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アメリアは地響きが起きそうなほどに車のエンジンを震わせ、高速道路を猛スピードで走行していた。運転しているのは真っ赤なスポーツカーだ。時速は二百キロを超えているが、今走っているエリアはスピードの取り締まりがゆるいので安心して飛ばせるのだ。
しばらく走ったところで高速を降り、一般道を進んでいく。やがて周囲から店や民家が消え始め、辺りが森に囲まれ出したところで前方に大きな鉄の門が現れた。門には『この先私有地に付き立入禁止』と書かれたプレートが取り付けられている。
アメリアは車を停め、キーに取り付けられたボタンを操作する。すると鈍い音を立てながら門が開いた。
門をくぐると広大な庭が広がっていた。綺麗に舗装された砂利道に等間隔で並べられた庭木。さらに進むと高級車が何台も並んだカーポートがあった。アメリアは空いてるスペースに車を停めて降りたつと、コツコツと足音を立てながら歩きだした。
その先には白を基調とした木造二階建ての建物があった。一階部分がかなり広く、その上を大きな屋根が覆っている。そして建物の傍らにはこれまた大きなプールが備え付けられており、張られた水が太陽を反射させキラキラと輝いていた。まるで絵に描いたような豪邸だが、ここがアメリアの住居である。
アメリアは玄関を開き、リビングに入る。すると突然、ドスンという鈍い打撃音が聞こえてきた。音は二階の方からだった。
「…………」
アメリアは顔をしかめ、二階への階段を上がっていく。無数の打撃音と共に床を擦る音が響き、アメリアは呆れたように息を吐いた。そして音の発生源である部屋の前に立ち、扉を開ける。
「あああーっ、もうアイツムカツクッ!!」
中から唸るような叫び声と共にひときわ大きい打撃音が響いた。
「……アリシア。安静にしてなさいって言ったでしょ」
「あ、お姉ちゃんおかえり」
アメリアの呆れた声に、アリシアは振り返り、にっこりと笑った。
その部屋は床一面にゴムのマットレスが敷かれ、周囲には様々なトレーニング用の器具が置かれていた。そして部屋の中央には大きなサンドバッグが吊り下げられており、その傍らにはスポーツブラにパンツといったいでたちのアリシアが、息を弾ませながら立っていた。
「だってムカついてしょうがないし、体動かしてる方が気が紛れるっていうか」
そう言ってアリシアはサンドバッグに回し蹴りを叩き込む。サンドバッグがくの字に折れ曲がり、大きく揺れる。
「それで所長はなんて?」
戻ってきたサンドバッグに、アリシアはジャブにストレートとコンビネーションを打ち込んでいく。アメリアはアリシアの流れるような打撃をじっくり視線で追いつつ口を開く。
「何も。バッティング時のルールは聞かされてたから期待してなかったけど」
「何それ? 泣き寝入りしろってこと?」
「私がそうはさせないわ。ルールを順守しろというのなら、そのルールに従って借りを返すまでよ」
「いいね! ヤる時は私にも声かけてね!」
ステップ音と共に、軽快なリズムで打撃が打ち込まれていく。
ほとばしる汗。
引き締まったヒップと脚から繰り出されるハイキック。
汗の浮かぶ腹部はスッと腹筋のラインが入っており、割れていながらも女性らしさが残っている。
「それで具体的な作戦はあるの? 何かの事故に見せかけるとか?」
「……そう、ね」
アメリアは目を細め、生返事をする。
スポーツブラに抑え込まれたふくよかな二つのふくらみ。
汗が伝ううなじ。
汗によりキラキラと輝いてさえ見える銀色の髪。
「お姉ちゃん?」
視線に気付き、アリシアが振り返る。上気した頬と桜色の唇。サファイアのような青い瞳がこちらを見つめている。
次の瞬間、アメリアはアリシアを抱きしめていた。アリシアが流した汗を自らの服で全て吸い取ろうとするかの如く、ぎゅっと身体を密着させる。
「……アリシア」
アメリアは唸るような声を出しながら、アリシアの顔を覗き込む。その顔はアリシア以上に上気し、息も荒々しかった。
「……アリシア、あなたはなんて悪い子なの。こんな格好をして私を誘惑しているのね」
そう言ってアメリアはアリシアにキスをした。舌を口内に入れ、ゆっくりと味わうように動かしていく。
「シャワーを浴びましょ」
唇を離しながらアメリアは言った。アリシアは互いの唇に糸を引く唾液を名残り惜しそうに指で絡めとりながら、静かに頷いた。




