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第2部 第1話 プロローグ

長らくお休みしていましたが、少しだけ時間ができたのでゆっくり更新していこうと思います。

仕事の関係上、以前ほど時間は取れそうになく、隔週程度のゆっくりとした歩みになりそうですが、ご容赦ください。



気長にリュージの冒険にお付き合いいただければ幸いです。

――――――――――――


「はっ、はっ。はっ、はっ。」




 渇いた夏の終わりを感じさせるそよ風が走る俺の頬を撫でる。彼方まで続く平原の地平線の彼方から顔を出した太陽が夜の帳をゆっくりと溶かすように澄んだ秋空にグラデーションの色彩を作り出す。幻想的な景色だ。


 前世で病弱で外に殆ど出られなかった俺にとって、目の前に広がる壮大で幻想的な景色を実際に目にすることができるなど当時は想像もできなかった。こうして目の当たりにして、体感して分かる。大地の、大空の、そして世界のなんと美しく大きい事か。世界の原始的な信仰の多くが自然を神として崇める理由が分かろうというものだ。



 そんな雄大な景色を右手に眺めながら俺は草原を一人走っている。いつもの街壁周りでの早朝ランニングだ。体を自由に動かせることが楽しい。



 ―――ギャウッ!


 小さな鳴き声が俺の右肩から聞こえてきた。そこには黒い鱗に小さな2枚の羽根、幼いトカゲのような小さな顔に似合わぬ大きな金色の目をした手乗りサイズのドラゴンがいた。




 俺が目を覚ました時。目の前に金色の大きな瞳を向けた小さなドラゴンがいて、思わず驚きの声を上げたのを思い出す。しかしその金色の霊子結晶アニマを見て直ぐに気づいた。

 こいつはあの神龍ファフニールであると。


 いや、姿形も違うし、あの神々しさも感じられない。俺の言っていることは理解できるようだが、特に喋ることもなく、あの時感じた念話?言霊?も発しないが、アニマはあのファフニールそのものだ。ファフニールの分身か眷属か何かなのかもしれないが、なぜか俺に纏わりついて離れない。


 神龍ファフニールはあの時確かに消えた筈だが……。

 そう言えば、“ファフニールは矮小なる者の願いで顕現した”と言っていた。矮小なる者がなんなのかは分からないが、もしかしたらその願いが僅かながら続いているのかもしれないと思った。ファフニールは俺に会うことでその目的の殆どを達成したようだが、全てかなえられたわけではないのかもしれない。実際、ファフニールは俺の行く末を見定める様な雰囲気があったしな。



 そんな予想をしたところで、当の本人は喋れない(喋らない?)ので、結局良く分からない。ただ、いずれにせよ特に害も無いし神龍ファフニールはそもそも敵ではないので、今はこいつの好きなようにさせている。


 最近ではだいぶ懐いていて、顎を撫でてやると目を細めてグルグルと甘えてくるのだ。正直ちょっと可愛く感じている自分がいる。





 そんな回想をしている間に丁度街を一周したようだ。


「ふう。少し休憩するか。」


 俺は見まわして手ごろな石を見つけて腰かける。朝焼けの景色を眺めながら休憩だ。


 腰かけると、ファルと名付けた手乗りドラゴンが俺の膝の上に降りて丸まって休憩し始める。ファフニールは呼びにくいので愛称をつけてやった。本人も気に入っているようだ。


 幼龍の少しひんやりと感じる艶やかな鱗を撫でながら壮大で穏やかな景色を眺めていると、つい二週間前、あの蛇の森で死と隣り合わせの危険なクエストに身を置いていたのがまるで嘘の様に思えてくる。

 ファルを撫でながらあの緊急クエストでのことを思い出す。初めての大人数でのクエスト、蛇の沼との死闘、そしてソワレの暴走……。



 ……ソワレ。どうしているだろうか。



 あれ以来、ソワレには一度もあっていない。それどころか最初にギルドに報告書を提出してからそれ以来一度もギルドにすら顔を出していないというのだ。


 あの時。迫りくるファフニールのブレスを前に自ら命を絶とうとしたソワレを俺は強引に止めた。忌まわしき魔人の霊子結晶アニマで自我を失い暴走するソワレに俺は極心融魂メルトインテグレーションを発動し、魔人のアニマに浸食されていたソワレ本来のアニマを不完全ながらも修復したはずだ。だから本来のソワレに戻っていると思うんだが……ちゃんと治癒は出来ただろうか。あの時のような暴走は起こっていないだろうか。


 それに…俺がしたことはソワレにとって本当に正しい事だったのか。正直今でも迷う。あの時俺は確信をもってそれを行ったというのに今更そんな不安を感じる自分が情けない。

 これまでこの周辺で何か大きな事件は起こっていないので、きっと大丈夫だろう。そんな間接的な要因は証拠にはなりえないのは分かっているが……このモヤモヤが残っているのも無視できない事実で、その事実がまた俺をモヤモヤさせる。


 ……我ながらウジウジと女々しいものだ。そんな自分に気づき両手を上げて―


 ―パンッ!


 自分の顔をたたいて気持ちを切り替える。



「よし。日課の魔法検証に取り掛かるか。」


 そう言って、いつもの日課である魔法の考察に入ることにする。今は考えても仕方ないことに頭を悩ませてもしょうがない。

 早速黒縁メガネを操作し魔法メニューの項目をタップすると、現在の魔法ステータスが目の前に映し出された。



―――――

《火》

 ・点火イグナイト


《水》

 ・水滴ウォーター


《風》

 ・送風エアレイド

 ・風刃ウィンドブレードNew!

 ・風装ウィンドアクセルNew!


《光》

 ・ライト


《雷》

 ・火花スパーク

 ・紫電エレクトロキュート

 ・電磁気短波探知魔法エレクトロマグネティックソナー―パッシブ(コネクテッドNew!)

 ・生体電気強化魔法エレクトロブースト―パッシブNew!

 ・閃雷魔操エレクトロコマンドナーブNew!


《無》

 ・身体強化フィジカルエンハンス

 ・振動ブレード―パッシブ


《治癒魔法》

 ・自動回復小オートリジェネ―パッシブ

 ・局所回復パーシャルキュアNew!


《質量操作》

 ・加重マスエスカレート New!


《熱》

 ・加熱ヒートNew!


《錬金》

 ・物質軟化ブレイクダウンNew!


―――――



 我ながら随分と増えたものだと感心する。この短期間に新しく習得した魔法も多いので、ひとまずそれらを振り返ってみるか。


 実は、あの事件以降、と言うかファルに何かされてからプレシールドの操作可能範囲が拡大したのと、以前よりも魔力操作が緻密に出来るようになったこともあり、いくつか新しく習得できた魔法がある。緻密な魔力操作は操作がしやすくなったというより、どちらかと言えば彗心眼で視た魔力が細かく視られるようになったと表現した方がいいかもしれない。例えるなら、画像の解像度が上がったような感じだ。




 まずは風装ウィンドアクセルだ。こちらはあのサーペントの突撃を躱すために土壇場で発動した魔法だ。目が覚めてから今日まで繰り返し訓練することで数日前に魔法として登録されたやつだ。

 次に風刃ウィンドブレードだが、これはリンから教わったものだ。教会の四大元素魔法の中級魔法で、空気で作り出した刃で敵を攻撃する魔法だ。ただ、相変わらず俺は体内魔力を溜められないのでこの刃を遠くに飛ばすことはできないし、左手の鬼憤の籠手にチャージしないと使えないいわば劣化版の魔法だ。これについては、またどこかで考察しようと思う。



 次に電磁気短波探知魔法エレクトロマグネティックソナー生体電気強化魔法エレクトロブースト閃雷魔操エレクトロコマンドナーブだが、これまで意識的に、つまりマニュアルで発動していたものがいつの間にか魔法メニューに追加されていた。この黒縁メガネは優秀で、一度マニュアル発動できるようになれば勝手に解析して自動化登録してくれる。自動登録による魔法発動は意識を持っていかれないので、戦闘中は非常に役に立つし、使い方によっては複数の魔法の同時発動が可能だ。

 電磁気短波探知魔法エレクトロマグネティックソナーなどは、このメガネディバイスと連携し、敵を感知するとAR表示される。これまでもメガネによる探知は行ってくれていたが、大まかな敵の方向と大体の距離の表示だけだった。だが、この連携によって敵の形や距離の精度が大幅にUPしている。数メートルの誤差が数センチレベルの誤差になったと言えばわかりやすいだろうか。



 次に局所回復パーシャルキュアだが、こいつもいつの間にか登録されていた魔法で、恐らく緊急クエストで自分や他人に回復魔法を発動したときにシステムとして登録されたもののようだ。範囲は数センチ程度の限定されたものだが、登録されたことでだいぶ楽に治癒が可能となった。ただ残念ながら、相変わらず体内魔力が無い俺自身の体内深部の治療にはほとんど効果はない。



 そして、加重マスエスカレートと言う魔法。これはあの事件から目を覚まして、体力が回復するまでベッドで療養していた数日の間に研究して登録された魔法だ。俺は目を覚ましてすぐにでも動きたかったのだが、リンから安静にしなきゃダメと言われ、一日中ベッドで寝ているだけの日々を過ごしていた。その時あまりにも暇すぎてソワレの魔法を見よう見まねで再現した魔法だ。

 そりゃ、あの時の魔人化したソワレの様に自由自在に質量を変えられたら最強も夢じゃないが、残念なことに俺の体外魔力ではほとんど質量を変化させられなかった。花瓶の重さが僅かに変化したかなと言ったレベルで、魔法としては発動できているがほとんど実践では使えない魔法となっている。

 再現して分かったが、この質量操作は風装の様に軽くしたい物体周辺の空間全体を魔力で覆って、魔力で覆った範囲をヒッグス粒子に変換/操作することで質量操作の効果を得る。だから、操作したい物体の周囲を如何に大きく濃密な魔力で覆うかが重要だと気づいたのだ。つまるところ、あの時のソワレの様に馬鹿げた魔力量があって初めて凶悪な力を発揮するということだ。そんなわけで、今のところ質量操作系は実践で使える目途が立っていない。俺には過ぎた魔法という事だろう。このままお蔵入りの可能性が高そうだ。



 更に後の二つ。

 加熱ヒート物質軟化ブレイクダウンだ。


 加熱ヒート点火イグナイトを検証しているときに発見した魔法だ。点火イグナイトはオリジン反応で可燃性ガスを発生させて火を灯す魔法だが、可燃性ガスをどうやって点火しているのか前々から疑問に思って検証していた。

 例えばガスコンロで火をつけるとき、一回つまみを回しただけでは火がつかないことがあると思う。その時つまみを回しっぱなしの状態ではガスは漏れ続けている。もう一度つまみを戻して捻りなおし、カチッと音がして初めて火が付く。つまり、ガスだけ漏れても火種が無ければ着火しない。だが、この魔法はガスが発生したときに火花も放電も発生していないように見えるのに、確実に着火するのだ。そこで詳しく点火の仕組みを検証してみたのだが、どうやら魔法発動直後に発生したガスそのものが熱を帯びて自然着火しているという事が分かった。つまり、火花を飛ばして着火しているのではなく、着火温度に達するまでガスを加熱しているという事になる。

 もし、発生させた物質の温度を高温に出来るなら、魔法で物体の温度を操れるのではないかと考えたのだ。


 温度を操作するにあたり、そもそも“温度”とは何か?について理解しなければならない。今は詳細は省くが、簡単に言うと温度とは分子の振動エネルギーと考えられている。お湯に触ると手が温かく感じるが、人間がお湯に手を付けた時、水分子の振動が手を構成しているタンパク質などの分子に伝わりそれが熱として“熱い”と感じるのだ。つまり、温度が高い程分子の振動エネルギーが大きいという事だ。

 ちなみに、この分子の振動を利用しているのが電子レンジだ。電子レンジはマイクロ波と言う波長の長い光(光子フォトン)を発生、照射して物体の水分子を振動させることで対象を温める仕組みになっている。点火イグナイトの魔法は着火時に、この電子レンジと同じように分子の振動を魔法で再現しているということだ。しかもその対象は水分子に限らない。


 点火イグナイトの点火の瞬間の霊子結晶アニマの反応パターンを彗心眼で良く見て、その部分だけを抜き出して再現した結果、物体を温めることには成功した。

 ただ、加熱ヒートは点火の瞬間だけを再現した魔法なので、局所的な範囲(1ミリ程度)に、しかも0.1秒程度とわずかな時間しか効果が及ばない。現時点では非常に限定的な魔法になってしまっている。

 しかし、これを発動するためには点火イグナイト程魔力を消費しないので、練習すればもっと広範囲に、長時間発動も夢ではないだろうという予感がある。いや、確信と言ってもいい。この魔法は訓練次第で化ける。



 次に物質劣化ブレイクダウンについて。

 これは、物体、特に金属個体を脆くする魔法だ。ほら、よくあるじゃないか。魔法で様々な物を加工する錬金術ってやつ。錬金術無双なんて小説もどこかで読んだ気がする。あれができないかと思って、金属を加工できないかと試行錯誤してできた魔法だ。

 以前考察したが、物体中の“電子”、もしくは“光子フォトン”を操作することで物体の結合を弱められるのではないかと言う発想だ。


 だが、どういう霊子結晶アニマの反応パターンであれば物質の結合を弱める効果がある魔法を発動できるかがさっぱり分からなかったので、構想はあったが実現は出来ていなかった。


 ではどうやってその未知のアニマの反応パターンを探し当てたか。

 きっかけは振動ブレードだった。この魔法は右手の宵闇の籠手の仕込み刀を超微細に超音波振動させる魔法で、恐ろしい程の切れ味を出すものだ。この振動ブレード、なんと普通に銅や鉄製の金具なども切断してしまうのだが、刃自体は全くと言っていい程欠けない。それがとても不思議だった。

 仕込み刀自体はやや黒く単純な鋼ではないのだろうと思われる。もしかしたらとても硬度が高い金属なのかもしれない。だが、それにしたって普通は金属を無理に切れば欠けるのが普通だ。しかも超音波振動しているなら刃が当たる瞬間は超高速になっているはずなので、何かしらの傷や欠けが無いとおかしいはずだ。


 何で欠けないのかと不思議に思いあれやこれやと検証していたのだが、ある時気づいた。彗心眼で凝視してみると、その刃の先、うっすらと光る0.1ミリ程度の膜が刃を覆っていることが分かったのだ。

 この薄く光る膜を発生させている霊子結晶アニマの反応パターンを見極めて、それを再現することでこの光る膜だけを発動させることに成功。そして、この光を金属に当て続けていると、サングラスのマリ〇クさんもビックリするほど簡単に手で曲げることが出来た。

 同時に、この物体を柔らかくする効果はこの光を当て続けている間のみであり、魔法発動を止めた途端に元の金属の硬さに戻るという事も分かった。



 以前、分子の結合は電磁気力であるという話をした。物体同士、つまり分子同士が結合しているのは、電子によって発生するプラスもしくはマイナスの電荷を帯びた分子同士が電磁気力で引き合うからだ。金属などは不足する電子をお互いの分子間で共有することで自由電子を作り出し、それによって発生している電磁気力でお互いに強力に結合しているから硬い。ちなみに、この金属の強力な分子間結合を金属結合と呼ぶ。


 そんな強力な金属結合がなぜ弱くなるのか?

 おそらくこの魔法はこの分子間に働く電磁気力を一時的に弱くしているからではないだろうか?と言うのが俺の推測だ。

 以前も言及したが、電磁気力そのものは量子力学的に言うと素粒子である光子フォトンのやり取りによって発生しているという話をした。光魔法の特性を強く持つ俺は、この光子フォトンを操作し、金属分子を結合させている電磁気力に直接干渉できるのではないだろうか。だから、この魔法を発動している時だけ金属は脆くなる。

 振動ブレードはこの物質軟化ブレイクダウン魔法を併用することで、金属さえも難なく切断できるという事なのだろう。



 この魔法を使えば金属も簡単に切断できるだけじゃなく、加熱せずに粘土の様に金属の形状を変化させることができる。今は厚さ1ミリ程度の薄い膜程度しか発動できていないが、これも練習すれば拡大できるだろうという確信がある。

 錬金無双もあながち夢じゃないかもしれない。非常にワクワクする魔法だ。




 以上で新しい魔法の振り返りは終わり。


 とにかくファルに何かをされてから色々とパワーアップして、出来ることが増えている。その分、彗心眼で得られる情報量は多くなり脳への負担は増えているが、デメリットと言えばそれ位だ。それを差し引いても今回の恩恵はすさまじい。

 だから今は魔法の検証、研究が楽しくてしょうがない。それにのめり込んでしまうのも致し方ないだろう。と自分に言い訳をして、石に座りながらさらなる検証に入ろうとしたとき。


 ―――リュージー!


 遠くから俺を呼ぶ声がして、振り返ると遠くに見える城門の近くにリンの姿があった。

 まだ朝食には早いはずだが、何事だろうか。魔法の検証ができないことに少し残念に思いながらも何かあったのかもしれないとリンの方に歩いていくのだった。



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