10.真相は、闇の中
短めです。
しばらくして、シュゼイン公爵の捜査により、フリードが今回の一件に無関係であることが証明された。
王妃は猛抗議したが、「メイドが一人多かったかもしれない」という曖昧な証言以外、不審な点も見当たらず。
結局、第一王子による突発的な犯行として処理された。
(まあ、多分違うけど)
嫌味の応酬と腹の探り合い以外、会話の記憶がない兄だったが、あの時の言葉は真実に聞こえた。
『嵌められたのです!私は、お茶会なんて用意していない!今だって、酒を飲んで寝ていたんだ!!』
恐らく、第一王子は本当に部屋で酒を飲んで寝ていたのだ。その間に、真犯人は銀髪の鬘でも被り、わざと人目のあるところで第三王子を刺殺し、罪を着せた。
もしかしたら酒も、そのために真犯人が差し入れたのかもしれない。睡眠薬でも混ぜておけば確実だ。
王が目撃者に選ばれたのも、第一王子を追い落とすのに都合が良かったからだとか。
そんな推測は、妄想だろうか。
(……今となっては、どうでもいいけど)
今、フリードの目の前では、立太子の儀が執り行われている。
既にフリードの宣誓は済み、元王姉であり宰相の実母であるアメシスト大公が、滔々と祝詞を述べているところだ。本来ならば国王の務めだが軟禁中のため、一番王に血が近い彼女が任命された。
祝詞を終えた大伯母と、目が合う。透明感のある紫がかった銀髪が揺れ、サファイアの瞳は優しく弧を描く。老いてもなお美しく気品ある顔立ちは、孫であるユランとその妹にとてもよく似ていた。
「…よって、ここにフリード・イクス・アロイジア第二王子を、王太子に任命します」
彼女はそう言って微笑むと、王冠より少し小さい、王太子を示す冠を手に取った。
フリードもそれに応じて、軽く頭を下げる。
「謹んでお受けします」
冠が頭上に乗せられ、拍手を受ける。
正面に向き直ると、慣例に従い、最前列で四公爵が式を見届けている。右から、いつも通り無表情のシュゼイン公爵、引き攣った笑顔のウォレス公爵、にやにやしているソラシオ公爵、貴族の笑みを浮かべるタルヴァ公爵。
その後ろにずらりと並ぶ、鉱国貴族たち。
(……ここからが、本番)
長年冷遇されていた第二王子の立太子と即位。
気弱で出来損ないの王子だ、手玉に取ってやろうーーーそういう考えが第一王子派を中心に囁かれているのは知っている。正直、「まとめる」とか「導く」とかよりも、「戦わなければ」という意識が強い。
死んで戻ってこない相手のことなんて、考えている暇もない。
もしフリードたちが仲の良い兄弟であったとしても、同じこと。捜査は監査室に引き継がれるが、フリードの立太子と即位で、監査室も多忙になる。そればかりにかかりっきりにはなれない。
王にせよ貴族にせよ、悲しみで足を止めていられるほど、楽な仕事ではないのだ。
(まずは、王城に蔓延る寄生虫どもと、私の道を阻む敵を排除しないと)
そんなことを考えながら、バルコニーから民に向けて、笑顔で手を振る。たおやかな笑顔のアメシスト大公が、隣のフリードにだけ聞こえる声で囁いた。
「あまり無理はしないでね。貴方はザンドライトに似ているから、心配よ」
「肝に銘じます、大伯母上」
優秀だったが若くして亡くなった大叔父の名前を挙げられ、少しだけ肩の力を抜く。
悲しいかな、有能でも無能でも、死ねば等しく骨と肉だ。
お読みいただき、ありがとうございました。