カンガサラ侯爵令嬢視点 もう長く生きられないと諦めました
暗かった空が、ゆっくりと明るくなってきた。
そして、その一点が赤く光る。
その光が世界全体をを強烈に照らし出した。
「きれい!」
私はそれを感動して見ていた。
いつ見ても、朝日が昇る瞬間はとてもキレイだった。
真っ暗だった空を一瞬で照らし出す強烈な光の織り成すドラマ、それはもう未来のない私とは正反対の様だった。
「マイラ、何しているんだ!」
扉を開けて、そんな私を見つけたアスモが慌てて駆け寄ってきた。
「アスモ、日の出がとてもきれいなの」
私は感激して言った。
「いや、それよりも、ちゃんと寝ていないと駄目だろう」
アスモが私に慌てて自分の上着を着せてくれるんだけど。
「大丈夫よ、げほげほ」
私は大きく咳き込んだ。
「ほら、言わないことじゃない」
抱きかかえるようにアスモが私をベッドに連れて行ってくれた。
「でも、アスモ、このきれいな朝日も、もう、いつまでも見られない気がするの」
私はぽつりと言った。
「何を言っているんだ、マイラ。お前は絶対に治るさ」
アスモが力強く言ってくれた。
私はこの病気を治すためにいろんな薬も飲んだし、この病気に良いと言われる事も色々とやった。
でも、どれもこれもあまり効き目はなくて、どんどん体が弱っていくのは私自身がよく判っていた。
もう、来年はこの景色が見られることはないだろう。
私の名前はマイラ・カンガサラ。侯爵家の令嬢だ。
皆は私が恵まれた環境だと言ってくれる。
確かに、この国の最高峰に近い侯爵家の娘である私は経済的には恵まれている。
病気になっても高価な薬代に苦しむということもなかった。結構手厚い看護体制も取られているとは思う。
でも、この病気にさえかからなければ、もっと色々なことが出来たのに!
この肺の病でここ数年ずうーーーーーっと寝込んでいた。
血を吐いてからはほとんど寝たきりだ。
昔はこの辺りをヴィル兄様やアスモと走り回っていた。
とてもそれが懐かしかった。
本来ならばこの春から、アスモやヴィルお兄様と一緒に王立学園で楽しく過ごせるはずだったのに。
アスモの情報では、平民で元気なニーナさんとかいう新入生が入って、王立学園の中をかき回しているらしい。彼女の凄いところは面倒だからと女を相手にしなくて有名なヴィルお兄様に、頼み込んで新入生歓迎パーティーでエスコートさせたり、同級生のトルスティ殿下と喧嘩したり、厳しいと有名なペトラ先生の授業に二回も連続して遅刻してレポートを書かされたりしてると面白おかしくアスモが話してくれた。
私はそんなニーナさんがとても羨ましかった。
もし病気が治ったら、ヴィルお兄様が私をエスコートしてくれるって言ってたから、その事とを聞いてちょっと寂しかったけれど、お兄様は王族で、時には平民の相手もしなければならないというのは良く判っているのだ。病弱な私が入学できなかったというのもあるし……
アスモなんて学生なのに、本当に良く帰ってきてくれる。往復下手したら3日もかかるこの領地まで見舞いに来るのも大変だと思うんだけど……
そこまで無理することは無いって言っているんだけど、私に会いたいからと二週間に一回は帰って来てくれるのだ。私はそれがとてもうれしかった。
だって、もうすぐ私は二度と目を覚まさなくなるもの。
おそらくこのカンガサラの大地の有名な紅葉を見ることもない。
そこまで命はもたないと思う。
それを言うとアスモが悲しむから言わないけれど。
もうあんまり時間はないと思う。
ヴィルお兄様は入学前にお見舞いに来てくれただけだった。
まあ、夏休みに見舞いに来てくれるって言ってくれたけれど、下手したらそこまでもたないかもしれない。
「アスモ」
「どうした。マイラ」
「ううん、何でも無い」
私は首を振った。
ヴィルお兄様に死ぬ前にもう一度お会いしたい。そう思ったのだが、お兄様は王族だ。そんな無理は言っては駄目だ。
「また、皆で子供の時みたいにお庭で遊びたい」
「そうだね。マイラが元気になったら皆で走り回ろう」
「約束ね」
「ああ、約束だ」
私はアスモと指切りした。
もう絶対に出来ないと知りながら……





