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「そもそもそんなことにはならんから安心しろ。バッティング時はハンター同士で話し合いなり力づくなりで、その場で決着。あとから文句言うのは無しってのはクラークの奴が決めたことだからな」
「クラークってアルストロメリアの所長の? そのルール、あの爺さん発祥だったのか」
「あぁ。奴はバウンティ法が生まれる前からアメリカで保釈金を踏み倒した犯罪者を捕まえる――いわゆる元々の意味の賞金稼ぎをやっていた男だ。そして世界で最初のハンターでもある。バウンティ法の設立時も、奴の意見を大いに参考にして作られている」
「といっても、もう八十越えの爺さんだろ? 今頃お姉ちゃんに詰め寄られて冷や汗かいてんじゃないの?」
「奴は未だに最強のハンターさ。二十歳前後の小娘に後れを取るほど耄碌しちゃいない」
「どうだか。どんだけ強い男でも美人には弱いからな。特に感情むき出しにした美人には」
その時アナウンスが鳴り、賞金首の審査が終わったことを告げられた。コウは会話を止め、カウンターの方へと足を運ぶ。
「どうだった?」
書類を受け取ってきたコウにレイが尋ねる。コウは満面の笑みで明細書を掲げる。
「久々の値引き無し! きっちり十割振り込まれるってさ」
「まぁ、俺達はあいつをはね飛ばしただけだからな」
レイは明細書を受け取り、ポケットに仕舞う。
「今月は好調だな。あと数人くらいで目標金額に到達しそうだ」
「軽く言うが、毎回あと少しから残業地獄じゃねえか。おっさんは知らないかもしれないけど、人間は八時間以上働くと身体が壊れるように出来てるんだ」
「安心しろ。それを克服するために人類は医療を発展させてきた。好きなだけ壊れろ」
「ハハハ。実は最近イライラ貯金ってのを始めたんだ。イライラが頂点に達した時の賠償金にも使えるように、靴下に硬貨で貯めてんだ」
コウはため息を吐きながら大きく肩をすくめる。
「……はぁ、しかしこの稼業続けてたら、いつかあの姉妹とお近付きになれるんじゃないかと期待してたのに、まさかこんな出会い方になるとは。第一印象最悪じゃねえか」
「はなから脈無しだ」
「うっせえな! ん~どうしよ。謝罪のDMでも送っといた方がいいのかな?」
「序列一位のあなた方から横取りしちゃってすみませんとでも? 相手のプライドを逆撫でするだけだ」
「こういうのは何事も誠実な態度からって奴だよ。あとは女の子の大好きな光り物かチーズを送れば完璧さ」
「並みの女ならそれで良いだろうがな。まぁ、勝手にしろ」
レイは呆れたように息を吐き、出口へと歩き出す。コウもその後に続く。
「なんか気になってたけど、おっさんあの姉妹に当たり強くね? 何かあったの?」
外に出たところでコウが尋ねる。
「いや、あの姉妹とは今日が初対面だ」
レイは顔を正面に向けたまま答える。
「俺としてはいつも通りのつもりだが――もし何かしらが態度に出てるとすれば、あいつらがクラークの作ったハンターのルールを蔑ろにしていることに対してだろうな」
レイの言葉に、コウは眉をひそめる。
「おっさんってあの爺さんのことそんなに好きなの?」
「……まぁな。俺がマフィアから足を洗ってハンターになろうと思ったのはあのジジイがきっかけだ。お前のような若い世代は知らないだろうが、クラークは本物の一流――六十年以上現役の生きる伝説だ。だからこそ腹が立つのさ」
「…………」
コウは戸惑った表情でレイの背中を見つめていた。まるで憧れのヒーローを語る少年のような姿のレイを初めて見たからだ。
「……昔、何かあったのか?」
コウが思わず尋ねると、レイは足を止めて肩越しに振り返る。
「ちょっとな。まぁ、いずれ話してやるさ」
そう言ってレイは再び歩き始めた。コウは肩をすくめ、その後ろを黙ってついていった。




