第2部 第9話 硬化魔法
次の日、日の出前。
俺はシルバを伴って城門に向かって歩いていく。頭の上にファルも連れて。
さすがに闇夜と言っても差し支えない時間帯だ。殆ど人通りはない。秋も深まり冷え込んだ早朝の風が頬を冷たく撫でる。吐く息が白い。
俺は首に巻いた凛香の白いマフラーをギュッと握りしめて思う。
凛香が生きていたら俺のこの行動にきっと怒るだろうなと。
でもこういう時、大きくため息をついて結局は俺に付き合ってくれることも良く知っている。いつぞやは、俺よりも率先して首を突っ込んで大暴れしてたっけか。
そんな凛香だったから、きっと今回も許してくれるだろう。
そんな回想に思わずほほを緩めて、誰ともなしに問いかける。
「凛香も許してくれるだろ?……」
暫く回想の余韻に浸ったところで前を向く。
そして昨日のやり取りを思い出して気を引き締めた。
ギルドにて。
ソワレの照合結果を受けてギルマスは驚いていた。
勿論、緊急クエストでの様々な悪事はグロリエルが元凶であり、重傷を負いながらも逃走したことは報告済みだ。
だが、ギルドとしては腕と肺の半分ほどを失った重症ではたとえ中級ポーションを飲んだとしても生きてはいないだろうと、死亡扱いとなっていたのだ。だから、まさか生きているとは思っていなかったのだろう。
とは言え、こうして証拠が目の前にあることから、ギルマスはグロリエルへの特命手配と生死問わずの捜索および捕縛を約束してくれた。
そして同時に俺達にくれぐれも独断先行するなとくぎを刺してきた。相手がBランク冒険者という事もあり、ギルドでそれなりの人員を集めて対処するからと。
ミーリスの言う通り、ギルマスは本当に優しいのかもしれない。
俺だって一人でBランクハンターに立ち向かうのは怖い。
だがどうしても思ってしまう。
あの時。ソワレを抑え込むために動けなかったとはいえグロリエルを逃がさなければエンリケは死なずに済んだはずだ、と。
エンリケは俺に敵討ちをしてほしいなんて望んでいないだろう。それはあの手紙からも分かる。
だが、それでも俺の心が奴を許すなと言う。
グロリエルが何の罪も償わずに今この瞬間ものうのうと生き長らえているのを想像すると腸が煮えくり返る。
そして、それと同じくらい己の無力さに怒りが湧いてくる。
それに加え、シルバを放っておけないというのもあった。
昨日ギルドを出たところで、ギルドの入り口に居る筈のシルバが居なかったのだ。
それで手分けして探して、城壁の外に一人で出ようとしたところを発見した。
人間の言葉など通じないのは分かっているが、それでもどうにかシルバを説得し、思いとどまらせようと必死に止めたのだが、シルバは何度も何度も北東の方に一人で向かおうとした。
シルバは匂いで相手を判別できる。きっとシルバは最初から犯人が分かっていたのだろう。主人の死を受け入れた今であってもグロリエルを追い続けようとしていたのだ。
しかも今回は俺達を連れて行こうとするそぶりは見られない。今回街に帰還したのは、ギルドに報告するためだというのをシルバはちゃんと理解している。
その上で、誰の助けも借りずに自分一人で犯人を追い駆けようとしていた。例え返り討ちに会おうともだ。
俺はシルバのその姿に胸が苦しくなった。
凛香の命が尽きた時、大事な人の命を奪った宵門雄我を許すことなど到底出来なかった。体が勝手に動くんだ。
だからシルバの気持ちが痛い程分かる。そんなシルバの行動を止めることなど俺には出来なかった。
これは俺とシルバ二人の覚悟だ。けじめは自分達で付けなきゃならない。リンとソワレに頼ることはできない。
俺の横にぴったり寄り添う様に歩くシルバの頭を撫でて、前を向く。
暫くして城門が見えてきた。
空を見れば白み始めていた。そろそろ開門の時間だろう。
更に近づくと衛兵とは違う二つの人影があることに気づいた。しばらくして二人は俺達の方に歩みより、至って自然に俺達に合流した。
「遅かったわね。行きましょうか。」
「はぁっ。おはよう。」
そう言って、何食わぬ顔で俺の両隣に立つ二人。
その二人の態度を見て不意に目頭が熱くなる。こんな登場の仕方はずるい。思わず涙がこぼれそうになる。
「リンにソワレ。……なんで……?」
唖然とする俺に二人は短く「当然よ」と答えた。
「私もリュージと同じ気持ち。抜け駆けなんて許さないわ。」
「私は手伝うって言った。一人で行くのはダメ。」
キュイ!とリンの肩の上のチクチクも鳴いた。
ああ。そうだ。俺はこんなことも分かっていなかった。
俺は一人じゃない。こんなにも頼もしい仲間がいる。その事実が今の荒んだ俺の心を温かく解していく。
「……ありがとう……。」
涙を悟られまいと俯きながら絞りだす様にそう言うと、二人はうんと短く答えた。
暫くしてギギギと音を立てて門が開いていく。
門の先には朝焼けに照らされた広大な大地が広がっている。まるで俺達を出迎えてくれているようだった。
そうして、3人と4匹は一路プギの街に向けて歩き出す。
――――――
《魔法》とは何か?
そう聞かれれば、この世界の住人は“魔力を以て超常の理を成すもの”と答えるだろう。
しかし、俺の答えは違う。《魔法》は“原初の素粒子が万物を構成する素粒子に変化して引き起こされる物理現象”であると答える。
実際に、俺が使える魔法の殆どはこの考え方で説明ができる。
点火、紫電、水滴。全てオリジンが物質粒子に変化して引き起こされる物理現象だ。
その中で、未だに原理がよく分かっていない《魔法》がある。
それが、身体強化だ。
その効果を口にするのは簡単。
単に“体の力を強化する”魔法。
だが、単純故に理解が難しい。
そもそも“強化”とはなんだ?
“強化”と言っても俺の体がガチガチに固まるわけではない。それをやったら動けなくなってしまう。そう。“強化”とは体の力が強くなる。いわば体の筋力をアシストしてくれる魔法。そういう事だ。
しかし、注意すべきはこの魔法は筋肉を無理やり働かせて筋力を強化している訳では無いという事だ。それをしているのは俺が開発した生体電気強化魔法の方だ。
事実、身体強化だけを使っていれば筋肉痛になることはない。
という事は、“力”そのものを強化しているという事。
だがこの魔法、単純に力が強くなるだけでは説明がつかないことがある。
例えば自分の全力パンチの力が10だとする。
その10の力で木を殴れば、当然手も痛い。これは反作用として自分の力と同じ力が手に伝わるから。
その力によって拳の皮は剥がれ、骨がイカレる位のダメージは必至だ。だが、その程度で済む。
では、身体強化を発動して100の力で木を殴ったらどうなるだろう。
力だけが強くなるなら、その分反作用も100の力となり、それを受けた手は砕け散るはずだ。複雑粉砕骨折一直線間違いなし。
だが、実際にやってみると、手の痛さは身体強化なしで10の力でパンチしたときと同程度の痛みしか感じない。手がその反動で爆散したりもしない。
これは一体どういう事だろうか?
色々と仮説を立てて検証した結果、どうやらこの身体強化と言う魔法は力だけでなく体の内部構造(骨や腱)も“硬化”させているようだという事が分かった。
つまり、この魔法は“力”と“体組織の硬さ”を強化する二つの効果を同時発動した複合魔法であるという事に気づいたのだ。
その検証結果に驚いたのと同時、俺は閃いた。
この魔法の“体組織の硬さ”を強化する部分だけを抜き出して発動できるのではないか、と。
それを閃いてからは時間があるたびにその検証と魔法実験を繰り返してきた。
既に今時点でこの“硬さ”を強化するための霊子結晶の反応パターンの分離、特定まで目途がついている。
これには苦労した。身体強化魔法は、その反応パターンが“力を強化”する反応と“体組織の硬さを強化”する反応がほぼ同時に混ざり合って起こっていて、どちらかの反応だけを見極めることが非常に困難だったのだ。
だが、そのヒントは無幻水心流にあった。
昔、稽古で父さんが素手の手刀で刀を折るという荒業を見せてくれたことがあった。しかも刃を手の方に向けた状態でだ。
その技の名は“金剛豪気”と言った。
その時は、今よりも彗心眼を使いこなせていない子供の頃だったのもあり、ボンヤリとしか視えていなかったが、確かにあの時父さんは体内魔力で強化を行っていたのを思い出したのだ。
何分子供の頃の記憶だ。それを再現するのには苦労したが、今現在自分が身体強化魔法として使えているため、それと見比べることでどうにか“金剛豪気”の霊子結晶の反応パターンをそれとなく再現することができた。
この魔法を“身体硬化魔法”と名付けた。
この身体硬化魔法を発動すると、発動した部分の皮膚はまるで鰐皮の様に触って明らかに硬くはなるのだが、押せば凹むし、期待したほどの硬化は実現できていない。
恐らくその原因はこの魔法の原理を理解できていないから。
魔法はあくまで物理現象だ。
その物理現象をイメージすることでよりそれに特化したアニマの反応パターンに変わっていくことを俺は最近気づいた。
これが、この世界の住人が俺よりも多く魔力を保有しているにもかかわらず十分な魔法を発動できていない要因の一つになっているようだ。
話を身体硬化魔法の原理に戻し、考える。
そもそもの話、物体が“硬い”とはどういう言う事だろうか?
物質は原子の集合体だ。原子と原子が結合して一つの分子が形成されている。その分子がお互いに結合してさらに大きな物質を形作っている。身の回りにあるスマホやテレビ、木々や岩、そして体全てが物質粒子である分子の結合体だ。
これら物質を結合させている力は全て“電磁気力”だ。
原子は原子核の周囲を電子が回っている(厳密には違うが、ここでは簡単にボーアの原子モデルで考える)。
原子核はプラス、電子はマイナスの電荷をもっていて、それぞれが引き合いくっつくことで一つの原子を構成している。
原子核のプラスに対して電子のマイナスの数が足りない原子は、電子が余っている他の原子と引き合って結合する。難しい事はさておき化学結合とは原子と言う磁石同士が引き合ってくっついているようなものだ。
結合の種類はその結合の強い順に共有結合、イオン結合、前述べた金属結合、そして化学結合した分子間で働く水素結合などいくつかあるが、いずれも“電磁気力”によるものだ。
言うなれば、“電磁気力”がこの物質世界を形作っていると言っても過言ではない。そして、その“電磁気力”がいかに分子間で強力に働くかでその物質の強度が決まる。
ダイヤモンドなどの結晶が硬いのは、原子が規則正しく隙間なく詰まってお互いに立体的に共有結合し、結晶構造を形づくっているからだ。
イオン結合は確かに強いが、非常にもろい(説明は省くが)。一方、イオン結合より弱い金属結合だが、同じ原子が隙間なく集まって自由電子を共有しており、そのおかげで外部から強い力が加わっても少し原子の位置がずれるだけで、そのまま結合状態を保つ。その柔軟性があるために硬く、強いのだ。
では、皮膚や筋肉を構成するタンパク質はどうだろうか。
タンパク質はアミノ酸がいっぱい集まって作られている。
アミノ酸自体は炭素や酸素、水素原子などが共有結合でつながった分子で、その結合自体は強いが、アミノ酸同士は非常に弱い水素結合でくっついている。
この水素結合は、簡単に言えば非常に弱い磁石。ゆえに、少しの力でアミノ酸同士の結合が簡単に外れ、結果変形したり切断されてしまう。
これをより強くするには、タンパク質の構造そのものを変化させる必要があるが、仮にできたとしたらそれはもうタンパク質ではなくなってしまう。つまりそれは皮膚ではない何か別のものになるということだ。
魔法発動したら皮膚が別のものになって元に戻りませんなんてことになったら嫌だ。
では、タンパク質はそのままで硬くするにはどうすればいいか?
電磁気力が原子間の距離と電荷で決まるという不変の物理法則を根底から覆さない限り、そんなことは実現不可能だ。
だが実際に身体硬化魔法を発動すれば皮膚は皮膚のまま硬化させることができている。
これはどう解釈すべきか。
……そう。
これが示すのは、この身体硬化魔法が地球の物理法則を超越し、“電磁気力”の強さを直接変化させているとしか考えられないのだ。
では、どういった原理で電磁気力を直接強化しているのか?
以前、少し触れたが、それには“光子”が関係していると思われる。
“光子”は光そのものだ。そして同時に素粒子の一つで、力を媒介するゲージ粒子でもある。
そして、この“光子”のキャッチボールで“電磁気力”が発生しているとされている。
つまり、この魔法はこの“光子”に直接作用し電磁気力を強めているという事だ。
この光子。
以前、振動の切れ味を強化している要素、および物質軟化の金属を軟化させる原理として触れたが、あれは光子を操作して原子間の結合を弱めることで物質を脆くしていた。
それの逆の作用をしているのがこの身体強化という事なのだ。
そこまで思考して、改めて魔法を発動する。
物質軟化の時の霊子結晶の反応をイメージしながら、光子を操作する意識を強く持って腕に発動する。
すると次第に腕が淡く光り出す。そしてうっすらと光沢を帯びだした。
光を反射するという事は物質の性質が変わった証。
その状態を維持しながら皮膚に触れる。
……硬い。まるで金属の様だ。
「よし!成功だ。」
思わず喜びが声に出てしまった。その時、真横から不意に声がした。
「リュージ。また何かできたの?」
その声に振り返ると座禅する俺をのぞき込む様にしているリンの顔が目の前にあった。
ややもすれば唇が触れる程の至近。余りの顔の近さに思わずのけぞった。
「リンっ近い!? ビックリするじゃないか。」
今はプギに向かう途中。リンとソワレが野営の準備をしてくれるとのことで、俺だけ一人魔法の修行をしていたところだったのだが、しばらく前から俺の顔のすぐ横で魔法の鍛錬を見ていたらしい。
「あ、ごめんね。リュージがあんまり集中しているものだから、ついのぞき込んじゃった。ねっ。それよりまた何か新しい魔法なんでしょ?どんな魔法なの?」
リンは目を輝かせて俺に説明を求めてくる。リンは結構な魔法好きだ。教会の魔法使いなどはもっとお堅くて、基本から逸脱した魔法の練習やまして検証など許されないことだと考えるのが一般的らしい。
それに比べるとリンは柔軟な考えをしているようだ。
自分自身が四大元素魔法以外の魔法を使うからというのもあるのだろう。
「ああ。ずっと研究していた身体硬化魔法がどうにかうまくいきそうだ。 ほら触ってみてよ。」
そう言って俺は魔法発動したままの右腕を差し出す。
「本当!?―――凄い。まるで金属みたい。」
しきりに感心しながらリンは俺の腕を色々と触っている。俺の方はあまり触られてる感触がない。皮膚が変形しないから神経細胞が変化を感じられないのだろう。
「あっ。でもこっちの肩の方は固くないのね。」
「まだ体の一部分しか強化できないんだ。と言うか、俺の体外魔力だと体の一部を硬化するのが精いっぱいかも。」
そうなのだ。この魔法、金属程の硬さを実現するには結構な魔力を消費する。あの事件以来、俺の体外魔力量も同時に強化されたが、それでも体中の魔力を一か所に集めて発動しないとダメそうだ。
なので、実戦で使うには体外魔力を素早く一か所に集める高度な魔力操作が求められる。訓練が必要だな。
「それにしても相変わらずリュージはおかしいわ。私はもう慣れちゃったけど、新しい魔法を作り出すなんてそうそう出来るものじゃない。普通、何か一つでも有用な魔法を作り出せたら歴史的快挙と言っていい事よ。公表すれば爵位をもらえるかも。」
「え、そうなの?」
リンがトンでも発言をする。ならオリジナル魔法ばかりの俺なら貴族に成り上がって、最終的にはハーレム生活も夢じゃないかも!?
「ま、でもそうなったら教会に捕まって体の隅から隅まで、下手をすれば頭の中まで覗かれて色々といじくりまわされることになるでしょうけどね。」
……俺の夢のハーレム生活を返して欲しい。ジト目でリンを見返しているとリンの背後から声が。
「こんな夜にか弱い少女を一人働かせて二人で楽しそうね。」
そんな冗談を言ってソワレが歩いてくるのが見えた。冗談、だよな?
ソワレは自主的に夕飯の準備を買って出てくれていたのだが、夕飯の準備ができたのかもしれない。
「ソワレ。ありがとう。ちょっと魔法の鍛錬をしていただけだよ。」
「ねぇ。私にも見せて。これでも魔法は得意な方。きっとリュージのアドバイスができる。」
「あ、イヤ。ただ魔力を練って瞑想してただけだから、特別な事は何も……」
「へぇ。魔力って練れるんだ……。」
不意にソワレが目を細める。
あ。これは地雷を踏んだか? 焦ってリンの方を見ると目を閉じて小さく顔を横に振っていた。
「魔力は感じることはできない。リュージはそれができるのね。」
それに慌てて弁明する。
「いやいや!そう言う事じゃない。言葉のアヤだよ。魔力を練る様なイメージで集中する瞑想法なんだ。実際に魔力を練っている訳じゃない。」
「嘘ね。」
俺の苦し紛れの言い訳に間髪入れずにソワレはそう断言した。その鋭い言葉に思わず言葉に詰まる。
「根源魔法使いは自身の魔力を感じることができる者がいる。」
その発言に今度はリンが目を見開いた。
「これは一般には知られていない極秘情報。だけど事実。リュージは魔法を無詠唱で使えるのでしょう?それに、何かしらの方法で魔法発動を予見、もしくはそれに近いことができる。つまり根源魔法使いもしくはそれに近い能力を持っている。……違う?」
「……」
さすが水精のソワレと呼ばれるAランクハンターだ。洞察力が違う。
ソワレの意識があるときには不用意な魔法発動はしていないはずだが、あの暴走したソワレとの戦闘時に意識は多少あったのかもしれない。
ソワレの鋭い視線。
ハァ。と小さく諦めのため息をつく。
もう今更だ。ソワレの確信した様な目を見てしまえばしょうがない。
それに今のソワレに俺の魔法を隠しておく必要はないように思えた。ソワレがこれ程俺の秘密に気づいていながら今まで俺を尋ねてくる教会関係者はいなかったことを考えれば、ソワレには俺を売る意志はないのだろう。
「……ソワレの予想通り。」
その発言にリンが弾かれたように俺を見て何かを口走ろうとしていたが、俺はそれを手で制する。
「リン、いいんだ。俺はソワレを信じる。今更だ。」
その答えに、ひどく心配そうな顔をしつつも渋々と言った風に引き下がった。それを確認して俺は続ける。
「残念ながら、根源魔法使いではない。だが俺は―――魔力が視える。」
「!?」
無表情なソワレの目が見開かれる。しばらくして、何か得心と言った表情を見せた。
「道理で。という事はリュージはやっぱり……。」
一人黙考しているソワレにリンが近づいていく。
「ソワレ。分かっていると思うけど、もし洩らせば……私は容赦しない。」
「……私の覚悟はもう示したはず。」
リンの真剣な表情にソワレもリンを見つめ返す。リンはソワレのその一言でなぜかそれまでの鬼気迫る雰囲気を霧散させた。
何だろうか?俺にはその短いやり取りから何か二人の間でしか分からない不思議な関係がある様に思えた。
俺がそれを訪ねようとしたところで、不意にソワレが言った。
「ならリュージ。私の魔法の悪いところも視て指摘出来るということでしょ?お願い出来る?」
その申し出に俺だけでなく、リンも大きく目を見開いて唖然としている。
なぜそんな簡単なことに気づかなかったのか。
そうだ。他人の魔力の流れも視られるのならば、それを相手に伝えて魔法の改善ができるはずだ。
そう考えると、俺の眼は恐ろしい程有用ではなかろうか?
この世界の魔力は感じることも視ることも出来ない。つまり、詠唱のどの部分でどういったイメージでどれくらい魔力が発生しているか分からない。そのために全て個人の感覚と試行錯誤で魔法を発動している。
それが原因で、同じ魔法でもその効果の個人差が著しいのがこの世界の常識。
だが、俺が彗心眼でその魔力の流れを見ればその人の魔法の悪い所を直接指導して改善できるはずだ。
「ちょっ!?リュージ!?ソワレよりも私の魔法を先に見てくれない?あのね、ウィンドブレードを多重発動するときに、なぜか威力が弱まって―――」
「リン。割り込みは見苦しい。私が先。」
「ちょっとくらいいいじゃない。リュージとの付き合いは貴方の何倍も長いわ。」
珍しくリンが支離滅裂だ。それほど画期的なアイディアという事なのだろうか。
「……リン。落ち着いて。後でちゃんと視るから。」
俺がリンの両肩に手を置いてどうどうと諫めると、自分の醜態にようやく気付いたのか、ハッとした表情の後にコホンと咳払いを一つして、「しょうがないわね」と言って引き下がった。
顔は真っ赤だ。……恥ずかしそうに顔を逸らす姿が新鮮だ。
それを確認して、ソワレに向き直る。
「その発想は無かったよ。もちろんいいけど、その代わり俺にもソワレの水魔法を教えてくれないか?」
そう交換条件を出す俺だった。
――――――――
メリークリスマス。
これを読んでくれている皆さん全員に幸福が訪れますように。




