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第34話 緊急クエスト

「早く手当を!かなり血を失ってる!緊急事態だ!」


 俺達はギルドの門をくぐる。少し先行してエンリケがギルド職員を呼んでくれていた。

 すでに人だかりができており、俺が背負った救助者をギルド横の長椅子に横たえるとちょうどミーリスとギルマスが人集りを掻き分けて顔を出した。


「リンさん。みんな。その人はエドね。一体何があったの?」


 俺達は採取先でエドを見つけ救護したこと。その際にグリズリーに襲われたことを包み隠さず話した。

 その間に、ギルドの救護班と思しき人がやってきた。エドの体内魔力の全てを胸の内部の治療に使ったため、あちこちの外傷や骨折はそのままだった。救護班がその場でエドに手際よく応急処置を施していく。

 


 俺達の話に野次馬たちがざわつき始める。


「マジかよ。あのBランクハンターの駿馬スレイプニル率いる調査隊の斥候だった男だぜ……何が起こってるんだ?」

「グリズリーが外縁部で出たって?ホントかよ。だとしたら知り合いの連中に知らせないとマズイことになるぞ。」

「でもよ、あの死神のエンリケと灰種アッシュ寄生者パラサイトのいう事だろ。信用できるのか?」

「ただの箔付の嘘の可能性も十分にあり得るな。」

「……確かに。大方たまたま見つけたエドを拾って、点数稼ぎのつもりで話をでかくしてるだけだろ。」


 何やら随分と好き勝手言ってくれると思った。思わず眉間にしわをよせる。

 それに対してエンリケが声を荒げて反論してくれている。だが、リンが魔獣を粉微塵にしてしまったので、それを立証する証拠もないのも事実だ。

 当のリンは慣れたもので静観の構えだ。


「お前達の話の真偽はエドが回復してから確認するとして、まずは例を言う。よくここまで運んできてくれた。 そして、エドがこの状態で有るということは、調査隊は絶望的と考えていいだろう。」


 ギルマスも俺達の話に半信半疑では有る様だったが、エドの状態から推定される事実は揺るがない。


 救護班が一通りの応急処置を施し終えたようで、ギルマスに一言告げて担ぎ上げようとする。どうやら別の部屋に搬送されて治療されるのだろう。

 その時、エドが薄らと目を開けたのをギルマスは見逃さなかった。すぐにエドの耳元に近づいた。


「エド。わかるか。ここはギルドだ。安心しろ。助かったんだ。何があった?」


 ギルマスが耳元で話しかけた時、エドは残りの体力を振り絞るようにギルマスに手を伸ばし口を動かした。


「全員静かにしろ!」


 その一声でギルド全体が静まり返る。そしてエドの力ない掠れ声が微かに響いた。


「……中心部に到達、前……主と……グリズリー……ワイバーンの群れが……でた。 スエルドが引きつけ、なんとか…ッ! 後退しつつ、崖の洞窟に逃げ……。 俺だけ……それを知らせにック。……グリズリーが追ってきたが、こいつらに救われ……。 それより早く、助け……助けてやってくれ……!あの、悪魔が!ああぁぁぁ!??」


 ギルマスに懇願するように縋りついていたエドは何かを思い出したのか、突然叫び出し、錯乱状態になった。そしてその直後、全身の痛みに耐えかねたのか気絶して動かなくなった。

 そんなエドにギルマスは小声で答えた。


「あぁ。大丈夫だ。必ず助ける。お前は安心して寝てろ。」


 エドが搬送されるのを見届けたギルマスは顎に手を当ててしばらく考えに没頭する。


 その間に場がざわつき始めた。

 「嘘じゃなかったな。」「主ってなんだよ?」「知らねぇのかよ。蛇の森の主だ。」「あれは眉唾情報だったんじゃないのか?」「それにワイバーンってあのワイバーンだろ?Bランク上位の群れだって?マジかよ。」


 長椅子に座って、騒つくギルドをどこか他人事の様に俺は眺める。エンリケも隣で同じように遠い目でギルマスを見ていた。

 事が大きくなり過ぎて俺の出る幕はなさそうだ。


 ギルマスはミーリスと何事か確認したのち、しばらくしてギルドを見渡す。直後、いっそう騒つくギルドにギルマスの声が響き渡った。


「みんな聞け! これよりギルドの緊急クエストを発令する!緊急クエストは蛇の森調査隊の捜索と救出だ。

 これはギルドの強制クエストだ。ギルドから指名されたものは参加してもらう。もちろんギルドから充分な報酬を用意しよう。さらに参加者にはランクアップのポイントを格段に優遇することを約束しよう。また、こちらから指名されなかった者でも参加は可能だ。ただし、無駄死にを防ぐため参加は私が判断する。」


 ギルマスは一呼吸おいて、続ける。


「そして緊急クエストは私自ら陣頭指揮を執る!」


 それを聞いたギルドの全員がどよめきを上げた。




 そう宣言したギルマスはエンリケを見た。


「エンリケ。お前の従魔は鼻が効いたな。エドの匂いを追えるか?」


 それを聞いたエンリケは驚きに目を見開き、すぐに厳しい顔つきに変わる。そしてそれほど時間をかけずに覚悟を決めた目で答えた。


「ああ。できる。ただし時間が経てば立つほど追えなくなる。早いほうがいい。」


「いい答えだ。ではエンリケ。悪いがお前は参加してもらうぞ。」


 俺は覚悟を決めたエンリケの顔を見ながら、心配しつつも内心関心していた。これから明らかに危険なクエストに向かうというのに、ギルマスに問われた時の逡巡はわずかだったからだ。


 ギルマスは全員に向き直りつげる。


「出発は明日の朝。日の出から一刻ほど後に出発だ!

 焔狼フレイムウルフ城塞キャッスルは予定通り参加してもらう。本日時点でのこのギルドの最高戦力だ。だが今回主が出てくる可能性を考えると十分ではない。

 他に参加に名乗りを上げるものは居ないか!?」

 

 

 ざわつきが増す。しかし全員互いを見合い、誰も手を上げない。いくらギルマスが出ると言っても、森の深部で生きているかもわからない、まして蛇の沼の主が出て来る可能性があるのならリスクが跳ね上がることを皆知っているのだ。


 誰も手をあげない現状に苛立ちを覚えたのか、ギルマスが振り返って俺の隣のリンを見る。


「飛燕のリン。お前も参加してもらうぞ。」


 それを告げたリンは驚いた顔をしていたが、それ以上に全員がざわつき始めた。その状況で最も大きい声を上げて抗議をしたものがいた。


「ギルマス。ちょっと待ってくれ。灰種アッシュと同じパーティーなどありえない。もし灰種アッシュが参加するなら、俺たちは降りるぞ。」


 声を発したのは白金に輝く全身鎧を着こんだ、ブロンド長髪の体躯の良い如何にもイケメンの男だった。


 イケメンの男の横で「そうだそうだ!」「灰種アッシュと一緒にハントなど出来るわけがねぇだろう!」「グロリエルさんが正しい!横暴だ!」などと取り巻きたちが騒ぎ立てている。

 どうやらグロリエルと言うらしい。


 げっ。取り巻きの中にあのゴンザレスもいるじゃないか。



「誰あれ?」


「あいつはこの町に三つしかいないBランクパーティーの内の一つ、城塞キャッスルのリーダーでグロリエル。あいつ、外面はいいが、俺はあんま好きじゃないな。あいつは人族至上主義だから、従魔を引き連れる俺ら魔獣使いを毛嫌いしている。」


 俺の問いに、小声でエンリケが教えてくれた。



「グロリエル。お前の言い分は分かった。だが、これはクロスメントのギルド全体の問題だ。《蛇の森》の劇的な異変は看過できないレベルに達している。使える駒は全て使うべき事態だ。リンの空からの偵察は今回の任務には欠かせないと判断した。それにワイバーンを相手取るには飛行できる飛燕のリンが適任だろ。

 それでも俺の判断に不服なら参加辞退もやむを得ないが、良いのか?先ほど言った通り、これは強制クエストだ。断れば相応のペナルティーを受けてもらうことになるぞ。少なくとも降格は免れない。」


 ギルマスのその脅しとも取れる物言いにグロリエルは眉間に深くしわを寄せる。明らかな舌打ちをして、リンを睨みつけた。


「全く。ギルマスも落ちたものだな。」


 グロリエルは小声で、しかし周囲に聞こえる声量でそう言って、引き下がった。


「おいグロリエル言いすぎだぞ!」


 グロリエルの露骨なギルマス批判に噛みついたのは、赤毛短髪の美丈夫だった。あのグロリエルを面と向かって相対するとは、何者だろうか?


「彼はもう一つのBランクパーティー、焔狼フレイムウルフのマックスだ。あの二人が実質クロスメントの次期ギルマス争いをしていると言われるほどだ。俺は断然マックス推しだね。」


 俺の疑問に空気を察したエンリケが解説してくれた。ありがたい。


 ギルマスはマックスとグロリエルのにらみ合いにふぅとため息を吐いただけだった。その様子から、二人の軋轢はいつもの事であることがうかがえた。

 ギルマスはそれを横目に、まだ戦力が足りないと言うのかさらに続けた。



「ほかにはいないか?どうした!クロスメントの仲間が窮地に陥っているのだぞ!?」



 ギルマスの問い掛けに、先ほどまで騒ついていたギルドが静まり返る。誰もギルマスに目を合わせない。



 そんな中、スッと一人手をあげる者がいた。全員がそちらに注目する。

 見ると華奢な体つきの魔法使いがその細く白魚のような手を挙げていた。



「おお!司教様。とてもありがたい。しかし良いのですか?今は教会の見聞の試練中では?」



 先程まで静かだった聴衆がざわつき始める。

 「ギルマスが敬語だぜ。誰だよあいつ。」「バカ、知らねぇのか?あんな華奢ななりしているが、聞いた話じゃあの水精ナイアスのソワレだって話だ。」「まさか。あれが?」


 俺もエンリケにそれとなく聞く。

 あの少女はあの歳でどうやら教会のかなり偉い人らしい。外套の留め具の五芒印でわかるのだとか。エンリケも詳しくは知らないらしいが、水精ナイアスのソワレというAランクハンターの噂は聞いたことがあるとの事。凄腕の魔法使い(マジックキャスター)らしい。



 騒つく大衆をよそに、少女はそのやる気のないアンバーの瞳をギルマスに向ける。いかにも気怠そうに。


「構わない。森の異変を正しく見聞するのも試練の内。ただし、条件がある。」



 そういって少女はなぜか俺の方を指差した。



「そこのリュージが私の荷物持ちとして参加する事が条件。」



「はぇ???」


 思いがけない使命に思わず間抜けな声を上げてしまうのだった。


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