第2部 第8話 黒い影
少し長くなってしまいました。
次の日、俺たちはエンリケを死に追いやった犯人の手がかりを求めて周辺をくまなく捜索した。だが、何の手がかりも見つけられなかった。
シルバの鼻が頼りだったのだが、残念ながら先日の雨で完全に匂いが消えてしまっていた。同時に足跡なども流れてしまっていて、捜査は行き詰まった。
「リュージ…。これ以上はもう……。」
天中に差し掛かろうとしていた太陽を見て、リンの言葉に頷かずにはいられなかった。クロスメントの閉門前に着くには今から出ないと間に合わないだろう。
「いったん街に帰ろう。」
「そうね。ギルドに協力を要請した方がいい。私たちだけでは限界があるわ。」
その場を離れたがらないシルバを説得してやむなく街に帰ることにした。
――――――
道中、無言の俺達に構わずポン助が俺の頭の上に乗ってピヨピヨと歌を歌い始めた。それに合わせる様にチクチクがリンの肩でリズムに合わせて首を動かしている。いつも喧嘩ばかりしているファルも中空を小さな羽でパタパタと漂いながらリズムに合わせて上下左右に飛んでいた。
まるで俺達を励ますようなその態度に顔がほころぶ。おかげで少し肩の力が抜けたようだ。
思考もだいぶ落ち着いたところで、ソワレに向いて気になったことを尋ねる。
「ソワレ。今日は大分疲れて見えるけど……昨日何かあった?」
そう。俺の彗心眼にはソワレのアニマも体内魔力も目に見えて弱まって映っていた。余りにも普段と違うそのアニマに何か異常が起こっているのではないかと心配になる。
ただ、ソワレの氷のような魂の奥底に残っていたあの禍々しいアニマもそれ以上に弱まって見えたので、以前の様な危険は無いと判断し少々話題を後回しにしていたのだ。
「……リュージ。私の事、心配してくれてるの?」
そう言ってソワレは俺の傍らに身を寄せてきたと思ったら、突然腕に抱きついた。
「ちょ!?」
反射的に俺はリンの方を向いた。あれだけ警戒していたリンがこの状況に何をするか分からなかったからだ。
「……」
しかし、意外にもリンはちょっと困った顔をこちらに向けるだけでそれ以上の反応はない。
??あれ?昨日まであんなにソワレを警戒していたのにどういう心境の変化だろうか?
正直俺の腕に纏わりつくソワレよりもリンのその態度の方が気になってしまった。
と言うか、リンがこの状況を許している様に見えることになぜか俺の心がざわついた。
「リン??どうしたのさ。昨日とはだいぶ様子が違うけど…?」
「そ、そう?私はいつもと変わらないわ。と言うか、ソワレもいい加減離れて欲しいわ。リュージが迷惑そうにしているから。」
リンの言葉にソワレが上目遣いで俺にすがるような目を向ける。
「リュージ。私は迷惑?」
…なんてあざとい。あざといとは分かっていても露骨に嫌がるのも憚られた。
と言うのは言い訳かも知れない。その困り顔にちょっとドキッとしてしまったのは事実だから。
「……いや、迷惑ってほどじゃないけど―――」
「ほら。別にリュージは嫌がっていない。だからこのままでいい。」
俺の言葉に被せる様にソワレがリンに言った。その態度に先ほどはたしなめる程度だったリンも頬を膨らませた。
「へぇ。…ソワレ、そういう態度をとるんだ。私は独り占めまでは許した覚えはないんだけどな。……そっちがその気なら私も遠慮はしないわ。」
プリプリと怒ったソワレがそう言いながら今度は俺の逆の腕に抱き着いてきた。
「!?リン!ちょっ!」
俺が驚きの声を上げるとリンもまたソワレと同じ様に縋る様な上目遣いで俺を見つめてくる。
そんな顔されたら困る。無理に解こうとすればリンの心を傷つけてしまうじゃないか。
などと自分に言い訳をしてごまかそうかとも思ったが、さすがにそう言う気分じゃない。
二人を無理やり引き剥がそうと力を込めると、二人ともびくともしなかった。
その反応に困惑して二人の顔を見ると、先ほどとは打って変わって心配そうな顔をしていることに気づいた。
……あぁ。そうか。
お茶らけて見えた二人の態度は実は俺を心配してのことだったようだ。先ほどまでの俺は二人にこれ程心配されるほどひどい顔をしていたのだろう。
ありがとうと心の中で二人に感謝する。
そのまま二人の好意に甘えてもいいかもしれないと思い、二人を両腕に侍らせたまま街に向かって歩いていくのだった。
―――
ギルドに着いた俺たちは早速ミーリスにこれまでの経緯を説明すると、そのままギルマスの部屋に案内された。
俺はソワレとリンに挟まれる様にソファーに座りギルマスと向き合っている。
これまでの経緯を改めて話したうえで俺はテーブルの上に回収したエンリケのナイフを置いた。
「これが証拠だ。」
「……そうか……」
そう言ったまま目を瞑り口を閉ざすギルマス。その手は固く握られ、震えている様だった。
しばらくして、ギルマスが立ち上がり机の棚から何かを取り出して俺に見せる。
「もし自分に何かあればリュージに渡して欲しいとエンリケから預かっていたものだ。」
それは小さな小袋と一通の手紙だった。
手渡されたそれを俺は震える手で受け取る。
袋を開けるとそこにはハンターの命ともいえるハンタープレートと数枚の銀板、そして何枚かの金貨が入っていた。
そして震える手で丁寧に手紙を開く。そこにはお世辞にも綺麗とは言えないが確かにエンリケの字があった。
『リュージ。これを受け取っているという事はちゃんと起きたんだな。ずっと寝っぱなしなんじゃないかと心配したぜ。
そして同時に、もう俺は戻らないという事だろう。ハンターならいつかそんな日も来ると覚悟している。ふがいない自分が情けなくはあるが、それ自体は仕方ないと思っている。
だが一つだけ心配事がある。前に話した妹の事だ。
妹はダリエスショットの孤児院に居る。小袋に入れた銀板を換金して全額を妹に渡して欲しい。もし妹が困っていることがあればお前の出来る範囲でいいから少しだけ手伝ってやってくれ。
残念だがこれが俺にできる精いっぱいだ。俺が今一番信頼できるのはお前だけだ。依頼料としては結構奮発したつもりだが、気に入らなければ断ってもらっても一向にかまわない。
最後に。お前に出会えてよかった。正直ハンターとして諦めかけていた俺に一歩を踏み出す勇気と希望をくれたお前に本当に感謝している。
これからも俺の代わりにリンを守ってやってくれ。じゃあな。 親友エンリケより。』
俺の頬から落ちた雫がエンリケの手紙に落ちてシミを作っていく。
もう十分に涙は流したはずなのに、止とめられそうにない。
「……妹を残して、何やってんだ……バカ野郎……」
エンリケは分かっていたのだ。そこに危険があることを。それを承知で一人で行ったのだ。
つまりエンリケには犯人のめぼしがついていたのだろう。だが、エンリケはこの遺言とも呼べる手紙にすらそれを匂わすことはしていない。
これは俺達に対する配慮。自分の問題に俺達を巻き込みたくないという彼なりの優しさなのだろう。本当に心優しい奴だ。
だが、その優しさがかえって俺の心を動揺させる。こんな心優しいエンリケがなぜ殺されなければならなかった?
こんな理不尽、許せない。到底許せるわけがない。こんなこと許していいはずがない。
ただただ憎い。
俺の親友を殺した奴が憎い。
今はエンリケを失った悲しみよりも、エンリケの命を奪った犯人に対する怒りが俺の心を覆いつくしていく。
「昨日ミーリスから報告を受けて覚悟はしていたが、残念だ。今回の事はギルドとしても重く受け止めている。もし犯人がハンターなら大問題だ。ギルドとして特別犯罪者に認定されることになるだろう。そうすれば賞金首としてギルドが正式に手配可能だ。」
ギルマスがそう言って俺の肩に手を置いた。
これもギルマスなりの誠意なのだろう。いや、もしかしたら俺に自重しろと暗に言っているのかもしれない。
「犯人追跡の為、何か手がかりが欲しい。シルバの鼻でも追跡ができなかったと言ったが、どちらの方向に行ったかわかるか?」
「……匂いは渓谷地帯から北東方面に向かっていた。」
「その方向となると、プギの街に向かったのかもしれんな。だが、さすがにリュージの見たという記憶を根拠に犯人の容姿を公表して手配書とするには無理がある。」
悔しいがギルマスの言う通りだ。俺がシルバの記憶で見た犯人の特徴を伝えたところで、それを根拠とするのは難しい。俺が見た“記憶”では目撃証言とはならない。
「それと、もしシルバが犯人を特定してもそれを理由にその者を処罰することはできないぞ。」
まぁそうだろう。シルバは喋れない。例えシルバが犯人だと確信して噛みついて誰かを捕まえたとしても、単に従魔が暴走しただけだとシラを切られればそれ以上追及することはできない。
何か。何かないか?
前世であれば難しい事じゃない。エンリケのナイフに着いた血のDNA鑑定をしてもらえば済む話。
この異世界でそれに代わる何かがあれば……。
「……このナイフの血でどうにか……」
意識せずに呟いた俺の言葉をリンが拾った。
「……!?それよ!血よ!エンリケのナイフの刀身に着いた血は犯人の物なのでしょ?ならそれが手がかりになるかもしれない。」
リンの閃きにギルマスが顔を上げる。
「!?そうか!魔力測定器か。」
ん?どういう事だ?
血。……そうか。血だ。
血にはアニマの残滓が宿っている。あの魔力測定器はそのアニマの残滓を読み取る魔道具だ。その反応によって、犯人の魔力量と属性が分かるはずだ。それだけでもだいぶ対象が絞り込めるかもしれない。
「……だが、測定事態は問題ないが、それを照会することができるか……。」
ギルマスはそこで言葉を区切り、なぜかソワレの方を見た。
「もちろん協力する。」
ギルマスの意図を理解してか、ソワレは即答した。
「司教様。捜査協力に感謝します。」
そう言ってギルマスが頭を下げ、そしてその後ろで黙って立っていたミーリスを見た。それを受けてミーリスが一礼をして部屋を出ていく。
そのやり取りを見ているとリンが補足をしてくれた。
魔力測定器の測定結果は全て教会に提示され、教会で統一的に管理される契約となっているらしい。そしてその情報はギルドであっても保管されない決まりなのだ。つまり、教会がこの国の人々の魔力適正情報を一手に掌握しているということだ。
だが、逆に言えば、教会の許可があれば測定結果の照合が可能という事。
「ソワレ。ありがとう。」
俺がソワレに向き直って頭を下げると、ソワレはちょっと恥ずかしそうに「ん。」とだけ言った。
それからしばらくしてミーリスが魔力測定器を抱えて部屋に入り、それをテーブルの上に置く。
ソワレはエンリケのナイフを手に取り、短く詠唱したかと思えば指先に小さな水滴を発生させてそれをナイフの刃に垂らしていく。
刃を伝う水滴が犯人と思われる血の跡を吸って赤く染まっていく。やがて刃の先に到達した雫が測定機に落ちていった。
しばらくして、測定器が赤色に染まり始める。
それと同時にソワレが詠唱をつぶやき始めた。
『森羅万象を司る主の住まうヴァルハラより 瞬き溢れる光 左目に宿り ミーミルの泉より賜りし主神が叡智を示せ ―――叡智の神眼』
直後、ソワレの左目が光りその眼前に半透明なディスプレイが中空に映し出される。
そのまま測定器に両手をかざすと、ディスプレイに映し出された人のリストと思われる文字列が高速で上にスクロールしていく。まるでデータベースを検索しているような動きだ。
やがて魔力測定器の光りが弱まると、検索が終わったのか文字のスクロールが終わり、一行が点滅して輝いている。
そこにはこう記されていた。
―――該当者:クロスメント所属Bランク冒険者 グロリエル
◆ ◇ ◆ ◇
時は少し時はさかのぼる。
リュージたちのいる場所から北東、遥か遠方の地。
何処とも知れない街の大聖堂にて。
揺らめくロウソクの薄明かりが暗いステンドグラスを怪しく照らしだしている。
そこに、暗闇から溶け出す様に現れた五つの人影。
明かりも十分ではないこの大聖堂で先ほどから何事か話をしていた。
唯一絶対神ドーゲンベルグの偶像を背に壇上に佇むがっしりとした壮年の男。その長い髪をオールバックにした《ドゥーペ》と呼ばれていた男はどうやらこの集団のまとめ役の様だ。
狐人特徴である尖った口をした陰湿そうな印象の男は《メラク》と呼ばれ、常に周りの様子を伺いながら話している様子から最も立場が弱い様に見受けられた。
その隣、フードを目深に被った背を丸めた陰気な老人は《ミザール》と言うらしい。時折ケケッと人をあざ笑うような笑みを浮かべる薄気味悪い老人。
だがその老人然としたしわが刻まれたその目の奥には、その見た目に反してギラギラとした狂気じみた何かを感じさせるものがあった。
そして中央の礼拝者用の長椅子に一人その青白く細い足を組んだエルフ特有の長い耳を持つ女は《アリオト》と呼ばれていた。
時折その口から覗く長い犬歯から彼女が吸血鬼であることが分かる。
さらに、これまでの議論で一言も発しない巨躯の人影が一つ。三メートルはあろうかと言うその巨大な体と全身を覆う漆黒の鱗。その背からは大きな翼が、腰からは太い尾が長く後ろに垂れていた。
その背に巨大な戦斧を担ぎ、深紅の鎧を身に纏い腕を組んだその姿はまさに竜人の王。ただならぬ雰囲気を纏った《フェクダ》と呼ばれるこの男の目は、しかし死んだ魚の様に白くくすんでいた。
議題が一息ついたのだろうか、集まった者たちがしばしの雑談を挟む。
この中で明らかに立場が弱いと思われる狐人のメラクがまるで下賤な者を見下すような目をして巨躯のフェクダに近づき無造作にその足に蹴りを入れた。
「おい。脳筋野郎が。久しぶりに顔を出したと思ったら一言もしゃべらないとは、いつからお前はそれほど偉くなったんだ?」
メラクはフェクダ以外の連中に対する態度とは明らかに異なる不遜な態度で唾を吐く様にそう言った。
「……」
それに対してフェクダは変わらず反応を示さない。
だが、意外にもメラクはそれに気分を悪くするどころかどこか愉悦に浸るような嘲笑を浮かべた。
「ケッ。人形風情が。序列六位の俺様が序列七位のテメェにわざわざ声をかけてやったってのに無反応とは哀れだな。」
メラクのあからさまな侮蔑に対して冷ややかな目を向ける者もいたが殆どが無関心と言った反応だ。そんな中反応を返したのはミザールだ。
「メラクよ。まぁ、いじるものそこらへんにしてやってくれんかのぅ。未だフェクダはワシの管理下にある故な。」
「あぁ。分かっているさ。十分に分かっているとも。これが失態を犯した愚か者の末路だというのはね。俺は絶対神であるドーゲンベルグ様の意志に背いたこいつを見るたびに少しばかり心がざわついてしまうんだ。俺の忠誠心ゆえについ口走っちまった。許してくれ。」
「ほっほっほ……まぁ、それならばよいがの。」
そんな雑談を区切る様に壇上の男、ドゥーペが口を開いた。
「くだらん話は終わりだ。次に移るぞ。例の神龍の件で調査に向かったメグレズからの報告が来ている。」
それを聞いて、他四人が顔を上げた。
彼ら、彼女らにとってこの議題はこれまでの案件よりもずっと関心があるらしい。
「ようやくか。トンボの記録が途絶えてからずいぶん経つ。悠長なことで。」
メラクの揶揄に、ドゥーペの視線が一瞬鋭くなった。だがそれも一瞬の事。男は続けた。
「人間どもが結成した蛇の森で遭難したハンターの捜索隊にうまく潜入したようだ。帰還途中、蛇の森の主との予期せぬ遭遇があったとあるが、対処したとのこと。その途中、神龍には遭遇せず、特に異常は見られなかったとある。人間どもは現在も神龍について認知していないとのことだ。」
「ケケ。まさに骨折り損のくたびれ儲けってわけだ。」
「人間どもも無能ね。さすがに神龍の降臨には気づくかと思っていたけれど。」
「……」
ドゥーペの報告に、ミザールがその成果と呼べぬ結果を茶化し、アリオトが人間の無能を指摘する。
「……遭遇していない……?」
先の二人とは異なり、メラクは一人何かに疑問を持ったように思案している様子。
それに構わずドゥーペは続けた。
「この報告にはまだ続きがある。捜索隊の同行では神龍には遭遇せず、その痕跡も無かったため、追加の調査を行ったようだ。
アルカイドの報告にあった魔力を打ち消す結界は確認できたが肝心の神龍の姿がどこを探しても見つからなかったとのこと。しかもその結界も相当に弱まっており、メグレズの見立てでは何らかの理由で神龍は既に消滅したと結論づけている。」
「……消滅のぅ……」
「それは信じられるのかしら?」
先ほどは茶化すだけだった二人も、さすがにその報告に疑問を呈した。
「それに関しては、世界樹の全球探査で確認済みだ。確かに蛇の森にあった強力な魔力反応は消滅している。理由はいまだ不明だがな。」
「ならそれは事実ね。でも、いったい神龍の目的は何だったのかしら。」
「ケケッ。神龍は精霊に近い存在。現世に出現した過去の記録でも理由もはっきりしておらんのも事実だのぅ。」
「……。」
一応は納得した二人に対して、沈黙のまま疑念の目をしたまま思案するメラクにドゥーペが顔を向けた。
「メラクのトンボからの報告が入らなくなったのは、確か辺りが霧に包まれたあたりだったな。原因はナイトメアサーペントの毒霧だろう。その後についてはメグレズの報告の通り。何か気になることでも有るのか?」
「……。 いや特に無いね。」
メラクはちらりとドゥーペを見て、短くそう答えた。
「では、周辺の調査はこれで完了とする。メグレズには帰還命令を出しておく。ただ、神龍の動向調査は継続して行う。アリオト。アウレットのダンジョンの調整が終わり次第蛇の森へ調査へ迎え。 ダンジョンの調整の方はどうなっている?」
「了解、ボス。 ダンジョンの方は順調よ。もう少しで終わりそうだわ。 それにしてもあそこは少し世界樹から離れすぎてない? だいぶ地下茎が入り組んでいたわ―――」
その後も四人の会話はしばらく続き、すべての報告が完了したところでドゥーペが告げる。
「以上で夜の宴を終了する。」
ドゥーペが拳を握りしめた右手を左肩の前にかざす。
「“ドーゲンベルグ様に絶対の忠誠を、逆らう者には血の戒めを”」
そう告げると、他の三人も同じ様に右手を左肩に掲げた。
ほどなくしてドゥーペがまるで闇に溶け込む様にそこから消えてしばらくし、残った四人も同様に動きだす。
その時メラクが一言、二人に告げた。
「少しいいか。……メグレズの報告に気になる点があるんだが。」
怪訝な顔をして、その後それを無視する様に動き出した二人だったが、メラクが中空に写した映像に三人はその足を止めた。
あの毒の霧を避けて遠くから観察していたトンボの映像のようだった。
遠目ではあるが、はるか上空の龍らしき黒い影から眩い一筋の閃光が地面に向けて放たれ、直後それが横に逸れたように見える映像が映っている。
「メグレズは神龍に遭遇していた可能性が高い……。」
それを見た二人は一瞬興味を示すものの、その後すぐに興味を失くしたように前を向いた。
「まぁ、確かに気にはとめておく必要があるが、だが事実は変わりぁせんのぉ。」
「そうね。報告内容と一部異なる様だけど結論は変わらないわ。ユグドラシルの結果が全てね。例え報告が漏れていようとも大勢には影響ないわ。」
そんな二人の反応が余程想定外だったのだろう。メラクは泡を食った様に慌てだし二人に必死に追い縋った。
「な!?ちょっと待ってくれ!神龍との接敵を報告ミスで済ますつもりか?いくら序列三位と言えどもこれは重大な背反行為だ!?こんな簡単な任務すらこなせない奴が序列三位でいいはずがねぇ!そうだろう!?」
しかし、二人はそれに構わず歩き出す。二人の様子を黙って見ていたフェクダも同様に歩き出す。
そして二人が聖堂の門に手をかけた時、ミザールがピクリと動きを止めて―――目を見開いた。
「アリオト、フェクダ。待て……。 これは……。」
ミザールが驚いたように目を大きくして遠くを見つめて固まっていた。
そのミザールの姿にいつも余裕な態度のアリオトも怪訝そうに顔をゆがめた。
「何かあったの?」
ミザールはその問いにたっぷり時間をかけてから重々しく口を開いた。
「……“神角”に植え付けたワシの魔種の反応が途絶えた。……どうやらメグレズが裏切ったようだのぅ。」
その言葉にアリオトは大きく目を見開き、メラクも同様に驚いたがやがてその顔はニヤリと陰湿な笑みに変わっていく。
深い闇の大聖堂で三人の密談は夜通し続いていく。
聖堂の端でただ佇む巨躯の竜人、フェクダはその様子を深緑の目でジッと見つめていた……。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆




