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第35話 一目惚れ!?

 俺は予想だにしない指名に思わず間抜けな声をあげてしまった。全員の視線が一斉に俺に向けられる。


 え??なんで?


 その疑問は俺だけではなかったようで、ギルマスが口を開いた。



「……司教様。奴はつい先日ハンターになったばかりのRK(ルーキー)。無駄死にさせることになる。そもそもあの貧弱な体では我々についてくることもできないと思いますが。」


 少女はギルマスの指摘にも全く動じる素振りを見せない。


「森からここまでそれなりの距離が有る。森からケガ人を背負って来たのなら荷物持ちとしては十分な体力があるはず。」


 その少女は無表情で俺の方をじっと見ながら淡々と俺を指名する理由を述べる。なぜかは分からないが俺を指定したいようだ。



 少女はその眠たげな目で俺を見る。そのアンバーの瞳が俺の心を覗き込むように、探るように向けられた気がした。

 俺はその眼差しに本能的な危機感を抱いた。



 なぜ俺を指名してくる?荷物持ちならもっと他に適任がいるはずだ。疑われている?何を?もしかして俺が異世界人であることを疑っているのか?……イヤ、流石に初対面でそれはないと思う。


 でも……何だろう。


 いろんな疑問が浮かんだ。だけどそれ以上に俺は気になる事があった。俺はその少女になんとも言えない違和感を感じていた。



 あぁ。そうか。



 ―――まるで氷像のようだ。



 確かに彼女のアニマの光は確かに眩いばかりの輝きを放っているが、それ以外は他の人と大きな違いは見られない。力強くそれでいて静かに落ち着いた輝きだ。

 だが、その輝きが静かすぎるのだ。一片の揺らぎもなく、確かにそこにあるのにまるでそこに無いような感覚。命は確かにそこにあるのに、まるでその命が止まってしまっているようなと表現すれば良いだろうか。



 俺は本能的にイヤな予感を感じ、断ることにする。


「……さっきグリズリーに襲われて命辛々なんとか逃げ延びたばかりだ。もう足がガクガクで、とても明日すぐに出発できる状態じゃない。これじゃあ、悪いけどギルマスの言う通り足手纏いにしかならない。」


 足がガクガクと言うほどでもないが、疲れているのは事実だ。嘘は言ってないぞ。


「申し訳ないが他の人を探してもらえないだろうか?こんな軟弱なRK(ルーキー)の俺よりもっと適任者がいるはずでは?」


 俺は少女の揺るがない瞳を見つめ返す。リンも何かを感じたようで助け舟を出してくれた。


「司教様。私もここ数日一緒にパーティーを組んでいますが、彼はハンターになったばかりでいろはも十分ではない。非常に危険な今回のクエストでは彼の言う通り足手まといになるだけよ。」


 少女は俺との会話に割り込む形になったリンに少し怪訝な顔を向けた。


「……あなたは誰?」


「申し遅れましたが、私はBランクハンターのリンです。」


「ああ。あなたが……。」


 少女はリンを見定める様に視たあと、まるで興味を失くしたのかリンから目を逸らした。


「今私はリュージと話しているの。割り込まないで。」


 少女はそう言って不意に外套の内側から小さな瓶を取り出して俺の方へ投げた。

 慌ててそれをキャッチする。


「それを飲めば疲労は回復する。それで解決。」


「……これは?」


 俺がその青白くうっすらと光る液体の入った小瓶を見つめて問う。


「エルフの涙。」


 少女がそう答えた途端、どよめきがあがる。

 エンリケも目を丸くして俺の持っている瓶を見つめていた。


 え?……なんか凄いの貰ってしまった感じだろうか?と俺が素っ頓狂な顔をしてたのを見かねたのかギルマスが補足してくれた。



「それは体力を回復する大変貴重な霊薬だ。分かって居ないようだから忠告しておいてやる。それは今この場で飲んだ方がいい。それを懐に仕舞えば、それを簒奪しようとする輩に後で命を狙われかねない。それほどRK(ルーキー)が持つには高価な代物だ。」



 え?なんでそんな物くれるのだろうか?そこまでして俺に固執する理由はなんのかと、手にした霊薬と少女を交互に視線を泳がせる。ますます怪しい。


 それは俺以外にも他の誰もが思った疑問だったのだろう。全員の目が俺と同じように俺と少女を行き来している。


 その疑問を解消するためだろうか。少女は相変わらず無表情のまま俺の眼を判然と見つめてこう言った。



「一目惚れした。」



 ……はぁ!?



 イヤイヤ!待て待て待て。余りにも唐突で、思考が一瞬置いていかれた。



 この子、あれか?自分がうまいこと言ったとでも思っているのだろうか?こんな見るからに軟弱で弱々しい俺に惚れ込む人なんているはずがない。前世で一度たりともモテたことなど無い。バレンタインチョコレートも凛香以外にもらったことなど無い俺だ。いくらなんでも俺はそこまで自意識過剰じゃない。


 それに少女のアニマが水鏡のように全く揺らいでいなかったことからもその言葉が本心でない事は確実だ。

 こんな見えすいた嘘、誰も信じやしない。そう思っていたのに―



「……司教様がそこまで言うなら否定はしますまい。」



 と、ギルマス。


 え!?

 なんで俺の指名をOKしちゃうわけ?まさかその子の言うことを信じている訳じゃあるまい?

 ……っ!そうか!このギルマス俺を売ったな!俺一人の命でAランクのソワレがついてくるなら文句なしと考えたに違いない。なんて薄情な奴!


 俺はギルマスの判断が信じられないと、助けを求めるためにエンリケを見る。するとどうした事だろうか、エンリケが俺を睨んでいるように見えた。


「リュージ。リン様と言う方が居ながら、別の少女の心を奪うとは。お前と言う奴は、なんて罪深い男なんだ。」


 と、その目に嫉妬の炎を燃やしていた。

 ……エンリケお前もか。マジで信じてるのか?



 ブルータスに裏切られた時のカエサルの気持ちはこんなんだったんだろうな、などと現実逃避気味しながらも、最後の心のよりどころであるリンにすがる様に振り返る。

 そこにはジト目をしたリンが佇んでいた。


「リュージ。 貴方、ずいぶんモテるのね。……まぁ、私はただの友達だから、友達の恋路に口をはさむことはできないけれど。」


 ……絶望しかない。まさに四面楚歌。


「はぁ???リンまで何言ってんだよ。あいつの言っていることを本気にしているのか?んなわけないじゃないだろ。俺が一目惚れされるようなイケメンに見えるのか?」


「あなたはイケメン。その顔も立ち姿も気に入った。」


 俺の反論に間髪入れずに少女が被せてきた。いい加減話がややこしくなるから、やめてくれよ!


「ほら。リュージ。そう言う事らしいわよ。よかったわね。」


「リンまで何言ってんだ! 何、意地になってるんだよ。そんなこと無いんだって。」


「別に!?意地になんてなってないわ!」


 俺たちがやいのやいのと騒ぎだしたとこで、ギルマスはこの話題に興味をなくしたのか、聴衆に向き直って「話は終わりだ!詳細は受付に確認の事。解散!」といって閉会を宣言してしまった。

 そして、さっさと二階に戻ってしまったらしく気づけば既に姿はなかった。





 ……はぁ。この状況で、今更断るわけにもいかなくなった。


 何この子言ってくれちゃってんだよ。と憎たらしくなって俺は少女を睨むと、少女はどこ吹く風といった様に無表情のまま俺に近づいて来た。



「私はソワレ。明日はよろしく。」



 俺は差し出された手に渋々握手をして答える。



「はぁ。明日はちゃんとついていけるか正直分からないが。それでいいなら。……ところで、なんで俺を指名したんだ?」


 俺は今の状況に半ばあきらめつつ、純粋に疑問に思ったことを口にする。


「ん?聞いてなかった? あなたに一目惚れしたから。」

 

 その深いアンバーの瞳が俺を判然と見つめる。


「……」


「……」



 お互いに無言のまま見つめあう。

 リンがそっぽを向き、エンリケが「キィー!」と声にならない嫉妬の声を挙げているのを横目に。



「じゃ、明日は荷物の準備と打ち合わせをするから日の出にここに集合でいい?」


「……ああ。わかった。」


 そう答えるとソワレは躊躇なく出口に向かい歩き出した。それを見て正直ホッとする。

 俺が緊張を解いたところで、ソワレが思い出したかのように振り向いた。



「……そう言えば、あなた。魔力測定器を壊したそうね。ホント?」



「ああ。それは……」



 !?っと危ない。普通に答えるところだった。

 なるほど。これが本題だろうか?であるなら慎重に答える必要がありそうだ。



 俺はこの世界に来て二週間ほどになるがこの世界の常識と言うか基準を理解し始めているつもりだ。

 魔法の適性は通常一人に一つだ。それに魔法を使える人は本当に少ない。だとするなら、魔力測定器は通常一つの色できっとあんなに輝かない物なのだろう。

 あれほど光り輝くような、まして破裂するような事は通常では起こらないに違いない。

 今だからわかる。あの反応は異常だった。きっと俺が異世界人だから。それを悟られればこの世界でどういった扱いを受けるかわからない以上迂闊に答えられない。



「……ああ。確かに俺が使った時に壊れてしまった。だた、あの異常な反応は何か測定器にトラブルが発生したのだろうとギルドも言っていた。とはいえ、俺が使っている時に壊れたのも事実。正直高額な補償金を請求されるのも仕方ないと思っている。……やっぱり教会のものを壊したことが何か問題に?」



 ソワレはしばらく無言のまま俺を見て、「いえ。別に。」とだけいってギルドを出ていった。疑いが完全に晴れたかは分からないが、どうにか追求は免れたようだ。


 俺はその少女が出て行ったのを確認し、渡された“エルフの涙”を一気に飲み干してふぅと深いため息を吐くのだった。





 その時、俺は気づかなかった。ほの暗い感情を灯した目が俺たちのそのやり取りをじっと眺めていたのを。


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