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「あぁ、そうだ。話は変わるが、高額賞金首の情報があるぜ」
大山は近くのパイプ椅子に腰かけるとスマホを操作しだした。
「一時間くらい前かな? 懸賞金が三千万超えて〝生死問わず〟に昇格したイカれ野郎が現れた。姐さんも名前くらいは知ってるだろ? デザイア・カルテルのボスの優也くん」
「……あぁ、聞いたことあるわ」
大山の出した名前に、アメリアは顔をしかめて答える。
デザイア・カルテルは日本の半グレの集まりで、優也と呼ばれた男はそのまとめ役だ。初めは詐欺やドラッグ販売程度のシノギをやっている少数の集まりだったが、短期間で商売の規模がどんどん拡大していき、気付けば並みのマフィアと肩を並べるほどまでに成長したグループなのだ。
「今一番勢いのあるルーキーだな。ドラッグ、殺人、売春、武器密売、エトセトラエトセトラ。こいつが手を出してない犯罪は無いんじゃないかってレベルだ」
「優也と言うわりに優しさの欠片も無い男ね」
「名は体を現すなんて迷信だぜ。名前に美が付いてる奴もだいたいブスだし」
「確か先月くらいまでは一千万も無かったはずだけど」
「ハンターを五人も返り討ちにしたからな。拠点の場所は割れてるが、どこで仕入れたのか突撃銃で武装した部下が数十人もいる。あれは機動隊クラスじゃないと荷が重いぜ。それで、どうする?」
大山はアメリアに向き直る。
「独占権買うか? こいつは大変そうだから俺の取り分を減らしてもいいぜ?」
「……そうね。やるとしたら事務所の精鋭から何人か借りる必要がありそうだわ。狙撃と白兵戦のチームから二人ずつくらい――」
「お、ちょっと待った、姐さん」
大山がアメリアの言葉を遮り、ため息混じりに言った。
「どうやら一足遅かったようだ。既に独占権を買われちまったようだな」
「こんな短期間に?」
アメリアの質問に、大山は肩をすくめる。
「あぁ。どこの命知らずか知らないが、よっぽど自信があるんだろうな。エクスペンダブルズでも綿密なブリーフィングが必要な相手だぜ」
「まるで生死問わずになるのを待ちわびていたような早さね」
アメリアの言葉に大山は一瞬考え、やがてその意味を理解する。
「まさか、そいつが買ったって言いたいのかい?」
大山はアメリアの持つレイの資料を指差して言った。アメリアは資料を指ではじきながら頷いた。
「確率は高いと思うわ。こんな狙いすましたかのような買い方する奴、こいつしかいないでしょ」
「姐さん、言われる前に言っておくが――」
大山は顔をしかめて言葉を続ける。
「これ以上こいつらを付け狙えってのは無しにしてくれ。個人情報だけならまだ誤魔化しも効くが、ここからさらに行動を追うのは確実にバレる。俺、拷問とかに耐えられる自信ないぜ? 姐さんの情報を三割くらい脚色して話しちまうよ」
「別に追うのはこいつである必要はないわ」
アメリアはレイの資料を放り、大山の持つスマホを指差す。
「追うのはデザイア・カルテルのほうよ。ギャングの規模、そしてレイのプロファイルから見るに、何かしらの搦め手で攻めるはず。デザイア・カルテルの方に網を張っていれば必ず目立つ動きがあるはずよ」
アメリアの言葉に、大山は半信半疑と言った様子で眉をひそめる。
「……まぁ、そっちを追うのは簡単だが、まだ柏木ハンター事務所が買ったと決まった訳じゃないだろう?」
「報酬は払うから文句言わずにやってちょうだい。仮に柏木じゃなかったとしてもデザイア・カルテルをどう攻略するのか興味があるわ」
アメリアの有無を言わさぬ物言いに、大山は観念したようにため息を吐いた。
「全く人使いが荒い姐さんだぜ。美人ならどんな無茶ぶりしても許されると思ってないか?」
「それに見合う報酬は払っているでしょう? 私は一流品しか使わない。情報屋としてのあんたの腕を一応信用してるのよ」
「嬉しいこと言ってくれるね。姐さんに初めて褒められた気がするぜ。録音したいから今のもう一度行ってくれないか?」
アメリアはメガネの中央を人差し指で上げ、すっと大山を見据える。
「そうね、良い情報を持ってきたら考えてあげる」
「そう言われちゃ頑張るしかないな。全く男の扱い方をよく分かってらっしゃる」
大山の嫌みに、アメリアは、ふんと鼻を鳴らした。