憧れのウィル様が助けてくれました
男が私の胸に手を伸ばしたところで、私は思いっきり肘鉄を男に食らわせたのだ。
「グェっ」
男が鳩尾を押さえて呻くのと、部屋の扉がダンッと開くのが同時だった。
「大丈夫か、ニーナ嬢!」
そこにはなんとウィル様が飛び込んで来たのだ。
「ウィル様!」
私は鳩尾を押さえて呻いている男を弾き飛ばして、思わずウィル様に飛び付いていたのだ。
いや、結果として、ウィル様の胸の中に飛び込んでいた。
私はウィル様に会えた喜びと男に抱きつかれたショックで結果的にウィル様の胸に飛び込んでいたのだ。
ウィル様はいきなり私に飛び込まれて驚いたみたいだけれど、私を邪険にすることなく、抱き締めてくれた。
暖かい! 夢にまで見た、ウィル様だ。
私はその胸板にスリスリしてみた。あの時上着の暖かさと同じだ。
「あなたは……」
なんか、男、子爵令息は驚いてウィル様を見ていた。
やっぱりウィル様は貴族の間では有名人なんだろうか?
「お前は、王立学園の生徒になんて事してくれるんだ」
「いや、これは私とニーナ嬢の問題で」
「嘘言わないで、いきなり胸に手を伸ばしてきたのはあなたじゃない!」
私が子爵令息の意見にムッとして反論すると、
「そもそも個室になって文句を言わなかったのはお前だろう」
「個室しか無いって言ったのはあなたじゃない!」
「個室に二人になった段階でこうなっても良いって事だろうが」
「なんですって!」
私は完全にプッツン切れていた。ウィル様が居なかったらそのままあの冒険者崩れみたいに燃やしていた。
でも、何故か、ウィル様は頭を押さえているんだけれど……
「ユリアンティラ子爵令息。確かに、ニーナ嬢は貴族のマナーを知らないかもしれませんが、それを、あなたが悪用して良いと言う事はないですよね」
そして、ウィル様の後ろから、何故か、不機嫌さ満載のアクセリ様が現れたんだけど……
何故? 何故ラスボスがここにいるの? って感じなんだけど。
ウィル様とアクセリ様は知り合いなんだろうか?
まあ、会長とウィル様が知り合いなのだから、その側近のアクセリ様が知り合いの可能性はあるとは思うんだけど……
「あ、あなた様はトウロネン様……」
子爵令息が驚愕して、アクセリ様を見ているんだけど。
そらあ、怖いよね。
それでなくとも、普通の時でさえ、副会長のアクセリ様に話しかけるのはためらわれるのに、不機嫌なアクセリ様なんて、絶対に話したくない。
「ユリアンティラ子爵令息、詳しいことは隣で聞きましょう」
顔は笑っているが、目は氷のように冷えた目のアクセリ様が言われた。
これは絶対にダメな奴だ。
「いや、トウロネン様、これには色々と訳がありまして……」
必死に言い訳しようとする子爵令息を、有無を言わさずアクセリ様が引き摺って行った……
「でニーナ嬢、何故、あいつと二人だけでの個室にいた?」
不機嫌さを隠さずに、ウィル様が言うんだけど。
私はこれまでの経緯を話した。
「君は礼儀作法にはまだ精通していないのかも知れないが、基本は未婚の男女が二人きりで個室にいるのは良くないんだぞ」
と、ウィル様に怒られた。
「そ、そうなんですか?」
私は知らなかった。と言うか田舎では普通に男の子らと二人で部屋にいたこともあるんだけど。
「子供の時はいざ知らず、妙齢の女の子は気を付けるべきだ。現に今、君は襲われそうになっただろう!」
「でも、それは仕方がなくて」
「何が仕方がないだ! 二人きりになりそうな時にそれは嫌だってはっきり断ればよかっただろう! 何故断らなかったんだ!……」
「そんな……」
きつくウィル様に言われて、私は涙が湧き出したのだ。
「えっ、いや、ニーナ嬢、いきなり泣き出さなくても」
ウィル様は慌てて、私の涙を止めようとしてくれたが、私の涙は全然止まらなかったのだ。
「だって、ひどい、私、学園に入ったばかりで、右も左もまだわからないのに」
久しぶりに知っている人にあったからだろうか?
私は緊張の糸が切れたように泣き出したのだ。
それを止めようと必死にウィル様が努めてくれたけれど、私の涙はなかなか止まらなかったのだ。
ここまで読んで頂いて有難うございます。
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