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6.「家族」

短めです。

「単刀直入に聞く。………誰だ?」


 いつになく真剣なフリードの問いに、ミルドランは首を傾げ、宰相親子は一度だけ互いを見た。シュゼイン公爵は平然と紅茶を一口口に含む。

 フリードの執務室、シュゼイン公爵の影すら下げさせた室内で、フリードは最も信頼を置く部下たちに問う。


「此度の一件、裏で手を引いた者がいるだろう。怒らないから正直に吐きなさい」


「吐きなさいって」

「いやそれ絶対怒るやつ……」

「私にあまりにも都合が良さすぎる展開だ」

 身内同然の相手しかいないので、ユランもミルドランも完全に砕け切っているが、真面目な話なのだ。


「絶対誰か、第一王子に何か吹き込んだだろ?」

「とりあえず、俺じゃねーよ?そんなメンドクセーことするくらいなら、自分で暗殺する」

「このメンツで君を疑うのは君以上のバカだ」

「あ?」

「は?」

 睨み合い、次の瞬間には互いの襟を掴む幼馴染二人を低い声で制する。


「直接会話すると即ケンカになるの、本当にやめろ……。で?」

「言っておくが、私でもないぞ」


 ユランが振り返ってあえて口調を崩したまま言った。

「正直、そんな暇があったらフリューの机の書類を一枚でも多く打破したい」

「打破」

「愚息でないなら、うちでもありません」

 ユランが否定したことで、宰相が困惑した様子で顎を撫でた。

「うちの派閥と第一王子殿下は仲が悪すぎて、他者の目の届かない形で会うこと自体、不可能です。呪術も、ここまで大きく行動を制御することはできません」

「確かに」


 すると、自然に視線はシュゼイン公爵に向かう。目が合うと、シュゼイン公爵は黒い瞳を少しだけ眇めた。


「……殿下」


 その冷たい美貌に何の感情も浮かべず、口を開く。


「…第一に、我が家は王位争いに関して中立を保ちます」

「……そうだな、疑って悪かっ………第一に?」

 首を傾げて聞き返すと、何てことのないように頷く。


「…第二に…やると決めれば、王妃とソラシオ一派を完全排除できる方向で動きます」


 笑顔のポーカーフェイスの宰相が真顔になった。ミルドランがヒェ、と小さく声をあげ、ユランの顔が強張る。それらを完全に無視し、いつもの口調で淡々と……むしろ少し不満げに続ける。


「…奴らを確実に始末するのにこのやり方では、あまりにも…あまりにも、手ぬるい。…もっと上手いやり口ならパッと思いつくだけでも五、六個は……詳らかにご説明しましょうか?」

「……分かった。分かったから、その貼り付けた笑顔はやめてくれ」

 フリードの想像以上にソラシオ公爵家……いや、王妃一派を嫌っていたらしい。ゆっくりと笑みを深めていくシュゼイン公爵に、それ以上の言及は避けた。


 ふっと表情を元に戻す。


「…というわけで、私でもありません」

「そ、そうか……。……全員、嘘はないな?」


「武神とフリード・イクス・アロイジア殿下に誓って」

「「偉大なる茨森の魔女の御名に懸けて」」

「…夜の神と国父陛下に誓いましょう」


「……バラッバラだが、全員信じる者に誓ってくれたんだよな?うん、ありがとう」


 鉱国の宗教事情に思いを馳せつつ、安堵のため息を吐く。


「良かった。やったのがこのメンツだったら、全力で隠蔽しないとならないからな」

「さすがフリュー。王族らしいえげつなさだ」

「殿下がご立派になられて、じいやは嬉しゅうございます」

「微妙に褒められてない」

 ぼそりとつぶやいた一言を拾われていたらしい。ユランと宰相がそっくりな笑顔で褒め称えるも、フリードは釈然としない顔をする。ミルドランはゲラゲラ笑っていた。シュゼイン公爵はもう興味を失ったのか、明らかに護衛の方に神経を向けている。


 物心ついた時、血の繋がった家族は既に「家族」ではなかった。


 フリードの家族は、乳母であるテルセン辺境伯夫人と、彼ら四人。



 乳兄弟のミルドラン。


 教育係の宰相・ガラク侯爵。


 幼馴染のユラン。


 剣の師のシュゼイン公爵。



 彼らだけは、失うのを避けたかった。誰よりも信頼する、彼らだけは。


(違うなら、良かった)


 なにも、解決してはいないのだが。


 とりあえず、肩の荷は下りた。

お読みいただき、ありがとうございました。

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