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第45話 疑心の芽


「おい、ギルマス。今なんていったんだぁ?魔物寄せ?そんなの聞いたこと無いぜぇ。」


「……まぁ、知らないのも無理はない。これは市場での取り扱いが禁止になっているからな。その危険性から、ギルドと帝国の協定で存在すら機密扱いとなっている。まぁ、実際人の口に戸は立てられない。その様子だとマックスは知っていたのだろう?」



 シェスティンの問いかけにギルマスが答え、マックスの様子を指摘する。マックスは苦笑いしている。



「やめてくれよ、ギルマス。俺も噂程度にしか聞いたことはないさ。ただ、魔物除けがあるなら魔物寄せもあるだろうとは思っていたが、さすがに見るのは初めてだ。それにしてもエンリケ。良く気づいたな。お前は知っていたのか?」


「まさか。俺はDランクですよ。そんな機密情報知りません。ただ、匂いに関してはシルバに敵う者はいない。シルバの異常な反応から、魔物を引きつける効果があるんじゃないかって思っただけで。」


 エンリケは謙遜しつつもそう答えた。


 皆が険しい顔をしているのはその魔物寄せの危険性を懸念している訳では無い。もちろんそれもあるだろうが、これが焚かれていたという事は、意図的に魔物をここに呼んで襲撃させた何者かが居るという事だ。つまり今回の襲撃は偶発的な事故ではなく計画的な殺人未遂事件という事になる。



「そのマッドフロッグもその香を焚いたものの仕業の可能性が高いわね。」



 レベッカが全員の懸念を代表して指摘する。


 ……さすがにこの状況であのゴンザの話をしないのはマズいか。幸い死者はいなかったものの、犯人を知っていて言わないというのも調子悪い。



 そんな迷いを抱えてためらっていたものの、一歩踏み出し手を上げようとしたタイミングで、リンが上空から俺達の横合いに降り立った。


 リンは俺とギルマスを発見すると、挨拶もそこそこに周囲の偵察の結果を報告し始める。どうやらギルマスがここに来る前にリンに依頼していたようだった。


「上空から周囲を確認した限りでは魔獣は見当たらなかったわ。もっともこの暗闇では限界があるから確実には言えないけれど。それと、このキャンプから西一キロほどの地点に何者かの真新しいキャンプの跡を発見したわ。」


「なに!?それは本当か?」


「ええ、間違いないわ。焚火の跡を見つけた。おそらく足跡から二人ね。」


「となるとやはり…」



 全員がその発言に驚き、その対策を話し合い始める。

 俺も別の意味で驚いていると、リンは何気なく俺の傍らに移動して小声で俺に耳打ちしてきた。



「リュージ。二人とも逃げられたわ。縄も切られていた。」



 …切られていた?リンは“ほどかれていた”ではなく“切られていた”と言った。拘束するとき、簡単ではあったがもちろん身体検査はした。刃物は隠し持っていなかったはずだ。だとすると、仲間がいたのか?……あるいは……。



 様々な憶測が脳裏をよぎるがそれは後にする。

 ともかく図らずもこの状態は俺にとっては最も望ましい状況になった。ゴンザ達が見つからなければ俺がしたことは露見しない。そして、その不審者が今回の騒動の犯人である可能性に気づかせることができた。リスクなく俺の言いたかったことが必然的に伝わったことになる。


 そこまで計算してリンはこのタイミングで言ったのだろう。またリンに救われる形になってしまったな。



 リンの報告に皆がざわつき始めたところで、横合いからグロリエルが「ちょっといいか」と顔を出した。

 いつの間にか近づいてきていたらしい。



「途中から聞いていたが、まさかお前ら、その灰種アッシュのいう事を鵜吞みにしている訳じゃないだろうな?こいつは生来裏切り者だ。信頼性なんてあったもんじゃない。

 と言うか俺はむしろ今回の首謀者はコイツなんじゃないかとすら思っている。人族の仲間を救助しようとする俺達を邪魔する動機があるのは、灰種アッシュのこいつだけだしな。」



 それを聞いた途端、俺の中の何かがキレる音がした。視界が真っ赤に染まり、気づけばグロリエルに一歩踏み出していた。が、その直後、リンが目の前に手をかざして俺を止めた。


 自分がさんざんけなされたのに、なぜ俺を止めるのか―――と俺はそのリンの行動が理解できずにむしろその怒りの矛先をリンに向けようとさえした。が、その時リンの手が震えていることに気づいた。

 それに気づいて顔を見ると、リンはグロリエルを睨み、血がにじむほどに唇をかみしめていたのだ。その眼は悲しみと怒り、そして内からあふれ出る悔しさを無理やりに押し殺した眼だった。


 ……一番悔しいと思っているのはリンなのだ。だが、悔しさに満ちたその目の奥に、凛とした決意のようなものも同時に見えた気がした。


 この緊急クエストはリンの力を知らしめると同時に周囲にハーフダークエルフが人族に敵対しないことをアピールする絶好の機会でもある。

 だからリンは身を切るような侮辱的な発言を受けても動かないのだ。



 あの時、ギルドで力なくうずくまっていたリンはもはやここにはいない。リンは今この世界の理不尽に正面から向き合い、戦いを挑んでいる。


 そんなリンの戦いを俺は台無しにするところだった。



「……リン……すまない」


 俺の呟くような謝罪に、リンは小さく―ありがとう。と言った。





 グロリエルはそんなリンの顔をまるで汚いものでも見る様な目で見ていた。リンは気丈に振舞っていたが、その実手は僅かに震えていた。

 俺は横に立ちその手をそっと握る。俺に出来ることはこれくらいだった。リンは一瞬驚いたように横目に俺を見て、その後毅然と前を向いた。その手の震えは無くなっていた。



 そんな俺たちの無言の抗議にギルマスが手を差し伸べてくれた。



「グロリエル。お前は確かに優秀だ。パーティーとしての実力もこの街でもトップレベルと言うのは理解している。だが、お前のその曇った目があるべきものを見えなくしているぞ。それさえ無ければすぐにでもAランクにしてやれるのだがな。」


「な!?ギルマス!俺に見る眼がないとでも言うのか?かつてのギルマスなら、灰種アッシュの言うことなど信用しなかった。そもそもパーティーに入れることも無かったはずだ。俺にはむしろ今のギルマスの方が耄碌していると思うがな!」


「グロリエル!いい加減にしろ!ギルマスの方針に逆らうのか!」


「はっ。マックス?お前、ギルマスの前だけいい子ちゃんするのもいい加減やめてくれよ。」

「あぁんだと!?良く聞こえなかったわ。もういっぺん言って見ろ!」



 グロリエルとマックスの言い合いが始まった。そんな二人の言い合いに、ギルマスは深いため息を吐いた後、一言言った。



「いい加減無駄な争いはやめろ。これ以上続けるならAランクの推薦は無しだ。」



 その瞬間二人は一瞬で黙り込んだ。

 さすがギルマス。彼らを完璧にコントロールしている。その手腕に見ほれる程だ。



「リン。お前の言う事に疑念は無いが、念のため複数人で確認する。マックス。お前たち焔狼フレイムウルフはリンの先導でそのキャンプ跡に行け。足跡の追跡も可能ならやれ。逃がすなよ。グロリエルもそれで文句あるまい。」



 ギルマスは素早く指示を出したのちエンリケの方を向いた。



「さて、フロッグの方だが、エンリケ。匂いで捜索できるか?」


「……できると思う。」


 その回答にマックスが感心したようにうなずいた。


「エンリケ。このクエストが始まってからずっと思っていたんだが、お前さんとシルバは索敵のエキスパートだな。これほど従魔使いが使えるとは正直思わなかったぜ。俺のパーティーの斥候に欲しいくらいだ。」



 マックスの賞賛にエンリケは照れながら、でもと続ける。



「このキャンプの周囲全域を探索して魔獣を探し当てるとなるとかなり時間がかかりそうです。」



 皆が新たな懸念に頭を捻っていると、これまでのやり取りを欠伸をしながら端で興味なさそうに聞いていたソワレが不意につぶやいた。



「なら、周辺探知は私がやる。」



 そう言ったが早いか、ソワレは小声で詠唱を始めた。



『森羅万象を司る主の住まうヴァルハラより滲み溢れよ 瞬き 天の光よ その姿変え 水霧と成りて悪しき魔を探れ。 ―クローリングミスト』



 トリガーワードと共にその白銀の錫杖の柄でトンと地面を小突く。するとみるみるうちに錫杖から冷気を伴った霧がいく筋かに分かれて流れ落ち、それらがまるで地を這う蛇の様に地面を蛇行しつつ円を描きながら拡がっていった。


 その間ソワレは錫杖に額を当てて目を閉じ、集中しているようだった。そして、しばらくして目を閉じながら独り言のように呟き始める。



「一時方向 15メーター先。 四時半方向 42メーター先・・・・十時方向 68メーター。最後、八時方向 83メーター先の計4つ。」



 その場の全員が突然のソワレの魔法に唖然としていると、ソワレはその眠そうな目を俺達に向けて不思議そうに言った。



「今のが蛙の位置。 その位置まで行って、その狼に索敵させるといい。……行かないの? 蛙、動いちゃうよ?」


「……水精ナイアスの二つ名は伊達じゃないな。」



 驚きを通り越して関心するマックス。それとは対照的に土魔法の魔法使い(マジックキャスター)のボブは興奮した様子でソワレに詰め寄った。



「何今の!すごいっす!こんな魔法、教会の大図書館の魔道教書にも載っていなかったっす! なんすか。どういう魔法なんすか?階位は?」



 ソワレの突然の探知魔法に皆が驚く。特に同じ魔法使いのボブは興奮のあまり敬語すらままならずに食い気味に問い詰める有様だ。

 ソワレは全く動じずに完全スルーの構えだが……。


 おそらくこの世界の四大魔法の一般的な魔法ではないのだろう。俺が思う以上に特殊魔法というのは秘匿され、貴重な物だということだろう。




 となると、やはり俺の開発した魔法は見られるとマズいな。そう改めて思った。



「司教様の計らいを無駄にするな。エンリケはすぐに示された地点に向かいマッドフロッグを討伐。リンと焔狼フレイムウルフはキャンプの跡を捜索。グロリエルの城塞キャッスルは引き続き周囲の警戒と守りにあたれ。」



 ギルマスの号令と共に皆が一斉に動き出す。



「司教様。ご協力感謝します。 我々は怪我人の手当てと魔獣の処理に。失礼します。」



 ギルマスはそう言って軽く会釈して去っていく。


 俺はゴンザ達の捜索に向かうリン達の後ろ姿を眺めながら思案する。


 ゴンザ達を開放したのは誰だ?それに、タイミング的にゴンザ達二人には魔物寄せを焚くことはできないはずだ。もう一人仲間がいたのか?だが、会話には出てこなかった。

 やはり、このクエスト参加者に協力者、いや首謀者が居ると考えるのが妥当だが……。




 暫く思考の海に沈んでいた俺だが、ふと顔を上げると無言で俺を見つめるソワレと目があった。



 周囲を見渡して、ようやく気付いた。この場には俺とソワレの二人だけしかいないことに。

 そして、何かを探る様に俺をジッと見つめるそのソワレの視線に、俺は嫌な汗が噴き出すのを自覚した。



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