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第63話 極光と涙

「ふざけるな!!!!死んでいいわけないだろ!」




 気づけば俺は叫んでいた。そして目を見開くソワレの前に立ち、天上から迫りくる極光に向け手をかざしていた……。



 その魂の声を聴いた瞬間、俺の迷いは吹き飛んでいた。

 言い知れない怒りが魂の奥からこみ上げ、咄嗟にとった行動だった。










 この時の俺を突き動かしたのはソワレに対する同情や悲しみ、喪失感などではなく、“怒り”だった。




 俺はただただ、俺自身が許せなかった。己自身に対する身を焦がすほどの怒りに震えた。









 目の前の存在がどんなに邪悪であろうとも、そこに俺の知るソワレが居ることは分かっていた。それが分かっていて、その死を見過ごそうとしたのだ。




 凛香の命を奪ったあの憎い魔人と同じだから。この世からいなくなっても、それは仕方ないことだと、それがこの世界のためだと思ってしまった。


 邪悪に飲まれたソワレはもう二度と戻らないと勝手に思い込んで。





 俺を何度も助けてくれたソワレの命を、俺は傲慢にも勝手に諦めた(・・・)のだ。



 相手が神龍だからなど言い訳にならない。実際に助ける助けない以前の問題。俺はソワレの独白を聴くまで彼女を助けようとすら思わなかったのだから。


 目の前の少女を救う事など考えもしなかった自分自身が許せなかった。

 人の命を簡単に諦めてしまった事実が、等しく凛香への裏切りである様に思えたから。









 いや、それすらも後付けの理由でしかないかもしれない。


 俺の目に映った自死を願う目の前の少女が、あの日、飼い猫のミケの死を前に泣き腫らしていた凛香に重なって見えた。



 俺の体を突き動かしたのは最終的にはそれだけだったのかも知れない。






 ソワレの意志なんて関係ない。ソワレ本人がどういった理由で自死を望んでいるかなんて正直分からない。




 唯々、この少女は死なせない。俺はそう強く想った。








 だからだろうか。

 極光を目前にして、その想いに応える様に俺の魂の奥底から暖かくて懐かしい光が漏れるのを感じた。


 本当にピンチの時、心の底から諦めたくないと思えた時、いつも俺を助けてくれたあの泣きたくなるほど懐かしく温かい光が俺を包む。




 ―――有難う。母さん……




 俺はその光を右手に集め、目の前に迫る極光にかざす。そして、瞬間的に魂魄同調アニマレゾナンスを発動し神龍の金色こんじきのアニマに同調する。


 なぜか分からない。ただ、それが正しい行為だと自然と分かった。






 ソワレはそんな俺を見て目を見開き、そしてその手を俺に伸ばして何かを叫んでいたようだった。






 次の瞬間、光が俺たちを包み込んだ。

















 ―――ドゴゴゴォォォオ!!!!!!






 全てを焼き尽くすはずの天の雷は、だがしかし俺達を焼き尽くさない。

 俺のかざした手の直前でまばゆい光を放ち、対消滅するように掻き消え、押しとどめられていたのだ。



 俺の後ろでソワレが必死に何かを叫んでいた。

 だが今はそれに気をかけている余裕はない。





 ―――うぉぉぉぉぉおお!!!!





 神龍の放った天の雷はそのオリジン反応から“光子”を操る魔法だと言うのが分かった。俺の魔法、(ライト)と同じ反応だったからだ。



 そしてばあちゃんはこう言ったはずだ。俺の得意な属性は《雷》と《光》だと。

 つまりそれは《電子》と《光子》を作り出し操る魔法適正があると言う事。

 であれば出来るはずだ。





 俺の右手が、体中がギシギシと音を立てる。

 物理的な重さじゃない。だが、体全体を押しつぶすような力が右手から伝わってくるのを感じる。

 これはいくらも押しとどめていられない。このままだと一瞬でつぶされる。





 ―――あぁッ! うぁぁぁあああ!!






 俺は本能の赴くままにその極光の力を真横に受け流す。



 無幻水心流の基本にして奥義、流水心。そしてその応用として開発した《魔操マジックコマンド》。








 俺の手によって直角にそらされた天の雷は森を切り裂き遥か彼方の山々に到達。



 ―――ドッゴォォォオオン!!!!!!




 直後恐ろしい程の光と爆音が轟き、成層圏に届きそうな程の巨大なキノコ雲が立ち上った。






 そしてしばらくして山肌が見える。その山の半分が削り取られていた。しばらくの静寂。





「ハァっ。ハァっ。はぁ。」




 俺は神龍がこれ以上の攻撃をしてこないことを確認し、後ろのソワレに向き直る。

 そこには目を見開き唖然とするソワレがいた。





 俺はその瞳を見て言った。



「諦めるな。諦めちゃダメだ。」




 その瞬間。俺を見上げるソワレのアンバーの双眸(・・・・・・・)から大粒の涙が溢れてこぼれ落ちた。





 ソワレはその場で座り込んで俯き、弱々しくつぶやいた。



「何で。 何で……死なせてくれないの……。」




 俺はソワレに一歩近づく。そしてその身を屈めて涙に濡れる少女の瞳をのぞき込んだ。




「……何も知らないくせに。私のことなんて何も!何も知らないくせに!」



 ソワレはその小さな手に拳を作り、ポスっポスっと弱々しく俺の胸を何度も叩いた。



「そうさ。ソワレの言う通りだ。俺は君の過去を知らない。」



「なら何で!……何でなの……。何で死なせてくれないの……。」



 俺はその弱々しい拳に心に響く重みを感じながら、ソワレの霊子結晶アニマを視る。



「……それでも、諦めたらそこで終わりだ。俺はソワレを諦めない。死なせはしない。……もう二度と。」




 ソワレのアニマは弱々しく赤と青の明滅を繰り返していた。

 自我を保つのがギリギリなのだろう。今にもあの赤い脈打つアニマが内側から溢れかけているのが分かった。



 俺は魂魄同調アニマレゾナンスを発動して自身の魂の内側から溢れた光の残滓をその青いアニマに合わせていく。先ほどの神龍の天の雷を逸らすためにそのほとんどが失われていたが、まだ僅かに体内に残っていたのだ。


 ソワレの霊子結晶アニマがひどく不安定で、うまく同調ができない。今俺ができる全力で不格好ながらどうにか波長を合わせる。


 俺は両手でソワレの華奢な震える肩を掴む。涙に濡れるその瞳の奥のアニマの色が悲鳴を上げているように視えた。

 ソワレの眼の奥をのぞき込みながらソワレのわずかな抵抗を無視してその額に自分の額をそっと当てた。



 ソワレは一瞬ビクンと震え俺を振りほどこうとしたが、次第にその力は弱くなっていった。俺がアニマレゾナンスを深めて、俺の魂の光をソワレのアニマに注ぎ始めたからだろう。




 詳しくは分からない。

 だが、この青いアニマが弱まったことでソワレは暴走した。魔人の本能ともいえるこの赤く脈打つアニマを抑えられなくなった様だった。


 であれば、俺のこの魂から溢れた光でソワレの青いアニマを補強してやればいいような気がした。



 もちろんそんなことやったことは無い。

 でも、なぜかそれができる気がした。いや。俺は知っていた(・・・・・)のだ。





 ――――――



 俺の父さんが夢幻炎心流の出稽古に向かう前夜。―父さんが亡くなる前の日。


 いつもなら寝る時間に珍しく俺と凛香を道場に連れ出して、稽古をすると父さんは言った。



「凛香。柳二。 今日は二人に大事な技を伝えようと思う。」



 その時の父さんの顔は酷く真剣で月明かりに照らされて少し怖く見えた。まるでどこか遠くに行ってしまいそうで。そう思ったのを思い出す。



「この技は、無幻水心流ではない。その宗家、無元極心流の技だ。そしてこれは柳二の母さんが私に伝授してくれた技でもある。それを今日、お前たち二人に伝える。」



 そう言って、父さんはまだ子供だった俺たちの手を取って、瞑想に入った。やがて俺の心に父さんの温かい心が伝わってきた。

 そうだ。あの時、父さんの魂の欠片が俺の魂の色に重なって視えた。




 ……今の今まで俺はそんな大切な出来事を忘れていた。だけど今、それをはっきりと思い出した。


 あの時、確かに父さんの魂の欠片が俺に融合したのを視た。



 あぁ。


 だからか。

 俺の霊子結晶アニマの色に父さんの色が混じっているのは……。



 ――――――




 その記憶を頼りに俺はその技を発動する。





 ―――極心融魂メルトインテグレーション







 その瞬間、俺たちの額が眩しく光る。


 俺が未熟だからか、注いだ俺の魂の光はなかなかソワレの霊子結晶アニマに融合してくれない。そのほとんどがソワレのコアシールドに弾かれて霧散していった。


 だが、それでもあきらめずに俺は俺のアニマを注ぎ続ける。僅かでも彼女のアニマに届くなら意味があるはずだ。そう信じて。




 そうしてしばらく俺の内の光をソワレのアニマに変えて注ぎ込んでいくと、次第に変容したソワレの容姿が元に戻っていった。

 そしてつぎはぎだらけではあったものの、俺の内の光がなくなる頃にようやくソワレのアニマは元のように安定を取り戻していた。




柳二の魂から溢れた青白い光は、シリーズ投稿の柳二の前世の話で出てきています。

興味のある方はタイトル上部のシリーズ投稿からどうぞ。

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