2
「お、お願い、殺さないで! お金なら上げるから!」
アリシアは怯えた演技をしながら両手を上げる。男は声を抑えながら怒鳴りつけた。
「うるせえ静かにしてろ。少しボディチェックするだけだ。おら、カバン降ろして両手を頭の後ろで組め」
アリシアは言われた通りに両手を組む。そんなアリシアの身体を、男はぎこちない手つきで調べていく。
「……問題なさそうだな」
男はそう呟くと、ナイフを仕舞いながら顔を上げる。そこでようやくアリシアの容姿に気付き、ぐっと言葉を詰まらせた。
「……いや、待てよ。女はどこに何隠してるか分からねえしな」
男の顔に下卑た笑みが浮かぶ。そして今度は明らかに別の目的でアリシアの身体をまさぐり始めた。
「…………」
男の行動に、アリシアは顔をしかめる。そして呆れたように小さく息を吐いた。
「……なぁ、名前何て言うんだよ? こんなバイトしてるってことは金に困ってんのか? 今から別のバイトやってみねえか? 金ならあるぜ?」
男の言葉を無視し、アリシアはチラリと廊下の奥を見た。部屋の間取りは把握している。この廊下の先にある扉を開けると洋室、そして正面にベランダの窓があるはずだ。
アリシアは視線を扉、男へと素早く動かす。そしてゆっくりと口を開いた。
「九十、ミリ一五、ダウ三十」
「あ?」
アリシアの突然の呟きに、男は眉をひそめる。アリシアは男をまっすぐに見つめ、そっと呟いた。
「ファイア」
その瞬間、ガラスの割れる音と共に男の身体が吹き飛んだ。男はそのまま派手な音を立てて床に倒れる。
アリシアは倒れた男に視線を向ける。頭部が抉れ、肉片と血糊が玄関にへばりついていることから、既に事切れているのは明白だ。
「な、何だ!? 何が起きた!?」
部屋の奥から声が聞こえる。それを合図にするかのように、アリシアはバッグに手を突っ込み、そして中から九ミリの自動拳銃を取り出した。
「今から突入するわ」
アリシアはそう言って、扉を勢いよく開けた。
まず目の前に飛び込んできたのは先程の奴と似た格好の、ガラの悪い男だった。ターゲットではない、と判断した瞬間、アリシアは目の前の男の左胸に銃を向け、素早く二回引き金を引いた。乾いた銃声が鳴り響き、男は声を上げる間もなくその場に倒れた。
「こ、こっちに来るんじゃねえ!」
男の叫びと女性の悲鳴が木霊した。アリシアがそちらに顔を向けると、現在の洋室と隣接したもう一つの洋室に三つの人影が見えた。女性を盾にし、その首元にナイフを突きつけている男、そしてその隣には目的の賞金首の男がいた。
「……あちゃー、部外者いたか」
アリシアはそう呟きつつ、男の位置を確認する。そして視線を横に動かし、カーテンの閉められた窓に目を向ける。
「下がれ! 女がどうなってもいいのか!?」
男の叫びを聞き流しつつ、アリシアは視線を周囲に素早く動かす。そして再び男に視線を向けると、静かに口を開いた。
「九十、ニ・三、ファイア」
その瞬間、窓が砕け散り、女を人質に取っていた男の頭が吹き飛んだ。突然のことに、賞金首の男は唖然とした表情で、倒れた仲間と割れた窓を交互に見る。
「な、なんだ、狙撃!? 馬鹿な、どうやって!?」
「さぁ、観念しなさい」
アリシアは男に銃を向けていった。そして視線だけを女性に向け、言葉を続ける。
「ほら、あなた、こっちに来なさい。また人質にされるわよ」
呆然とした表情で立ち尽くしていた女性は、その言葉を受けてはっとした表情でアリシアに駆け寄った。女性はそっとアリシアの背後に回る。
「待て、撃つな! お、お前ハンターか? 俺は無実なんだ! 本当だ!」
「はいはい、その手の言い訳は留置所で好きなだけ言いなさい」
アリシアは呆れたように息を吐きながら、男に改めて銃を向ける。
「はい、跪く。両手は頭の後ろ。早くしないと容赦なく撃つからね? 生け捕りが原則だけど無傷で捕まえる必要は無いんだから」
「分かったって! 落ち着け!」
男は文句を言いながら言われた通りに跪く。従順な男にアリシアは満足そうに頷くと、拘束用の結束バンドを取り出そうとジャケットの胸ポケットに手を入れる。
その時、背中に何か固い物が当てられた。
「……?」
突然のことにアリシアは眉をひそめる。しかし後ろを振り返ろうとした瞬間、バチンと何かが弾ける音と共に、背中に激痛が走った。
「がっ!!」
思わず口からくぐもった悲鳴が漏れ、前のめりに崩れ落ちる。そしてその瞬間を待っていたと言わんばかりに、男は立ち上がると玄関に向かって走り出した。




