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16.王太子のお茶会・遠い親戚

「やっとですか。待ちくたびれましたよ」


 四公爵で一番最後に呼ばれたのは、ソラシオ公爵。煌めく金髪に、黄色味の強い緑の瞳。


 そういえば、王妃は一族特有の煌めく金髪ではなく、べったりと重い金髪だから、両親から粗末に扱われたと聞いたことがある。

(まあ、今それは関係ないがな)

 結局第三王子殺害への関与は認められなかったので解放されたソラシオ公爵だが、フリードたちの見る目は厳しい。でっぷりと肥えた体を揺すり、フリードの許可も得ず着席しようとしたため、手でそれを制する。


 この家は、最短で済ませるつもりだ。



「貴殿に言いたいことは一つ。横領した金を一ヶ月以内に全額返金せよ。さもなくば、強制労働所にて働いて返せ」



 ソラシオ公爵はぎょっと目を見開き、硬直した。しかし数秒すると途端にダラダラと汗をかきだし、不恰好な笑みを浮かべる。

「な、なんのことやら……」

「宰相」

 宰相が書類の束を、バサリと投げるようにテーブルに置いた。例のシュゼイン公爵印の証拠書類の写しだ。


 みるみるうちに青ざめるソラシオ公爵。


「即位までに身の回りをきれいにしておきたい。しかし、新しい王の父がアレで、兄がアレで、伯父までコレでは、さすがに国民が不安がる。この国の王族関係者に、まともな者はいないのかと」


 日々粉骨砕身己の職務に取り組む仲間のために、そんなことはないと言ってやりたいが、どうあってもネガティブな出来事の方が印象に残る。自分達の生活がかかっていれば、なおさらだ。


(こいつらなんかのせいで……!!)


 爪で肘置きをカツカツと叩く。

「……だが血税を不正に奪い、私的に使用したその罪、決して軽くはない。横領額の半分を公爵家から返還したのち、残り半分を貴殿が強制労働所にて働いて返すならば、非公開処分とする」

「そんな……無茶を言うなっ!!」

「受け入れぬなら仕方がない。その罪を公示した上で一族全員犯罪奴隷に落とし、全てを差し押さえてでも払わせるのみ」

「っ!」


 本来、横領はその実行犯とその金を使った者で払わせるのが鉱国の法だ。横領した金をソラシオ公爵家の面々が私欲のために使ったのは確認済み。但し、状況次第で免除になることもあるので、それを使うつもりだった。

 何せ、全員を罪に問うたら、ソラシオ公爵家は取り潰しになる。さすがに、公爵家一つ潰す気はフリードにはなかった。


 これでもかと睨め付けると、ソラシオ公爵は顔を真っ赤にして椅子を蹴った。

「伯父をたかが横領程度で辱めるとは何事……ひっ!?」

 ミルドランが抜刀の構えを取るのとほぼ同時に、ソラシオ公爵の首筋にぎらりと光るものが添えられた。背後に音も無く立った人影が、短く吐き捨てる。

「座れ」

 栗毛の武官は、ソラシオ公爵の肩を掴むと強引にその場に跪かせた。

 その軍服の色は、灰色。暗部の影だ。ソラシオ公爵は、さっと青ざめた。


「アリーズ、ロートス」

「「は」」

 フリードが片手を上げると、追加で現れた二人の影が、流れるようにソラシオ公爵を拘束した。

「な、何をす……もご!」

「手筈通りに」

「「拝命しました」」

 ばさ!とソラシオ公爵の頭から麻袋を被せた。二人がかりで暴れる麻袋を担いで去っていく。



 それを見送ったのち、フリードは背もたれに身を預けた。

「これでソラシオ公爵は『引責辞任』だ」

「お疲れ様でした、殿下」

 実は、彼以外のソラシオ公爵家には、あらかじめ話を通しておいた。彼に聞いたのは、義理のようなもの。ソラシオ公爵家の面々は、躊躇うことなく当主を売った。

 あれだけ恩恵にあずかっておいて、あっさり切り捨てる薄情さにはゾッとしたが、好都合ではあった。今頃は「父が体調を崩したので当主交代した」と噂を流している頃だろう。

 そのうち、「父は領地で療養させることにした」という噂が流れるに違いない。


 フリードは安堵のため息を吐くと、栗毛の武官に微笑みかけた。

「スコット、ご苦労だった。おかげで、騒ぎを起こさずにソラシオを拘束できた」

 ミルドランの役目はあくまでフリードの身を守ることであり、罪人を捕えることではない。咄嗟に抜刀の構えを取ったことからしても、フリードを害さんとする者は容赦なく切り捨てていただろう。それは困る。

 内密に済ませるため、あえて近衛騎士ではなく影の人員を選んだのが、正解だったようだ。


 名前を呼んで礼を言うと、栗毛の武官ーーースコットは少しだけ目を見開き、口元を綻ばせた。

「………暗部以外で影の名まで覚えて呼んで下さるのは、殿下くらいです」

 そして丁寧に一礼して、再びどこかに潜む。

 彼の姿が完全に見えなくなると、フリードは背もたれに身を預けた。

「……しかし、なんであんなに偉そうにできたんだ……」

「『母親の生家なのだから優遇されて当然』と思っていたのでしょうね」

「その理屈が通用するのは、関係が正常でかつ双方に利益がある場合のみなのですがなあ」

 フリードたちの場合、そのどちらにも当てはまらない。宰相が机の上の証拠書類を回収し、角を揃えた。

「……ですが、本当によろしかったのですか?先日も申し上げた通り、身内をなんとも思わない、冷酷な王だと思われるかもしれませんよ」


 フリードは、ソラシオ公爵派閥の貴族の資金源の洗い出しも進めている。犯罪行為に無関係の者たちへの影響が少ないよう、慎重にことを進める予定だ。

 だが、最終的には不正な金の流れは、一掃する。冷たく吐き捨てた。

「構わない。そうやって身内贔屓で腐ったのが国王陛下の治世だ」

 冷酷だが公正な王と、温和だが身内にばかり甘い王だったら、フリードは前者がいい。後ろ盾はシュゼイン公爵家とガラク侯爵家で十分だ。


 侍女が淹れ直した紅茶をお礼を言って受け取ると、ちらりと斜め後ろに目を向ける。


「……宰相も座ったらどうだ?空き時間だし、たまにはいいだろう」

「では、お言葉に甘えて」

 侍女が新しいカップを宰相の前に置いた。


 正面に座った宰相に、問いを投げかける。



「じいや、辞めるって本当?」


お読みいただき、ありがとうございました。

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