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23話 招かれざる訪問者

 ペチペチと頬を叩かれる感触がする。

 瞼を開けると、目の前には債務者の麗しい顔があった。

 どうやら頬を叩いていたのはディーンのようだ。


「なんだの。まだ夜ではないのか?」


 寝入ってからそれほど時間が経っていないように感じる。

 ヴェルキアはまだ眠い目を擦った。


「アスフォデルがいなくなった」


 ディーンの言葉に眠気が吹っ飛んだ。

 アスフォデルはヴェルキアと一緒に寝ると駄々をこねていたが、さすがに女子と寝るのはまずいので追い払ったのだ。


「それはいつだの?」

「わからん、今しがたアスフォデルの部屋の前を通ったら扉が開いたままになっていたのだ」


 窓の外を見ると空には星が輝いている。

 やはりまだ真夜中のようだ。

 こんな時間にアスフォデルはどこに行ったのか。


(わしが追い払ったからか? いや、頬を膨らませてはいたが本気ではなかったはず)


 であれば、正直考えたくなかったがアスフォデルがヴァルディードに肉体を奪われている可能性がある。

 ヴェルキアはベッドから下りた。

 ヴァルディードをアスフォデルから引きはがすには魔法が必須だ。つまり、シオがいる必要がある。


(まずい……肉体を奪われたということは、最悪の場合アスフォデルの意識がヴァルディードに消滅させられている可能性がある)


 全身の血が凍るような感覚に身震いする。

 慌てて扉に向かおうとしたそのとき、ディーンが静止の声をかけた。


「ヴェルキア、逸る気持ちはわかる。しかし、せめて着替えてからにしろ」


 ディーンはそういうと部屋の外へ出た。

 確かに今の格好のまま外に出るわけにはいかないだろう。

 ヴェルキアもすぐに用意してもらっていたものに着替えることにした。


 廊下に出るとディーンが待っていた。

 ディーンは例の魔術師団の制服に身を包んでいる。

 ヴェルキアも今後働くことになるということで、アスフォデルと同じものを着ている。


「アスフォデルがどこに行ったか探る方法はあるのかの?」

「夜番のものを集めてアスフォデルを見ていないか確認させている」


 さすがに対応が早い。

 2人が会話していると、廊下の向こうから執事がやってきた。

 何やら慌てた様子だ。

 彼は2人の前で止まると、息を整えながら報告をした。


 どうやら屋敷内の警備兵、そして門の守衛どちらもアスフォデルを見ていないようだ。

 それを聞いたディーンは舌打ちをする。


「飛行魔法を使っているか。やはりあいつに何か起きている」


 険しい表情で呟くディーン。

 その表情からは珍しく焦りや不安といった感情が見て取れる。

 それも無理もない。この男も先ほどのヴェルキアの説明でアスフォデルの身に何が起きているか大体の予想がついているからだ。

 ヴェルキアもまた冷静ではいられず、焦燥感に駆られていた。


(シオのやつがいなければアスフォデルを見つけ、あやつの意識が無事だと確認できても、助けることはできん! どこで油を売っておるのだ!)


 現状では打つ手のないヴェルキアは苛立っていた。

 寝る前にずいぶんと甘えてきていたアスフォデルのことを思い出すと胸が締め付けられるような思いがする。

 あの可愛らしい顔をした少女を助けられないことを想像するだけで心が痛い。


「外に出てアスフォデルを探しにいく」

「ヴェルキア」


 ディーンが静かに名前を呼ぶ。

 彼の声音は落ち着いており、先ほど見せた動揺は一切見られない。

 その様子を見て少し落ち着きを取り戻したヴェルキアはディーンに向き直った。


「最悪の場合、あいつを救うことはできるのか?」


 それは無論、アスフォデルの肉体がヴァルディードに奪われていた場合の話である。


(正直わし1人ではアスフォデルを助けられぬ。しかし――)

「一切を任せよ。さっきも言ったが、あやつはわしの友達だからの」


 無理でもやる。アスフォデルを救う。

 ヴェルキアの嫌いな根拠のない精神論。それを自身に言い聞かせることになるとは、複雑な思いではある。

 だが今はそれしかない。

 決意を固めたヴェルキアの瞳を見たディーンは静かに頷いた。


 2人は玄関ホールを抜け、外へと向かうことにした。

 屋敷の外に出て正門まで行くと、そこには見覚えのある男が立っていた。


「バルガス、こんな時間に何の用だ?」


 ディーンは目の前の魔術師を睨みつけた。

 鍛え上げられた体躯を持つスキンヘッドの男はとぼけた様子で答える。


「アスフォデル様をお探しですかな?」


 まるで全てを見透かしているような口ぶりに、ヴェルキアは思わず顔をしかめる。

 この飄々とした態度の男は苦手だった。何を考えているのかわからない不気味さがあるからだ。

 対して目の前の男は特に表情を変えることなく話を続ける。


「昼間の場所で待つとのことです。ただし、ヴェルキア様おひとりでと――」


 ディーンはバルガスが言い終わる前に魔導銃の先端をバルガスに突きつけていた。

 銃口を突きつけられたにも関わらず、バルガスは表情一つ変えずに続ける。


「貴様には聞きたいことがある。楽には殺さん、覚悟しろ」

「それは恐ろしい。しかし、私などの相手をしている暇がありますかな?」


 余裕そうな態度を崩さないバルガスに対し、ディーンはさらに問い詰めようとしたところで、地が揺れた。

 振動は徐々に大きくなり、地面が大きく隆起し始める。

 そして地を割き、現れたものはディガディダスであった。

 全長50メートルを超える巨躯を持った怪蟲である。


「またこやつか、言っておくがこやつ程度に――」


 ヴェルキアがディガディダスに向かって跳躍し、その頭部めがけて全力で拳を振り下ろす。

 しかし、その拳がディガディダスに届くことはなかった。

 突如として目の前にもう1匹が現れそれがヴェルキアに襲い掛かったので回避したためだ。


「ちっ、だが何匹いても同じこと!」


 だが2匹のみで終わらず、次々と現れるディガディダス。


「ヴェルキア様、ここで時間を消費された分、アスフォデル様を取り戻すのが難しくなると思いますがよろしいのですかな?」


 ヴェルキアに対して挑発するように告げるバルガス。

 バルガスは先ほどの地震に乗じて後方に飛び退き、ディーンと距離を取っている。


「こいつらの相手は俺一人で十分だ。ヴァルキア、アスフォデルはお前に任せる!」


 ディーンの力強い言葉にヴェルキアは目を閉じ、深く息を吸い込んだ後ゆっくりと吐き出す。

 たしかに迷っている時間はない。一刻も早くアスフォデルを見つけ出し、助けなければならないのだ。

 そうしなければ彼女は2度と帰ってこないかもしれないのだから……。


「わかった、ここはおぬしに任せる、死ぬでないぞ!」

「誰に物を言っている。いいからさっさと行け!」


 ヴェルキアは頷くと一気に加速して駆け出した。

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