いきなり王妃様に面会させられました
本日2話目です
這う這うの体で公爵家の母娘は逃げて行った後、私はそのとても立派な建物の中に連れて行かれたのだ。
どこに連れて行かれるんだろう?
魔法師団ってこんな立派な建物の中にいるんだろうか?
さすがにあり得ないと思うんだけど。
でも、私はペトラ先生が怖くて聞くことも出来なかった。
中には金ぴかの騎士が所々に立っていて、その中をおつきの女よろしくつき従えられて……
先生の前に侍女がついているんだけど、その侍女もとても緊張しているのか動きがぎこちない。
「背筋伸ばして姿勢よく歩く!」
時たま私が叱責を受けるんだけど、その度にその侍女さんも心なしかピクっと震えるんだけど……
ペトラ先生は礼儀作法の先生で、貴族の大半も先生の指導を受けているのだ。前を歩く侍女さんも当然ペトラ先生の生徒なんだろう。
怖れるのも判る。私だったら昔の先生に会ったら、絶対に嫌だし。特にペトラ先生には会いたくない!
そして私達は、金ぴかの騎士の守るとても立派な扉の前に立つと侍女はノックしてくれた。
「王妃様、ペトラ先生とニーナ様をお連れしました。
えっ! 今、王妃様って言った?
私は唖然としたのだ。
「お通しして」
声がかかり扉が開いた。
「失礼します」
ペトラ先生が一礼して中に入る。
「失礼します」
私もそれを真似て中に入ったとたんに、
「まあ、よく来てくれたわ。貴方がニーナちゃんね」
いきなり抱きつくように、立派な衣装を着たきれいな女性に出迎えられたんだけど。
「妃殿下」
叱責するようなペトラ先生の声に
「まあ、ペトラ、良いじゃない。やっとこの子に会えたんだし、ヴィルに言っても全然連れて来ないんだから」
ひょっとしてこの方がこの王国で二番目に偉い王妃様なの?
アンドロメダ星雲ほど地位が離れた方が私の前にいらっしゃるの?
私の頭は全く現実についていけなかった。
茫然と突っ立っていると
「ニーナさん。ご挨拶は」
「えっ?」
ペトラ先生の声に私は貴人に対しての挨拶を思い出そうとした。
「ニーナ・イナリと申します」
そう言うと、ぎこちないカーテシーをする。
もう、ペトラ先生の視線が厳しいんだけど。
だって王妃様に会うなんて思ってもいなかったから、カーテシーなんて、練習しているわけはないじゃない! 面会するんなら前もって言ってよ!
いきなりできるわけないじゃない!
「エレオノーラよ。さ、堅苦しい挨拶はもう良いから、座って座って!」
王妃様はとても気さくな方だった。
ぺトラ先生はそんな王妃様を苦々しげに見ていたが、さすがに王妃様には文句を言えないようだ。
「改めて、息子の命を救ってくれてありがとう」
王妃様が頭を下げてくれたんだけど
「いえ、あの、もとはと言えば私の命を救おうとして会長、いえ殿下が危険な目に会われたので、当然の事をしたまでです」
私は会長と言ってペトラ先生の咳払いが聞こえたので慌てて殿下と言い直した。
「ええええ! そうなの。あの子ちゃんと報告していなくて、そこを詳しく教えて」
王妃様はキラキラとした目で聞いてくるんだけど。ペトラ先生の視線が厳しい。
ええええ! 私、何かまずいことを言ったのかしら。
でも、キラキラした目の王妃様の前では嘘は付けなくて、そのままその時の事を話したら。
「まあ、そうなの。あの子が自分を顧みずあなたの為にゴーレムを出したのね」
「はい、申し訳ありません」
ペトラ先生のきつい視線で、私は慌てて謝った。
「何も謝ることは無いわ。それはヴィルが勝手にしたことだから。彼にしたら自分の危険よりもあなたの方が大切だったのよ」
楽しそうに王妃様は言ってくれるんだけど、そのせいで会長は傷ついたんだから本当は良くなかった。
何しろ会長は未来の王様なのだから。私の代わりに傷つくなんてことは本来あってはならないのだ。
「その時のあなたの、癒し魔術は凄かったってカーリナから聞いたわ」
「いえ、そのような」
私なんかまだまだだ。
「何言っているのよ。あのカーリナが褒めるんだから余程の事よ。カーリナはめったに褒めないんだから」
王妃様は笑って言ってくれた。
「それよりも学園ではヴィルの事をなんて呼んでいるの?」
「えっ、殿下って呼ぼうとしたら嫌だって言われて会長と」
「会長って、なんか今一つよね。ヴィルとか呼ばないの?」
「そんな、畏れ多い」
「そうなんだ。ヴィルもいまいちうまくいけていないんじゃないの」
なんかぶつぶつ王妃様がおっしゃっているんだけど。
「知らなかった時はウィル様って呼んでました」
慌てて、そう言うと、
「まあ、ウィルって、変装の時のあの子の名前よね。昔、変装出来たって自慢してきたんだけれど、髪の色と目の色変えただけでそのままだったから、すぐに判ったでしょ」
王妃様が当然のように言ってくれるんだけど、判らなかったのは私くらいなんだろうか?
私は何も言えなかった。
「でも、初めてお会いしたのは、私の田舎で、田舎者の私は殿下の顔なんて存じあげなくて。殿下は颯爽と登場して、ならず者を倒してもらって」
「ああ、あの時の破落戸を火魔法で燃やしたお嬢さんがあなたただったのね」
「はい」
って、何で王妃様はその事までご存じなんだろう?
「まあ、そんな時から、あの子とあなたは知り合いなのね」
なんか王妃様は感激しているんだけど。
「私、その時のウィル様に助けてもらって、とても感謝していて」
「恋してしまったんだ」
「はい」
私は思わず頷いてしまった。
「ニーナさん!」
「えっ、いや、今のは忘れてください」
ペトラ先生の叱責の声を聞いて、私は飛んでもないことに頷いてしまったのに気付いたのだ。
「良いのよ、良いのよ」
って王妃様は言ってくれるけど、会長の事を好きだってそのお母様の前で告白してしまったのだ。これは不味い。私は平民なんだし、絶対に会長の横には立てないのだ。
その時だ。外がいきなりうるさくなって、
「母上!」
大きな声をあげて会長が飛び込んできたんだけど。
「あーーら。ヴィル。礼儀作法のペトラ先生の前で、ノックもせずに入ってくるってどういう事?」
「えっ?」
さすがの会長もペトラ先生を見て、ぎょっとしたが
「何言っているんですか! あなたがニーナを部屋に引きずり込んだって聞いたらから慌てて、飛んできたんです」
「引きずり込んだって人聞きの悪い言い方ね。あなたが全然連れてこないから、ペトラに頼んで連れて来てもらったのよ!」
「そう言うことは私に断ってからやってもらって良いですか?」
「あなたにはずっと会いたいって言ってたじゃない!」
「えっ????」
私の頭の中では疑問符が一杯飛び交っていた。何で王妃様が私に会いたかったんだろう?
息子の前をうろうろする平民女に釘を刺すためなんだろうか?
「ちゃんとしたら連れてくるって言ったでしょ」
「あなたに任せていたらいつになるか判らないじゃない! それでなくてもあなたが女の子連れてデートするなんて初めてだったのよ。私も気になるわよ」
「デート?」
「街を2人で散策したって聞いたわ」
「はい、あれは、私が無理矢理頼んで連れていってあげただけで」
私が言い訳するが、
「何言っているのよ、ニーナちゃん。この子は無理矢理頼まれても、嫌なものはすぐに断るわよ。あなただけなんだから、この子に色々とさせているのは。私達にも……」
「ニーナ、取り敢えず出るぞ」
「えっ、はい」
「ちょっとヴィル、まだ話は……」
「話はまた今度でも」
私は強引に会長に外に連れ出されてしまったのだ。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
このライラ視点のサイドストーリー
『転生したヒロインのはずなのに地味ダサ令嬢に脇役に追いやられてしまいました』
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