悪役令嬢が出てきました
池の上に捨てられていた私のレポート用紙を取ろうと手を伸ばした私は、後ろから突然吹いた突風に背を押されて、池の中に盛大な音を立てて頭から落ちてしまったのだ。
もう最悪だった。
私のびしょ濡れになった様子に一部でどっと笑いが起こった。
「ニーナさん! そこで何をやっているのですか?」
そして、そこには怒りに狂ったペトラ先生が仁王立ちしていたのだ……
もう本当に最悪だった。
池の汚い水で、私自身がドボドボになるわ、ペトラ先生に怒られるわ、私のレポートが水にぬれてダメになって帝国語の先生に怒られるわ……
ペトラ先生には、窓から飛び出しことと、業務執事に頼まずに勝手に取ろうとしたことが淑女にあるまじきことだと延々怒られたんだけど。
礼儀作法の授業でもないのに反省レポート10枚の刑に処せられてしまった……せっかくこの1週間反省レポートは無かったのに。また、会長に怒られそうだ。
これもそれも私のレポートを池の上に浮かべてくれた奴のせいだ。
基本的にこんな馬鹿なことをするのは男の生徒のはずなんだけど。
一番やりそうなアハティはお昼は一緒だったし、無理だ。
親切なヨーナスはこんな事はやりそうにないし、ハッリは少し陰険な面があるかもしれないが、こんなことはしないと信じたい。私は少し意地悪なだが根は親切なライラがこのことを喜んでいるなんて思ってもいなかったのだ。
帝国語の先生は酷いことに私が宿題をしてこなかったのを誤魔化すために、池に白紙のレポートを置いたのではないかと言ってくれたんだけど。
決してそんなことはない。
滲んでしまったレポートを見せたら、それが嘘ではないとわかったみたいだが、今度は
「ミス、ニーナ、you do ズル?」
おいおい、これ本当に英語か? いや帝国語、絶対に和製英語だ。
私が適当な文章を書いたレポートを水に濡らして誤魔化したのではと言い出したのだ。
そんなことはないと私がカタコトの帝国語でいうと、
「ふんっ、ミスニーナ。Iam a magician!」
胸を張って帝国語の先生が言ってくれるんだけど、
えっ、手品師なの? 私は魔術師の意味がmagicianだとは思わなかったのだ。私の英語はそんなものだった。
「Go back!」
帝国語の先生が叫んだ瞬間、私のレポートが一瞬で元に戻ったのだ。
「嘘! 凄い!」
私は感激して叫んでいた。
「No,凄いno. Wonderful! Great!」
先生がなんか言っている。
「Great! Wonderfur! You are the best imperial language teacher!」
私はここぞと先生を褒める言葉を吐いたのだ。
「Oh,yes.You are a very good student.」
そう言って私のレポートに花丸をくれたんだけど……
やっぱり会長の言ったとおり、この先生はヨイショに弱いと理解したんだった。
「本当にもう、最悪だったんですから」
放課後、私は会長に文句を言っていた。
「それは災難だったな。犯人はわかったのか?」
「それが全然なんです。最後は風魔法で突き落とされたので、風魔法クラスの人間だと思うんんですけれど……」
私は首を振った。
「風魔法か……」
会長はなにか考えているように見えた。
でも、風魔法のクラスのA組の連中とかは先生を始めとして私は白い目でいつも見られているし。ユリアナが一番怪しいけれど、突風を起こせる者はたくさんいるし。
上級生まで含めたら、本当にたくさんの人間がいるのだ。
「まあ、色々あるかもしれないが、頑張れよ」
そう言うと会長は私の頭を撫でてくれたんだけど。
「会長、私は犬かなんかじゃないんですけど」
私がむっとして言うと、
「いや犬だとは思っていないが、まあ、可愛い後輩には違いないからな」
可愛い後輩? えっ、私って可愛いのかなと密かに嬉しかったのは内緒だ。
そんな私と会長を生徒会室の横から憎しみの目で見つめている視線に私は気付いていなかった。
でも、それからイジメは収まるどころか更にエスカレートしていったのだ。
教科書や、ノートが無くなったり、廊下を歩いていると水が頭の上から落ちてきたり……
犯人が判ったら、報復するのに、それも判らない。
巧妙に判らないようにしているのだ。
「うふふふふ、馬鹿みたい!」
廊下を歩いている時に水が降ってきた時は横でイルマが大笑いしてくれたけれど。
「温風よ、出でよ!」
よく水を落とされる私は会長に風魔法の応用の温風魔術を習っていたのだ。
あっという間に、全身を乾かせた私は通りしなに、イルマの頭の上から水魔法を落としてあげたのだ。
「ぎゃーー」
叫ぶイルマを無視して歩き出そうとしたら、
「ちょっとニーナ、待ちなさいよ」
後ろからずぶ濡れのイルマに止められた。
「何かしら」
私は精一杯知らない風を装って聞いてあげた。
「あなた、今、私に水をかけたでしょう」
「まさか。イルマさんもご存知でしょう。私は魔法適正検査では皆さんにバカにされた様に、ほんの少しの風魔法しか使えないのですよ。水魔法なんて使えるわけ無いではありませんか」
そう、魔法師団長のお陰で、公式には私は風魔法それもほんの少ししか使えないことになっているのだ。
「そんな訳無いでしょ。あなた適性検査の時にヴィルタネン先生らに水魔法をぶっかけてたじゃない」
「あれはたまたまですよ。そうか、私がやったという証拠でもお有りなのですか?」
私は精一杯丁寧に言い聞かせてやったのだ。
凄い。私。少しは淑女らしく振る舞えている?
こんな男爵令嬢くらいならば躱すのは訳ないわ。
私は自分の言動に少し酔っていた。
私はすぐ近くにユリアナがいるのを知らなかったのだ。
「これはこれは、平民風情が貴族の令嬢に水魔法をぶっかけてしらを切るとは、この学園の秩序はどこまで乱れているのか」
そこには憎々しげに私を見下すユリアナ・サデニエミ公爵令嬢が立っていたのだ。
ついに悪役令嬢登場です。
どうなるニーナ。明日更新予定です。





