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三題噺もどき3

すくい

作者: 狐彪

三題噺もどき―よんひゃくにじゅういち。

 


 真っ暗な世界に、淡い光が入り込む。


 ほんの少し重たい瞼を開く。

 ぼやける視界の中は、やけに真っ白で、また目を閉じたくなる。

 数秒前まで、真っ暗だったから。

「……」

 目の奥がじくりと痛んだが、それと同時に首が悲鳴を上げた。

 どうやら、椅子に座ったまま寝おちていたらしい。

 気づいてしまえば、腰も痛いし、背中も痛い。

「……」

 軋む骨を無視しながら、ゆっくりと頭を動かす。

 少し光に慣れてきた視界の隅に、時計を見つける。

 まだ昼は回っていないようだ。かと言って、朝早い時間というわけでもない、中途半端な時間だ。

「……」

 ろくに動きそうにない、鈍い思考を回転させていく。

 なぜ、自分がこんな所で寝おちてしまっているのかを考える。

 考えるほどの事でもないだろうが、それしかできそうにない。

「……」

 昨日の夜。

 確か。

「……」

 その前の日辺りから、やけに色々と沈みこんでしまっていて。

 それが昨日の夕方と夜の間ぐらいの時間帯に。

 ほんの少しだけ、マシになってきて。

「……」

 だから。昨日本当は、妹が甥っ子を連れてくる予定だったから。

 それが反故になってしまったのを、申し訳ないと妹に連絡をいれて。―案の定というか。先に妹から大丈夫かと連絡が入っていた。誰よりも気の利く妹を持ててありがたいものだ。あの二人から生まれたとは思えない。

「……」

 それで。

 まぁ、マシになったとはいえ、外に出られるほどの回復ではなかったので。

 家の中でゆっくりと、少しでも全回できるようにと思ってゆっくりしていたのだ。

 本を読むでもなく、何をするでもなく。

 この椅子に座って、ぼうっと外を眺めていて。

「……」

 そしたら。

 何も考えずに、適当にそのあたりに置いてしまった携帯がやけにチカチカして。

 何かと思い、画面を開いてみると、妹からの連絡で。

「……」

 先程の謝辞への返事と。

 それに続いて、今から行くからという連絡。

 その日のうちに連絡したのはまずかったなと少し反省し、息子―甥っ子が居るのだから来なくていいと連絡をした。

 そこまで遅い時間ではなかったが、親子の時間を短くすることを私は良しとしない。

「……」

 そのあたりも分かっていてか。

 すぐに、旦那がいるから大丈夫だと連絡をしてきた。

 というかもう、つくから無理。

 ―だと。

「……」

 ああいう物怖じしないような行動力の高さは、だれに似たんだろうなぁ。

 幼い頃から、それなりに賢かった妹は、様々なことに気づくのが早かった。

 そのせいか、そのおかげか。気づいたころには、行動力の塊みたいな人間になっていた。

 こちらが心配するほどに。

「……」

 正直言うと。

 今回のこの私の諸々には、妹を巻き添えにはしたくなかったのだ。

 甥っ子もいるし、仕事もあるし。あの子はあの子で生活がある。

 だからまぁ、隠し通せるものならと思ってもいたが……なんというか、本当に察しのいい妹なものだから。すぐに気づいて家まで来た。

「……」

 だから今回も、連絡が来てすぐに家に来たんだろう。

 そうこうしているうちに、ホントにすぐ家のチャイムが鳴った。

 そんなに遠い距離ではないが、それにしても早すぎないかと一瞬思ったが。

 まぁ、そんなのいつもの事なので。

「……」

 それからまぁ。

 家に妹を迎え入れて。

 特に何をするでもなかったが。

 久しぶりに、2人きりで話をして。

「……」

 これお土産にと言って渡されたのが、ティーパックのミルクティーだったので。

 それを淹れて、買い置きしていた市販のチョコレートクッキーを引っ張り出して。

 ミルクティーは甥っ子が選んでくれたらしい。遊びに行くときに渡すんだーと。

 その光景が目に浮かんで、沈んでいたものもほんの少し浮かびやすくなった。

「……」

 そんな可愛い甥っ子の話とか、最近の仕事の話とか。

 私は相槌を打つばかりで、妹が話しているばかりだったけど。

 それがお互いいいのだと分かっているので。

「……」

 甘いミルクティーを飲みながら。

 少し苦みのあるクッキーを食べて。

「……」

 いつも以上に。

 不要で、不毛で、意味のない時間だったけれど。

 温かで、柔くて、楽しい時間だった。

「……」

 そうこうしているうちに。

 アッと言う間に時間は経ってしまって。

 もうそろそろ帰りなさいなと妹を送りだし。

 ―本人は泊る気だったらしいが、そこまでは巻き込めない。

「……」

 真っ暗な部屋で。

 静かになった部屋で。

 また一人で、椅子に座って。

「……」

 ぼうっと。

 外の月を静かに眺めていて。

 落ちていたものが、拾われていったことに気づいて。

「……」

 妹に会えてよかったなんて。

「……」

 妹が会いに来てくれてよかったなんて。

「……」

 ぼんやりと思いながら。

 そのまま。

「……」

 ここで。

 寝落ちしてしまったんだろう。

「……」

 うん。

 今日からはまた。

 なんとかなりそうだ。






 お題:巻き添え・ミルクティー・クッキー

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