?」


「あ、明日野不成……」


ニコニコと笑う女を見て自己紹介をしつつ、俺は内心ある言葉を押し殺すのに必死であった。


(……技名、クソだせえ!!)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ