第66話 第1部 エピローグ
◆ ◇ ◆ ◇
―ガチャ
俺は宿の一室のドアをノックもせずに入る。扉を開けるとその部屋のベッドに健やかな寝息を立てるリュージが見えた。
「ようやく落ち着いてきたか。」
ベッドわきのテーブルには桶が、そして良く絞られたタオルがリュージの額に置かれていた。
タオルがまだ濡れているからさっきまでリンさんが看病していたのだろう。残念ながら行き違いになってしまったようだ。
「リンさんにも一言伝えたかったんだけどな……仕方ないか。」
俺はそう言って、懐からメモ用紙を取り出しテーブルにそっと置いた。そして傍らの椅子に腰かけリュージを見る。
「……リュージ。寝坊しすぎだろ。そろそろ起きてくれよ。みんなお前を待ってるぞ。あの焔狼の連中なんか毎日俺に聞いてくるんだ。リュージはまだ起きないのかって。 しまいにはあのギルマスまで俺に声をかけてくるほどさ。」
……あの事件から既に3日が過ぎようとしていた。
あの時の事を思い出す。
サーペントの自爆覚悟の魔法を食らってから正直記憶があいまいだ。だが、ギリギリまで意識があったマックスやギルマスが言うには、サーペントが復活して大惨事になって。それでも最後には司教様がサーペントをハントしてくれたってさ。
ただ、最後まで意識を保っていたはずの肝心の司教様が行方知れずだから、今でも真相は謎。
リンさんは最後までいたみたいだけどリュージが目覚めてから話すと言って、結局何も言わないんだよな。
俺からしてみればいつの間にか傷は治っているわ、ナイトメアサーペントの跡形もなくただ大きな穴が開いているわで、訳が分からない。
中には神龍が現れたって言うやつもいた。ブギの連山が削れたのがその証拠だってさ。確かにあの惨状はおかしいが、ただ神龍などおとぎ話で出てくる伝説上の存在だ。そんな与太話、真に受ける方がおかしい。
まぁなんにせよ、多くのハンターが命を落としたあのクエストで俺とリュージは生き残ったのだ。ひとまず今はそのことに感謝しすることにしよう。
寝続けるリュージの額の濡れタオルをとって桶の水に浸して絞りながら問いかける。
「リュージ……お前、本当の事を知ってるんじゃないのか?」
なんとなくリュージが俺達を助けてくれたんじゃないのかって気がするんだよな。額に濡れタオルを置くとリュージが寝ながら笑顔を見せた。
「何ニヤついてんだよ。 いい夢でも見てんのかね。」
寝ながらうれしそうな顔をしているリュージを見て思わずつられて笑う。そして思う。
リュージはホントに不思議な奴だと。
最初、リュージにハントのノウハウを教えてくれと頼まれて引き受けたのは、リュージを見極めるためと言うのもあったが、正直リン様への点数稼ぎのためと言う方が比重は大きかった。
既にリュージが魔力ゼロだという噂は知っていたし、その寄生者が本気でハンターになりたいだなんて何の冗談かと思った。
だけど、一緒にクエストをこなしてすぐに気づいた。リュージの吸収力と成長力は異常だということに。
クエストに同行するたびに前回の反省点をきっちり改善してくるし、それ以上に不思議な技を応用した独自のハントの技術を作り上げていったことに驚かされた。
そして、あの緊急クエストで、グリズリーがリュージの周りを踊る様に翻弄されているのを見て自分の目を疑ったのを覚えている。
終いには、あの悪夢のようなクエストで最後まで意識を保って生き残った。その事実が単なる強運の持ち主では済まされないリュージの実力を証明していた。
自身が魔力ゼロで体力が極端に低いことを理解していながら、それでもあきらめず自分の不利を覆す策を考え続け、自分の道を真っすぐ見据えて貪欲に強さを追い求めるその姿が俺にはとても眩しく見えた。
もうハンターを続けることを諦めかけていた俺には、そのキラキラとした目がとても眩しく見えたんだ。
リュージが、俺の親友が恐ろしいスピードで成長していく。
それに引き換え俺はいつまで足踏みしているというのだ。俺も負けてられない。そう思う。
「あれだけ俺に絡んできたゴンザが居なくなって俺も仕切り直せると思った矢先、あの死んだはずのグロリエルから呼び出しが来たよ。……目的はゴンザと同じだ。びっくりだろ?結局あいつが全部糸を引いてたって話さ。全く笑えない。」
だが、俺が前を向いてこの先リンさんとリュージと肩を並べて冒険に出るには覚悟を決めなきゃいけない。
逆に考えれば、いい加減自分が抱える問題に向き合い決着を付けるいいタイミングだ。
これは他人には任せられない。俺の問題だ。
「リュージ。ちょっと先に俺の用事を片付けてくるよ。……なに、心配することは無いさ。俺にとってはちょっとしたお使いレベルのクエストさ。……戻ったら一緒に冒険しような。」
俺は徐に立ち上がり、部屋を立ち去るときにもう一度リュージを見る。そして覚悟を決めて一歩を踏み出した。
◆ ◇ ◆ ◇
俺たちは船に乗っていた。
見渡す限りの大海原だ。
俺は大きな帆船の甲板の手すりに身を乗り出すように、どこまでも続く夕日に照らされた緋色の大海原を望む。
キャラック船の大きな帆がめいっぱい風を受けて、大海原を切り開くように力強く進んでいく。
いつかクロスメントの城壁でエンリケと見たような、夕日に照らされた赤い海に一筋の白い航跡を残して。
隣を向くとエンリケがいた。
俺と同じように甲板の手すりに身を乗り出すようにして。
その顔には満面の笑みを浮かべていた。
エンリケの隣にはシルバとそしてリンもいた。チクチクもいる。上空にはポン助にシロピーの影も見えた。
みんながその船の向かう先を望み、目を輝かせていた。
その夕日に見とれているとエンリケが感極まったように言った。
「俺たちもついにここまで来た。大海原を渡り、世界を股にかける大物ハンターに!」
そして誇らしく俺も答える。
「あぁ。ついに。ついにSランクまで俺たちは上り詰めたんだ。」
エンリケとリン、シルバにそれぞれ目を合わせる。みんな誇らしげに頷いた。
そしてエンリケは大きく背伸びをして言った。
「さぁ!! やぁるぅぞおおぉ! もっともっと強くなって、もっと世界を旅しよう! もっともっと稼ぐぞ! 俺たちならやれるさ! そうだろう?」
そうして振り向いたエンリケは両の手のひらを俺達に向ける様にかざした。
―――パン!
「ああ!もちろんさ!」
「ええ!もちろんよ!」
「ゥオン!」
そう答えながら俺たちはその手にハイタッチをする。信頼できる仲間たち。そんな仲間たちで冒険をする。これが夢にまで見た異世界冒険譚。
―――あぁ。これは夢か。
近い将来、これが正夢になったらいいなと心の底から願う。
……いや、正夢にするんだ。
夢の中で改めて俺は決意する。
世界を渡り歩いて、この目で色々な場所を見て、様々な人と出会い、想像もできない冒険をして、そして前世の分まで生きて、生き抜いてやる。
凛香の分まで。
―――第1部 完―――
――――――あとがき
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。
30万字におよぶ長い作品を飽きずに読んでくれたことに、感謝感激です。
一先ずここで第1部は完結となります。
処女作という事で正直自分自身ここまでたどり着ける自信はありませんでした。
自分の想像を小説にしてみたいと思い立って書いてみたものの、仕事をしながら小説を書くというのは本当に大変で、とても片手間で出来るものではないというのを痛感しました。
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ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
それでは皆さま、また会える日までごきげんよう。
※まだ読まれていない方はタイトル上部のシリーズ作品も寄って見てもらえればうれしいです。(作者リンクからでも行けると思います。)




