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27.嵐月の第二十八日・前編

短めです。

 ある朝目が覚めると、目の前で黒ずくめの男が剣を振り上げていた。


(……ここまで侵入を許すとは、珍しいな……)

 寝起きが良く、就寝中の襲撃に慣れているフリードは、のんきにそんなことを考えながら、枕の下の剣を抜いた。

 次の瞬間。


 ぐわっしゃん、ドカばきっ、バン!


 ド派手にガラスの割れる音がすると同時に、黒い影が侵入者を巻き込んで視界を横切っていった。

 影はそのまま(いつのまにか)開いていた扉から廊下に飛び出し、間髪入れず、扉が閉ざされた。


「…………………」


 剣を構えたまま、ポカンと口を開けた間抜け顔で固まるフリード。


 数秒後、軽やかなノックの音が響いた。許可を出すと、案の定、黒い将軍が現れた。

「…おはようございます、陛下」

「お、おはよう……えっ、今のはなかったことにする方針っ?」

「…できればそのように…。お怪我はございませんか?」

「大丈夫だ。守ってくれてありがとう、シュゼイン公爵」

 諦めて剣を鞘に収め、枕の下に戻すフリード。

 朝の準備を手伝おうとしたのか、近づきかけたシュゼイン公爵だったが、途中でぴたりと動きを止めた。上着を軽くはたくと、何かがきらりと光った。ガラスの破片だ。


 振り返ると、窓枠ごと大破した大窓、床一面に散らばるガラス片、青い空、白い雲。


 先程の音に納得したフリードは、改めてシュゼイン公爵を見た。

「シュゼイン公爵こそ、怪我はしていないか?」

「…無傷です。…お気遣い、感謝申し上げます」

「それなら良かった」

 穏やかにそう話していると、バタバタと足音が聞こえた。

「フリュー!?今すごい音が……なんじゃこりゃ!?」

「やあ、ミド。おはよう」

 飛び込んできたミルドランが、額に青筋を立てて怒鳴った。

「おまっ……落ち着きすぎだろ!!窓ガラス大破してるんだから、少しは気にしろよな!?」

「確かに」

 その指摘にハッとする。非日常が日常化してきているフリードである。

「バカバカ!裸足で床に降りるな!抱えてやるから、そのまま待ってろ!!」

「ハイ」

「ああ、フリュー」

 フリードを抱き上げたミルドランは、嬉しそうに頬擦りした。

「おめでとう!夜ゆっくり祝おうな」

「……!ありがとう、ミド」



「あー、これ、窓枠完全にイッちゃってますねー」

 続き部屋で着替えて戻ってくると、灰色の軍服の男が大破した窓枠をなでていた。

「将軍、窓を直すのは大変なのですよ?」

「これだけの大きくて透明なガラス、一枚作るのにどれだけの日数と金貨が必要だとお思いですか?」

「安物の食器じゃあるまいし、こう何枚もパリンパリン割られると困ります」

「…すまん」

「私のためだから、あまり叱らないでやってくれ……」

 隠蔽担当の影たちが、将軍を叱りながら飛び散ったガラスの掃除と窓の修理をしていた。あとで知ったが、将軍は器物損壊の常習犯らしい。

 「将軍にも欠点があるんだな……」と少し親近感が湧いた。

 部屋を出る直前、心持ち後ろ姿がしょんぼりしていたシュゼイン公爵が、ふとこちらを振り返った。


「…陛下」

「?」

「…おめでとうございます。…こんなお目覚めになってしまいましたが…今日という日が陛下にとって、良き日になりますように」

「ありがとう、シュゼイン公爵」



「おはよう」

「おはようございます、陛下。本日の予定ですが……」

 公私はきっちり分ける質のユランは、いつもと変わらずさくさくと仕事を開始する。例年通り、プライベートな時間になってから祝ってくれるつもりなのだろう。

 と、ユランが突然友人としての口調になった。

「それと、今日の婚約者との交流の時間は、夜に回した。王女殿下も祝いたいとおっしゃったからな、確実に時間を取るための処置だ。今夜のパーティーは、王女殿下も一緒だぞ」

「アンも?誰が教えたんだ?」

「将軍が影越しに教えたようだ」

 気を使わせたくないと教えていなかったが、祝いたいと思ってくれたのは純粋に嬉しい。

「それと、届いたプレゼントはいつも通り、暗部の確認が終わり次第部屋に運んでおく」

「あ、今の私の部屋は、ガラスまみれで窓が大破しているから気をつけるよう、担当者に伝えておいてくれ」

「はあ?朝から何をやっているんだ」

「いや、冤罪だから……」



 穏やかな時間は、突然の闖入者によって破壊された。

 フリードたちが出席の返事を送ってきた貴族の一覧を作成していると、金切り声と共に扉が開け放たれた。

「何故手紙の返事を出さないのです!?」

 青の瞳にフリードによく似た金髪。

 元王妃、王太后だ。


 第三王子殺害の疑いは晴れたものの、長年のソラシオ公爵の暴走を許していた咎で、蟄居の処分を下されていた。




 どうやら、甥である新ソラシオ公爵の手を借りて抜け出して来たらしい。


 フリードはため息を吐いた。


おまけ:

鉱国の暦は、

一月ー始月 二月ー衣月 三月ー芽月

四月ー蕾月 五月ー花月 六月ー嵐月

七月ー鹿月 八月ー陽月 九月ー豊月

十月ー狩月 十一月ー霜月 十二月ー凍月 です。


お読みいただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] おめでとう、て誕生日が何かかな。 あとミルドラン達てそれなりのおっさんか青年くらいよね? まだ小さな少年達ならともかく、おっさんが抱っこして頬擦りてBLにしか見えんのやが… [一言] …
[一言] 罪の意識がない輩は生きる価値はない。
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