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その時、突然森の木々を揺らすほどの爆音が鳴り響いた。音の発生源はキャンプ場の方からだった。
『お姉ちゃん、聞こえる?』
それと同時にアリシアの声が遠巻きに聞こえた。アメリアが視線を地面に向けると、先程男達とやり合った際に落とした無線機からアリシアの声が漏れていた。
『あいつら滅茶苦茶やってるよ! 私への援護のつもりか知らないけど、中央の建物から周囲にグレネードばら撒きまくってる! あいつらには法令遵守の意識のかけらも無いわ!』
優也も無線機に視線を向ける。そして少しの間思考を巡らせた後、そっと拾い上げた。
「……やあ妹さん」
『は?』
優也の応答に、アリシアは素っ頓狂な声を上げる。
『えっ、誰? ていうかお姉ちゃんは!?』
「安心しなよ。キミのお姉ちゃんは無事さ」
優也は穏やかな口調で言った。
「妹、か。きっとキミも彼女に負けず劣らず美しいのだろうな」
『あんたもしかしてデザイア・カルテルのリーダーの――』
「その通り」
『そこを動くな。今すぐ殺しにいってやる』
「姉に負けず劣らず強気な女だ。しかしそう言われると俺も自衛の手段を取らざるを得ないな」
優也はそう言うと、持っていた銃をアメリアの額に突きつけた。
「妹さん。俺は今、キミの大事なお姉ちゃんに銃を突きつけている。俺の銃は引き金が軽いから不用意に近づくのはオススメしない。ちょっと物音がするだけで俺はビビって引き金を引いてしまうだろう」
『……糞野郎』
アリシアの苦々しい呟きに、優也はますます笑みを深める。
「妹さん、そう怒るな。ここで取引と行かないか?」
『取引?』
「あぁ、簡単な話さ。中央で暴れてる連中を始末してほしい。奴らは味方じゃないんだろう?」
『は? 何でそんなこと知って――』
「アリシア!」
通話を遮るようにアメリアが叫んだ。優也は肩をすくめながらアメリアに向き直る。
「妹さんはあまり賢くないようだな。通話の相手も確認せずに情報を垂れ流し、さらに俺の憶測を確定させる情報を簡単に渡してしまった」
『…………』
「まぁそう落ち込むな。それで仲間じゃないならやってくれるな?」
優也からの提案に、アリシアは困惑した様子で唸る。
『いきなり何言ってんの? あんたなんかと取引するわけないでしょ』
「キミに選択肢は無いと思うんだがな。大事なお姉ちゃんを無傷で返してほしくはないかい? 信用してもらえるか分からないが、俺は約束は絶対に守るぞ」
『そんなこと言ったって、あいつらを私一人でやれるはずが――』
「私からも提案いいかしら」
会話を遮るようにアメリアが声を上げる。優也が視線を下ろすとアメリアは言葉を続ける。
「私に狙撃をさせてもらえないかしら。弾丸は一発でいいわ。私が援護すれば確実に奴らを仕留められる」
「……これはまた妙な提案だな。手負いの俺が万全状態のキミを自由にするとでも?」
「あなたは知らないだろうけど、あいつらとは因縁があるのよ。殺しも辞さないほどの因縁がね。だから奴らを殺せという提案は願ったり叶ったりよ。妙な真似をしたらすぐに撃てばいい」
「…………」
優也は目を細め、心の奥底を覗き込むように、アメリアの青い瞳をじっと見つめる。そしてしばらく考えた後ゆっくりと口を開いた。
「――分かった、キミを信じよう」
優也はそう言うと、そっと立ち上がりアメリアの頭上に移動する。
「さぁ、ゆっくりと動いてくれ。前戯のようにじっくり丁寧にな」
「私は時間をかけるより、さっさと済ませたい派よ」
「そいつは勿体ない。ため込むほどに脳を溶かすほどの快楽が生み出されるというのに」
「だからあんたは思考が腐ってるのよ」
アメリアは軽口を叩きつつ、言われた通りゆっくりとした動作で死体をどかしていく。そして上体を起こすと、地面に落ちていたスナイパーライフルを手に取り、取り外したマガジンに新たな三〇八ウィンチェスター弾を装填し、再びセットした。
アメリアは両膝を立て、太ももの内側に両肘を当ててライフルを安定させる。その間、優也はアメリアの背後に回り、そこに座り込んだ。
アメリアがチラリと肩越しに振り返る。優也はアメリアの視線に気付き、首を傾げる。
「何だ?」
「その無線機返してくれない? 妹との通信が無いと狙撃が出来ないわ」
「内緒話されると困るんだがな」
「音量上げて傍に置いてくれるだけでいいわ。それならあなたにも聞こえるでしょう?」
優也は観念したように肩をすくめ、アリシアの傍に無線機を置いた。
「アリシア、聞こえる? こっちは狙撃体制に入ったけど、あの馬鹿どもが爆発物バラまいたせいでサーモスコープが機能してないわね」
『……了解、お姉ちゃん。こっちは建物に近付いてるとこ。準備出来たら奴らの座標を送るね』
「焦る必要はないわ。一発で仕留めるわよ」
「座標――なるほどね」
アメリアのやり取りを見ていた優也は感心したように頷いた。
「こんな視界の悪い森からどうやってボートを狙撃したかと疑問だったが、妹さんが位置情報を送っていたのか。素晴らしい技術だ」
「それはどうも」
「ちょっと質問してもいいかい?」
優也の言葉に、アメリアはスコープを覗き込んだまま尋ねる。
「何?」
「キミは何でハンターなんてやってるんだい? キミほどの人間がわざわざこんな危険な仕事を選ぶ必要無いだろう?」
「…………」
アメリアは無言のまま再び優也を肩越しに見る。優也は穏やかに微笑んでいる。




