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15.王太子のお茶会・代償を抱える人々

この作品内では、「一刻=一時間、半刻=三十分」と設定しています。本来の「一刻」とは異なりますので、ご注意ください。

 半刻後。


 フリードは再びぐったりとうなだれてテーブルにもたれかかっていた。


「……宰相」


「なんでしょう、我らが王太子殿下」


「先ほどから、貴族としてあり得ない無礼を繰り返されている気がするのだが……。私の知らないうちに、鉱国の礼儀作法が変わったのか?」

「そんなわけはございません、しっかりしてくださいませ」

「だよなあ……」


 冷たい無表情の宰相に、苛立ちを隠さないユラン、呆れ返っているミルドラン。テラスは実に微妙な空気だった。先ほどから茶器を出したり引っ込めたり、紅茶を淹れ直したりしている侍女たちには、本当に申し訳なく思う。



 三番目に呼んだウォレス公爵には、なんと連れがいたのだ。



 今回フリードは、王太子として各公爵家の当主一人一人を呼び出した。つまり、ウォレス公爵は、招待されていない者を勝手に連れ込んだことになる。夫ならまだエスコートと言えたものを、彼女と共に現れたのは、分家の侯爵令嬢だ。

 しかも、第三王子の元婚約者。なるほど、打診しただけのタルヴァ公爵はまだ弁えていた、などと、よくわからない感心の仕方をしてしまった。


 その事実を報告された時の、宰相親子の笑顔はすこぶる怖かった。


 結局、激怒した宰相親子が笑顔で二人をいびり倒し、フリードはほとんど口を開かないまま茶会は終わり、今に至る。


 ユランが腕組みをしてふん、と鼻を鳴らす。

「あの馬鹿女、あの程度の顔で偉そうに」

「お前が言うと洒落にならねーよ……」

 「自分以上にキレてる奴がいると、キレる気失せるのな……」と呟いていたミルドランが、ユランにツッコむ。

 ウォレス公爵に連れられたネルソン侯爵令嬢は、ウォレス一族らしい銀髪にサファイアのような青い瞳の美女だった。それを鼻で笑う美男子、ユラン。平凡な顔立ちのフリードはため息を吐いた。

「確かに私は第三王子に比べれば大した顔ではないが……ああも露骨に反応されると……ちょっと、傷つくな……」

「確かに殿下はお世辞にもハンサムではありませんが、まあ、それなりに好青年ではありますよ」

「……忌憚のないご意見、ありがとう……」

「どういたしまして」

 ネルソン侯爵令嬢は、フリードを見てガッカリした顔をした。表面上は恥じらうような素振りを見せていたが、明らかに目から熱が消え失せたのが分かってしまったのだ。その上、傍らのユランに色目を使い始めた。ユランには婚約者がいないため、ある意味間違いではないのだが、あの目を見てよく可能性があると思えたものだ。


「顔にしか興味ねえなら、平民から顔がいいのを連れてきて、養子にでもすりゃいいのにな。あれじゃあ『美男以外と結婚したら即不貞します』と言ってるようなもんだぜ」

 ミルドランがぼやくと、まだ苛立ちが収まっていないらしいユランが吐き捨てる。

「ウォレス一族は、フロイデンタール侯爵家などのごく一部を除き、血統至上主義だ。いくら顔が良くとも、半分平民の私を夫にすることは絶対にない。せいぜい愛人枠だとでも思っているのだろうさ」

「無理に決まっているのになあ」

 平民の商家出身の妻との間に、ユランを含む三人の子をもうけた宰相は、苦笑いした。

「我が家には『呪い』があるからな」



「ガラク侯爵家の呪い」。

 初代ガラク侯爵は、砂海で生まれ育った、平凡な三つ目族の少年だった。

 しかし、「運が悪い」の一言で済ませるには悪質な、もらい事故のような経緯で、その身に魔女の祝福と呪いを受けた。


 祝福は、優れた頭脳と魔女の知識、そして呪術の才能。

 呪いは複数あるが、代表的なものは「愛執の呪い」だ。



「私たちガラクは、己が見初めたたった一人の異性しか愛せない。そして、その『唯一』に異常に執着し、何より優先させる」

 愛する「唯一」のためならば、人だろうが国だろうが、いくつ壊れても構わない。しかし、「唯一」以外の者と結ばれると、狂死する。

 強制も矯正も不可能。そこまで含めて、「愛執の呪い」だった。


 初めてそれを知った時は、国王を思い出して色々と不安に思ったものだ。……「あらゆる策を講じて周囲に認めさせるまでが、ガラク一族の最低基準です」と言われて、心底納得したが。


 ようやく機嫌が直ってきたユランが、ため息を吐きながら髪をかき上げた。

「……まあ、今や王位継承権があるのは殿下のみ。我らガラク侯爵家も、殿下についていますからね。なんとしてでもすり寄りたいところなのでしょう」

 肩をすくめると、ミルドランがふと顔を上げた。

「そういやあ、なんでウォレス公爵は第三王子派だったんだ?いくら王家派とはいえ、あの血統至上主義、四分の三平民の王子なんて絶対認めないだろう?」


 その瞬間、しんっ……とテラスが静まり返った。


 その反応にさっと顔色を変えたミルドラン、慌てて言い繕う。

「えっ、すみません、聞かなかったことに」

「……いや……そうだな、確かに、高位貴族でも一部しか知らん事実だからな……。ユラン、教えてやりなさい」

「ええ、父上。……いいか、絶対に大きな声を出すなよ」

 がっしとユランがミルドランの肩を抱き、小声で告げる。


「……第三王子殿下の元婚約者は、先代ウォレス公爵の隠し子だ」

「っは……!?」


 叫びかけたミルドランがぱっと自分の口を塞いだ。

「……マジで?さっきのネルソン侯爵令嬢だよな?」

「マジだ。父親はネルソン侯爵家の先代当主。当時彼はネルソン侯爵令息だったから、正当なネルソン侯爵家の血筋ではある。現ネルソン侯爵とは、腹違い」

 ミルドランは知らなかったようが、ウォレス公爵とネルソン侯爵令嬢は、姉妹なのだ。ユランは説明を続ける。


「先代ウォレス公爵は、結婚前から先代ネルソン侯爵と不貞の関係にあった。しかし、その当時彼はすでに結婚していたから、外聞のために当時の王弟殿下を婿に迎えたんだ。……しかし王弟殿下は半分平民ということで冷遇されていたから、現ウォレス公爵も恐らくは……」

 王弟の存命中に生まれていたら、ネルソン侯爵令嬢はウォレス公爵令嬢として扱われていただろう。しかし、先代ウォレス公爵が彼女を身籠ったのは、夫である王弟が亡くなった一年以上後。さすがに計算が合わず、先代ネルソン侯爵夫妻の子として出生届けを出したのだ。


「娘を王妃にすることで、見目だけは完璧な無能で怠惰な王子を傀儡に、自分達が権勢を振るう気だったのだろう」

「ウォレス公爵家は王家のスペアだ。妃がその血を引く以上、種は彼らの理想とする『高貴な』者から仕入れても良い訳だしな。実際、その候補は既に選定していたようだ」

「うへぇ……そこまでするかよぉ……」

「君も言っただろう?あの家は、『四分の三平民の王子なんて、絶対に認めない』」


 うんざりという表情のまま硬直したミルドランをしりめに、深くため息を吐く宰相。

「……あれだけ、『血が濁るからやめろ』と忠告しましたのに」


 ウォレス一族は美形揃いだが、短命の者が異常に多い。血の近すぎる者同士で婚姻を繰り返したがゆえの弊害なのは、明白だった。


「……哀れだな」


 それでもあの一族は、いつまで経っても血縁至上主義を改めない。

 いつかは成り立たなくなると分かっているのに、変わることを拒んで縋る様は、まるで今の鉱国のようで。


 どうにも危うく思えて、恐怖さえ感じるのだ。


ガラク家の「特殊な事情」でした。


お読みいただき、ありがとうございました。

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[気になる点] ウォレス公爵家は、代々女公爵と決まっているのですか?
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