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二 : 立志 - (20) 元服

 天正元年(一五七三年)八月一日。岐阜城で元服の儀が執り行われた。

 対象者は奇妙丸・茶筅丸・三七郎の三名。奇妙丸は十七歳、茶筅丸・三七郎は十六歳と、当時の平均的な元服年齢の十五歳よりやや遅れての儀式となった。尤も、元亀年間は父である信長が敵対勢力との戦に幕府・朝廷への手当に多忙を極めていた事もあり、元服どころではなかった事情がある。

《奇妙丸の元服の時期は『勢州軍記』など一部の文献では元亀三年一月とされているが、『信長公記』など幾つかの文献では天正年間で名が改められていた事から、本作では天正元年八月に元服が行われたものとする》

 総髪から月代(さかやき)を剃り、(まげ)()う。不思議なことに、髪型が変わっただけで一気に成長したような気分に奇妙丸は感じていた。

 それから、烏帽子(えぼし)を持った父・信長がしずしずと歩いてくる。その後ろに同じく烏帽子を持った佐久間信盛・柴田勝家が続く。烏帽子を元服対象者に被せる役目の人を“烏帽子親(えぼしおや)”と呼び、義理の親子のような特別な繋がりで結ばれる関係だった。

 父が持ってきた烏帽子を頭に乗せられる奇妙丸。その姿を確かめた父は、懐から紙を取り出した。

「奇妙丸、本日より“勘九郎”信重(のぶしげ)と名を改める」

 厳かに言い放つと、開いた紙を居並ぶ面々に見せるように示す。そこには“信重”と記されていた。

 続けて、佐久間信盛が『“三介”具豊(とよとも)』、柴田勝家が『“三七郎”信孝』と発表。それぞれ幼名から元服名が披露された。

(……“勘九郎”信重、か)

 父から明かされた新しい名前を、奇妙丸は心の中で呟く。その名前がいいのか悪いのか分からないけれど、まだ自分の中で馴染んでないのは確かだ。

 幼名から元服名に改める際に、烏帽子親やその家で代々受け継がれている名から偏諱を受ける事が多い。奇妙丸の場合は織田家の“信”で、茶筅丸の場合は義理の父に当たる北畠具房から一字を受けていた。

 髪型が変わり、名も改められた。たったそれだけで、自分が一回りも二回りも進んだように奇妙丸は感じた。一方で、今日から子どもではなく大人として扱われるのだと思うと、気持ちが引き締まる思いだった。


《“信重”から“信忠”への改名時期が不明であることから、今後作中では“信忠”表記で統一します》


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