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二 : 立志 - (19) 足利幕府終焉、天正

 帝の勅命もあり和睦を結んだが、信長は義昭がこのまま黙って引き下がるとは思っていなかった。

 元亀四年五月二十二日、信長は長年懇意(こんい)にしている熱田神宮の宮大工・岡部又右衛門を棟梁に佐和山で大船の建造に着手した。義昭が今回の敗戦を教訓にして“京の入り口である瀬田を塞ぐ”と予想し、大軍を輸送する大船で一気に琵琶湖を横断しようと考えたのだ。この建造に信長も佐和山に滞在して監督した記録が残されている。

 対する義昭も、捲土重来(けんどちょうらい)を期すべく動き出していた。五月に入ってから武田信玄や朝倉義景・顕如などへ宛てて自らに味方するよう御内書を出したり、六月十三日には安芸の毛利輝元に兵糧料を求めるなど、再起を図るべく水面下で準備を進めていた。ただ、義昭が頼りとしている信玄は既にこの世を去っており、その情報が義昭の元に入ってないのは滑稽としか言えない。義昭の求めに色よい返事を返したのは石山本願寺の顕如くらいで、他の勢力の反応は(かんば)しくなかった。

 笛吹けども踊らず。思うように味方が増えない状況に、義昭の焦りは募るばかりだった。

 そして――七月二日、義昭は二条城を幕臣の三渕藤英(ふじひで)に預け、自らは宇治の槇島城へ移った。翌三日、義昭は信長との間に結んだ講和を一方的に破棄した上で、再挙兵に踏み切ったのだ!!

 義昭再挙兵の一報を聞いた信長は、七月六日に完成したばかりの大船で琵琶湖を横断して、明智光秀の居城である坂本城に入った。七日には京に到着して定宿としている妙覚寺に入ると、二条城を包囲。あまりに早く織田方の大軍が京に現れた事に恐れをなした幕臣や義昭に味方していた公家衆は、九日に二条城から退去。唯一残った守将の藤英も、柴田勝家の説得を受けて十日に降伏。京に到着してから僅か三日で二条城を落とした。

 七月十六日。信長は槇島城方面へ進み、五ケ庄(ごかしょう)の柳山に布陣した。槇島城は巨椋(おぐら)池という巨大な池沼の浮島に築かれた城で、とても攻めにくい構造だった。信長は部隊を二つに分けて北と南から攻めるのを決め、十八日から進軍を開始した。途中、城から手勢が打って出てきたが多勢に無勢で寄せ付けず、あっという間に槇島城を包囲した。織田勢は壁を打ち破り城の中へ雪崩れ込んだが、義昭方の兵は少なく抵抗らしい抵抗は見られなかった。この攻城戦で森長可が家臣達に先んじて城内に突撃したものの、もぬけの殻同然で武功を挙げるに至らなかった。元々手勢も少なかった義昭は自らの不利を悟り、まだ二歳の嫡男・義尋(ぎじん)を人質に差し出して降伏した。

 度重なる敵対行為に義昭を処罰するよう信長に進言する家臣も居たが、仮にも現職の将軍に危害を加えるような事はしなかった。十九日に槇島城を退去した義昭は木下藤吉郎に護衛されて枇杷庄(びわのしょう)に下り、翌二十日には河内の若江城へ送り届けられた。義昭が京から追放された事で幕府組織は瓦解(がかい)し、十五代に渡り続いてきた足利幕府は終焉を迎えた。

 なお、奇妙丸は前回と違い岐阜で留守を預かっていた。相手が現職の将軍であっても人質を出すまでもないと父が判断したのだろう。実際に義昭は降伏するに当たり自分の嫡男を差し出しており、僅か半年足らずで立場が逆転してしまった。

 七月二十八日、信長の上奏(じょうそう)により元号が“元亀”から“天正(てんしょう)”に改められた。元々、永禄から改元される際も信長は“天正”を推していたが、義昭の一存により“元亀”になった経緯がある。それが今回、義昭の追放でようやく念願の改元が行われた訳だ。

 元号が“天正”に変わった頃から、信長の敬称が“御屋形様”から“上様”に変化した。(すなわ)ち、信長が内外から天下人として認められた裏返しであった。


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