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戦士アレンの記憶に目覚めた日

8/25 何点か、書き換えました。

①転生魔術伝 どこにいれるか迷った挙句、このエピソードに挿入することに。入れたり消したりしているのですでに読んでくださってる方がいるかも……申し訳ないです。

②標星の描写 すっかり入れ忘れていました。ついでに前後の描写を付け足しました。


今後も、改稿が入る可能性が大いにあります。

それでも読んでくださっている方には、感謝しかありません。ありがとうございます。

エルメガリデ王国には、転生魔術伝という昔から伝わる御伽話が存在する。

それは古の時代、転生魔術によって不老不死の夢を叶えようとした、3人の愚かな魔術師の話だった。


1人目の魔術師。

彼は、転生魔術を完成させた天才だった。

作り上げたのは彼が90歳のとき。

既に肉体の衰えを感じ、死期を察していた男は、残りは次の人生に持ち越そうと魔術を発動させて命を絶った。

ところが男は、自分が作り上げた転生魔術の最大の欠点に気づいていなかった。

それは人間に転生できるとは限らぬこと。

彼の次の人生は、道端を這うアリだった。

働きアリとして懸命に働いていた彼だったが、ある日、虫遊びをする子どもたちに捕まり、殺されてしまった。


2人目の魔術師。

1人目の魔術師の弟子で、彼もまた天才だった。

師の作り上げた魔術の欠点に気づき、人生を賭けて、その改良に勤しんだ。

そして齢90になった頃、魔術が完成する。人間に転生するための転生魔術だ。

1人目同様、死期を悟っていた男は、迷うことなく魔術を発動させた。

ところが彼は、転生魔術のもう一つの欠点に気づいていなかった。

それは魔術を発動させた年齢になるまで、前世の記憶を取り戻せないこと。

彼は次の人生で記憶を取り戻すこともなく、赤子のうちに流行病にかかり、死んでしまった。


3人目の魔術師。

2人目の魔術師の弟子で、彼もまた天才だった。

師の作り上げた魔術の欠点に気づき、改良を試みた。

完成したのはやはり、90歳になってから。

ところが出来上がったのは、膨大な魔力を必要とする代物だった。

喜びのあまり、彼は自分の作り上げた魔術の欠点に気づかず、術を発動させてしまう。

彼の魔力は空になり、魔術は発動することなく、彼は死んでしまった。



****************



エルメガリデ王国で有名な魔術師の家を挙げろ言われたら、必ず名が上がるのが、レイフォルド家だ。

有能な魔術師をたくさん輩出していて、特に現当主のアイザック・レイフォルド侯は、王国内で五指に数えられるほどの優秀な魔術師である。


この物語の主人公であるカミルは、そんな家の嫡男坊であった。

臆病かつ泣き虫な性格で、同世代の義弟にちょっかいを出されては、言い返すことすらできずに、すぐにどこかに逃げ隠れてしまう。そんな子どもだった。

また、天才的な現当主を父にもち、跡取りの第一候補とされているにも関わらず、とある理由から、レイフォルド史上一の落ちこぼれと評されていた。

その理由については後述するとして、とにもかくにも彼の転機は11歳。

アレンという少年の記憶を思い出したことに始まる。

それは、古の時代を生き抜いた、少年戦士としての記憶だった。

****************


その時代は、後世の歴史家が言うに、魔物溢れる戦乱の世だった。

始まりは、1200年前ほど前に発生したとされる大規模な魔物氾濫(スタンピード)だと推定されている。

古代王朝はそれを抑えることができず、数多の魔物が野放しになった。

大地を海を埋め尽くす魔物達。人々は街や村を追われ、辺境の地に追いやられた。

一般に暗黒時代と呼ばれるその時代。


戦士アレンはそんな中を、生きていた。


彼が生まれ育った隠れ里は、険しく聳え立つ山々と激しく流れる大河とに囲まれた、大自然の中にあった。

そしてそれらの山や川、空までもが魔物で埋め尽くされていて、日常的に魔物が襲来した。


親は物心がつく前に魔物に食われて死んでいた。代わりに、周りの大人たちが面倒を見てくれた。

そして幼い頃から、戦乱を生き延びるための戦い方や戦士の魔法を教わった。

7つを過ぎると、戦士見習いとして、子供達で構成される自警団に参加した。彼らは里の近くに迷い込む低レベル魔物を、協力しながら囲い込み、討伐して回った。

10になる頃には、正式な戦士として認められ、大人に混じって最前線で戦った。自分の体長よりも遥かに大きな魔物を、屠れるようになるのに時間はかからなかった。


そんな、死と隣り合わせの毎日。

ところがアレンは、後世の者が想像するほど、悲惨な気持ちで戦ってはいなかった。

死に恐怖を感じることがなかったのだ。

それはひとえに、戦士の信仰のおかげだ。


――"力の限り戦い続けた者は、戦乱の世の果てに、楽園(エデン)に行くことができる"


全力で戦って、その過程で力尽きるのならば、楽園と呼ばれる安寧の地に行くことができる。

そんな教えを、彼も里の皆も信じていた。


また、戦いによる痛みも、恐ろしくなかった。

それは、彼らに与えられた戦士の加護魔法のおかげだ。

里に伝わる加護魔法は「戦士の勇気を得る魔法」と称されていて、痛みの感覚を遠ざける効果を持っていた。

たとえ大怪我をしても、構わず魔物に立ち向かうことができたし、恐怖に囚われずに突き進むことができた。

致命傷を負うことがあっても、苦しんで死ぬ戦士などいなかった。加護のおかげで穏やかに逝くことができたのだ。



アレンが唯一、苦手だったのは、仲間を失うことだった。


――"楽園(エデン)に行けば、また会える"


それはわかっていたが、その楽園に行くまでの間、昨日まで笑い合っていた仲間とさよならしなければならないことに、アレンは酷く寂しさを感じていた。


けれども表立って泣いたりすることはしなかったし、幼い頃に一度やらかして、こっ酷く叱られた。

戦士の死を悲しむことは、彼が楽園(エデン)に行けぬほどに怠けていたと相手を冒涜するに等しかった。


――"早く、みんなに会いたいよ"


先立ってしまった仲間たちに会いたいという気持ちから、戦乱の世の終わりがさっさとやってこないかと、アレンは常日頃から思っていた。

もしくは、早く自分の戦いの終わりが来ないかと、感じることもあった。

その考えがよぎる度、アレンは頭を振って、思考を追いやった。

(早く死にたいだなんて。それは戦いを投げ捨てることに等しい。)

アレンにとっての一番の恐怖は、楽園(エデン)に行けなくなることだ。

これまで看取ってきた仲間達。里のみんな。彼らと再び会うために、アレンは戦い続けなければならない。

(早く会いたいのなら、早く戦乱の世を終わらせることだ。)



ところが思ったよりも早く、アレンの戦いの終わりはやってきた。

正式な戦士になって半年と少し。冬を迎える前だった。

不覚を取り、大型魔物の群れに囲まれてしまった。


大型魔物の爪に身体を貫かれたそのとき。

彼は最期を悟った。

そして、タダではやられぬと、ありったけの力で反撃する。


相手を倒せたかどうかはわからなかったが、もう、身体は動かなかった。

次第に薄れ行く意識の中、友が自分に加護の魔力を流し込んでくれるのがわかった。

万が一にも加護が切れることのないように。

それは戦士達が仲間を看取る時の習慣だ。


<<"また、楽園(エデン)で会おう">>



****************


カミルがアレンの記憶を取り戻したのは、彼が11歳になる前の日だった。

星祭りと言われる1年の終わりの日で、王国中が祝賀ムードに包まれる1日だ。

カミルの生家でも、国内中の親戚が本家邸宅に集まり、パーティーが催される慣わしがあった。

その夜会の最中、カミルは倒れた。

ちょうど、本家嫡男としてのスピーチをするべく、壇上に立った時のことだった。


急に、激しい頭痛がカミルを襲った。


「カミル!」


父の声が聞こえたかと思ったが、次の瞬間、カミルは意識を失っていた。




目が覚めたのは、7日後。自室のベットの上だった。


「僕は、一体…………」


目が覚めた直後は、自分が何者なのか、カミルには理解できなかった。

アレンの記憶とカミルの記憶がごっちゃになり、頭の中を駆け巡る。


<<"ディア・メイディア">>


カミルは気がつくと、戦士の加護魔法を唱えていた。ぽっと体の中央に、懐かしい感覚が湧き起こる。

そして無意識のうちに、体全体に馴染ませ始めた。


「"うそ"」


単なる夢だと吐き捨てるには、あまりにも感覚がリアルだった。

そのまま頬をつねってみるが、痛みが遠ざかるこの感じは、紛れもなく、戦士のもの。

一方で、今、自分がいるこの場所は、紛れもなくレイフォルド邸の自室。


「っ」


ふと、部屋の壁に設置されている魔道鏡が目に入り、覗き込もうと寝台を抜け出した。

その際、バランスを崩してすっ転んだものの、構わず立ち上がり魔道具を発動させる。

映り込んだのは、金髪金眼のおかっぱ頭。それは、間違いなくカミル・レイフォルドだった。

それもそのはず。カミルの記憶では、アレンの人生は終わっているはずだった。

魔物に貫かれたときの感触はちゃんと覚えているし、終わりを悟って奮起したことも、覚えている。

何より仲間に流してもらった、看取りの加護の暖かさは、彼の記憶にしっかりと刻まれていた。


「まさか、転生魔術?」


それは発動しても、人に転生出来るとは限らず、またたとえ人に転生したとしてもその年齢になるまでは記憶を思い出せぬという代物。


大陸には約1000年間の暗黒時代が存在し、大地を海を魔物が蹂躙したという歴史が伝わっていた。

そして、アレンが話していた言葉は、カミルが古代語として教わった言葉に大変近かった。

何より、身体を駆け巡る加護の魔力は本物である。


「もしかして僕、"置いて、いかれた"…………?」


可能性を察した瞬間。

カミルは頭が真っ白になった。


力の限り戦い続けた者は、戦乱の世の果てに、楽園(エデン)に行くことができる。


戦乱の世の果て。

後の時代を知るカミルは、無意識に、それを暗黒時代の終焉だと決めつけた。

そんなものは、500年も前に終わっている。


「"っ標星は…………!?"」


カミルは慌ててバルコニーに向かい、夜空を見上げる。

王都の夜は、月明かりが霞むほどに明るくて、まともに星など見えなかったが、青白く輝くその星だけはくっきりと見ることができた。

標星は、戦士の里で、唯一名のつけられていた星だ。戦乱の世の果てにて、戦士たちを楽園に導く役割を担っていると語り継がれていた。

それが、記憶と寸分違わぬ変わらぬ輝きを放っていることに安堵したのは一瞬だった。

同じだから、何だというのだ。

それはただ、アレンという存在が、カミルの妄想ではないという事実を補強したに過ぎなかった。


次の瞬間、バルコニーに手をかけたまま、カミルは膝から崩れ落ちた。

涙がボロボロと溢れ出てくる。


「"っ…………なん、で…………?"」


アレンは全力で戦ったつもりだった。先立った仲間に会うために。

早く死にたいだなんて、ほんの少しでも考えたからだろうか。


「"ユリア、オルディア、みんな…………"」


理由を考えたところで、置いて行かれたことに変わりはない。

カミルはその日、二度と会えぬ仲間たちを想い、泣き続けた。


古代の言葉の表記について

アレンが戦士時代に話していた言葉を、""で囲っています。

本当は太字とかイタリックとかを考えていたのですが、設定上不可能でした。

もう少し良い表現方法を思いついたら、変更します。


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