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Lawless Hunter 因縁の螺旋  作者: 佐久謙一
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***



 トラックを一時間ほど走らせ、目的の山が見えてきた。かつては避暑地としてそれなりに人気もあったのだろう。辺りには大きなレストランやカフェテラスが並んでいるが、現在はそのどれもが無人の廃墟と化していた。

「おっさん、まだ? ケツ痛い。早くして」

「黙ってろ」

 トラックは山の入口に入り、キャンプ場への道を進んでいく。この先がデザイア・カルテルのアジトだ。

「そろそろだな。一応相手が支払いを踏み倒すという可能性も視野に入れておけよ」

「ははっ、任せてよ。商談に関しては僕のほうがプロなんだ」

 黒田はやや顔を引きつらせながらも自信満々な口調で言った。やがて金網で仕切られたキャンプ場の入口が見えた。

 入口の左右にはキャンピングカーが止められており、カラシニコフで武装した男が左右に陣取っていた。胸に無線機を取り付けており、こちらに視線を向けたまま応答している。

「あぁ、どうもどうも。朝に商談の連絡をした黒田だけど――」

 入口で車を停め、黒田は笑みを浮かべながら言った。男は特に返事をせず、入口のほうへと歩き、無言のまま金網の門を開いた。

「……えぇっと、入っていいのかな?」

 黒田が引きつった顔で尋ねるが、男達は無言のまま、さっさと行けと言わんばかりにキャンプ場内を指差した。

 トラックは案内されるまま中央の建物まで進んでいった。建物の一階は広い車庫のようになっており、整備中らしき車が隅の方に何台か置かれていた。

 車庫の中央まで来たところで停止を促され、奥から黒いジャケットを来た男が姿を現した。

「よく来たな、赤デブ。そこで車を降りてもらおう」

 男はこちらを真っ直ぐに見据えながら大きな声で言った。レイが視線を前に向けたまま黒田に尋ねる。

「奴は?」

「あれは優也の片腕のジョンだったかな。優也が一番長く組んでる相棒で、一番信頼してる部下だよ」

 レイと黒田は小声でやり取りしつつ、車を降りた。レイが周囲を軽く見渡すと、数人の男達が明らかに警戒した様子でこちらを見据えていた。

「やあ、久しぶりだね、ジョン。ボスはいないのかな?」

「優也さんは釣りに行ってる。買い物は俺が代わりにやっておくよ」

 ジョンの言葉に、黒田は困惑した顔でレイに視線を送る。その視線に誘導されるようにジョンはレイに顔を向けた。

「こいつは誰だ? 前回の取引の時にはいなかったよな?」

「あ、あぁ、彼は新しく雇った護衛だよ。君達ももう大物だし、今回のブツも高級品だからね」

「俺達が踏み倒すとでも言いたいのか?」

「いや、そういう訳じゃないけど何事も保険としてね」

『――保険か。良い言葉だ』

 その時、どこからか機械越しの声が響いた。発生源らしきところに顔を向けると、そこにはウェブカメラの付いたノートパソコンが置かれていた。

『パソコン越しで悪いな。優也だ。久しぶりだな赤デブ』

「……あ、どうも」

 優也の言葉に、黒田は歯切れの悪い様子で返事を返した。

「ええと、今釣りに行ってるんだっけ。出来たら直に顔を合わせて商談したかったけど」

『いや、釣りは終わった。たくさん釣れて最高だったぜ』

「あぁ、それは良かった。それだったら待ってるよ」

『別にそっちに戻るなんて言ってないんだがな』

 優也の言葉に黒田は一瞬言葉を詰まらせる。パソコンには何の映像も出力されていないが、声の感じから不敵な笑みを浮かべているような錯覚を感じた。

『そんなに俺に会いたいのか? こっちは前回同様、言い値で買うと言ってるんだ。何か問題があるのか?』

「え、いや、別に問題がある訳じゃないけど、商品に問題が無いかをお客さんにチェックしてもらうのって大事じゃない? 前回も三十分近く試射してもらったし」

『……確かにそうだな』

 優也は一瞬沈黙したのち、再び喋り始めた。

『いや、悪いな。随分と余所余所しく感じるだろうが、こっちも賞金が上がっててピリピリしてるんだ』

「いや、お構いなく。その辺の事情は分かってるから」

『分かってくれるか? いや、最近本当に不思議な出来事が多くてな』

 優也は大きくため息を吐きながら言葉を続ける。

『ちょっと愚痴になるがつい先日部下の裏切りがあったんだ。まぁ、末端の新入りだったから単純に俺の事を舐めてたんだろうな。集金した金を奪って逃げやがったんだ』

「あぁ、それは大変だったね」

『俺はな。別に金の事は気にしていない。表だろうと裏だろうと、商売やってれば盗みタタキのリスクは当然ある。俺が一番許せないのは俺を舐めてるという事に対してだ』

「……そ、そうだね」

『俺は自分を根っからの商売人だと思ってる。商売の基本は需要のある物を売る。そして売るときは高ければ高いほどいい。当然だろ? あんたも銃の売人なら分かるはずだ。例え相場より高い代物だろうと、相手を納得させればそいつは一流の商売人だ。俺はちゃんと納得した。数と品質は間違いなく良かったからな。そういう点では俺はあんたを尊敬してるんだぜ?』

「…………」

 黒田の額に脂汗が浮かぶ。

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