29話 理不尽な愛情
「し、シオよ」
「どうした、ヴェルキア?」
シオは呼びかけに応えながら、上着を脱いでいる。
ヴェルキアはその動作から目を逸らせずに固まっている。
(ダメだ、びくともせぬし、縛られておるせいで逃げ出すのも無理だ……手が、手が思い浮かばぬっ!)
ヴェルキアは頭の中でぐるぐると思考を回転させるが、どうあがいても逃げる方法は見つからなかった。
ヴェルキアの着替えたばかりの寝衣にシオの手がかかりそうになる。
「その、あれだ! そのぉ……15年も待たせていたのにひどい扱いをして悪かった! わしにそんな気はなかったが、おぬしがさみしい思いをしたというのならわしに非がある!」
15年とやらは全く記憶になく、そのせいで悪いという気持ちも全く無いのだが、シオがそこに対して怒っているのであれば、謝っておいた方が良いだろうと判断したヴェルキアは必死に言葉を紡ぐ。
それを聞いたシオは動きを止め、ヴェルキアの顔をまじまじと見つめた。
ヴェルキアは冷や汗をかきながらもシオを見つめ返す。
「そんなこと微塵も思っていないだろ」
しかし、シオの手は再びヴェルキアの服に伸びる。
「いや、だからその、シオ!」
ヴェルキアの言葉を無視し、シオはそのまま服を脱がせ始めた。
ボタンを外す手つきはとても慣れているように見える。
「それだけは、それだけは勘弁してくれーーーっ!! 頼む、後生だ! わし、男としてそれだけは無理なのだーっ! 一生のトラウマになるー!」
ヴェルキアは涙をまき散らしながら懇願する。
あまりの必死さが伝わったのか、シオは引いている。
「これ以外なら何でもする! だから、だから頼む、どうか、どうかそれだけはーーーっ!!」
身体が自由であれば地に頭を擦り付けて土下座をしそうな勢いで懇願するヴェルキア。
そんな様子にさすがのシオも哀れに思ったのか、手を止めてため息を吐いた。
「まったく……そんなに泣きわめくとは……」
プルプルと震えながら泣いているヴェルキアを何かを我慢するような様子で見下ろすシオ。
肩が震えていることから笑いをこらえていることがうかがえる。
「わかった、わかった。しばらくは勘弁してやるよ」
「ほ、本当か!」
「ああ、お前のその姿を見ればやる気も失せた。ほら」
シオはそう言って縛っていた縄を解いた。
解放されたヴェルキアはすぐさま起き上がり、ベッドの端まで移動すると距離を取るように壁に背をつけた。
そしてそのままズルズルと床にへたり込む。
(た、助かった……)
安堵の息を吐くヴェルキアだが、シオは今まで見た中で一番凶悪な笑みを浮かべていた。
その笑みを見てしまったヴェルキアは思わず身震いをする。
「しかし、下手をうったな?」
「な、なにがだ」
「これ以外なら何でもするって言ったよな?」
――それからしばらく後、ヴェルキアはいつかのように虚ろな目で天井を見つめていた。
「ふぅ……まあこの辺で今日は許してやるか」
(めちゃくちゃキスされた……う、これはこれで一生のトラウマになるかもしれん……)
布団の上でぐったりとするヴェルキア。
もう何も考えたくないとばかりに目をつむる。
「そういえばお前に大事なことを伝えていなかったが」
「な、なんだ……」
これ以上何があるのかと思いつつ、一応返事をするヴェルキア。
「通常であれば、魔力はほとんど使い切っても1日で回復する」
「え? あぁ、そうだの……」
「だがお前の場合、魔力の最大値に対して1日の回復量が全く足りない」
シオが何を言っているのか、もはや半分寝ている状態のヴェルキアには理解できなかった。
「……どういうことかよくわからんのだが?」
「お前の魔力は最大380万あるとして、1日に回復する魔力はおよそ5万」
「は? なんじゃそら?」
思わず変な声が出てしまうヴェルキア。
「魔力を全く使わずにいて、最大値に回復するのにおよそ76日はかかる」
「おい、それマジか?」
「マジだ」
衝撃的な事実を突きつけられ、ヴェルキアの目が見開かれる。
それはつまり、魔力が空っぽになったら次に全力で戦えるのは2カ月半後ということになる。
「ど、どーするのだ! 今、どのぐらい魔力は残っておる!」
「さっきのキスで空になったんじゃないか? 身体もだるいだろ?」
「なにトドメさしとんのだー!!!」
凄まじい疲労感を感じながらも叫ぶヴェルキア。
それを見て笑うシオ。
いや笑っている場合ではない。
「あ、フラフラしてきおった……」
そう言いながらヴェルキアは横になる。
もはや起き上がる気力は残っていない。
「大丈夫だ、特訓すれば回復量は増加していく」
「と、特訓だと?」
「ああ、そうだ。明日から血反吐を吐くまで鍛えてやる、感謝しろよ?」
シオは悪魔のような笑みを浮かべながらそう言った。
それを見たヴェルキアは恐怖のあまり身体を震わせる。
「も、もう嫌じゃ~~~~っ!! わし地球に帰る~~~!!」
室内に力のないヴェルキアの絶叫が響き渡った。




