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第30話 五芒星の少女 《挿絵あり》

◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 ここは港町クロスメントへと続く街道。辺境伯とアウレット公爵領の領界である関所町を抜けてクロスメントまで残り1日足らずの街道上。


 華奢な体つきで十四、五歳程度だろうか、一人の少女が歩いていた。




 肩まで伸びるその艶やかでわずかにウェーブのかかったシルバーブロンドのツインテールを揺らし、その頭に小さめの三角帽を斜めに乗せている。

 やや俯いたままの姿勢と、前髪が右目を隠すように垂れているためその表情は伺えない。


 色が薄く無気力で薄幸そうに見えるその大きな茶色アンバーの瞳が、外観も相まってその少女の神秘性を高める一因になっている。



 黒の下地に細かく見事な銀糸の刺繍が施された、見るからに高価な外套を羽織り、白銀に輝く杖を手にしている。その外套の留め具には二重の五芒星がふちどられた装飾が輝いていた。


 五芒星は教会のシンボルだ。ドーゲンベルグを唯一絶対神と定めるこの世界の最大宗教団体、神聖教会。五芒星を身に着ける者は教会の関係者であることの証。





 そんな見るからに荒事に向いていなそうな華奢な少女が、気負いも警戒もなくまるでピクニックに出る様な気軽さで一人歩いていた。


 いくら街道とはいえ、街を出れば魔獣も出るし野党に襲われる危険もあり、護衛もつけずに女性が一人で街道を歩くこと自体この世界ではあり得ないことなのにだ。




 案の定、両端が切り立った崖に囲まれ道幅が狭くなったところで、彼女は数人の男たちに囲まれた。

 粗野な装備や風貌から、一目で野党であることが分かる。



「ゲヘヘヘ。 今日はついてるぜ。 さっき襲った商隊でがっぽり稼いだ直後だって言うのに、これ程の上玉にありつけるとはなぁ。お嬢ちゃん。恨むなら一人でこんなところをうろついた自分を恨むんだな。」



 野党たちは全員下卑た表情でその少女を()め回す様に見つめていた。



「……はぁ。」



 少女は小さくため息をこぼすのみ。この状況でも悲鳴の一つ上げるでもなく、顔色一つ変えずまるで野党どもが見えていないかの如くその歩を止めない。


 その目は野党に向いていたが、その奥には何者をも映し出しておらず、ただただ底冷えのする深いアンバーの瞳がそこにはあった。


 そんな少女の態度にさすがに野党どもも訝しむ。



「あぁ?テメェ、無視してんじゃねぇぞ!」



 そう言って野党の一人が少女に掴みかかる。

 少女の華奢な腕をつかみ無理やり引き倒そうとするが、そこでなぜか男は動きを止めた。



「っく! なんだ?なんで動かねぇ?」


「オイオイ。悪ふざけはやめろよ。」



 少女を囲んでいる他の男たちがニヤけた顔でゲラゲラと笑っていたが、少女をつかんだ男がプルプルと顔を真っ赤にして一向に動かない姿を見て、次第に笑い声が消えていく。



「こいつ。マジで動かねぇぞ!」


「……いい加減、ウザい。」



 少女がつぶやいた直後、男は吹き飛ばされ崖に強くたたきつけられた。

 それを成した少女は腕に止まったハエでも払ったかのように少し眉を顰めただけで、変わらずその歩みを止めなかった。


 それを見た野党たちはいっせいに顔色を変える。頭目と思われる男が声を上げた。



「テメェ!一斉にかかれ!」



 仲間をのされたからか、野党たちは一斉に獲物を抜き少女に襲い掛かる。だが、少女は身じろぎ一つしない。


 野党の振り下ろされた斧が少女の首を捉える。直後、少女の首が跳ね飛ぶかに思えたが、吹っ飛んだのは斧を振り下ろした野党の方だった。


 一斉に襲い掛かった野党たちは全員が少女に触れた途端に吹き飛ばされ、街道の両面にそびえる壁面にたたきつけられていく。


 頭目はその現実離れした光景を唖然と見て叫んだ。



「……バカな!? お前はどう見ても魔法使い(マジックキャスター)だろうが! 距離さえ詰められれば何もできないはずだ! なのに、なんなんだその訳の分からない力は!」


「……」


 少女はその問いかけに答えない。いや、そもそも興味すら持っていないようだった。

 ただただ前進する少女に恐怖を感じたのか、頭目と残った数人の野党どもが後退る。



「……もしかして。根源魔法使い(ルートソーサラー)か!?」



 既に少女は頭目の目前に迫っていた。


 頭目の予想が当たっているとするなら一介の野党風情にどうにかなる存在ではないと理解しているのだろう。頭目は死が直前に迫っているのを自覚しながらも足が震え、何もできずにその場に立ち尽くしていた。


 だが、頭目が恐れる事態にはならなかった。少女は残った野党どもの脇を何事もなく通りすぎたのだ。



 しばらく野党たちは動けずに立ち尽くしていたが、少女が(ゆる)やかに曲がった街道の奥に姿を消してようやく安堵したのか、ドサッとその場に尻餅をつく。


 そして直後、両腕を抱えてガクガクと震え始める。



「……助かった。 あれは手を出しちゃいけねぇバケモンだ。」



 頭目は、目の前の惨状を見る。何人かは命を落としたかもしれないが、部下の大部分はまだ生きているようだ。

 先ほど襲った商隊の資金があれば、場所を移してまだ立て直せる。心胆に恐怖を刻まれながらも、頭目はそう未来に思考を置くことである意味現実逃避をしていたのだろう。



 極限の緊張から解放されて、注意力が散漫になっていたのだろうか。不意に頭目の後ろから声がかかった。



「この先に子供の死骸が転がっていた……あなたたちがやったの?」



 頭目はブリキの玩具のように首をぎこちなく動かし振り返った。



 そこには先ほどの少女がいた。そのアンバーの瞳は先ほどまでのどこか眠そうで決して自分たちを写さない力のない目ではなく、明確な怒りと苛立ちをたたえ、頭目にまっすぐに向けられていた。



 その瞬間、頭目は死を覚悟した。




 直後、その街道は肉片が散らばる血溜まりの地獄絵図となった。











「……人間なんて大っ嫌い。」


 全てを終えた少女は、そうつぶやきまた一人街道を歩き出す。




 少女が去った跡、襲われた商隊の馬車の隣にいくつかの盛り土があった。



 その中でもとりわけ小さな盛り土にだけは墓標があった。


 馬車の残骸で作ったのか簡易的ではあるが丁寧に五芒星が形作られた墓標が立てられていた。




 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆





 その少女の正体は教会の異端者審問会、その頂点である七星の一角。血の戒め(デッドリーフィクサー)の幹部。《メグレズ(・・・・)》と呼ばれていたその人物だった。




 少女はゆっくりとリュージ達のいるクロスメントに向かい歩いていく。



挿絵(By みてみん)

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