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13話 不可解な展開

「な、なるほど? よくわかった。それで巨人をわしが倒したというわけなのだな」


 なんとか平静を装って返答するが、声が上ずってしまう。

 だが幸いにもディーンはそれを指摘することはなかった。


「ああ。その後巨人は力を振り絞って抵抗していたが、お前の放った規格外の魔法によって完全に消滅し、そしてお前も倒れたので俺が屋敷まで運んだというわけだ」

「規格外の魔法……」


 アスフォデルが放っていた魔法はどれも聞き覚えのあるものだった。

 ヴェルキアも自分の知っている魔法を使ったのだろうが、今の自分に魔法を使うことができるのか気になった。


「ともあれだ。帝国では俺の右に出るものはいないという自負があったが、1日にして俺のプライドは粉々になったというわけだ」


 自嘲気味に笑うディーンに対し、ヴェルキアは何と言っていいかわからない。

 だが1つだけ確かなことがある。


宵闇(トワイライツ)の眷属は魔物のようにどこにでもいるものではない。宵闇の眷属を使役できるほどのものがこやつの命を狙った……)


 そう考えるヴェルキアの脳裏に浮かんだのは、聖母のような女性の顔だった。

 珍しく真剣に考え込むヴェルキアだったが、ディーンはそれ以上に真剣な面持ちでヴェルキアを見つめていた。


「お前は何者なんだ? ヴェルキア・バラッド」


 本当のことなど言えるはずもない。

 かといって適当なことを言って誤魔化せるような雰囲気でもない。

 眉間に皺を寄せて唸るが、自分の中で間違いのないものを導き出したヴェルキアはディーンとは正反対に緩やかな顔で口を開いた。


「とりあえずのところはおぬしの敵ではないぞ」


 その答えにディーンもひとまず納得することにしたようだ。

 場の空気が少しだけ和らぐ。

 しかしディーンが次に口を開くと、再び緊張に包まれることになる。


「お前は連合側の人間だな?」

「ぶへっ、ごほっ、げほっ」

(なんでバレとるのだ!)


 冷めた茶を口に含んだ瞬間の質問にむせ返るヴェルキア。

 咳き込みながら慌てて口元を拭い、ディーンの様子を伺う。

 ディーンはじっとヴェルキアを見つめたままだ。


「悪いがお前の荷物を検めさせてもらっている」

(あーそりゃそうか。手ぶらでこんな遠くまで家出はせんか)


 その荷物とやらはこの部屋の中にあるのだろうかとヴェルキアは室内をさりげなく見渡す。


「……帝国にとって連合は不倶戴天の敵であることは知っているな?」


 それはもちろん知っている。

 なにせゲームのストーリーでは帝国は連合に対して再度の侵攻を開始していたのだから。

 プレイヤーは連合側の勢力として帝国軍と戦っていくことになる。


「それはもちろんのう」

「12年前の敗戦に伴う莫大な賠償金の支払いで、帝国内は連合への恨みがつのりにつのっている」

「ならば、わしをどうするつもりだ?」

「アル・マーズの領主としてはお前ほど力を持つ魔術師をこのまま帰らせるわけにはいかない」


 剣呑な空気が流れる中、ディーンは椅子から立ち上がるとゆっくりとした足取りでヴェルキアの方へと近づいてくる。


「だがそれは正直どうでもいいことだ」

「どうでもいいだと?」

「お前がその気になれば、俺程度ではお前をどうこうすることなどできん。それに――」


 そこで言葉を切ったディーンがヴェルキアの前で立ち止まる。

 そしてそっと跪いたかと思うと、ディーンはヴェルキアの手を取る。

 突然のことに驚くヴェルキアに構わず、頭を垂れた。

 その姿はまるで主君に対する騎士のようだ。


「先ほど言っただろう。俺の心はお前に捕らえられた」

「そ、そうなのか……」

(勘弁してくれぇ~~、なんなのだこの展開は!!)


 内心で悲鳴を上げながら、必死にこの場を切り抜ける方法を考える。

 男に言い寄られるのはシオだけで十分である。

 むしろ男に言い寄られるのなどごめんこうむりたい。


「お前が連合の人間だろうと何だろうと構わん、俺の元に残るという選択肢も真剣に考えてくれないか」


 懇願するように言うディーンを見て、これは本気で言っているのだと悟ったヴェルキアは頭を抱えたくなった。

 ディーンは侯爵であり、金も持っている。そして性格も悪くないように思える。

 だからといって頷くわけにもいかない。

 なぜなら自分は元々男だし、いくら転生して性別が変わったとはいえ、一緒になる選択肢は無い。


(わし、普通に女の子が好きなんだ……男などありえん)

「……今日はさすがに疲れているだろう。もう休め」


 ヴェルキアがそんなことを思っていると、ディーンはゆっくりと立ち上がり、扉の方へと向かっていく。

 どうやらもう帰るつもりらしい。

 ほっと胸を撫で下ろすヴェルキアだったが、不意にディーンが振り返る。


「それと、あいつは過去に少しあってな。お前の言う通り過激なところがあるが……可能であれば嫌わないでやってほしい」


 そう言い残して去っていくディーンを見送った後、ヴェルキアは大きく息を吐いた。

 あいつとはアスフォデルのことだろうが、やはり何か事情があるようだ。

 息を吐いて、改めて部屋を見回す。


(このゲーム、BLゲーではなかったはずだがのう……)


 そう思いながら部屋の奥にあるベッドに腰掛ける。


(最後にどっとつかれたわい……)


 ディーンとの会話を思い返しながら、今後について考えることにした。


(ディーンを狙っている奴を何とかせねばならんな……)


 ベッドに寝転がると柔らかな感触に包まれ、次第に瞼が重くなっていく。

 しかし、考えるべきことは山積みだ。


(それにシオのやつがわしを転生させて何をさせたいのかまだ聞いておらんような)


 確か宇宙が爆発するとかどうとか言っていた気がするが、詳しい説明はまだのはずだ。

 それもこれもあのアホが話の途中ですぐに茶々を入れるからだ。


(シオのやつ、そういえば出てこんな、まあ、別によいか……)


 眠気が襲ってくる中でそんなことを考えているうちに、ヴェルキアは完全に眠りへと落ちていった。


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